291.幸福の記憶
「しっかりして! リーフェ」
『大丈夫だよユニィ。ちょっと眠たいだけだから――』
「リーフェっ!」
俺の視線の先。
賑やかな声を伴いながら、泡のベッドに乗せられたリーフェが進む。
その前で先導するのは、やはり泡の上に乗り得意気な顔をしたトリサン。
見慣れない術だが、『目が覚めたらなんか使えるようになってた』そうだ。
まぁ、あいつのことはどうでも良い。
それよりも――と、数歩ほど前を行くサギリに声を掛ける。
『お前は側についてなくて良いのか?』
『――何を言ってるのかしら。意味が分からないのだけど』
――それなら、尻尾を左右に振り回すのは止めてくれ。
さっきから目障りで、思考が纏まらないんだよ。
口を衝いて出そうになる言葉を飲み込む。
実際にそんな文句を言おうものなら、余計に面倒なことになるのは明白だ。
一つ息を吐き。
俺は目の前の尻尾が視界から外れるよう、頭上を見上げた。
そこには、つい先程まで目の前にあった光が淡く輝いている。
『なぁ相棒。当然お前も――視てたんだろ?』
「――ああ」
他の奴らには見えていないだろう。
『導き』の理を司る枝。そしてもう一つの巻き込まれた枝。
それらが大樹の本体から切り離されたと同時。
折れた枝からは光が失われ、『力』の波動が拡散し――再び、一人の少女の元へと集っていたことを。
相変わらず賑やかな前方を眺める。
――本人も気付いていないようだがな。
「それだけじゃない。あの大樹が何だったのか。そしてリーフェスト君のあの姿は――」
『ああ、考えることは山ほどあるな』
互いに顔を見合わせると、自然と口角が上がる。
考える為の記憶は大量に手に入れた。
後は記憶を再生しつつ、時間を掛けて情報を整理していけば良いだろう。
『それでだな。俺は――』
「あ。来た来た。マーロウさーん! ノルディスさーん!」
皆の後を追いながらもふたりで議論していると、ユニィの声が響いてきた。
前方に視線を移すと、水辺でこちらに手を振っている。
――議論はしばらく小休止のようだ。
「お待たせしたみたいですね。すみません」
「いえ。大丈夫です。それよりもステュクスさんは――どこに?」
ゆっくりと振り返る――が、そこには誰も居なかった。
「もしかして道に迷ったとかでしょうか? だとしたら――そうだ。『サーチ』の術を使って――」
『よそうぜ』
「やめましょう」
降りてきた場所からここまでは一本道。迷うような要素は皆無。
だとするならば――まぁ、そういう事なんだろう。
「え――」
まだ何か言いたそうなユニィを置いて、残りの皆に近づく。
『――さ。帰ろうぜ』
これにて6章は終了。
残りは7章エピローグとなります。
(今回Appendixはありません。7章終了後まとめての予定です)




