140 潜らないと分からないダンジョン事情
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「21匹か、平均より多かったけど、こんなもんだろうな」
健司が魔石を確認する。
「そういえば、健司君はオオカミや角ウサギの解体はしないの?」
「ん~、アルビノでもなければ、オオカミも角ウサギも、大した価値にはならないぞ」
「それでも、解体している人たちがいるんでしょ?」
「それは、あれだ。倒せる数が少ないダンジョンに行ってるから、手取りを増やすために解体しているだけだな。それに、解体って思っている以上に難しいから、素人がやるとボロボロになったりするらしいぞ」
「やっぱり、ネットに流れる情報って、脚色されているんだね。稼ぎが増えるとか言ってるけど、そう簡単な話じゃないんだね」
「まあ、実際にやってみないと分からないことも多いからな」
俺たちは準備を整え、階段のある部屋へ戻り、階段を下りていくと、すぐに小部屋へ出た。
健司がライトを動かしながら、部屋の中を確認する。
「この部屋にはいないな。翼、すぐにセーフティエリアにしてくれ」
俺はすぐに荷物を降ろし、部屋の中心へ向かい、格安テントを組み立て、部屋の中央へ設置する。
「ここなら、問題なさそうだな」
俺がスキルを発動させると、部屋の中がセーフティエリアになる。
「この部屋のサイズだと、下手したら、隣の部屋まで届いたりするか?」
「上の階を考えれば、ありえない話じゃないな」
俺は部屋の大きさと、大体の通路の長さを考えながら答える。
「それにしても、荷物を置いていけるっていうのは、かなりデカいアドバンテージだよな」
健司がしみじみと呟く。
「そんなに大きいの?」
「普通は荷物を置いていけないからな。普通に盗まれる」
俺と隼人には、まだ実感がない。
健司は、これまでの探索では、常に荷物を持って移動していたようで、置いていくという発想そのものがなかったそうだ。
「でもさ、人がいないところだからいいけど、人のいる場所だったら、セーフティエリアに人が入れるんだよね? 部屋に置いて、自分たち以外は排除する……みたいなことは、さすがにできないと思うけど、そうなったらさすがに盗まれるんじゃないの?」
「確かにな……」
隼人の疑問に、俺と健司が腕を組んで考えた。
「攻撃的になって追い出されるけど、攻撃じゃなければいいのかって話になるもんな……翼、ちょっとお前の荷物いじっていいか? 意識的に、盗むとか思っていじらせてもらうけど」
俺が許可すると、健司が俺の鞄へ近付いていく。
そして、鞄へ手を伸ばした、次の瞬間……健司の姿が消えた。
俺と隼人は、目の前で起きたことを理解できずに固まる。
「マジか……」
しばらくして、通路の先から健司の声が聞こえてきた。
『おぉ、あぶねえ! 翼、入る許可くれ!』
俺は慌てて健司の入る許可を出す。すると、しばらくして健司が通路からこちらへ戻ってきた。
「ビビった……飛ばされたまではいいけど、ゴブリンが4匹もいたわ。飛ばされた先は通路じゃなくて、隣の部屋だったみたいだな。入った瞬間、ゴブリンたちが4匹集まってグギャグギャ言ってたから、慌てて叫んだわ。倒せないことはないだろうけど、怪我はしたくないからな……」
健司は真顔で答える。
ゴブリン4匹に囲まれて、倒せること前提で、怪我するのが嫌だからって理由で戦いたくないのか……
いや、確かに怪我をしない方がいいのは間違いない。
「荷物を盗もうとするだけでも、反応するのは、お前の荷物だからか? それとも、隼人のでもそうなるのか? 検証が必要だけど、まずは周りの確認してからだな。また飛ばされても困る」
健司は焦ったような仕草をしながら、ジョークのように話している。
ただ、実際に4匹のゴブリンがいる部屋へ飛ばされた直後なのだから、笑い事ではないんだけどな……
「そうだ、翼、1匹になったら、こいつを使ってみたいから、あっちの部屋のゴブリン減らしてくれないか」
そう言って、健司は鞄からロープを引っ張り出した。
「使う予定はなかったけど、念のために何かに使えないかと思って持ってきたんだ。エリアの中からゴブリンにひっかけて、引っ張ったらどうなるか、試してみたくてな」
安全地帯からの釣りか? 何となく、そんなイメージを感じる。
俺たちは、健司が戻ってきた通路を進んでいく。
部屋に入ると少し先に、ゴブリンたちの姿が見えた。4匹のゴブリンが、何もない空間を叩きながら、グギャグギャと声を上げている。
「どこかのゲノム兵と違って、敵を見失っても追いかけてくるタイプか……今まで情報がなかったけど、そういうの調べた人はいないのかな?」
「翼、基本的にモンスターに遭遇したら、逃げられないと思った方がいいぞ。誰かをいけにえにしない限りはな……」
「確か、そんな話があったよね。今は減ったけど、生きて帰ってきた人がいて、かなり問題になったやつ」
ダンジョンができて、潜る人が増えたあたりで話題に上がっていた、置き去り事件の話だ。
モンスターから逃げるために仲間を置いていった探索者が、生きて帰ってきたことで大きな問題になった事件。
「翼、とりあえず、減らしてくれ」
俺は盾を構え、片手斧を握り直し、3匹のゴブリンを倒す。
残った1匹は、こちらを警戒しながら、見えない壁を叩いている。
これで健司が試したい状況は作れたはずだ。俺は健司のところへ戻る。
「これでいいか?」
「ああ。じゃあ、他の通路も確認してから、実験するぞ」
俺は少し首をかしげる。
今までは、強制的にセーフティエリアの外に出されるときは、すぐ近くに現れていたけど、もしかしたら、遠くに出現する可能性もある。
その場合、実験中に別のモンスターが近付いてくるかもしれない。
「確かに、先に確認した方がいいな」
俺たちは残っている2つの通路へ向かう。こちらは、通路が長かったので、通路の途中でセーフティエリアが切れていた。
しばらく進んで確認すると、先にオオカミや角ウサギがいたので、それらを倒していく。すべての通路を確認し終えると、俺たちは再びゴブリンの元へ戻ってきた。
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