293.「微睡む騎竜の進化日記」
『そう言えばそうだった。サギリのせいで大事な用事を忘れるところだったよ』
俺の言葉に、ようやく真面目な顔になるリーフェ。
まぁ、大方の予想はついているんだがな。
『あの本、一体何なんだよ』『ようやく身を固める気になったのか?』
――ん? 話がかみ合わないな。
サギリの方を見る。
一緒に来たということは――そういう事だと思ったんだが。
『私もリーフェと同意見ね。あれじゃあまるで、私が乱暴者みたいに思われるじゃない』
一瞬だけ考えて――二竜が何のことを言っているのか、思い当たる。
『もしかして、10年前の大魔討伐を題材に書いたあれか?』
『そうだよ。そのあれだよ! 多少の脚色ならともかく、事実とかけ離れたことを書いちゃだめでしょ。何だよ「ツノうさおばさん」とか「魔竜」とか僕がモテないとかって』
それは――と反論しようとして、思いとどまる。
代わりに俺は、大きく頷いた。
『まぁ物語として構築するんだから、そのぐらいは脚色の内だろ。脚色の。それにだな――』
サギリに顔を向ける。
『俺はリーフェから聞いていた内容を基に書いたんだからな。乱暴者に見えるってんなら、俺じゃなくてこいつに言えよ』
――本当は。
当時リーフェが寄こしていた手紙は事実の羅列でしかなく。
内心考えていた事なんかは、俺の想像でしかないがな。
『ちょっとどう言うことよ』『事実そのものじゃないか』
狙い通り、小突き合いを始めた二竜を観察する。
本当に――こういう息ぴったりなところなんだがな。
深く溜息を吐く。
『喧嘩するんなら外でやってくれよ』
『あんたが元凶でしょ!』『何言ってんだよ!』
――本当にな。
この分じゃあ、続きを書いているとか――口が裂けても言えないな。
部屋中に響き続ける罵声に――俺は天井を見上げた。
――――――
一般には。
その物語は、数ある大魔討伐録の中でも「異聞」として認知されていた。
大魔討伐に騎竜が同行していたという当時の記録はあるものの、この物語においては、肝心の討伐部分の記述に「魔竜」という記録にない存在が記されていた為だ。
故に――歴史家がこの物語を顧みることは無かった。
その物語の続きとされる、とある原稿が発見されるまでは。
その原稿「微睡む騎竜の進化日記」が四天の一――『絶対記憶』を有したとされる「賢者」により記されたものと判明するまでは。
これにて本物語は完結です。
(設定等を記したAppendixは後日追加する予定ですが、本編は完結です)
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