289.小さな黒い穴
今回、構成の都合上短いです。
『あのバカ、何呆けてるのかしら』
視線の先。
今。私の目には、動きを止めたリーフェの姿が映っている。
せっかく『加速』の術を掛けてあげたのに――という言葉は飲み込んだ。
『俺には良く見えねーけど、あいつの事だから何か面白い事でも思いついたんじゃねーか?』
『バカな事の間違いでしょ』
そう言いながらも視線は外せない。
そのままの体勢で口だけを動かす。
『そんな事より、ユニィ達は起こさなくていいの?』
『――――ああ』
――あら。珍しいわね。
マーロウが言い淀むなんて――
『――まぁ気絶させりゃ良いんだが、やり過ぎたらまずいだろ? それに――あの二竜には理の影響が抜けきるまで近付けないからな』
マーロウの言葉に。
一瞬だけ視線を、くだんの二竜へと向ける。
――確かにそうね。
少なくとも私は――この二竜には近付きたくない。
トリムの居た辺りには素性の分からない細かい泡が盛り上がっていて、既に全身が見えなくなっている。
一方のステュクスさんの方は、一瞬見ただけでも分かるぐらい――明らかに周りの地面が凹んでいた。
そう――やっぱりこういうのは、リーフェの役目だもの。
枝の方は早く片付けてもらわなくちゃ――って。
『ねぇマーロウ。あれ――何してるのかしら?』
『ん? どうした。何か見えるのか?』
なぜこれぐらいの距離で見えなくなるのか。
問い詰めたくなる気持ちを抑えて、私は目に見えている状況を説明する。
『尻尾の方の術は解いていて、代わりに頭の上に『ポケット』の小さな穴が開いてるわ』
ようやく動きを再開したリーフェ。
その頭上には――小さな黒い穴が浮かんでいた。




