act.2 令和9年(西暦2027年)2月初旬 その4
「では、始めるとしようか」と、島神。「魂だけを引き離してしまっても、
そのままではマモリは霊体のままこの世を彷徨うことになってしまう」
「あ、あの時の座敷童みたいに・・・」
「で、魂を収める器(肉体)が必要になる訳なんじゃが・・・」島神、ユミカを見つめて、
「見たところマモリの魂とユミカ君の体の相性が非常によろしい」
「えーっ・・・いやです、それは勘弁して欲しいし、早く私の体から出て行って欲しい」
島神、ユミカを見つめて「そうだろうそうだろう、
ユミカ君は、他人の魂が自分に憑依しているのは良い気持ちがせんじゃろ」
「うんうん」思いっきりうなずくユミカ。
「で、ユミカ君の体の複製を作ることにした」
「複製?」首をかしげるユミカ。
「意識や魂が異世界に引き込まれると、引き込まれた魂の記憶する形で肉体が形成されるじゃろ、
『転成』と呼ばれている現象じゃ」
「異世界・・・転成?」
「ここにいる皆はすでに一度は経験済みじゃな、その方法を使ってユミカ君の体の複製を作る」
島神、大きく息を吸って、精神統一。
「この島の魔素濃度では、10キロメートル四方の魔素をかき集めて、
やっと一体作れるかどうかの大技じゃ」
「お、島神様の大マジックショーだ」河童達が騒ぎ出す。
「さあ、鬼が出るか蛇が出るか」
「島神様!オラの魔力も使ってください!」
「やめい!河童が出てきたらどうする!!」
外野の騒音に耳を貸すこともなく、島神の術が発動する。
河童達、一斉に騒ぎ出す。
「よっしゃ、皆息を止めろ!ここら辺、魔素が薄くなるぞ!」
「ん?息止める必要あるのか?」
「空気が薄くなるわけじゃないぞ・・・」
「気分の問題だよ、気分の」
ユミカのすぐとなりに魔素が集まり始める。
最初はテニスボール大の光の玉だったが、やがてすうーっと縦に伸びて、徐々に人の形になっていく。
形が定まると少しずつ光が弱くなり、ユミカと同じ姿の裸の少女の体が現れる。
「え?これ、わたし?わああああ!タンマ!タンマ!島神様ストーップ!!」ユミカ慌てて車椅子から立ち上がり、
膝に駆けてあったブランケットを両手で広げ、棒立ちの魂のない裸の少女に巻き付ける。
「聞いてないよー!こんなの!」
「おおー、ユミカお嬢ちゃんが二人になった!」
「これが『異世界転成』って奴か!・・・ここ異世界ちゃうけど」
「島神様、このすっぽんぽん、オラにも一つ・・・」
「うーん、何と言うか・・・12歳にしては・・・」
ブランケットを巻き付けて複製体の胸から下を隠したユミカ、顔を真っ赤にして島神様を振り返り、
「ひ、ひどいですこんなの・・・」
「ふむ・・・女性と河童しかおらんからかまわんかと思ったのじゃが」
「いや、だって、この河童達、どう見ても中身おじさんでしょ!」
「おじさんとはひどい」
「お兄ちゃんと呼んで」
「お、オラが幸せに・・・」
「やっぱJCよりJKだな・・・」
ユミカが必死になって隠そうとしている複製体だが、まだぼんやりと光ったままだ。
「まあ良い、まだ完成してはおらん、先へ進むぞ」島神、全く気に掛けず。
「いや、まずいって、相手は12才の女の子なんだからさあ」ジョーンがユミカに加勢する。
「島神様も、もう少し気を遣ってあげなきゃダメでしょ」
「そういうもんか?」島神様一旦手を止めて、全く悪びれることなく「いや、すまんかった」
「心がこもってなーい」ユミカが非難する。
複製体の上半身だけが、まだぼんやりと光り続けている。
「マモリよ、聞こえておるな」島神がユミカの中のマモリに話しかける。
「ここに魂の入っていない真っ新な体がある、おぬしのために用意した体じゃ。
これにお前の魂が入れば、完全な人間の出来上がりじゃ」
島神が話し終わると、ユミカの体からマモリの霊体がすうと浮かび上がり・・・
「あ、座敷童・・・」ユミカが見つめる中、マモリの霊体がユミカの複製体の中に溶け込むように消えていく。
マモリの霊体が複製体の中に消えると、最後までぼんやり光っていた複製体上半身の光が少しだけ強く輝く。
「あ、まぶしい・・・」複製体に抱きつくようにくっついていたユミカ、思わず目を閉じ顔を背ける。
光が消え、ユミカが目を開けると複製体の身長が少し縮んで、顔も変わっていた。
「・・・ふう、自分の体・・・、1000年ぶりの自分・・・」複製体がゆっくりしゃべり出す。
「・・・動かせる!手も!足も!」複製体に収まったマモリ、感動で声が震えている。
「ふむ、どおじゃ、1000年ぶりに「人間」に戻った気分は?」
「島神様!感動です!自分の思うとおりに体を動かせます!自分の体です!!」
マモリ、しばらく自分の体を得たことに感動していたが、途中ではっとして島神の前に跪く。
「島神様、突然いなくなってしまい申し訳ありませんでした。不肖マモリ、無事修行を終えて参りました。」
マモリ、修行の成果を島神様に報告する。
「正確には3年程足りなかったみたいですが、途中途切れることなく、結界を維持し続けることが出来ました」
「まあ、確かに3年足りなかったが、そのくらいは大目に見ておこう」答える島神。
マモリ、島神の返答に、ぱあっと笑顔になり「では、これで島神様の後を継いで、私がこの島の・・・」
「ダメじゃ」島神、きっぱりとダメ出し。
「ええええーーーー!」ショックを受けるマモリ。
「この修行の本当の目的を、おぬしは理解できなかったようじゃの」島神、静かにマモリに語りかける。
「え?私、この1000年間、いや、997年間、一日も休まずに結界を維持し続けました。
確かに最後の方6年間、結界の維持は出来ませんでしたが、長い時間掛けて強化してあるので、
3年くらいなら・・・、1000年目くらいまでは結界は平気だったはずです」
必死に自己弁護をするマモリ。
「だが、その1000年目を3年過ぎた今、結界が弱まり始めておる」結界が弱まりつつあると指摘する島神。
「今は代わりに儂が結界を強化しておるが、結界が弱まった少しの間にかなりの数の邪鬼が侵入しおった」
「わ、わ、わたし!島神様からいただいた術を使って、島民達の魂への憑依と転移を繰り返し、
1000年間とってもがんばりました!」
必死にアピールするマモリ、
「最後は、ちょっとドタバタしちゃいましたけど・・・」
「実はの・・・」説明を始める島神。
「残り少なくなった儂の神力でも、1000年くらいなら結界を張り、維持する事は可能だったのじゃ」
「!では、なぜ私に・・・?」唖然とするマモリ、
「知って欲しかったのじゃ、経験して欲しかったのじゃ」語り始める島神、
「人の営み、生き様、人生という物を・・・」
マモリ、島神の言葉を良く理解できないでいる。
「おぬしは毎回10才くらいの子供に転移、憑依し、その子が成長し、大人になり、子を育て、年老いて体が弱ってくると・・・」
島神ここで大きなため息。
「さっさと抜け出して、若い子供に乗り換えて・・・を、繰り返しておったじゃろ?」
マモリ、まだ良く理解できていない。
「憑依した宿主がケガをしたり、病気になったときもさっさと乗り換えおったな?」
「でも、それは、宿主の痛みや苦しさも憑依している私に伝わってくるから、
そういうのがあると結界の維持に支障が出るし、
もし宿主が死んじゃったりしたら私、霊体になって外に放り出されて
魔力の補充が出来なくなり結界が維持出来なくなっちゃうから・・・」
「おぬしも言い分けしておったが、2年や3年維持が出来なくとも、強化された結界はびくともせん。
結界を張り続けることも大事じゃが、人の苦しみや死を体験することも修行の大事な要素だったのじゃ」
聞いていたマモリ落胆するが、島神も落胆している。
「儂としては、おぬしに人の死を経験してからまた、転移、憑依を繰り返して欲しかったのじゃ。
人の幸も不幸も数多く経験する事で、おぬしの魂が成長し良き島神となってくれると期待しておった」
「そんなあ・・・」
がっくりとうなだれるマモリ。




