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俺の嫁は黒炎剣【なろう版】  作者: 木原ゆう
第二章 《疑と欺の狭間》
20/66

俺、捕らえられちゃいました。


 あれから更に数日が過ぎた。


 あの柔道部の部室での一件以来、毎晩の様に俺に夜這いを掛けようと目論むグロリアムを華麗にスルーし続けている俺は、理事長室でお茶を飲みながらホッと一息中。


「……それにしても《魔法の国》からの使者がなかなか来ないわよねぇ……。もう最初の《剣の国》の使者が訪れてからも随分と経つのだから、この『学園要塞』の『鉄』の事も噂には聞いている筈だと思うのだけれど……」


 お茶を新しく入れ替えながらも緒方理事長は首を捻る。


「え?そうなんですか?」


 俺はお茶を冷ましながらも緒方理事長の説に耳を傾ける。


「ええ。流石にこれだけの価値のある『金属』だもの。グロリアムも言っていたけど、そうそう他国に隠し切れるものじゃ無いみたいよ?」


 ……という事は情報を他国に『漏らす』裏切り者が、どの国にも存在するって事だよな…。

 やだなー。戦争をしてる国ってのは……。


「……あれ?そう言えばそのグロリアムさんは?」


 珍しく今朝はまだ見かけていない。

 昨晩、あれだけ俺が『拒否』したから拗ねてどっかに隠れでもしているのだろうか。


「グロリアムは食糧調達ですって」


「あいつが?何でまた……」


 一番そう言うのはやりたがらなそうなイメージしか無いぞ。

 他の教師や生徒達で『食糧班』も決められていた筈だし……。


「何でも近場での食糧確保が難しくなって来たんですって。今日は少し遠出するみたいだから、小笠原君達だけじゃ危ないだろうからって……」


「へぇ…。あいつが……」


 ていうか大丈夫か?

 いきなり小笠原達に喧嘩とか吹っ掛けたりしないだろうか。

 無性に不安になって来たけど……。


「でも《魔法の国》から使者が来たらどうすんの?」


 グロリアムが居なくてまともに交渉が進むのだろうか……。


「そうね……。でもいつ来るか分らない使者を待ってて食糧が尽きてしまっては本末転等だし…。それに今日は《魔法の国》方面に食糧調達に向かうって言っていたから、もし途中で会う事があればそのままここまで案内して来るつもりなんじゃないかしら?」


 なるほど……。

 まあ、万が一すれ違っちゃったとしても緒方理事長が居てくれれば何とかなるかも知れないし。

 あんまり考え込んでても先に進まないのかも知れないし。


「とにかく日高君は…ええと…なんだったかしら……?」


「《力の調整法》、ですか?」


「ええ。それを一日でも早く獲得出来るように勤めるしか無いんじゃないかしら。この学園の生徒達の命は、日高君が握っている様なものだし……」


「……」


 『学園の生徒達の命』、か……。

 何で俺はそんなもんを守る側に立っちまったんだろうな……。

 成り行きでここまで来たは良いが、正直、何か納得行ってねぇんだよな…。色々と。


「さて、と……。私はまた今後の方針を先生達に指示しないといけないし……」


 そう言い立ち上がる緒方理事長。


「あ、すいません……。いつも何かお邪魔してしまって……」


 俺も慌てて立ち上がりお礼を言う。

 いつの間にかここが俺とグロリアムのたまり場になってはいたが。

 ここは理事長室。

 緒方理事長だって先生への指示やら生徒達の心のケア、今後の方針、他国との会談計画等々、色々と仕事が残っている。


「ふふ……良いのよ。私も休憩を小まめに入れているし…それにこういったコミュニケーションは必要よ?」


「はあ……。そう言って貰えると気が楽です……」


 カップを流し台に持って行き、貯めた水で洗い物を始めた緒方理事長に礼を言い、俺は訓練を再開する為、柔道場に向かう事にした。





◆◇◆◇






 理事長室を出、一階まで階段を下りた俺は、長い渡り廊下を通り過ぎる。


 と、ふと校舎の門の方から人影が近付いて来るのが見えた。


(……あれ?グロリアム……一人で戻って来たのかな……)


 立ち止まり門の先に目を凝らす俺。

 大勢の人影では無い。

 たった一人。こちらに歩いてくる者がいる。


(……誰だ?使者なら兵士を従えて来る筈だし……。……ん?あれって……?)


 白銀に輝く鎧。

 腰に差した長い剣。

 どう見ても《剣の国》の兵士だ。

 だが仲間を引き連れている様子も無い。

 俺は警戒しながらも門へと近付く。

 もしも襲撃ならば、今、戦えるのは俺しか居ない。


 くそっ…早速グロリアムがいねぇのが痛ぇな…。


 でも、あのグロリアムの事だ。

 俺を一人残して食糧班に付いていったという事は。

 俺の『黒炎剣』の力が既に『チャージ』されている、という事だろう。

 もしもの時は、俺の《力》が発動できると。

 そう踏んだからこそ、俺にこの学園を預けて行ったに違いない。

 そういう奴だ、グロリアムは……。


 《剣の国》の兵士らしき人物が門の前まで到着する。

 俺は校舎の影に隠れながらも神経を集中させる。


(……あれは……この前来た《剣の国》の女兵士長の……)


 確か……レミィなんちゃら、とか言う名前じゃ無かったか。

 何で一兵士長が一人でこの学園になんか来るんだ?

 しかもあんなに堂々と正面から……?


「ふふ……られるのでしょう陛下?気配の隠し方がなっておりませんわ。害を成すつもりは御座いません。お出になられて頂けませんでしょうか?」


 げ……。気配で分っちまうのかよ……。

 これじゃあ隠れたって何の意味もねぇじゃんかよ……。


 観念した俺は姿を見せる。

 そして精一杯の虚勢を張る。

 『舐められたら終わり』。

 確かグロリアムがそんな感じの事を言っていたのを思い出したから。


「……何しに来た?会談なら先日行っただろう。それとも一人で襲撃か?舐められたものだな俺も」


 ……大丈夫だよね?

 言い方とか声のトーンとか…変じゃないよね?間違ってないよね?

 何だか変な汗を垂らしながらも精一杯の台詞を吐く俺。


「……正直に言いましょう。ずっとこの機会を狙っておりました。あの『黒衣の女』が要塞を離れる、この瞬間を……」


「な……!?」


 女兵士長は懐から赤黒い『箱』のような物を取り出した。

 そして蓋を開ける。


「ふふ……」


 不気味な笑いをした女兵士長は俺の目を見ながら言う。


「陛下。貴方様は凄まじい《お力》をお持ちになられております」


 箱の中には、なにやら白く蠢く、丸いものが一つ。


「な、なんだよ、これは……?」


 雰囲気に飲まれつつある俺。

 校舎の門越しに聞こえる女兵士長の声。

 なんだ……?なんか……ボーっとして来て……?


「陛下。貴方様は、この戦乱の世の『頂点』に立てる素質をお持ちの方」


 箱の中の白いものが反転した。

 白いものの中に黒い円。

 これは……『目』?


「この《魔女の目》を御覧下さい。陛下の叶えたい『欲望』が、この『目』にはっきりと見えておりますよ?」


 俺は吸い込まれるように門へと近付く。

 自分の意識とは別に、勝手に身体が動く。

 俺の頭が門の隙間から『箱』を覗く。

 俺の目が『目』を覗く。


 俺は、俺は、俺は、オレハ………?


「ふふ……。さあ、我らが王、《アリアンロード》様と一緒に……世界を《剣の国》の統一へと導きましょう」


 気付けは女兵士長の背後に数十名の部下の姿が見える。


 やっぱり……襲撃だった、のか……。


 そして俺は―――意識を失った。




・・・




「ふふ……。『黒炎剣』の使い手が堕ちた今、この『異世界の要塞』に戦える者が居らぬ事も調査済み…。あとはグロリアム・ナイトハルトの方ですが……。あちらはゼノンとローグハイルが上手くやるでしょう」


「レミィ様。こやつは如何いたしましょう?」


「……じきに目を覚ます。だが、アリアンロード様からお借りしたこの《宝具》の魔力で、我らの思いのままに従う筈…。大事な戦力だ。丁重に運べ」


「はっ!」


















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