そのにじゅう・はいうえいすたーでこともなし!
けたたましいエンジンとホーンの音が響き渡る。
爆走する無数の違法改造バイク。蛇行しながら暴走する彼らは最近この近辺で調子に乗ってる暴走族、【麺賭州攻羅】であった。
今日も今日とて彼らはヒャッハーとか言いながら果てしなく暴走を続ける。
だが。
「あん? 総長! 前になんか車止まってますぜ!」
先頭を走っていた特攻隊長(笑)が真っ直ぐ続く道の先、その彼方に堂々と正面を曝してど真ん中に停車する車らしい影を目敏く見つける。それに対して総長と呼ばれたリーダーは、なんかヤバげなクスリでもキメてんのか、イっちゃった目と態度で言い放つ。
「げひゃひゃひゃひゃ、かまわねえからブットバしちまおうぜ野郎ども! 良い景気づけにならあ!」
「「「「「ヒャッハー!」」」」」
歓声を上げ、鉄パイプなどで地面に火花を散らしながら止まる影目指し駆け抜ける。
影からどうんと重いエンジン音が響いた。
「いこうか【ニット】」
<OK【マイコー】>
闇の中、ぶうんと赤い光が灯る。
最近、華牡市の新聞や地方誌を賑わせている事件がある。
近隣の暴走族が、一つずつ壊滅していくという事件。だが不思議なことに襲われたらしい暴走族たちは、バイクこそコケまくって損傷したり大破したりしていたが、本人たちは怪我などほとんど無く倒れ伏していたという。
なんとなくホラー風味の内容であるが、もちろん我等が太平は欠片も興味を示さなかった。
「ふ~ん、それでマサたちゃ忙しそうにしてるわけか」
ぽっかりと空席が目立つ教室を見回して、太平は鼻を鳴らす。
基本太平の監視任務に就いている正義と綾火たちであるが、近隣で悪の組織関連の事件があったりした時、なおかつ人手が足りなかったりしたならば手伝いに駆り出されることもある。
今回の事件が悪の組織とかそのへんの関係かどうかは分からないが、真っ当な事件でないことは確か。警察とかから早々に協力を要請されたらしい。
「本当に面倒な話ですよね~、ただでさえ気が滅入るような日々を送ってるのに、余所でやってくれって感じですよ~」
太平の前でぺたんと机に伏せるような形で愚痴をこぼしているのは光。さすがに太平の監視という本来の任務を放っておくわけにはいかないので、彼女は居残りだった。
そんな彼女に、太平はじと目をくれてやる。
「で、そんなことをオレに話した意図はなんだ」
単刀直入な問いである。それに対して光はへらへらと笑いながら応えた。
「こういう類の事件って、なんでか意味もなくしょーもない事情で主人公が巻き込まれたりするんですよね~。心当たり、あるでしょ~? 覚悟はしといたほうがいいんじゃないかと思って~」
「……食えない女だな」
まるで太平が絶対関わるようになるとでも言いたげな言葉だが、それを強く否定することも出来ない。主人公かどうかは知らないが実際心当たりはあるのだから。
かといって自分から動くつもりもない太平は、憂鬱を隠さない表情で深々と溜息を吐いた。
隣で机に肘をついたまひとが、いたずらげな表情で言う。
「ま、いつも通り堂々と構えて、なんかあったらぶん殴りゃいいんじゃないかな?」
「……それもそうか」
「解決法が脳筋ですね~」
それで実際大体解決してるのだから仕方がない。
そういうわけで、どうせまたいつも通りぐっだぐだの展開になるのだろうと、皆高をくくっていた。
まあ大体その通りなのだが。
正義と勇気は警察病院を訪れていた。
一応被害者である暴走族たちに話を聞くためである。
もっとも彼らは事件以前に行った色々なやんちゃが原因で、退院後は即座に逮捕起訴される予定だ。
それはそれとして病室を覗き込んだ正義たちは、その異様な雰囲気に眉を顰めた。
「赤い……赤い光があ……」
「悪いのは……誰だ……」
「恐怖の……夜……」
うんうん唸りながら何事かをぶつぶつ呟いている被害者たち。揃って意識は朦朧としておりまともに話を聞けそうにない
「長時間に渡る運動。そして何か精神的にストレスがかかったんでしょう、まともに意識を取り戻す様子がありません。捜査を免れるための演技かとも考えられましたが、どうやら本物のようで。揃ってこの有り様ですよ」
肩をすくめる医者の言葉に、正義と勇気は顔を見合わせてから考え込む。
「怪我はほとんど無く、肉体的な疲労と精神的なストレスによる意識混濁、か。……確かに真っ当な事件じゃないんだが」
「どっちかってーと、オカルト的な方向性じゃないでしょうか」
「まあ悪の組織ってそっち方向も結構あるからなあ。それだとやっぱり赤坂たちの方が適任か」
綾火たちの事がちらりと出た瞬間、すこしむっとする勇気。相変わらず微妙な敵愾心を抱いて時折このように反応しているようだが、正義は無論気づきもしない。
考えるそぶりをしたまま「それに」と言葉を続ける。
「これがまだ悪の組織とか、そっち系統の仕業と決まったわけじゃないしな」
「……被害に遭っているのが暴走族だから、ですか?」
「ああ、だが悪の組織ってのはたまにわけのわからんことをやらかすからな、決めつけるわけにもいかんだろう」
キ●ガイ人外宇宙人など、大概真っ当じゃない人員で構成されている悪の組織は、時折常人では思いもつかない突飛な行動に出ることがある。例えば国の将来を担う子供たちを貧弱に育てるため、人工的に酸性雨を降らし野外遊具を腐食させ外で遊べないようにする。などという回りくどいというか、どうしてそう言う発想が生まれると小一時間ほど問いただしたいような計画を発案し実行するような真似を平気で行うのだ。
暴走族みたいな社会のはみ出し者ばかりが狙われているからと言って油断は出来ない。そこには悪の深淵なる策謀(笑)が絡んでいるのかも知れないのだから。
まあどっちにしろろくなことじゃないんだろうなあと、半ば達観した正義は遠い目になる。
ともかくここではこれ以上の収穫はなさそうなので、二人は病院を後にした。
「それで、これからどうします?」
「警察に向かった赤坂たちと合流して話を照らし合わせよう。その後は聞き込みかな。警察も見落としがあるかも知れん」
「……まあいいですけれど。…………二人っきりなのに反応されないと凹むなあ……」
「ん? どうかしたか?」
「なんでもないです!」
突如ぷりぷりと怒り出して、ずかずか正義を追い越し肩を怒らせて歩む勇気。正義はなに怒ってるんだと首を捻る。少しは女心を勉強したほうが良いぞ、いや本当に。
さてその一方、綾火たちはと言えば。
警察署の一角、交通課にて額を付き合わせて難しい顔をしている。
「何者かによる交通誘導、ねえ?」
眉を顰めて見入るのは、警察から開示された資料の数々。それによれば被害者である暴走族たちは、工事やなんやかんやを偽装した何者かに誘導され、現場の人気のない道に誘い出されたらしい。
短時間、そして暴走族の行動範囲のみで手際よく行われ、なおかつ痕跡をほとんど残していないためその正体はいまだ掴めていなかった。
「これ、相当お金かけてるよね」
口をへの字に曲げ風音が言う。警察の捜査も追いつかない手際の良さ。そういった技術を持つ人間を集めるにも資材を用意するにも相当の資金がなければ出来ないことだ。恐らく周囲にも『鼻薬を嗅がせている』だろう。どれぐらいの金と手間がかかっているのか想像もつかない。
「うむ、我々としても遺憾である。後手後手に回るのが我等が宿命とは言えこれほど尻尾を掴ませないと言うことは、相手も相当できるということである」
憤懣やるかたないといった感じで言い放つは、ぎんぎらぎんのヘビメタメイク交通課警部泥門。実際色々思うところはあるだろうが、今回綾火たちの介入に対して積極的に協力している。藁を掴む思いなのかも知れなかった。
「目的が分かんねっすよねえ。まさかストレス解消に暴走族ボコってるってわけじゃあないっしょ」
肩をすくめて言う未地だが、泥門はその言葉にまなじりを鋭くした。
「……いや、それは十分考えられるのである」
「ふふふ、金持ちの道楽ということかしら? ……よし台詞は確保したわ」
余計な言葉はついているが、泥門の考えていたことをいち早く看破した水樹はそれを指摘した。後半無視して泥門は頷く。
「うむ、個人あるいは組織かも知れんが、暴走族をターゲットに憂さ晴らしをしている可能性はあるのである。もしかしたらそれを商売にしているやも知れんな」
最低でも豊富な資金源を持つ者が、なんらか関与していることには違いない。下手をすればもみ消され闇に葬られる類の事件だ。被害者が反社会的な存在であることもあり、捜査の方も手抜きになりがちであることだし、そうなる可能性は結構高い。
ここが華牡市でなければの話だが。
「……この泥門のシマで良い度胸なのである。必ずや下手人をあぶり出し地獄の業火で焼き尽くしてやろうぞ」
くくくとか含み笑いしながらおどろおどろしい気配を放つ泥門。何か別ベクトルでヤる気満々であった。
綾火たちはやれやれしょうがないなあといった様子だ。本来悪の組織とかその系でなければ彼女らは関わらない。今までの調べではその可能性は薄いから手を引こうと思えばいつでも引ける状態であった。
が、根本的にお人好しである彼女らはここで手を引くのは気が引けると思っていた。第一こんな中途半端な状態で止めるのは気持ちが悪い。結局の所ケリがつくまで付き合うことになる。
勿論それは後になって合流した正義たちも同じであった。彼らは額を付き合わせ、策を練る。
で、結果どういう事になったのかと言えば。
「ああ゛? ンだテメェらふざけた事言ってると”轢いちまうゾ”?」
顎をしゃくり上げてガンくれながら言うのは、生き残っていた近隣暴走族の頭。その背後には、ずらりと違法バイクにまたがったヤンキーどもが同じようにガンくれている。
その正面に立つ正義は、まあそうくるだろうなと思いながら対応していた。
「確かにふざけた話だが、文句はご同輩襲ってる相手に言ってくれ。それにあんたらも警察から『お目こぼし』してもらえるってんだ、悪い話じゃないと思うけど」
要するにしばらく警察から見逃してもらえるから協力しろと言ってるわけなのだが、もちろん筋金入りのヤンキーどもがそれくらいで納得するわけがない。
「ざっけんなコラァ! おれらがマッポに尻尾振るように見えるってのかァ!? おめでてえ頭してんじゃねえか、纏めて”ブチコロがして”やんよ!!」
いきり立ち今にも襲いかからんとする暴走族。最初からまともに交渉する気もなかった正義は、これみよがしに溜息を吐いて背後に声をかけた。
「先生! お願いします!」
「どお~れ」
正義の声に応えわりとノリノリで現れたのは太平。ぱき、ぱきと両手の骨を鳴らしながら、一歩一歩前に進む。
「さて……おまえらに恨みはないが、バイト代出るそうだからな。ちょっと気合い入れてボコってやろう」
「あア!? やってみろやああああああ!!」
五分後。
「ずびばぜん゛でじだ、も゛う゛がん゛べん゛じでぐだざい゛……」
宣言通りこれ以上ないってくらいボコられたヤンキーどもは、地面に埋まらんとするがごとき土下座を見せていた。
さして感慨もなくふんすと鼻を鳴らす太平の背後で、勇気が正義にこそこそと語りかける。
「なんであの人つれてきたんですか!?」
「そりゃ俺らが説得するよりあいつにボコって貰った方が手っ取り早いし」
プライドもなにもない言葉に勇気はがっくりと肩を落としてまた一つ大切な何かを投げ捨てたが、正義は「それに」と言葉を続けた。
「万が一相手が俺らの予想の遙か斜め上を行く馬鹿だったとしても、あいつなら対処できるだろうからな」
「……完全に丸投げする気満々じゃないですか」
最早正義の味方としてのあれやこれやを彼方に放り捨てた正義であった。
そして彼らは謎の襲撃者に対抗するため、暴走族へと身をやつす。
「…………似合うねお前ら」
着慣れない特攻服に身を包み、鉢巻きを巻いた正義が半ば唖然とした表情で言う。
彼の目の前には、精霊戦隊の面子。完璧に特攻服を着こなし派手なメイクを決め、それぞれうんこ座りしたり木刀担いだりしてポーズを決めている。
「いやーなんての? 着てみると結構楽しいねコレ」
違和感が仕事してない綾火が軽い調子で言う。本当にこのままレディースになってしまいそうな勢いであった。目的を忘れてないと良いが。
「……楽しいですかコレ? なんかごわごわしてるし着心地悪いし……」
どう考えてもサイズの合ってない特攻服を着込んだ勇気は袖とか余りまくって完全にちんちくりんな有り様であった。それはそれで可愛いと思うんだけどなあと考える精霊戦隊の連中は、少しセンスがおかしいのかも知れない。
まあそれはそれとして。
「…………でさあ、オレのコレは、なに?」
ものすごく納得していない太平の声。
見れば彼はなんかおどろおどろしい肩パッド付きのマントを纏い、ばかでかいトライクのど派手な玉座を模した後部シートに収まっている。
そしてハンドルを握るのは世紀末風味のモヒカン。ボコられて完全服従でも誓ったのか卑屈な態度で太平に接している。
「へへ、快適なドライブをお約束いたしますぜ●王様」
「誰が拳●様か」
「それじゃ●帝様」
「変わらねえよむしろ悪化してるよ」
「……似合ってないが、似合うな」
「あ、うん、言葉の意味は分からないけど雰囲気は理解した」
太平の様子を見て、なにかすとんと得心したらしい正義と綾火。背後で勇気や精霊戦隊の連中もうんうん頷いている。誰も太平の納得する答えを出せそうになかった。
「それでは諸君、謎の襲撃者の顔を拝みに行こうではないか!」
ばかでかくおどろおどろしいバイク(私物)に跨った泥門が声を張り上げ促す。この人も違和感仕事してねえなあと皆思うが、多分言っても詮無いことだから誰も口にしない。
そして、正体不明の下手人を燻り出すための疾走が始まった。
ぱらりらぱらりらとホーンが鳴らされ、直管コールが奏でられる。蛇行し周囲を威嚇しながら走るバイクの群れ。それに混ざってノリノリの精霊戦隊と交通課警部。集団の中央を堂々と走るトライク。その玉座には納得いってない表情で肘をつく太平。
その行く先々で、順路を変更せざるを得なくなる。あるいは道路工事で、あるいは荷物の積み卸しをしている大型トラックの存在で。
「(なるほど、上手いこと誘導しているな)」
集団の目立たない位置をキープし勇気と共に周囲を警戒していた正義は、その手際を目の当たりにする。
ちらりとサイドミラーで後方を確認してみれば、誘導を行っていた連中は即座に撤収を開始しているように見受けられた。引き際も心得ている。ただ闇雲に人を集めただけではないらしい。
これはちょっと嘗めてかかれない相手かも知れない。正義は気を引き締め直した。
誘導されるがまま、一団は徐々に広いが人気のない道へと入り込んでいく。普通の人間だったらそろそろ不安になったり不自然さに気づきそうなものだが、今までの被害者たちは全く気にしなかったのだろうか。気にしなかったんだろうなあと思いながら流れに乗る正義たち。
やがて一団はだだっ広い直線道路にさしかかる。その先に待ちかまえる存在、それに真っ先に気付いたのは先頭を走る泥門であった。
「総員、止まるがいい!」
その声に従い全員が一斉にブレーキをかける。耳障りな音を立てて、一団はすぐに停車した。
エンジン音と緊張感が漂う。皆が一斉に視線を向ける前方の闇、そこに待ちかまえる影があった。
やつが下手人か。眼差しを鋭くする泥門、精霊戦隊、そして正義に勇気。息を飲む一団の前で、その影に赤い光が灯る。
ぶおん、ぶおんと左右に揺れるそれがセンサーグリッドの灯りだと気付いた次の瞬間、がかっとハイビームが灯り激しくホイルスピンの音が響く。
「くるか!」
太平が玉座から腰を上げようとしたその時、ライダーを務めていたモヒカンが鋭く告げた。
「御大将! シート横の赤いボタンを押してくだせえ!」
「? これか? 一体なんだって……」
問いながら太平はそのボタンを迷わず押した。
そしたらば。
どどどどどどど!
「のおおおおおおおお!?」
轟音を立てて、点火したロケットモーターが玉座ごと太平を天高く飛ばしていく。
唖然とそれを見送る正義たちに向かって、モヒカンは良い笑顔で親指を立てた。
「脱出装置でさあ! これで御大将の身は安全……」
「最大戦力を天の彼方に吹っ飛ばしてどうしようってんだ!」
思わず真空飛び膝蹴りをとんでもなく余計な気遣いをしたモヒカンの顔面にぶちかます正義。その一連の出来事が、致命的に反応を遅らせた。
「ぬ! いかん!」
バイクで回避しようとするが結構密集していたのが徒となり、咄嗟の行動ができなかった。
結果、影は吠えたくりながら違法改造バイクの群れへと飛び込んだ。
一瞬にして、蹴散らされる。パワースライドで旋回しながら影はバイクをなぎ倒していく。
決して強い当たりではない。軽く接触しているだけと言っていい。だがそれは絶妙な立ち回りで、バイクはほぼ立ち転けの状態で次々と横倒しになる。暴走族の面々は泡を食ってバイクを放りだして逃げ、泥門や精霊戦隊、正義など人間やめてる連中は一瞬にして安全圏まで跳ぶ。
「わ、我が輩のハンティング●ラーが……おのれ」
確実に傷物確定な己のバイクの姿を見て、怒りに身を震わせる泥門。彼を中心に殺気だった一団が見守る中、バイクを跳ね飛ばし十分なスペースを作った影が、その中央に止まる。
黒いトランザム。鋭角的なそのシルエットに、泥門は古い記憶を刺激された。
「まさかあれは……かつて某国財団が開発したドリームカー……」
目を見開く泥門の前で、トランザムのドアが開く。中から降り立ったのは――
「フォおおおおおおおおゥ!!」
天に高く指を立て吠えるのは、こじゃれたスーツ姿の男。ウェービーヘアに浅黒く彫りの深い顔立ちは、ハーフかそこら辺だからだろう。
「なんか違うの来たあああああ!?」
がびびんと一人驚愕する泥門だが、周りの若い連中は何がなんだかさっぱりだ。全員が唖然と疑問符を浮かべている。
戸惑いの空気が浮かぶ中、男はびしばしとポーズを決めながら語り出す。
「ようこそパーティ会場へ社会不適合者諸君フォウ! この【マイケル 内藤】が君たちをアォ! 夢の国に誘うとしようフー!」
「いやマイケルだけどマイケルだけどマイケル違うのではないかこれは!?」
頭痛を堪えるような表情でぶつぶつ呟く泥門。なんじゃこいつはと思考が追いつかない若い衆。そしてさらなる衝撃が彼らを襲う。
<そして私がマイコーの相棒を務めます【内藤インダストリアル2000】、通称【ニット】と申します。お見知りおきを>
「「「「「車が喋ったああああああ!?」」」」」
明らかに人が乗っていないトランザムが、己の意志があるかのようにライトを瞬かせエンジンを吹かす。
よく見れば激しくはないものの散々バイクにぶつけまくったはずの車体には、へこみどころか傷の一つもない。ほとんど人と変わらない対応をするAIといい、恐らくこの車はとんでもない技術の結晶だ。だが。
「(ならば、なぜその車を降りた?)」
マイケルと名乗った男の思考が読めず二の足を踏む正義。そんな彼を置いて状況は進む。
「ええいなんでもいいわ! 盗人猛々しい不届き者めが、大人しくお縄を頂戴するがいいわ!」
なにか色々と吹っ切れたらしい泥門がショットガンを取りだし、実は一緒に暴走族に潜んでいた警官たちが一斉に変装を解いて銃を構える。
普通ならここで怯むだろう。だが相手は正義が睨んだとおり、予想の斜め上を行く馬鹿だった。
居並ぶ銃口を見て、マイケルはふ、と気障ったらしく笑みを浮かべ、被っていたボルサリーノを指で押し上げる。
「OK、盛り上がってきたようだフォウ! ……ニット! スーパライブモードだアォ!」
ばちんと指が鳴らされた。それを合図にニットががちゃがちゃと変形を開始する。
あっという間にスポットライトが、スピーカが、次々と展開していく。
現れたのは、ライブステージであった。
「「「「「は?」」」」」
またまた度肝を抜かれて間抜けな声を上げる一団の前で、マイケルはかかっ、と靴を鳴らしポーズを決める。
「レッダンッ!」
響く重低音、猛り狂うライト。ど派手な音楽と光が飛び交う中、マイケルは歌い踊り出す。
そして。
「え、な、なに!?」
「うお!? なんじゃこりゃあ!?」
泥門以下警官たちが、精霊戦隊が、正義と勇気が、そしてこっそり逃げようとしていた暴走族の面々が、
揃って一斉にマイケルに合わせて踊り出した。
勿論己の意志ではない。体が勝手に動き出したのだ。その原因を正義は即座に見抜く。
「催眠効果! 音楽とライトか!」
強力な催眠効果を織り交ぜた音楽と、特殊なエフェクトにてそれを増強させるライト。気づきはしたが、体の自由がきかない以上対応は限られる。
こういったものは下手に抵抗すれば余計に体力を消耗してしまう。なるほど、これが一晩中続けば死ぬほど体力を消耗するだろうし原因が理解できないものたちであればトラウマにもなる。キレッキレのダンスを踊りながら、正義たちは必死で対策を練ろうとしていた。
マイケルは絶好調。ノリノリのキレキレで見惚れるようなダンスと歌を披露し、ごっついテンション上がっている。
そして一曲目が終わり、彼は最後にキメを魅せた。
「フーズバッ!」
「おめーだよ」
容赦のない前蹴りが、横からマイケルを襲いぶっ飛ばす。
<マイコおおおおおお!?>
ぶんぶん縦回転で吹っ飛んでいくマイケル。悲鳴を上げるニット。
蹴りぶちかましたのはもちろんこの人。
あちこち泥汚れやら木の枝やらで薄汚くなった太平である。
「人がちょっと席外していたら調子のりやがって。さっきのモヒカンともども痛い目見せちゃるから覚悟しろや」
「ええ!? なんで俺まで!?」
「いや当然だと思うが」
魔のダンスから解き放たれて汗まみれで息を乱しながらもがびびんとおののくモヒカン。同じように息を乱しつつ冷静にツッコミ入れる正義。
なし崩し的に破られた催眠効果。だがまだ終わっていないとばかりにステージが変形し再びトランザムの姿を取る。
<く、まさか伏兵がいたとは。ですが私はまだ戦えます。マイコーの仇、討たせて貰いましょうか!>
勇ましく告げるニット。だがしかし太平は無造作にその横に回り込むと。
「てい」
あっさりとちゃぶ台返した。
当然ながら、車はひっくり返すと走れないわけで。
<く、この程度で! てい! てい! うのれ! くりゃ!>
逆さまになったまま無駄にエンジンを吹かしタイヤを動かすニット。
ぽかんとその様子を見ていた一同。その中で泥門がいち早く我を取り戻す。
「か、確保ー!」
その声に従い、警官たちがひっくり返ったニットと変な形にねじれてぴくぴくいってるマイケルに躍りかかった。
んで、場所は変わって華牡市警察署。
「マイケル 内藤。内藤財団の御曹司か」
海外に拠点を置き、日本ではあまり有名ではない投資を中心として活動している財団。マイケルはその次期総帥という立場にあった。
どう見てもそうは思えんのであるがと、取調室でくねくねとポーズをキメているマイケルをじと目で見る泥門である。
「で、なにゆえあのような真似をしでかしたのか、聞かせて貰おうか」
そう問うては見たものの、真っ当な答えが返ってくるとは思っていなかった泥門であるが。
「そう、あれは我が財団の犯罪撲滅計画の一端なのさフォウ!」
さくっとマイケルは全てを吐いた。
その話によると、内藤財団は新たな事業として対特殊犯罪下請け業務――正義の味方事業に着手していた。その戦力として産み出されたのが無駄にオーバーテクノロジーをこれでもかと注ぎ込まれたドリームカー内藤インダストリアル2000。それを用いてマイケルは自ら計画の中核を担っていた。
あくまでまだ試験運用段階であったため、今回のように非公開で行われていたわけだが、なんでまたあんなわけのわからん行動であったかというと。
「僕たちは考えていた、暴力を用いて犯罪を抑制するのが正しいことなのかとフゥ。論議と思考を重ねた結果産み出されたのがあのライブシステムアォ! あれならば誰も傷つける事無く犯罪を鎮圧でき、なおかつこちらも犯罪には抵触せずその上僕のストレス解消にもなるフォウ! 正しく一石三鳥ポゥ!」
言ってる内にテンション上がったかなりふり構わずポーズを決めるマイケル。
しかし泥門は冷ややかに告げる。
「いや犯罪に抵触してるから」
「ポゥ?」
「当て逃げだから」
「ポゥ!?」
「あと連中怪我してないけど一応傷害になるから」
「………………………マジでポゥ?」
「マジで」
「………………………………ポ~ゥ………………」
がっくりと意気消沈するマイケル。どうやら本当に気付いていなかったらしい。っていうか財団の連中に誰か止めるヤツいなかったのか、いなかったからこうなってるんだろうなあと、泥門は深くため息を吐いた。
こうして、謎の暴走族襲撃事件はいつも通りのしょうもないオチで幕を閉じることとなる。まあその後も色々と問題があったようだが財団は札束叩き付けて何とかしたらしい。世の中金である。
んで、その後マイケルとニットがどうなったのかと言うと。
「というわけで今日から正式に正義の味方として活動することになったからよろしくフォウ!」
<よろしくお願いします>
くねくね踊る男と礼儀正しい車を前に、なんでこうなったと頭を抱える正義勇気に精霊戦隊。
「人を呪わば穴二つって、こういう事を言うんですかね~」
冒頭で太平に絡んだ事をちょっと後悔する光。人のことをどうこう言えたモンじゃないと、がっくり肩を落としている。
「取り敢えずこの近くでダンススタジオを経営することにしたよフゥ。興味があったら顔を出してみてくれアォ」
要はこの男、協会からこの地区に押しつけられたのだろう。気を隠すには森の中というか臭いものには蓋というか。
まさかと思うがこのまま次々と問題のある人間が押しつけられるじゃあるめえなと、暗澹たる気持ちになる正義の味方たちである。
事件は解決したが、むしろ問題は増えた。
そのことに将来的な不安を覚える正義の味方たちであるが、まあ世の中こんなモンである。
心を強く持って生きて欲しい。
「ところで今度から『魔那蓮邪亜』って名乗ろうかと思うんだけどどうかな?」
「「「「いややめて本気でやめて戻ってきて」」」」
色々気力が削がれてペースダウン。
話のキレもなんか悪いような気がする緋松です。
ハッセルホフと思わせといてジャクソン。まさかこの展開は予測できめえいや俺もしていなかった。(おい)
実際の所マイケル 内藤というこの人物とネタはずいぶん前に思いついていたんですが、使いどころが全くなく頭の隅に放置されていました。このたびやっと日の目を見ることが出来ましたが……日の目を見ているんだろうかこれは。
ともかくこれからちょくちょく出番があるやも知れません。活躍するかどーかは知りませんが。
とにもかくにも今回はこの辺で。
でわあでゅー。
 




