Ep.33(73) 鳳凰vs零王
〈チェコ共和国リベレツ〉
「ーー"最高!!" 楽しい……楽しいなヴァイス!!!!」
"死神"モルト・ヴァイスに襲撃をかけたのは、彼と闘いたいがために刻導へ入ったという"鬼神"凶禍 権。
意味のわからない襲撃に、ヴァイスは彼との闘いを拒み、今もこうして防戦一方に、ただ彼の刀を避け続けていた。
「・・・ッ、よせ権! 俺は……お前とは闘えない!!」
「"謝絶!!" いつもはそれで折れていたが、拙者既に刻導の身。従う理由はない!!」
闘う気のないヴァイスを前に、遂に痺れの切れた権は強行策に出る。
手に持つ2本の刀に神力を込め、
「"忠告!!" 失ってからでは遅いぞヴァイス。
ーー"喜喜"『参廻』!!」
無防備なヴァイスを襲う飛ぶ斬撃。流石にこれは避けれないと判断したのか、彼は『箱庫』から長さ3メートルほどの巨大な1本の鎌を取り出し、向かってくる斬撃を防ぐ。
「ーー"流石!!" 本気で放った神戯を、こうも簡単に弾くとは……やはり、お主は強いな」
「・・・ッ、いい加減にしてくれ権。俺は争いを好まない」
「"拒否!!" 何を言われても退く気はない。死にたくないのなら、その『殺生』で拙者の首を刎ねるがいい!!」
※ 『殺生』
モルト・ヴァイスの神刀。持ち手から伸びる刃の長さは3メートルで、更に刃から鎌状の刃が4本生えている。 "命を狩る刀"とも呼ばれ、それを見たものは必ず死ぬと言われている。
「・・・ッ……」
「"不明!!" 何故そこまで拒む? 別に仲良しこよしではなかろう? お主はいま命を狙われておるのだぞ? それに、殺生を見せた以上、殺すのがお主の流儀。さぁ、拙者を殺してみよ!!」
「・・・ッ、権……逆に聞くが、何故俺とそこまでして闘いたい? そこが俺には理解できない」
確かに、権が彼と執拗に闘いたい理由は不明。そんな状況で、心優しいヴァイスが争うことは出来ない。
「ーー"理解!!" なるほど、お主は拙者が害種ではないから、闘う理由が分からないのだな?」
「・・・ッ、そうだ」
「"承知!!" 確かにそうじゃな。言わぬが仏と思っておったが……この際だ、ハッキリと教えよう、拙者がお主と闘う理由。それは、父からの遺言が関係しておる」
遺言??
「お主も知ってるとは思うが、拙者の父も神道に属していた。だがある日、刻導の1人と相討って死んだ。それから数日後だったか、自宅に天明様が訪れ、拙者たちに頭を下げた。拙者はあの日から、この人について行く。父の残した意志を継ぎ、必ず悪を消し去ると、そう決意した。 ーーだが、それは全て嘘だった」
「嘘? それはどういう……」
「父は刻導に殺されたのはでなく、当時、裁下の最高権威を保持していた者に始末されたと、遺言に書いてあった」
「待て、さっきから言ってるその遺言は誰に貰った? どこにあった?」
「父が死ぬ寸前、母に渡していたらしい」
「母……時子さんか」
※時子
権の母親。実際の母は既に死んでおり、時子は、権が小さい頃より身の回りの世話をしていくれていた2番目の母親である(普者)
「母は病に冒されていた。死を悟ったのであろう、亡くなる直前にそれを拙者へ渡した。そこには紛れもない父の文字。そしてこう記してあった……」
[間もなく死ぬ。いや、消される。権よ、父の言葉を信じてくれるのであれば、裁下"グリムオレカ"を殺せ。あれは危険だ。必ず、天明様に仇なす賊軍となる]
「……とな。拙者は戸惑った。だが、その遺言書には紛れもない父の残想があった。拙者は天明様を尊敬している。だがそれと同じか、それ以上に父を尊敬している。だから揺らいだ。どうすればいいかと……」
※残想
物に残る想い。神通力者は物に触れると、それを確認することができる。
「・・・ッ、話は分かった。お前の仇は裁下ってことだろ? なら何故俺を狙う?」
「……ふっ、お主は覚えておるか? 自分が何故神道に入ったか。いつ神道に入ったかを」
「あぁ、当然だ。俺は……記憶を失い、路頭に迷っていた。そんな俺を天明様が拾ってくれた」
「そうじゃな。お主が入ったのは拙者よりも前、ちょうど拙者の父が死んだ後じゃ。拙者はまだその時小さかった、だからお主が死神であることを知らなかった。そして、拙者が神道に入った日、真っ先に拙者に声をかけてくれたのはお主だったな。「俺は死神モルト・ヴァイス。隣の国の長だ、困ったことがあれば頼ってくれ」と」
「あぁそうだ、その通りだ。よく覚えている」
「拙者はその時点で王への忠義を捨て、刻導に加担することを決めた」
「な……なにを言って……」
「お主は過去の記憶がない。"だから"覚えていないのだろう。現裁下最高権威ラスト・ディーデクスが二代目であるということ。そして、初代裁下最高権威、即ち拙者の父を殺したグリムオレカとは、"死神の神格した名"、つまり貴様だということを」
権の語った言葉に、ヴァイスは激しく動揺した。それは、権がものすごく大きな勘違いをしているからだ。
「違う、違う、違う!! 違う……違うんだ」
「何がじゃ? 何が違う?」
「違うんだ……」
「いや、何も違くない。今それがハッキリした。貴様は過去に辛いことがあり、記憶を失ったと同時に、言葉がうまく喋れないようになったと聞いていたが、今の貴様はどうじゃ? 都合の悪いことが起きたいまは、ツラツラと言葉が話せておるな? 不思議じゃ。もしやあれか? 記憶を失ったというのも嘘か? なぁ……どうなんだ? 答えろ!!!!」
「違うんだ……本当に違うんだ……。今だから言えるが、確かに記憶喪失も、言葉が上手く話せないのも嘘だ。でもちゃんと理由はある!!」
「なんじゃ? この際だ、聞いてやる」
どうする、言ってもいいのか? いや、言うべきだ。これ以上は……。
「俺は、死神じゃないんだ。本当は死神の後継で、神格も出来ない。だから、お前の父を殺したのは俺じゃない!!」
・・・「ふっ、、ふはははは(笑)。何を言うかと思えば……。もうちょっとマシな嘘を、」
「本当なんだ!! 俺は死神なんかじゃない、俺は強くない、俺は中位にもなれないただの落ちこぼれなんだ!!」
ヴァイスの表情、語気、態度、そのどれを取っても偽りを言っているようには見えない。だが、
「"呆気……" 残念すぎる……もう疲れた」
「本当なんだ!! 嘘じゃ、」
「もう喋るな……。 誇り高く、強く、尊敬できる父が、こんな与太郎に……。はぁ、悲しくて言葉も出ない。もう良い、せめて亡き父に届くくらい、無惨に喚いて死んでくれーー『神格』」
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〈ジブチ共和国アルタ州〉
「た……頼むガオ!! 殺さないでガ……」
第一級最上位『真白澪』を襲撃したのは、自称刻導の端くれ者『ギムレット』率いる摩瓈爾奠総勢30体。
どの摩瓈爾奠も300以上捕食を終えていて、命のストック数は異常。恐らく、地球にいる摩瓈爾奠の中でも、選りすぐりの30体ーーだったのだが、
「……ったく、殺しても殺しても立ち上がる。まじでキショいな。おかげで、寒すぎて死にそうだ」
時間にして約20分。1体残らず凍結後バラバラに砕いた真白の周辺は、極暑地帯とは思えない白銀の世界と化していた。
これは流石に引いたわ。ここまで強いとは……。零王の名は伊達じゃないなぁ。はぁ〜〜あ、ホンマに、僕よぉ強敵と当たるわぁ〜〜。
「びっくりやでホンマ。その摩瓈爾奠作るのにどれだけ時間掛かったと思ってん?? もうちょっと大事に殺しやぁ?」
「知るか」
時間を掛けて作った……やはりな、この摩瓈爾奠、人工的に作られてるのか。だとしたらかなり厄介だ。製造方法突き止めねぇとな……。
「おいリズベッド」
「誰それ(笑) 僕ギムレットやで?」
「何でもいい。お前に1つ提案がある」
「提案?? これはビックリ。なんやなんや? あんたみたいな強い人の提案なら素直に聞くで」
「そうか、なら話が早い。摩瓈爾奠をどこでどうやって製造しているか言え。その代わり、お前のことは殺さないで見逃してやる。どうだ? 優しすぎるだろ?」
「アッハハハハッ! 自己中やなぁ〜〜。唯我独尊すぎやでホンマ。因みに断ったら??」
「あん? 殺すに決まってんだろ」
「ふ〜〜ん、自分が負けて死ぬっちゅう考えは、端からないんやなぁ」
「は? あるわけねぇだろ。この距離、この状況で殺せない程、俺は弱くない」
その瞬間、さっきまでとは比にならないほどの殺意と神力がギムレットを襲う。
うわ〜〜お、これはマズイわ。嫌弱の影響で動きが鈍くなってるところを殺す算段やったが、やっぱ30体じゃ少なかったかな??
真白澪の嫌弱は、"冷え症"。寒さに対しての耐性が著しく低い。
体温が下がれば、当然動きは鈍くなり、処理速度も低下する。そこをギムレットは突く算段だったのが、真白はそれを読んでいた。
30体もの摩瓈爾奠を相手に、彼はセーブして闘っていたのだ。
にしてもや、周辺の気温はかなり下がっとる。多分いまマイナス100度近い。なのに、嫌弱の影響が少ない。これはどういうことや?
「なぁなぁ、素朴な疑問なんやが、あんたの嫌弱って冷え症やんな?? 幾ら力セーブしてたとはいえ、こない寒いのに何で平気なん??」
「質問してんじゃねぇよ。テメェが先にゲボれや」
「まぁそうなるわな。しかしやな、流石に製造方法は言えんなぁ〜〜。僕の首が飛んでまう」
言えないってことは知ってるってことだな。
「知るかよ。いま死ぬか後で死ぬかの差だろ。ゴチャゴチャ言ってねぇで早く言え。俺はこう見えて、そんなに気が長いタイプじゃねぇぞ?」
「アッハハハハッ、それくらい見たら分かる(笑)。でもな、残念や。どうやら僕時間みたいや。そろそろ回収作業に入らな、"仏陀"に殺されてまう」
ギムレットの発言を聞き、明らかに動揺する真白。
「おい、今なんつった?」
「うん? なんや?」
「誰に殺されるって?」
「あぁ、仏陀や仏陀。 あんたらが目の敵にしとる仏陀や」
こいつ、仏陀を知ってるのか? いや待て、知ってるレベルじゃねぇな多分。ってことは、摩瓈爾奠製造の裏にいるのもあいつか。
「そうかそうか、悪りぃけど前言撤回」
「ん? どゆこと?」
「お前、拷問決定。仏陀の場所、吐いてもらうぞ」
「えぇ〜〜、そんな勝手に決めんでやぁ〜〜。
僕かて拒否権くらい、」
終始ヘラヘラしていたギムレットの顔からようやく笑顔が消える。
それは、目の前で構える真白の姿を見たからだ。
あ……これ、あかんやつや。絶対死ぬ。
まるで走馬灯のように真白の動きがスローモーションに見える。そして、彼の右腕がギムレットに向いた瞬間、掌から一直線上に山3つ消すレベルの巨大で広範囲な、氷の華が咲き誇る。
「神戯 "氷流"『雪牙華』」
真白とギムレットの距離約10メートル。
その間合いは一気になくなり、放たれた氷の華は、辺りを凍結しながらギムレットの後方数100キロ地点まで咲き誇った。
「ふぅ〜〜、やっぱ神戯はダメだな。※特定神装着てても寒みぃわ」
※特定神装
神装=神力を付与した物。
特定神装=神通力を付与した物。
真白がいま着ている服は、炎神シャーマ・ハイズヴェルムの神通力が込められたもので、炎のように熱い衣服である。
注)特定神装は、前途の通り神通力が込められている。なので、神通力者以外使用することはできない。というより、使用すれば、込められた神通力で死んでしまう。
(真白の着ている衣服の場合、神通力者以外が着れば、服に焼かれて死ぬ)
「さてと、」
一息付くと、彼は一直線上に生え広がった氷の華に手を添えた。
すると、一瞬にして氷は粉々になり、カタカタと地面に降り注ぐ。
「まぁまぁ手加減はしたぞ、死んじゃいねぇだろ? ほら、早く起き上がって色々とゲボれ」
砕かれた氷の中から、両足を失い、前のめりに倒れ込むギムレットの姿。真白は話しかけながら彼に近づく。
しかし、彼との距離が縮まり、彼の姿がハッキリと見えるに連れ、真白の速度は遅くなる。
なんだあれ……溶け……てる? 間違いない、あいつの体が徐々に減ってる。
倒れるギムレットの体からは黒い液体のようなものが流れており、流れるたびに彼の体は小さくなっていた。
そして、その液体は地面の中へと消えていく。
「そりゃなんの神通力者だ? 気持ち悪いな」
あまりにも気味の悪い光景に足を止める真白に対し、ここでようやく赤子サイズになったギムレットの口が開く。
「ホンマ、勘弁してや。"分身"とはいえ、強さで言うたら上位クラスやで? それをたった一撃で……この脳筋が」
「分身? お前、本体じゃねぇのか?」
「当たり前や! 誰が零王の前に本体出すかい!! 死にに行くようなもんやろ」
「それは間違いない。で、本体はどこだ? あぁやっぱいいや、聞いても行く気ねぇし。そうだな、3秒やる。その間に来い。ちゃんと殺してやる」
「アッハハハハッ! ホンマあほやなぁ、そんなん言われて誰が行くかい(笑)。……ってのは冗談で、分かった。今から行くわ」
お? なんだよ、物分かりいいじゃん。
「お前面白いな。本当に死にに来るんだな」
「バ〜〜カ、殺す言うとるやつのとこに行くわけないやろ」
「は? 来るつったろうが! おちょくってんのか!?」
「ちゃうちゃう。あんなぁ、正常な頭を持ってれば殺意あるやつのとこになんか誰も行かんって話や。つまり、"正常な頭のない奴"やったら、喜んで来るんとちゃうか?ってことや」
「……あ? どういう意味だ?」
「ふっ、"こういう意味や"」
ギムレットは今にも無くなりそうな手のひらと喉にグッと力を入れ、「パチン」と指を鳴らした直後、目一杯息を吸い叫んだ。
「ーー天、霊、様ッ〜〜!! た〜〜すっけて〜〜!!!!」
彼の叫びが木霊する中、辺りに不穏な空気が流れ始める。
「これは……」
空気がひりつき、歪み、その影響で天候が変わる。
カラッと照っていた日が何かを恐れ、雲で顔を隠す。
そして、真白が一回の瞬きを行った直後、上空に巨大な天霊が姿を見せていた。
「ーーイツブリダ零王?? サイキンハ"覇王"ノ ガキ トシカ アッテナイ。ダカラ ワスレテイタ。オマエニ ツケラレタ コノキズ……ア〜〜ァ、アイタカッタゼェェェェ、マ〜〜シ〜〜ロォ゛ォ゛ォ゛ォ゛」
体長75メートル、全身金色の飛行型。
腕は2本で、足はない。
だがその代わり、体長の約1/3の長さの尻尾があり、その尾からは数えきれないほどの鋭利でゴツい牙が生える。そして何より目立つのは腹部に残る痛々しい大きな凍傷の跡。
この生物は最強最古の、東ノ天霊。個体名、『鳳凰』である。




