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最終段 巡り巡るはスパイラル!

 カラクリ大蜘蛛事件から1ヶ月。


 土蜘蛛の残した爪痕は大きかった。

 住民たちの家は破壊され、道は荒れ、人々の食べ物すら初めはままならなかった。


 しかしOHーEDO八百八町、全住民たちによる復興が進められていく。特に大きかったのは国の侍たちの活躍だ。

 蜘蛛足によってえぐられた道は瞬く間に元に戻り、新しい住居も町の大工と協力して修復されていく。

 江戸城には備蓄があり、様々な物資が人々に配給されていった。


 徐々に生活が安定してきた頃、手の空いているものは被害にあった人々を励まそうと様々なイベントを行う。


 近松ゑいかは姉ゐどりと共に青空の下、通りの町人たちを集めて人形劇を披露する。

 姉妹が揃ったのは義父の門左衛門によるものだった。江戸の役人に頭を下げ、手回しをすることで貧民街から出る権利を認められたのだ。門左衛門の努力があったからこそ叶ったことである。

 今では二人、共に住み、共に文楽に取り組んでいる。


 また貧民街の広場では花魁『黙阿弥ててて』の姿があった。

 花魁のお付きの者たちと共に、貧民街の人々に衣服を提供したり、五右衛門風呂を用意して無料で入ってもらう。


 子供たちをタライの中で泡に囲まれながら、楽しそうに洗ってあげるててての姿があった。


 そしてこちらはお馴染み日本橋通り。

 福内姉妹の水茶屋『一ぷく』。

 その店の看板には『※おむすび配ってます』の張り紙。


 店内で割烹着姿でおむすび握るは、我らがぜにまと姉並木もみじであった。

 ぜにまの髪はショートから少し伸び、うしろにまとめて結ったなら、ちょっと短いぽにーてーる。

 左腕にはいつもより簡易な、棒のようなカラクリ義手を新調して。


「ふぁ〜〜。姉は眠たいでおじゃる……」


 もみじは寝ぼけ眼でおむすびを握る。


「姉上、もう日は高いですよ」


「でも眠いものは眠いでおじゃる〜」


「ほらほら姉上、おむすびはこうやって握るんですよ。ほっ、ほっ、ほっ!」


 ぜにまは器用に米を握る。白いお米がどんどん形を成し、それにペロッと海苔を巻けば、三角おむすびの完成。それを目の前の大皿に敷き詰めて並べていく。


「出来たでおじゃる!」


「どれどれ……ぬおっ!」


 ぜにまがもみじの手を見れば、顔ぐらいまである巨大なおむすび。

 もみじはそれを皿にドンッと置く。


「これは傑作でおじゃろう! ほほほ~!」


「おむすび握るのがここまで下手な人を、拙者初めてみたでござる……」


 ぜにま驚愕。

 するとそこに通りかかる角材を担いだ大工たち。


「おっ、『一ぷく』娘のおむすび! これ美味いんだよなぁ! ぜにまさん、今日も一つ貰ってくよ!」


 一人の男がおむすびをヒョイとつまむ。


「おいらはこのデッケェのにしよう。きっと特性のおむすびじゃ」


 もう一人の大柄の男はもみじの巨大なおむすびを手に取る。

 大工たちはおむすびを口に放り込み、また通りを走っていくのだった。


「今日もがんばるでござるよ〜!」


 ぜにま手を振り。ぜにま達は復興をする人々に、無料でおむすびを提供していたのだ。

 米は江戸城の備蓄米である。


「さくら、どうでおじゃる! 姉のむすびは大人気なのじゃ! もっともっと作るでおじゃる〜」


 もみじは得意気であった。


「確かに……姉上のむすびにも需要があったでござったな……」


「ぜにま姐さん! もみじさん! お手伝いお疲れ様です!」


「おお、ゑいかとゐどり殿」


 そこに現れるはいつものミニスカ着物の近松ゑいか。隣には姉のゐどりの姿も。


「あれから、もみじさんの記憶はどうなんです?」


 ゑいかはぜにまの横で二つ目のおむすびを作るもみじを見る。


「土蜘蛛に支配されるまでの幼い記憶は覚えているが、その後の記憶は今も曖昧でござる。たまに思い出せることもあるようでござるが……」


 カラクリ大蜘蛛事件の後、もみじは別人のようになっていた。

 ぜにまとの暮らしていた日々は覚えていたが、土蜘蛛に支配された多くの時間の記憶が無かった。

 しかし不思議なもので体にはその習慣や技術だけは残っていた。


 ぜにまは、姉の記憶が無いことはむしろ救いだったのかもしれないと考えた。今はゆっくりと、大好きな姉と新しい思い出を作ればいいと感じたのだ。


「そうなのでごぜゐますか。なかなか難しいものですね。それはそうと姐さん聞きました? もう町の復興は八割方、終わったようですよ」


「なぬ? 早いでござるな」


「元々、OHーEDOは自然災害が多い町ですからね。建物も、壊れるのが前提なんで治すのも早いんですよ。最近だと『カラクリ3Dぷりんたあ』なんてのもありますし。小さいものなら何でも作れちゃいます」


「いやはや、すごいでござるなEDOの技術は」


「お侍様たちが手伝ってくれましたからね。それに不在の将軍様に変わって、老中『田沼意次(たぬまおきつぐ)』様が精力的に指揮を取ってくださってるので、本当に助かりますよ」


「田沼はわっちは好かん。OHーEDOスパイラルも即再稼働したでありんすし」


「む」


 上に声。

 水茶屋の屋根、花魁姿。腰を降ろして色っぽく煙管を吸うは黙阿弥ててて。


 フ〜と白い煙を吐いて、ぜにまたちの上から声掛ける。


「こらー! ててて! そんなところで煙管を吸うのは非常識でごぜゐます!」


 ゑいかはを真上のてててに腹立てる。


 ぜにまは再建中のOHーEDO城を見上げる。

 その天守閣には見覚えのある巨大なゼンマイネジマキがまた新たについていた。

 『OHーEDOスパイラル』と称したEDOの全動力を担うゼンマイネジマキ。すでにゆっくりと回り始めている。


「あれが無ければEDOはやってけないですから仕方ないでありんすが。ただ問題はもう一つ」


「ふむ」


「主さんの『天下の徳政令』、お上が変わったからって取りやめにするとは酷い話。わっちらKABUKIものは何の為に命を懸けたのやら」


 てててはまたもや煙吐く。

 そう、ぜにまがKABUKI十八番勝負で手に入れた『天下の徳政令』の権利。

 しかし事態が事態なのでもちろん徳政令の施行は一旦取り止め。そのまま実質的支配者であるもみじの失脚と、99代将軍徳川イエヤス公がカラクリ人形と分かった今、権利の行方は有耶無耶となってしまっていたのだ。


「それについては拙者は気にしていないでござるよ」


 カツン、と煙管で屋根を叩く音。


「主さん、わっちにOHーEDOを救う、善常(よしつね)千本桜を見せるという約束、忘れてはいんせんか?」


「勿論忘れてはござらん。しかしおむすびを握ることも同じく大事なことで候」


 ぜにまはおむすびを握る手を動かしながら語る。


「……そうでありんすか。ただわっちはいつまでも待っているでありんす。わっちとの約束、忘れて貰っては困るでありんす」


「く〜〜っ! いっつも上から目線なやつ!」


 ゑいかが相変わらず腹を立てていると――


「まあ皆さんお揃いで! ちょうど今、お菓子が出来たところですよ」


 座敷の奥からは町娘姿のお舟が現れる。

 隣には妹のお波も。


 お舟は盆を持ち、その上には小板状の焼いた和菓子が並べてあった。


「今川橋で人気になっている今川焼きというものを作ってみたんです。よければ食べてみてください!」


「へへ〜ん! わたしのつくったやつもあるよ!」


「わん!」「わぉん!」


 親子犬の右近と左近も、白いしっぽ降りながら吠えた。


「おお! 是非食べたいでござる〜!」


 香ばしい匂いに鼻をくすぐられるぜにま。しかしそれだけではない。何処かから焦げた匂いもしてくる。


「ん? この匂いは?」


 そこにEDOの町人たちの悲鳴が聞こえる。


「てぇへんだ! てぇんへんだ!」「火事だーー! やぐらのお七のボヤ騒ぎでぃ!」「め組だけじゃ手が足りねぇ! 誰でもいいから助太刀頼むー!」


 復興途中のOHーEDOスパイラルに火の手。空に白煙上がっていた。


「これはまた一大事。一番乗りはわっちが貰うでありんすかねぇ」


 黙阿弥ててては和傘を開いて義賊姿にぶっ返り。屋根を伝って走りはじめる。


「あっ、ててて! ゐどり姉さん、私も行ってくるでごぜゐます!」


 ゑいかもその後を追いかける。


「どうやら今川焼きは後でござるな。お舟、後に取っといて欲しいでござる!」


「がんばってー! ぜにまさんたち!」「がんばるでおじゃる〜」


 お波ともみじ、そしてゐどりが走っていく三人に手を振る。


「帰ったら今川焼き、絶対食べてくださいよー! ぜにま様ー! 気をつけていってらっしゃーい!」


「……いってくるでござる!」


 時はOHーEDO、波乱の幕開け。

 宵越しの銭は持たないが、明日は明日の風が吹く。

 心に咲くは桜かな。


 今日も今日とてぜにまは走る。

 八百八町、あっ! KABUKI大江戸すぱゐらる!(カカンッ!)


◆◇◆◇◆


 火の手上がるOHーEDOスパイラル、その光景を補修中の江戸城から眺める男がいた。


「……田沼様。無事、江戸城の地下、土蜘蛛の巣を発見致しました」


 侍に膝をついて話すは手下の武士。

 田沼と呼ばれた男は、背中越しに語る。


「頼朝の、支配無きこのOHーEDOに、太平成すは天下人。……今すぐ人手を集めろ。事を動かす」


「はっ! 仰せのままに」


 OHーEDOスパイラル。

 その新たなゼンマイが巻かれようとしていた……。


  (第二部へと続く)

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 これにて『KABUKI大江戸すぱゐらる』は一旦終了となります。

 ここまで読んで頂いた読者の皆様には心から感謝申し上げます。


 昨今アメリカンコミックのヒーローたちが映画で大人気になる中、今一度日本のヒーローとは何なのかを考えて作品にしてみたい。そういう思いつきからこの作品は始まりました。そして無事、一つの物語として完結まで書き終えることが出来て良かったと切に感じております。皆様には、主人公ぜにまの活躍に最後までお付き合い頂いて誠に感謝しています。作者としても登場キャラクターたちととても楽しい時間を過ごせました。


 今後については活動報告欄に書こうと思いますので、気になる方はどうぞそちらをご覧ください。それでは本当にありがとうございました。また機会があればどこかでお会いしましょう。

 それでは!

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