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赦し

 母である王妃は国王から糾弾された。


 意識不明のまま離縁の手続きがすすみ、王妃ではなくなった。体調をみて、母は実家のユディトー侯爵家へと戻ることが決まっている。


 そんな中、僕は国王に呼び出されている。

 正直怖い。薄らとそうではないかと思っていたことを、今日いよいよ告げられるのだ。


「お前はわたしの息子ではない。」と。


 父であった人はそう宣言するのだろう。国王の隣には、正しく父の血を引く兄上、いや、ブライアン第一王子が立っていて、僕は王太子ではなくなり、ただのオースティンとして生きていく事になるのだろう。

 妹、いや、エトワール王女は、王家の色を纏っているから、間違いなく国王の血を引いている。しかし、エトワール王女を産んだのもあの人ではない。それだけは確かだ。


 わかっていた、なぜなら。

 僕は父にも母にも全く似ていないのだから。

 そして父にも母にも愛されてはいなかったのだから。




「ここにいたのか。」


 ステファンに声をかけられたオースティンは、王宮の広大な庭園を見渡せるガゼボにひとり座っていた。


「そろそろ、か。探していたか、済まない。」

「オースティン、いや、オースティン殿下。わたしは貴方がどのような立場でも、貴方の側に仕えていたいと思っています。」

「よしてくれよ。お前にはお前の幸せがあるのだから、泥舟に乗る必要はない。」


「しかし、今更戻るところもないんだよな。俺、三男だから。騎士でも目指すか。お前も一緒にどうだ?」

「それはいいな。どうせなら、辺境のボールドウィン騎士団に押しかけてやろうか。」

「おう、そうしようぜ。死ぬ気になれば、何だってやれるさ。」

 ステファンは、オースティンの背中をバシンとひとつ叩いた。

「さあ、殿下。陛下の元へ向かいましょう。」


 親友たちは笑い合った。この数日、心が晴れることがなかったオースティンは、どんな結果になっても生きていればいい事だってあるさ、とそんな事を考えながら、国王の座す謁見室へと急いだ。



 エドマンドは目の前に座るオースティンを観察している。


 オースティンは、イルミナ王妃が倒れてから魔道具で変装するのをやめた。今は、生来の姿、茶色の髪に淡い水色の瞳のままである。

 優しげで穏やかな外見は一国の王太子としての威厳はないかもしれないが、他人から嫌われる類の人間ではないことは確かだ。王太子教育にも熱心に取り組み、特別優秀とは言えずとも、真面目さ勤勉さでもって教師陣からは合格を貰っていた。 

 運悪く、婚約者は未だ決まっていないが、それは寧ろ幸いであった。

 これからのオースティンを支えるには身分に関わりなく、オースティン個人を愛する女性を、エドマンドはそう考えている。


「そう固くなるな。気楽にしてくれ。ここには身内、そう家族しかいないのだから。」


()()という言葉にビクリとしたオースティンは背中に汗が流れるのを感じたが、それでも負けてはならないと、エドマンドを正面から見つめ返した。

 エドマンドの隣には、ブライアンが座っていた。


「父上、オースティンを追い込まないでください。父上の威圧は心臓に悪いのです。」

 

 すまない、と笑ったエドマンドは、ふっと気を抜いて、オースティンに笑いかけた。


「色々と辛い思いをさせてしまった。オースティン、お前は何があっても、わたしの息子である。血のつながりはなくてもな。」


(血のつながりはない、陛下は断言された。)

 オースティンの胸中は複雑ではあるが、モヤが晴れた気分でもある。疑惑が真実になったのだから。


「国王陛下、ありがたいお言葉ですが、わたしは陛下と王妃の子ではありません。実の親が誰かもわかりません。

 どのような沙汰も真摯に受け入れるつもりです。

 どうぞ、お命じください。」


 オースティンは立ち上がって深く頭を下げた。

 

 エドマンドはその姿を目を細めて見ていたが、「随分と大きく立派になった。体調を崩し寝込む前に知っていたオースティンは、まだ線が細く華奢でな、剣の稽古などさせたら腕が折れるのではないかと思って心配していたのだよ。」

 懐かしそうにエドマンドは言う。

 オースティンはただ平伏するのみだ。


「頭を上げなさい。お前はわたしに謝るような事をしたのか?何もしていないではないか。まだ、何も。」


「陛下、でもわたしは、、」


「先に言うぞ。ブライアンは第一王子、オースティンは王太子から降りて第二王子とする。

 これはブライアンの望みでもある。オースティンにはまだやらねばならない事がある。それまでは、どれだけ嫌がっても王家から出してやらん。心して励め。」


 驚愕したオースティンは、思わずブライアンを見た。ブライアンは、笑っている。


「オースティン、悪いな。嫌かもしれないがヴェルランド王家に残ってくれ。わたしにもまだやるべき事があって、アリス嬢とともに、スカタルランドへ行く。戻ってくるまでの間、父上を支えていてくれ。」


「でも、わたしはっ!王家の血は一滴も流れてはおりませぬ。

父も母もわからぬ、下賎の身。王子と名乗ることなど到底出来ませぬ。それに周りの者達が反対します。」


「オースティン。言った筈だ。何があっても、お前はわたしの息子、第二王子である。イルミナがしでかした事は許せないが、オースティン個人に何の罪があるだろう?

 しかし、このままではお前の苦悩は嵩むばかりだろうから、王太子はしばらくは空席とすることにしたぞ。

 それで納得して欲しい。我々の都合でお前を不幸にするわけにはいかないからな。」


「陛下、、、」


「オースティン、そこは父上と呼ぶべきだよ。わたしの事は兄と、これまでと変わらずに。」

 ブライアンは立ち尽くすオースティンの肩を抱き、安心させるように声をかけた。 

「これからが大変だぞ。王妃が作り上げた体制を立て直し、外交を覆す。オースティン、頼りにしてるぞ。」


 目を赤くして涙を堪えたオースティンは、はい、と頷くことしか出来なかったが、自分を受け入れてくれた国王と兄の為に、この身を尽くそうと決心した。

 



お読みいただきありがとうございます。

オースティンにとっては茨の道が待っているわけですが

彼は乗り越えられるでしょう。


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