第七話
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第七話
そんなある日のことだった。
いつものように事務所の隅でデスクワークをしていると、休憩室のテレビから聞き覚えのあるアナウンサーの緊迫したニュースが流れてきた。
『――本日の臨時閣議におきまして、〇〇大臣より電撃的な発表がなされました。現行の紙幣による経済管理制度を完全に廃止し、今後は個人の生体情報である「静脈認証」による完全キャッシュレス管理へと移行するとのことです。これにより、これまでブラックボックスのなかに消えていた不透明な資金の流れや、強盗・詐欺などの略奪犯罪は事実上不可能となります。政府は、徹底した社会的弱者の状況管理により、この国から「貧困」という二文字を完全に根絶すると発表――なお、今回の歴史的大改革を主導した〇〇大臣は、次期首相候補としても確実視されており――』
——なっ……なんだって……!?
あまりにも画期面的で、これまでの常識を根底からひっくり返すような巨大すぎるニュースだった。
もしそんなことが本当に日本全国で実現できるのなら、この世の中からどれほどの犯罪が消え去ることか。理不尽に虐げられる弱者が減り、不透明でずる賢い者だけが得をするような汚い世の中は、確実に塗り替わるだろう。
呆然とテレビ画面を見つめていると、ふと、視線を感じて横を向いた。
事務所のデスクの向こう側から、こちらをじっと見つめていた飼育員と目が合った。
その瞬間、飼育員はふっと不敵な笑みを浮かべ、自分の口元に人差し指をスッと当てて「しーっ」と合図する仕草をした。
――一体どういうことだ? と考えかけた瞬間、脳裏を鋭い電撃が走り抜け、あの日の記憶が鮮烈によみがえる。
あの日、あの夜のバスのなかで、飼育員が静かに呟いた言葉を思い出した。
——「この国が、世界を巻き込みながら大きく変わっていく」と。
はっと息を呑み、私は慌てて自分の口を両手で押さえた。
まさか……私たちがあの夜に命がけで奪取した機密データと極秘任務は、この国の政治構造そのものを引っくり返し、未来の社会を創り変えるためのものだったというのか……!
いや、スケールが大きすぎて、私のちっぽけな脳みそでは到底処理しきれない。
だけど——。
うだつの上がらない毎日をただやり過ごし、橋の上で人生の終わりを彷徨っていたような私が、今、こんな途方もなく凄まじい世界変革の裏側に、確かに「関わっている」。
人生ってやつは、何が起きるかなんて本当に分からないものだ。
私の人生も、捨てたもんじゃない。
これからもきっと、私の前には想像もつかないような、胸が高鳴るワクワクするような未来がたくさん待っているのだろう。
そう——。
これは、私の夢の話だ。
あの日、終わらない梅雨の長雨のなか、冷たい川の橋から身を投げた私は、運悪く浅瀬の岩肌になど引っかかることはなかった。
あの時、死の恐怖に負けて思い留まっていればよかったのだろうか。
そんな後悔なんて、すべて今更ではあるけれど。
……本当に、私はどこまでいっても、
間が悪い。
完
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