292.本の山
『ふぅん。なかなか面白いところに住んでいるのね。流石というところかしら』
室内に入ると同時。
そんなことを言ってきたサギリに、俺は首を振って返す。
『俺にはもう不要なものなんだがな――どっちかっつーと置き場所に困ってんだよ』
視線の先。
壁一面の本棚と、その前の乱雑に積まれた――増えていくばかりの本の山。
ここ数年で見慣れてしまった光景に、溜め息しか出ない。
『そう? 世間一般のイメージには近いと思うけど? なにせ――』
『そんな事より、リーフェの奴はどうしたんだ? てっきり一緒に来ると思ったんだが』
俺は長くなりそうな話を遮った。
途端にサギリの顔が真竜と化す。
『初めは一緒に走ってたんだけど、ノロノロしてるから私だけ先に来たのよ』
『――あぁ。なるほどな』
サギリの言葉に納得する。
世界の中心へと赴いたあの日。
理の枝を折った後、落下して来たリーフェは――『エルダーラプトル』へと退化してしまっていた。
もちろん見た目だけではない。
動けるようになってから判明したその身体能力も、見た目同様に大きく低下していたのだ。
『来たよ! マーロウ』
『よう、久しぶりだな。リーフェ』
――とそんなことを考えていると、そこに本竜が現れた。
何の変哲もない――『エルダーラプトル』だ。
そう。
あれ以来――リーフェの進化は完全に止まっていた。
どれだけ走っても、どれだけ暗闇の中で生活しても――どれだけマ神に祈っても。
何の効果もなかったらしい。
不幸中の幸いというべきは、スキルについてはそのまま使えているというところだろうか。
『やっと来たのね』
『何言ってんだよ。勝手に先に行ったのはサギリだろ!』
『遅いんだからしょうがないじゃない』
と、俺がそんなことを思い返している間に、リーフェとサギリが口論を始めていた。
『おい、お前達。一体ここに何しに来たんだよ』
――まったく相変わらずだな。
この10年で少しは成長したかと思っていたんだがな。
次回最終話(予定)です。




