99 呼び出し
いつも通り座学を寝て過ごし、昼休み。
リティがパンを買ってきてくれていたから、お礼を言いながらお金を渡して食事にしようと――、
「カルテが居る――!?」
「朝から居ましたよ!!」
夏休みが明けても学園に来ていなかったカルテが、そこには居た。
「というか2週間近くも何してたんだ?」
「……身体を鍛えていました」
「……脳筋(ボソッ)」
「私のせいじゃないんですよ……親が……親が、脳筋なんです……」
「カルテの親? 何してる人なんだ?」
「父は武芸者で、しかも実家が道場でして……夏休みに帰ったらスペシャルコースの特訓が待っていたんです。それをこなしていたら、気付いたときには始業式が過ぎていましたよ……」
……ご愁傷様。
まあ、姿が見えなくて心配だったからそこは安心した。
「アカリと、同じ」
「リティ、俺は脳筋じゃない」
「私も違いますよ!」
「始業式、忘れていた」
そういえば、そうだったね。
カレンダーとか無かったからさぁ。……え? リビングにあった? リティが用意してくれてたの? 気付かなかった……。
「あ、そうだ。俺達明日海に行くんだけど、カルテはどうする?」
「行きます」
急な話なのに即答だった。
夏休み、遊べなかったみたいだしね。
「ユミちゃーん! お楽しみのお昼休みですよっ。お待ちかねのフェルクディ、只今到着しちゃいました!」
教室のドアを開けるなり大きな声で呼びながらフェルクが入ってきた。テンションが高い。一番楽しみでお待ちかねだったのは間違いなく彼女の方だろう。
「失礼する」
続いてカインクルフもやって来た。一緒に昼食を摂って以来、何故か彼も毎回来るようになった。美味しいパンを分けてくれるので俺としては拒むことも無い。むしろウェルカム。
「ええっと?」
それに困惑するのは、二学期初登校のカルテ。ごめんね、カルテが居ない間に色々あったんだ。
というわけで、三人は各々自己紹介をした。
その後、カルテに連れ出された。
「アカリさん、アカリさん……! なんでちょっと見ない間に貴族の方と連んでるんですか!」
「最近、あんまり貴族とか身分差がどうとかどうでも良くなってきてさあ」
「最悪アカリさんは貴族位持ってますからいいですけど、私達やクラスの皆さんがガッチガチですよ! ほら、カインクルフ様に席取られた子なんて涙目ですよ」
「あ、あの子の席だったんだ。確かにちょっとかわいそう。よし、カインクルフに言って退いてもらうか」
「それやったらあの子卒倒しますよ!?」
まあ、流石にそれは冗談だ。
ごめんね、名前も知らないクラスメイト。俺と席が近かったばかりに。
=====
午後の魔法実技の授業。
ある程度練習した後休憩に入ると、姫さまが声を掛けてきた。
「アカリ、ちょっといい?」
「どうぞ」
「実は、ゼネガスト兄さんに禁断症状が出てきているの。アカリを呼んでほしいって」
「ゼネ様が?」
禁断症状って……まあ、女性化についてだよな。
最近はご無沙汰だったからなぁ。
「分かった。今日の放課後にでも遊びに行くよ」
「ありがと。助かるわ」
これで姫さまの要件は済んだみたい。
折角だから、ちょっと気になっていたことでも訊いておこうかな。
「そういえば、姫さまのクラスにフェルクとダイキが入ったんでしょ? どんな感じ?」
「そうねぇ、フェルクディさんは探り探りだけどクラスに馴染んできていると思う。勇者さんは他のクラスからも見に来る人がいて、見世物みたいになっているわね。うちの国では『勇者』は特に人気だから、仕方ない部分もあるけれど」
「へえ、よくフェルクがうちのクラスに来るから少し心配だったんだよね。ダイキはまあ、仕方ないかな」
「……フェルクディさん、いつもそっちに行っていたの? お昼休みは気が付いたら居なくなっていてどこに居るのか分からなかったのよね」
知らなかったのか。
でも、貴族科と一般科の間では交流が殆ど無いし、校舎も違うからフェルクの行動が知られていなくても仕方ない。一般科では結構話題になってるみたいだけど……。
「俺達と一緒に昼食を食べていたよ」
「アカリと一緒に……いいわね、私もそっちに行きたいくらい。貴族の生徒とは壁があって、気安くお喋りとかできないの」
「それはこっちでも同じのような」
「アカリは違うじゃない」
「……まあ、そうだね」
姫さままで俺のクラスに来たら、カインクルフはなんて言うだろうか。フェルクは喜びそうだな。この間姫さまの猫耳について熱く語ってたし。尻尾は触らせてもらえなかったらしい。……猫耳、そんなに良いのかな?
「……冗談よ。私が行ったら周りが休めないもの」
「確かに。お姫様だからね」
寂しそうに少し垂れた耳。姫さまの頭をなでたのは半ば無意識のことだった。頭の上にある耳をちらちら見ていたせいでついつい手が伸びたのもある。
「……そんな風にされるほど子供じゃないわ」
「ごめんごめん」
「そう言いながら放さないし」
「嫌だった?」
「……もう少しだけ、このままでもいいわ」
仰せのままに。
フェルクのことを気にするようになって気付いたことだが、姫さまも学園で孤立しがちだ。魔法実技の授業で毎回俺に話しかけにくる程度には。
偉い人は取り巻きを大勢侍らせているようなイメージだけど、そういえば姫さまは人を付き従えて行動するのが苦手だった。城では一人で行動しているし、以前のパーティーでは護衛が増えるのを嫌がっていたくらいだ。王族なのに。
「姫さまは、火属性の単位を取ったら次はどこに行くの?」
「まだ決めていないわ。あまり順番に意味はないもの」
「そっか。じゃあ次は風属性にしない?」
「いいけど、どうして?」
「俺が次に行きたいから一緒にどうかと思って。経験者としてアドバイスとかあると嬉しい」
「あれ? アカリも【風魔法】習うの?」
「四大属性習得に軌道修正することにしたんだ。その方が俺に向いていることに気付いたから」
まず風属性なのは、ちょっと風を起こして試したいことがあったからだ。
密かに新技を考案中。
「うーん……? まあ、そういうことなら構わないわ。といっても、まずは二人とも火属性の単位を取れたらだけどね」
【範囲魔法】を詳しく理解していない姫さまは頭の上にハテナが浮かんでいたけど、一応納得してくれた。
そうと決まったら早いところ単位を貰いたいな。よし、真面目にやろう。
休憩が終わったら真面目に【火魔法】の習熟に努め、その日の授業は終わった。
ようやく放課後だ。一日の中で魔法の練習時間がやたらと長い。そのための学園と言われればそうなんだけど、毎日毎日火を起こしていると怠くなってくる。真面目にやろうと思ったばかりなんだけどさ。
鞄を取りに教室へ戻る途中、リティを見かけた。
いつも一緒に帰るから普段通り声を掛けようとして、阻まれる。先に他の人がリティに声を掛けたのだ。
男だ。その男にリティは連れられて行った。もちろん後を追う。
リティとその男が向かった先は、校舎裏だった。
これはあれだな。お前後で校舎裏へ来いの今から一緒に行こうバージョンだ。リティにそんなことをするなんてタダじゃおかない。
自宅から細剣を呼び出す。周囲に幾つかの範囲を用意。手を出そうとした瞬間が彼の最期となるだろう。いや、殺さないけど。
そしてその瞬間が訪れた。
……違った。
……告白だった。




