そのじゅうに・ゲーム世界でこともなし!
その事件の始まりは、現実の世界ではなかった。
特殊なヘッドギア状の機器を用いてプレイする、フルダイブタイプのMMORPG。その正式オープンプレイが開始された直後のことである。
「諸君、愛しきプレイヤー諸君。ようこそ新たなる世界へ」
オープニングセレモニーのために全てのプレイヤーが集められた都市区中央の公園。そこに響いたのは何とも偉そうな声。突然のことに集められたプレイヤーはおろか、イベントのために参加したスタッフたちも困惑していた。それらが眼中にないように、声は一方的に響く。
「もう気がついている者もいると思うが、現在全てのプレイヤーがこの世界からログアウトできなくなっていることだろう」
その言葉を確認するためログアウトしようとする者が続出するが、ログアウトウインドウそのものが出現しない事が分かりあちらこちらでパニックが起こる。スタッフたちがあわてて事態の打開を計ろうとするが、彼らにもどうしようもない状況であった。
それらを一切合切無視して言葉は続く。
曰く、通常の手段では最早この世界から脱出することは叶わないと。外部から無理矢理ヘッドギアを外そうとするなどすれば高圧電流が流れプレイヤーは即座に死ぬと。そしてこの世界から脱出するためには、ゲームで設定された最高難易度を誇るダンジョン、【タワー】を攻略しなければならないと。
「この世界での死は実際の死と同意である、そう言っておこう。ああ、ダイブしている以外にもこの状況を確認しているスタッフはいると思うが、通報などはやめておいた方が良い。私はいつでも全てのヘッドギアに電流を流すことが出来る。この意味が分かるね? それでは……」
無慈悲に響く声に怒りや絶望感、様々な感情を覚えるプレイヤーたち。そんな周囲と同調しているように見せかけて内心ほくそ笑んでいる男が一人。
このゲームの根幹からシステムのほとんどを一人でを組み上げた、生みの親とも言える人物。それが男の正体だった。
彼の目的は、『本物の異世界をネットワークゲームを触媒として産み出すこと』。言うまでもなく狂っている。だが彼はそれを成し遂げられると本気で信じていた。このゲーム自体はいわば広大な試験場。この世界で選られた様々なデータと経験を元に、ネットの海に異世界を構築する。それが男の真の目的だった。その日を夢見て彼は凶行を続けんとする。
彼の目論見がこのまま進行すれば、数万に達するプレイヤーの多くが犠牲になってしまうことだろう。
「……お、おにいちゃあん」
「…………」ビキ、ビキィ!
ただしこの男がいなかったら、の話だが。
数日前。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!」
自室でのんびりしていた太平の元に、どたばたと騒がしく恵が現れる。足で襖を開いた妹の態度に「はしたない真似をしてんじゃ……」とかなんとか言おうとして、太平は彼女の両手をふさいでいるダンボール箱の存在に気付いた。
「なんだよ大荷物持ち込んで」
「えへへ~、なんとこのたび、こんなものの抽選に当たっちゃいました~」
にぱりんと上機嫌に笑いながら、恵は太平の目の前で箱を開封し、中身を取り出す。
「じゃ~ん!」
「なんだそりゃ? ……ヘッドマウントディスプレイ、か?」
「違うよ~、ダイブヘッドギア。最近開発されたばっかりのフルダイブのゲーム、知ってるよね?」
「あん? ……そいうやマサとかがなんか言ってたなあ、これまでにない画期的なシステム使ったゲームとか。確かレム睡眠に近い状態で実際ゲームの世界に入っているような感覚のプレイが出来ると聞いてるが」
そいつをプレイするための機械かと、太平は納得する。しかしなんでそんなものがと首をかしげる。確かこの機器一揃いで結構なお値段したはずだが。恵のこづかいではとてもじゃないが購入できるとは思えない。
そこでさっきの発言を思い出した。
「モニターにでも応募したか?」
「あたりー! 手当たり次第に出してたら、ペアの奴に当たっちゃった」
なるほど、と頷く。しかし当たったはいいがペアの片割れはどうするつもりなんだろう。残念なことに恵には彼氏などいない。友達とでもやるつもりなのだろうか。そう問うてみると。
「え? お兄ちゃんと一緒にするに決まってんじゃん」
「いや待て、オレはゲームと言ったらシミュレーション系しかやらないぞ?」
しかも経営シミュレーションなどの地味で渋いヤツが主である。何しろバトル関係は実生活で飽きるほどやってるのだ。ゲームの中にまで持ち込む必要はない。
それはともかくとして、恵は諦めることなく誘いをかけてくる。
「そこはほら、付き合いのつもりで。折角のペアなんだから余らせるのももったいないし、友達だと誰か一人選ぶってのはねえ。お兄ちゃんなら気心も知れてるから安心だし、プレイも基本自分の身体を動かす感じで出来るからすぐ慣れるよ。それに……」
恵はチェシャ猫のごときにんまりと笑みを浮かべた。
「ここで慣れておいて、後で彼女さん誘ってちょっと変わったデート、なんてのもできるかもだよ?」
「よしやろういますぐやろうやり方を教えるのださあ」
あっさり食いついた。彼女さん関係になると相変わらずちょろくなるよねえと、きっししと笑いつつ恵は準備を始めた。
で。
「お~すげえ。なんか眠くなったと思ったらゲームの中に」
「五感は完全再現されてないけど、こんだけ自由自在に動いたら十分だよねえ」
機器をネットワークに繋ぎ、ヘッドギアを被ってそれぞれの部屋でベッドに転がれば、ほどなく眠気に誘われ気がつけば格納庫の中にも似たセッティングステージ。様々な画面が立体映像のごとく周囲に浮かんでいるが、これを操作してキャラクターメイキングをするらしい。
「えっと、これとこれで、こうかな? ……よしOKOK、じゃあキャラは……吟遊詩人でいこっかな?」
写真を元にモデリングされた恵のアバターが画面を操作し、キャラクターが出来上がっていく。基本の職業は吟遊詩人。歌や音楽を奏でることで魔法に似た様々な効果を生み出し、仲間を援護するのが主な役目だ。併せて技能や装備を選んでいく。
太平も見よう見まねでキャラクターを仕上げていく。いっそのこといつものイメージと違う職業で……と考えたが、初めてのことで慣れないプレイをするのもどうかと思い、結局は無難に戦士を選ぶ。そして適当に鎧を選び、初期装備の武器を見る。
「お、これにするか」
太平が選んだのは、棍棒だった。人の背丈ほどもある石柱を削りだしただけのような、なんか無骨というのもアレな得物である。それを見た恵は眉を顰めた。
「お兄ちゃん、もうちょっと格好良いのにしようよ」
「ん? 初期装備の中で一番威力が高かったんだよコレ。レベル上がって慣れたら他のに変えればいいだろ」
「同じ棍棒でももうちょっとマシなのあるのに……」
ぶうぶう言いながらも兄の決定に強く異を唱えるつもりもないようで、取り敢えずキャラクターメイクを終える。今回プレイするのは本格稼働前のβ版であるが、完成版とほぼ変わらない。行動範囲に制限があるだけだ。
まずはやってみてなれること。こういうゲームは全く初心者である太平と、話題性と物珍しさに惹かれただけで実はほとんどど素人である恵は、とにもかくにも電脳の海に生じた異世界へと足を踏み入れた。
「こりゃまた驚きだ。ここまでリアルに世界を作り込んでるたあな」
「わ、わー! すごいすごい!」
現実とほとんど変わらない光景を目にして、兄妹は驚きの声を上げる。さもありなん、感覚的にはともかく目に映る光景は現実的でありながらファンタジーの要素が詰め込まれた、あり得ないのにリアルな世界。初見であれば感動すること請け合いであった。
ほとんどお上りさんのような二人。そんな二人の姿を見て、ひそひそと言葉を交わすものたちが幾人か。
「おいアレ……」
「うわ、あの棍棒メインに選んだ馬鹿いたよ」
「事前情報も見てないのかよププ~」
太平の背中の得物を見て、くすくす笑う。
それもそのはず。かの棍棒、基本ダメージは初期の武器はおろか設定されている全武器の中でも最高クラスで、クリティカルがでれば理論上最高ダメージすらも叩き出す。が、その分命中率は恐ろしく低く、クリティカル値に至っては千分の一以下。さらに使うと五割の可能性で壊れ、かてて加えて戦闘で使うとどれだけ高いダメージを出しても必ず相手のヒットポイントが1だけ残ってしまうと言う、ネタ武器なのである。
事前に出回っているゲーム情報に目を通していればまず選ぶはずもない武器。それを使っていると言うだけで素人丸出しと言っているようなものだ。あるいは逆に訓練された廃人なのかとも思えるが、お上りさんのような様子から見てまずそれはないと言っていい。
影で笑いものになっているとはつゆ知らず、手続きを済まして慣らしがてら軽く戦闘でもと町からフィールドに移動する。
そして、敵が現れ戦闘になったわけですが。
「「「「「ピギャーー!!」」」」」
「あーなるほど、適当にぶん回せば雑魚数匹一度にぶっ飛ばせるんだこれ」
なんか早くも棍棒を使いこなしている太平であった。
確かに石柱棍棒は命中率が悪かった。しかし太平はこう思った。その分ぶん回せばいいじゃない、と。実際やってのけるこいつはおかしいのであるが、それはさておきその戦法は思わぬ効果を生み出していた。複数の敵に対する連続攻撃である。
能力値などよりもプレイヤーのイメージをできうる限り反映することに重点が置かれたこのゲームは、戦闘一つとってもかなり自由度が高い。大体イメージできればそれは再現されるのであるが、普通はでっかい石柱持ってぶん回すなんてことはできないので、それをイメージできる者など皆無と言っていい。大抵は用意されたアクションパターンを組み合わせて戦闘を行うのだ。要するに実際武道の経験などがあるとかなり有利になるのだが、武道はともかく『戦闘経験』は誰よりも積んでいる太平だ、石柱もってぶん回す程度のイメージなど容易い。
そんなわけで、普通なら経験積んでスキルを得なければ使えないような連続範囲攻撃なんて代物がいきなり使えるようになってしまった太平である。このナチュラルボーンチートキャラめが。
ともかくぶん回される石柱になすすべもなく吹っ飛ばされていく初期雑魚キャラども。ぶよんと柔らかいゴムのように地面に叩き付けられる手足の生えた芋――【スラ芋】の群れは、目を回して倒れ伏していた。
ほとんど死に体である彼らだが、慈悲も容赦もなくとどめが刺される。
「えいっ! やあっ!」
ちょっと気の抜けた感じだが必死な声が響き、スラ芋の群れに次々と矢が刺さり消滅していく。
声の主は小型の弓を構えた恵。相応に与えるダメージは小さいが取り回ししやすく、なおかつ連射ができる。有利な点はその程度だが、ヒットポイントが1にまで減らされた相手にとどめを刺すには十分だ。結果雑魚どもは次々と駆逐されていく。
あっという間に周囲の敵は刈り尽くされ、BGMが普段の明るい調子に戻った。棍棒を背中に担ぎなおし、太平はうんうん頷いた。
「良い感じじゃないか。これでとどめ刺せないのはちょっと驚いたが、恵が仕留めるか自分で踏みつぶせばいいことだしな」
「お兄ちゃんがぐるぐる振り回してたら敵も攻撃しにくいみたいだし、意外と正解だったねそれ」
恵も同じようにうんうん頷く。そんな事が出来るのは今のところ太平だけなのだがこいつらは気付いていない。そもそも半分の確率で壊れるという設定はどこへ行ったのか。言わなきゃこいつら永遠に気付かないのではなかろうか。
と、ぴろりろりんという電子音が鳴り、二人の眼前に新たなウィンドウが開いた。
「ん? なんだこりゃ」
「えっと……オープニングセレモニーのお知らせ、だって」
本格稼働が始まるのに合わせて開かれるイベント。その宣伝であった。色々と特典も用意されているようである。本格的にプレイしようと考えるなら是非とも参加しておきたいイベントではあるが。
「…………デートには丁度良いか」
「あ、前もってヘッドギアとか貸して彼女さんのキャラ作ってもらわないとだよ」
「そうだな、今日はこの辺でやめにして、連絡をしておくか」
済ました顔をしてるように見えて実は内心わくわくしている太平と、そんな兄を見てやっぱりハマってるし~と、してやったりなにんまり笑いを浮かべている恵。
しかし、タイミングが悪いと言うことはあるもので。
当日。
「肝心な時に彼女の用事が重なるとか」
「ま、まあそういうこともあるよね」
がっくりとorzってる太平をまあまあと励ましている恵。彼女の都合が合わず結局恵と共にイベントに参加することとなった太平の落ち込みようははんぱないものであった。
ともあれ折角のイベントだから気を取り直してとか何とか言って太平を励まし、いつもの調子を取り戻させようとする恵。その甲斐あったかしばらくして、何とか太平は立ち直っていた。
「こうなったらイベントでゲットできるアイテム全部かっさらっちゃる……」
「やめてお兄ちゃんキレると本当にやっちゃうからやめて」
げっげっげっと異様な雰囲気で笑い声を上げ始めた太平を必死で宥める恵。んなことやられたら確実に周りから総スカンを喰らう。このゲームを続けたい恵にとっては避けたい事態であった。
そしてそんな状況の中。
馬鹿がやっちまったわけなのである。
一方的な宣言が終わり、どうあがいてもゲーム世界からの脱出が叶わないと理解した後は、蜂の巣をつついたような大騒ぎであった。
「ふ、ふざけんなこのやろう責任者出せ責任者!」
「なに? なんなの? マジですかああ!?」
「デスゲームキタあああああああ!」
「死ぬのはいや死ぬのはいや死ぬのはいや死ぬのはいや……」
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」
「あ、ありのまま起こったことを言うぜ。俺は最新鋭のMMORPGに参加したと思っていたらいつの間にか脱出不可能なデスゲームになっていた。何を言っているのか以下略」
「テンパってるふりして余裕あんなお前ら!?」
「いやあああああたし今ジャージですっぴんなのに警察来たらどーすんのよ!」
「ハードディスク! ハードディスクの中身が!」
一部を除いて地獄絵図である。「落ち着いて、落ち着いて下さい!」とスタッフが沈静化を図ろうとするが、一向に効果が現れないどころかそのスタッフに食って掛かるものたちも多い。中には今にも得物を抜いて斬りかからんばかりに殺気立っているものすらいる。
騒ぎの中、恵は傍らの兄の顔を不安げに見上げる。
彼女は現状に不安を抱いているわけではない。兄が『これからやらかすこと』を予想して不安になっているのだ。
そしてその予想は的中する。
脳波からある程度の感情を読み込むことも出来るこのゲームは、アバターのエフェクトにそれを反映させることも出来る。比喩ではなく見事に浮かび上がったお怒りマーク。全身から炎がわき上がっているようなエフェクト。もちろん似たような状況になっている者はいくらもいるが、太平のそれはなんというかこう、気配が違った。
そのまま彼は、無言でずかずかと歩き出す。周囲の喧噪などどこ吹く風、というか眼中にないようだ。恵は慌ててその背を追った。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? どこ行って何する気!?」
「決まってんだろ、アレクリアすりゃいいってんだから、やってくる」
ずんずか進みながら差すのは、天にそびえるタワーの姿。ゲーム内で最高難易度を誇るダンジョンであり目玉の一つであったそれは、今や犠牲者を待ち受ける魔城である。太平は全く迷いなくその真正面へと歩みを進めた。
いかれたアナウンスが一方的に終わってしばらく、目端の利く者、義憤に駆られた者などはいち早くタワーへと向かった。が、やはり実際命の危険があるとなれば尻込みしてしまうものだ。根本の部分だけで半径数百メートルはありそうなタワーの正門前には、数多くの人間が十重二十重と周囲を囲むように屯っている。
公表されている情報によると、下の階層でうろうろする分には低レベルでも問題はないのだが、当然ながら階層が上がるごとに難易度は向上する。上層階ともなれば高レベルでも油断すれば瞬殺される危険性がある。しかもこのタワー内部ではダンジョンを緊急脱出する手段が一切使えない。もちろんショートカットの手段はあるが、危険地帯を往復するというのは肉体的にも精神的にも疲労するものだ。危険性は右肩上がりとなるだろう。
ましてややり直しのきかないデスゲーム状態。踏み込むのを躊躇するのは当然だ。
そんな群衆をかき分けて、太平は迷うことなくタワーへと向かう。それに気付いた者たちがざわめき始めるが一向に気にせず、太平は正門へ……向かわないで、側面のほうへと歩んでいく。
「え、ちょ、お兄ちゃん? タワークリアするって……」
後をついてきている恵が泡を食ったような声で問いかけるが、太平は怒りのエフェクトを背負ったまま平然と応えた。
「ああ、クリアするぞ? だがわざわざ登っていく必要はねえだろ」
そう言って太平は、己の手に唾を吹きかけ、背負っていた棍棒をタワーの壁面に向かって振り上げた。
「お、おいちょっと」
「何考えてんだあいつは!?」
「いやいくらなんでも無理だろう」
「本気? いや正気!?」
太平の目論見を悟った群衆が否定的な声を上げる。
このゲーム、一応は物理シミュレーターとしての側面もあり、構造物には全て強度とヒットポイントが設定されている。つまり理論上攻撃すれば破壊できるわけだが、当然の事ながら重要な構造物はそれなりに丈夫に出来ている。ぶっちゃけ『理論上は』破壊できるというだけで強度関連の数値は天文学的なものであり、実際破壊するなど不可能に近い。
群衆の中に混ざり込んでいた開発者は密かにあざ笑う。
「(馬鹿め。確かにその武器は図抜けた攻撃力を持つが、基本タワーの構造物はクリティカルでもでなければダメージは通らん。その武器のクリティカル率は千分の一以下、プレイヤーの能力を加算したとしても百分の一を越えはしない。しかも半分の確率で壊れる。ダメージが入る可能性はほぼゼロと言っていい。買い換えを続けたとしても財布が持つものか。壁が砕ける前に心が折れる方が先だろうよ)」
それは普通の人間だったら当然の判断だったのだろうが、太平がそんなこと一切合切気にするはずもなく。
「おりゃああああああ!!」
彼は気合いと共に全力で棍棒を叩き込んだ。
どごおおおおおんんっ!
〈クリティカル! ダメージ999999〉
「おおっ! ……って出たけど、一発で出たけどさあ」
「まぐれで出ても、なあ?」
「ぜえりゃさあ!!」
どごおおおおおんんっ!
〈クリティカル! ダメージ999999〉
「ま、また出た!?」
「い、いやあ、こういうこともたまには……」
「おるァあ次々行くぞごるァ!!」
どがんがんがんがんがんがんがんがん!!!
〈クリティカル! ダメージ999999〉
〈クリティカル! ダメージ999999〉
〈クリティカル! ダメージ999999〉
〈クリティカル! ダメージ999999〉
〈クリティカル! ダメージ999999〉…………
「「「「「…………………」」」」」
最早読者諸氏に告げるまでもないが。
キレた太平にとって五割の確率、いや千分の一『程度』の可能性なら。
100%に等しい。
そんでもって今現在行ってるのは戦闘ではないのだから、絶対ヒットポイントが1残るという縛りもないわけで。
唖然と群衆が見守る中、クリティカルは積み重なっていく。
100発、200発程度ならまだタワーの壁は十分耐えられる。だがそれが500を越えたあたりで、みじり、と嫌な音が響き、1000を越えたところで、ぱきりと微かにひび割れる音が響いた。そして2000で。
びし、と確かな亀裂が壁面に走った。
「おらもう一丁!」
どごおおおおおん!!
ぴしぱきめき。
亀裂が大きく広がった。
「これで、とどめだあああ!!」
ごどがごおおおおおおんっ!!!
ぴしびきばきばきばきばきっ!
亀裂は際限なく広まっていく。それを確認した太平は良い仕事をしたとばかりに満面の笑みで群衆を振り返り、こう宣った。
「たーおーれーるーぞー!」
…………………………。
静寂。そして。
「「「「「逃げろおおおおおおお!!」」」」」
群衆は脱兎のごとく一斉に逃げ出す。その最後尾に恵を小脇に抱えた太平。彼らの背後で、最高難易度を誇るダンジョンが破片をまき散らしながらゆっくりと傾いでいく。
そして、無慈悲に無造作にあっけなく、タワーは崩れ落ちた。
世界に響く破砕音。もうもうとわき上がる煙。その有様を目撃した群衆と、それを聞かされた群衆は唖然とするより仕方がない。
ただ一人、開発者の男を除いては。
「(ばかな……ばかなあああ!!)」
信じがたい。こんなことが起こりうるはずはない。何度心の中で否定しようとしても、目の前の現実は無情に進む。
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉
「お、ちゃんと経験値入るんだな」
「あ、あれ? わたしも?」
「そりゃパーティー組んでるから経験値も折半だろうよ」
「な、なんか納得いかない……って」
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉
ぴろりん〈たいへーはレベルアップした!〉
ぴろりん〈メグはレベルアップした!〉…………
「こ、これいつまで続くのかなあ」
「確かにダンジョン一つクリアしたことにはなるんだろうが、こいつは予想外」
「(馬鹿なあああああああ!)」
何もかもが想定外だ。こんなクリアの仕方など前代未聞であるし何より許せるはずもない。この男、あまりにもイレギュラーすぎる。
生かしておくわけにはいかない。開発者は自分専用に用意していたゲーム内からメインシステムをいじれるツールを起動。会社のホストサーバーに侵入しIDとアカウントから太平の正体と所在を割り出し使用しているヘッドギアを遠隔操作、迷いなく高圧電流を流し太平を亡き者にしようとする。
だが。
ぶび~〈エラー。ツールが作動しません〉
「(な、なに?)」
小馬鹿にしたようなビープ音と共にエラーメッセージが吐き出される。
が、さすがに百戦錬磨のクリエイターである。一瞬の動揺から立ち直り、瞬時に次の手を打つ。
「(システムをリスタート。アクセスをメインルートからサブに移行、リモートで社内端末からサーバーへとアプローチ……)」
ぶび~〈エラー。ツールが作動しません〉
「(な、なんだと!?)」
この日のために、幾重にも仕掛けを用意し準備してきた。ルートの一つ二つ潰されても全てを物理的に切断しない限りはこの世界を支配し続けることが可能であった。微かな動揺が鎌首をもたげるが気を取り直し、再びアプローチしようとするが。
ぶび~〈エラー。ツールが作動しません〉
「(な、く、くそ、どうなっている!? これまでのルートを破棄、ゲーム内からのアプローチと同時に海外を経由した複数のルートで同時にアクセス。サーバーへの負荷を利用してセキュリティの……」
ぶび~〈エラー。ツールが作動しません〉
「な、なぜだ!? なぜ弾かれる!? 私のコードは全てに置いて優先されるよう設計したはずだ!」
あり得ない状態が、男から冷静さを奪っていく。躍起になって持てうる全ての技術を総動員し現状の打破を計ろうとするが、システムはエラーを吐き出し続けビープ音だけが鳴り響く。
そこでふと、男は周囲がやたらと静まりかえっていることに気付いた。
はっと顔を上げる。周囲の群衆は胡乱げなめをこちらに向けている。そこでやっと、自分のアバターの周囲にシステム操作画面が浮かび上がっているのが目に入る。
「な、あ!? し、しまった!」
ゲームシステムそのものを利用したダイレクトアプローチ。我知らずその専用ツールを展開してしまったが、衆人環視の中でそれを使ってしまえばそりゃ目立つ。慌てて誤魔化そうと男は口を開きかけ――
叩き付けられる視線と怒気に身を凍らせた。
ぎぎぎと軋む動きで、怒気が放たれる方向に何とか目を向ける。
そこには、もはやエフェクトを越えた何かどす黒い気配を纏った太平が、陰った眼窩に赤い光を宿らせて睥睨していた。
その口から、地獄で煮詰めたかのような重苦しい声が漏れる。
「そうか……てめえか……」
直感が、正鵠を射抜いていた。
殺される! 生物として天敵以上の何かに出会ったことを本能的に悟った男は、恐怖に駆られ衆人環視も構わずにツールを強制起動して全員亡き者にしようとするが。
ぶび~〈エラー。ツールが作動しません〉
「う、わあああああ! て、テレポート!」
やはりツールの起動は叶わず、ゲーム内の強制脱出スキルを使ってその場から逃げ出す。突然の展開に唖然としているものが大半を占める中、幾人かの人間は気付いた。
「おいあれもしかして……」
「スタッフじゃなさそうなのにあのツール……まさか」
ざわめく群衆は、太平のほうを見やる。群衆の中に怒気のエフェクトが広がっていくのを確認して太平は頷き、棍棒を掲げて咆吼した。
「山狩りだあああああ! 草の根分けてでも探し出せ野郎ども!」
「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」
群衆が応え、どん、と怒りのエフェクトが一斉に燃え上がる。
もはや自身の命が握られていることも忘れ、怒りに駆られたプレイヤーたちは全力で行動を開始した。
その流れはすぐさま他のプレイヤーたちにも伝播し、憤慨したスタッフたちも巻き込んで、ゲシュタポもかくやという大捜索が始まる。
傲慢なる狂人と哀れなる犠牲者たち。
その構図は完全に逆転した。
都内某所。
とある高級マンションの一室。
「……なんか魘されてますね」
「夢見が悪いんだろ」
ベッドに横たわる一人の男。その周り、というか部屋中を漁りまくっているものたち。
お巡りさんたちであった。
勿論寝てるのは開発者の男。ヘッドギアを付け専用機器に囲まれた男はなんかうんうん唸っている。それを監視しているお巡りさん二人は、呆れかえった様子で話し合っていた。
「しかしこいつも馬鹿だね~、あれで通報されないと思ったんだろうか」
「そりゃ本格稼働って時に重要スタッフが病欠でこんな事件起これば怪しいと思いますよ」
「大体アレだ、仕様書読んだけどセーフティちゃんとついてんじゃねえか。高圧電流どころか長時間プレイしたら自動的にブレーカー働いて電源落ちるようになってんじゃん。外部から強制的に電源落とすとどんな影響出るか分からないからできないけど」
「こいつソフト面ではすごいけど、こんな基本的なハードの仕様に気付かないとかあほですね」
「あほじゃなきゃこんなことやらんだろう。ま、起きたら令状叩き付けてじっくりたっぷり締め上げて……」
「せんぱーい、会社のほうに行った連中から連絡きましたー」
会話の途中で捜査員の一人が声をかけてくる。先輩と呼ばれた捜査員はどうしたと問うた。
「ええ、今会社のエンジニアがゲーム内のスタッフと連絡が付いたって言ってるんですけど……」
声をかけてきた捜査員は、なんだかよく分からんといいたげな顔だ。
「なんかおかしな事になってるみたいですよ?」
「なんで! なんで!? どうしてまともに入力を受け付けない!?」
ゲーム内に用意したセーフハウスの中で、男は必死にメインシステムにアクセスしようと試みていた。
なぜだ、どうしてこうなったと、誰も応えない疑問がぐるぐると頭の中を駆けめぐる。当初の予定ではプレイヤーたちをゲーム内に閉じこめた後自身のみゲーム内への出入りが自由な状態にして、何食わぬ顔で会社にも顔を出し素知らぬふりで状況をコントロールし目的を果たすつもりだった。
それがどうだ、己が一から構築したシステムは何一つ言うことを聞かず、それどころか自身がログアウトすることも出来ない。ありえない。ありえるはずがない。だが実際延々とエラーメッセージは吐き出されビープ音は延々と鳴り響く。
「こ、ここは私の世界だ、私のものだ! 私が支配者なのだ! なぜ、なぜ、なぜ! 私の言うことを聞かない! 私に逆らう! 神だぞ! 私はお前たちの神なのだぞ!?」
血走った目で血を吐くような言葉を叩き付けるが、現実は無情だ。なにもかも思い通りにはいかない。己が産み出したものだからと言って、己が支配できるものではないのだ。
そして、現実は待ってもくれない。
どがんと、セーフハウスに衝撃が走った。「ひいっ!?」と怯えた声を出す男を余所に、衝撃は次々と部屋を揺るがし、そして。
どがどがどがと打撃音と共に、斧や刀剣の切っ先が無数に壁をぶち抜いて叩き込まれた。
「ひやああああ!?」
腰を抜かし部屋の隅に後ずさる男。その目の前で、ばきばきと壁が崩されていく。
「「「「「みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~」」」」」
破れた壁から除くのは、逆光を背にした無数の人影。揃って口元は三日月に歪み、眼窩には赤い光が宿っている。
はっきり言ってホラーだった。
「ひいひゅえいやあああああ!! て、テレポートっ!」
幸いと言っていいのかゲーム内のスキルは普通に発動するらしく、男の姿はその場から消え失せた。
しかし、それは本当に幸いだったのであろうか。
「また逃げやがったか!」
「この分だとまだいくつか拠点があるな」
「探せ! 地の果てまでも追いつめろ!」
「言われるまでもない!」
ターミネータ以上の追跡者となった群衆は執拗に男を追う。
彼の運命は依然風前の灯火であった。
ところで、兄以下怒りに駆られたプレイヤーたちが獲物を屠る狩人と化しているそのころ。恵はどうしているのかというと。
「よーしそれじゃあ次の曲いってみよー!」
「「「「「メグたあああああん!」」」」」
吟遊詩人の能力をフルに生かしライブを行っていた。
「みんなめっぐめぐにしてやんよー!」
「「「「「されてやんよー!」」」」」
満面の笑顔で高らかに歌い、観客は拳を振り上げて吠える。
双方ノリノリであるが、恵のほうは歌いながら内心首を捻っていた。
「(あっれぇ? なんでこんなことになってるんだっけ?)」
最初は半ば兄のせい(?)でささくれ立っているプレイヤーたちを何とか落ち着かせようとしただけだったのだが、技能がやたらとクリティカルを連発し、影響を受けた一部のプレイヤーたちに祭り上げられ、挙げ句の果てがなんかアイドル扱いである。恵ならずともどうしてこうなったと言いたくなるだろう。
まあその、全員じゃないけど殺気立ってるよりはマシだよねと何とか自分を誤魔化して、恵は歌い上げていく。
後にネット内で伝説となる幻のネットアイドル爆誕の瞬間であった。
壮絶なる追跡劇は、三時間と経たずに終わりを迎えた。
本来であれば開発者であることを最大限に利用した仕掛け、チートスペックのアバターの能力などで完全な支配者としてゲーム内で暗躍する……予定だったのだが、不正な手段はエラーで一切使えない。しかしほぼ全ての能力値が理論上最高数値に達しているアバターのスペックであれば有象無象のプレイヤーなどいくらいても問題にならない……はずなのに。
「が……ぐはッ……」
逃げ損なって肩を掴まれ投げ飛ばされる。強かに地面に叩き付けられ、苦悶の声を上げ……。
「!? な、なぜ『痛み』が!?」
あり得ない感覚を覚え、男は驚愕する。ゲーム内での五感は完全に再現されていないが、特に痛覚は危険性や様々な配慮の元に完全にカットされているというか、元々感じられるように設定されていない。
であるはずなのに地面に叩き付けられた痛みがある。なんで、どうなっていると疑問を口にする前に、太陽が陰った。
圧倒的な威圧感を纏い、見下げるのは太平。「ひっ」短い悲鳴を上げて男は後ずさり、最早逃げ場がないことを思い出す。
全てのセーフハウスは割り出され、拠点も同様に押さえられた。ダンジョンの最奥に逃れようとしてもプレイヤーどもはマンパワーで強引に突破してくる。森林地帯や山岳などの僻地も同様。逃げ場となりうるところは全て押さえられた。所謂詰み、だ。
「く、このっ!」
やっと思い出したかのように、男は己のスキルを用いて反撃しようとする。スペックもスキルもプレイヤーのものとは格が違う、ぶっちゃけ全能力値がカンストしたアバターは、そこらのプレイヤーキャラなど一蹴できる。
男は分かっていたのかも知れない。そんな事実など、何の足しにもならないと。
ごがん。
〈クリティカル! ダメージ999999〉
「ぎゃばらう゛ぁああああああああ!!??」
すくい上げるような棍棒の一撃が、男の顎を的確に捉えた。
何の反応も出来なかった。スペック上はボスキャラをも軽く圧倒できるにもかかわらずである。
さて、思い出してみよう。太平は曲がりなりにも最高難易度のダンジョンをクリアしてしまったわけだが、その際あほみたいにレベルアップしたのを覚えていらっしゃるだろうか。
曲がりなりにも本来最終目標となるダンジョンである。そこで得られる経験値は莫大なもので、最高レベルに達するには十分であった。つまりは太平も全能力カンストしちゃってるわけで。
そしてキャラのスペックが同等であれば、あとは操っている本人の経験がものを言う。言うまでもないことだが、馬鹿をボコった経験値は山ほどある太平だ。勝負にならないことは日の目を見るより明らかである。
まあその、そんな事情があろうがなかろうが、怒り狂った太平には関係なかったろうが。
「ふぼうあうあああああああ!!??」
奇声を上げてのたうち回る男。想像を絶する痛みが、思考すら阻害する。
男が喰らったのは、本来であればラスボスにすら大ダメージを与えるような攻撃である。その痛みが、そっくりそのまま再現されていたらしい。そりゃ痛いでは済まない。しかも死ぬほどのダメージであるにも関わらず絶対にヒットポイントが1だけ残るのである。死という形で痛みから逃れることも叶わなかった。
そんな事実など知ったことではないとばかりにのたうち回る男の胸ぐらを掴み、太平は無理矢理引き起こして凄む。
「とっつかまえたぞこの野郎。さ、ログアウトできるようにしてもらおうか」
「え、ひぇ、ひゃ……」
まともに思考が出来ない状態でちゃんと対応が出来るはずもない。
太平は再び男を棍棒でぶん殴った。
「えぶろべう゛ぁあああああああ!!!」
男は宙を舞う。
「な、なんだ!? いきなり容疑者の身体がびっくんびっくんいいだしたぞ!?」
「い、医者を! バイタルデータの確認を!」
「さ、そろそろ素直になる気になったか? ん?」
数度殴り、白目を剥いたのでまた殴って起こし、胸ぐらを掴んだ太平が凄む。男は必死の思いで正気をつなぎ止め、やっとの事で応える。
「む、むりなんですよう……さっきからまともに入力受け付けてくれない……」
「できねえだめって台詞はいい。……やれっつってんだよオレは」
良いながら再び棍棒を振り上げる太平。周囲を囲んでいるプレイヤーは手こそ出してこないが殺気立っているのが目に見えて分かる。殺される。粉微塵にされる。本能的な恐怖に突き動かされ、男は無駄だと思いつつもツールを作動させた。
ぴこーん〈ロックを解除。ログアウトツールは正常に稼働します〉
「あ、あれ?」
呆然とする男。今の今までまともに反応しなかったツールが動いた。その事実に呆ける。
「お、ちゃんと動くようになったか」
「やった、これで帰れるな」
「よーしおねえちゃん三日ぶりにジャージ以外のもの着るぞー」
「ハードディスク! ともかくハードディスクを!」
「「「「「ははははははは」」」」」
一部を除いてプレイヤーたちは朗らかに笑い合う。それを見て安堵した男は「は、はは……」と腰を抜かしながらも脱力した笑い声を漏らす。
これで終わったと男は思ったのかも知れない。しかし彼は気付いていなかった。太平を含むプレイヤーたちの目が、全く笑っていなかったことに。
「「「「「ははははははは」」」」」
プレイヤーたちは笑う。笑いながら全員が太平と同じ棍棒を装備した。
「はは……は?」
その雰囲気に、男はやっと気がついた。だがもう遅い。
プレイヤーたちの顔がまるで仕掛け人形のように、一瞬にして笑顔から憤怒の表情へと変わる。そして。
「……やっちまえええええ!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」
太平の号令と共に、数万対一の最終決戦の火蓋は切って落とされた。
「容疑者が! 容疑者の身体がまるでスーパーボールのように部屋中を跳ね回るだと!?」
「エク●シスト!? オー●ン!? 新手のスタ●ド攻撃!?」
さて、この後はどうなったのかと言えば。
当然ながら補償問題や訴訟などでなんだかんだと大問題になりそうになった。
しかしゲームから戻ったプレイヤーたちが、やたらすっきりした顔で運営会社の擁護に回り、またハードの安全性が証明されたためあっさり和解という形で解決した。
が、開発者の男はそうはいかない。事後即座に警察病院へと叩き込まれた男だが、考え得る限りの罪状と訴えが叩き付けられ、退院後には地獄が待っていることだろう。
「な……なんで、なんでこんなことに……」
外傷はないのに、まるで無数の人間から暴行を受けたような消耗具合でベッドから身を起こすこともままならないまま呻く男。見事なまでの自業自得である。
こうして、神になろうとした狂人の野望は潰えた。本来生じるはずであった悲劇は回避され、またつまらないながら平穏な日々が始まる。
それはさておき。
こんこん、とドアをノックする音が響いた。
「は……い」
呻くように返事を返す男。ぎいいとドアがゆっくり開けられ……。
口から蒸気のような気炎を吐き、眼窩に赤い光を灯した太平が姿を現した。
ちょっと早めに、地獄開始。
連続する破砕音と豚のような悲鳴が廊下まで響く。
ドアの外では二人のお巡りさんが言葉を交わしていた。
「いいんすか先輩、アレ」
「上から絶対手出し無用って言われてんだからしょうがないだろう?」
触らぬ神に祟りなし。
合掌。
「なんかいつのまにかあたしのグッズとかフィギュアとか作られて売れてる!?」
「やったじゃない、ロイヤリティがっぽがっぽ♪」
おいACVD。
おい。
意外な展開にネタが増えたぞと喜ぶべきなのかややこしいいことしやがってと怒るべきなのか悩む緋松です。
ちょっと流行りも過ぎた感があるMMORPGデスゲームIN太平。犯人以外犠牲者なしで速攻解決でございます。
うんメインサーバーの電源落とせばよくね? と自分は常々思うのですがそれやっちゃ話は進まないのですよねこの類。たまには速攻で解決する話が合っても良いと思うの。
長々と話が続けられない言い訳だと言うことは君と僕との秘密だ!
とまあそんなわけで今回はこの辺で。
それではまた次回。
俺この話を書き上げたら鈴鹿にF1見に行くんだ……。




