三十三、 確執
それからさらに七年の月日が経ちました。
既に"白刃会"の会員はニ千名を優に超え、本体の"百足"を遥かに凌駕する勢いを保持しています。
若く勇敢で優秀な剣士の集団であるその名を、アーガンド王国中に轟かせていました。
ある日、カルラが白刃会に関する"ある噂"を耳にしました。
その噂の真偽を確認する為、カルラは自分専用の白磁に乗り、一里離れた白刃会のアジトに怒りの形相で乗り込んできたのでした。
白刃会のアジトも初めて出来た十年前から増築され続け、今はもう百足本体のアジトより大きく立派になっています。
しかし白刃会がいくら大きくなったとはいえ、カルラはその本体である"百足"の統領です。
普段は外部からの訪問者には厳しい白刃会の警備も、カルラは素通しです。
「レイロウはどこだ?」
「あ、カルラ殿。レイロウ先生は一番奥の会長の間におられます」
「ふん、あの小僧が先生か。案内しろ」
「はっ」
カルラは警備の青年に、あじとの中を案内させました。
そしてこの十年で白刃会のアジトがここまで大きくなっていることにとても驚いたのでした。
途中すれ違う会の青年たちも体格も姿勢も立派であり、いっぱしの剣士の風格を持った者ばかりです。
あきらかに"百足"の人員たちとは全体様子が異なるのでした。
だいぶ歩くと、奥の建物の最上階にある会長の間、に着きました。
「こちらです」
「……」
その会長の間、の扉の立派な事と言ったらどうでしょう。。
百足にあるカルラの部屋とはまるで違う、美しい飾りの施された重厚な木製の扉です。
そしてその前には会長室を守る一人の若い護衛の剣士が居ました。
剣士はこちらをチラリと見ました。
「中にレイロウが居るだろう、話がある」
「……」
「おい、聞こえんのか?」
「……ただいまレイロウ先生は幹部会義中です。部外者は立入禁止です」
「部外者?俺が誰だか分かっているのか」
「こちら、カルラ殿であらせられます」
その二人のやり取りを見ていた、ここまでカルラを案内してきた警備兵が慌てて言いました。
「ああ、存じておりますが」
その説明を受けてなお、護衛の剣士はそうやや大仰な様子で返しました。
「知っているのか。では扉を開けてもらおう、レイロウに用だ」
「ハッ、なので部外者はお引き取りを」
「カルラだと名乗ったろう、俺は百足の統領だぞ」
「ここは百足ではなく、白刃会です。白刃会はもはや規模も知名度も、百足を凌駕する組織です。繰り返します、部外者以外はお引き取り下さい。さもなくば、"排除"します」
そう言うと扉の前の若い警備兵は腰に下げた剣の柄に手を掛けました。
その態度に、カルラの目は憤怒の色を灯しました。
「……成る程これか」
この所、外部からの依頼で仕事に出た百足の人員が、あじとに戻ってから不満を漏らすことが多かったのです。
それが、同じ外部の依頼で警備に就いていた白刃会の剣士の振舞いが原因だと言うのです。
百足の人員は、依頼により建物を直したり、食事を作ったり、片付けや物運びをします。
一方、白刃会の剣士は要人の護衛や街の警備をします。
その二方が出会った時、白刃会の剣士が、百足の人員を"見下す"ような目つきや仕草をするとのことでした。
それはまるで"白刃会の方が百足より上等である"と言わんばかりの態度だと言います。
これまでその報告を『考えすぎでは?』訝しんでいた百足本文のカルラやサンタンでしたが、
それが紛れもない事実であることを悟ったのでした。
「やるのか、貴様……」
そう言ってカルラが眼光鋭く若い剣士を威圧すると、その時、重厚な木製の扉が中からギッと開きました。
そこから別の少年が顔を出しました。
「どうした?ああこれはカルラ殿、いったい何用で?」
それは白刃会幹部の一人、デーゼでした。
カルラとは百足のアジトで何度か顔を合わせたことがあります。
デーゼは会の中でもまだ若いのに、白刃会の師範代として会随一の実力を持つと言われる剣士です。
だからこの幹部だけが参加できる開合にも呼ばれているのでした。
「デーゼ、お前たちの教育はどうなっている!なんだこの若造は!」
「いや、幹部以外はこの部屋に一切近寄らせるなと命令しているので。だから優秀な警備兵の証拠ですよ」
「だからと言って、この俺をだな――」
その時、カルラはその護衛の剣士が鬼の形相となり、今にもこちへ切りかかりそうに気色ばんでいるのに気付きました。
「なんだ、その目は?」
「……」
「許可が出ました、カルラ殿、入って下さい。さあさあ」
デーゼが二人の間に割って入る形で引き離し、カルラを扉の中へといざないました。
「さあ、お入りを」
「初めから早く通せ!まったく!」
そう文句を言いながらカルラが部屋に入った後、まだ怒りの形相を呈している護衛の剣士にテーゼが呟きました。
「カルラ殿が剣士でないからと見くびるな。彼の操る短刀の腕は確かだ、お前の首などすぐ掻き斬られるぞ」
「……はい」
「よし、続けろ」
そうして後からデーゼも室内に入り、重厚な木製の扉がバタンと閉められたのでした。
そしてまた若い剣士はその場で居直り、会長室の警備を続けました。
~つづく~




