そのじゅういち・喚ばれて飛び出てこともなし!
今更OPイメージ、ラッドウィンプスで【おしゃかしゃま】
突然の光が収まれば、そこは先程までとは全く違った光景であった。
静謐な石造りの建物。神殿、聖域の類であろうか。
足下には光り輝く魔法陣のようなもの。周囲には複数の人の気配。
正面を見る。そこには美しい女性がいた。
恐らくは自分と同年代であろう。触れるのをためらわれる神秘性と、健康的な色気を兼ね備えたその女性は、見惚れるような笑みを浮かべこう告げる。
「ようこそイーセカイの地においで下さりました。我が召還に応じて頂き感謝いたします、勇者様」
『そいつ』はその顔面に、全力の拳をぶち込んだ。
砕ける鼻っ柱。ひしゃげる顔。顔面を崩壊させたその女は、縦回転で吹っ飛び石造りの壁にめり込むほど叩き付けられた。
しん、と静寂が満ち、次には悲鳴が上がる。
「「「「「み、巫女姫さまあああああああ!?」」」」」
必死で壁画となった女に駆け寄るお付きの者。
「き、きさまあああああああ!!」
激昂し、一斉に抜刀する騎士たち。
騎士の中、リーダーであろうか。金髪の美形がそいつの目に留まった。
「無礼ではすまんぞこの野蛮人が! 腕の一本二本ですむと……」
金髪は最後まで台詞を放つことが出来なかった。もの凄い速度と勢いで踏み込んだそいつに、顔面をがしりと捕まれたからだ。
「ぎ、ひいいいいいい!?」
頭部を粉砕されそうな激痛が走り、金髪は剣を取り落として悲鳴を上げる。
それを聞いているのかいないのか、そいつは金髪を片手で掴み上げたまま、俯いてぼそりと言葉を吐き出した。
「……近々な、久々にデートする約束してたんだよオレァ」
「「「「「へ?」」」」」
異様な気配と重圧に身をすくめたものたちは、何を言っているのか分からずに疑問の声を上げる。構わずそいつの言葉は続いた。
「そりゃあ楽しみにするさ。思わず久しぶりに服一揃い買っちまったくらいだ。だってェのによゥ……」
ゆらりと、そいつが顔を上げる。その表情は、憤怒。
そして、怒りにまかせた咆吼が響き渡る。
「んな大事なときにっ! なに拉致ってくれやがるんだこのどグサレどもがあああああ!!」
「んべぎょぱっ!」
騎士の集団に、金髪を叩き付ける。奇声を上げて金髪は騎士たち共々纏めて吹っ飛び、壁に叩き付けられた。
ぎうん、とそいつが睥睨する。女を手当てしていた取り巻きと騎士の残りは、ひい、とか悲鳴を上げて後ずさった。そんな些細なことなど一向に気にせず、そいつは炎を吐くような気配を纏いぬたりと口元を歪めた。
「おいこらてめら、責任者はどこだ」
その問いに逆らえる気力を持つものなど、最早どこにもいなかった。
そして爆音が、城を揺るがす。
「な、なにごとか!?」
「しょ、召還の間にて爆発!? 暴動!? ともかく何かが起こっている!?」
「騎士団と魔術師団を向かわせろ! 巫女姫様は無事なのか!?」
怒号が響き渡り、人々が慌てて行動する。隊列を揃えた騎士と、ローブを纏った魔術師たちが騒動の現場に駆けつけようとして――
先頭の騎士が、ぼぎゃめぎゃりとかもの凄い音を立てつつひしゃげて吹っ飛んだ。
え、と全員の反応が一瞬遅れる。その隙をついて何者かの手がましり、と次の騎士の顔面を掴んだ。
何が起こったのかも分からないうちに衝撃と激痛が走る。捕まれた騎士、その身体が棍棒のように振り回され騎士たちを殴り飛ばしたのだ。為す術もなく片端から吹き飛ばされていく騎士たち。カエルが踏みつぶされたような悲鳴を上げながら身体の各部がひしゃげていく棍棒もとい騎士。
「う、うわあああああ!?」
その光景に恐怖を覚えたのか、魔術師の一人が錯乱して杖を向ける。そして即座に攻撃呪文を詠唱。
最早状況が見えていないらしく、周りを巻き込むことなどお構いなしに連続して詠唱、詠唱、詠唱! 後ろから撃たれた騎士が吹き飛び、女性の魔術師が悲鳴を上げる。そして爆炎が前方を埋め尽くした。
「や、やったか!?」
もちろんやってない。
間髪入れず爆炎をぶち抜いて飛来する何か。全身が変な方向に曲がり黒こげになった騎士だと判別したのは、術をぶっ放した魔術師がもろとも吹っ飛ばされた後だった。
そして炎を突っ切り駆ける影。
しいい、と漏れる呼気。怒りに染まった瞳。その姿を目にしたものは心臓を捕まれたような恐怖を覚え、動きを止めてしまう。
殴った。
蹴った。
締めた。
捻った。
折った。
進路上に存在する全てのものを有象無象にかかわらず容赦なく叩きのめして進む。いつしか城はあちこちから出火し煙を上げ、人々はぼっこぼこにされて倒れ伏す。
そして玉座の間に、そいつは現れた。
轟音を響かせて正面の扉が吹き飛ぶ。破壊と殺戮の気配を纏いながら、ゆらりと姿を現す少年。
その姿に向かって、間で待ちかまえていた兵士たちが、一斉にボウガンを放った。
通常であれば回避など出来ないタイミング。だが。
「ふんっ!」
吹き飛んだ扉を蹴り上げる。大の男が数人がかりでびくともしないはずのそれが、容易く宙を舞い迫り来る矢をすべて弾き飛ばす。
しかし待ちかまえていたものたちも、それくらいは予測していた。一呼吸ずらして、今度は無数の攻撃魔法がぶち込まれる。蹴り上げられた扉は高く宙に舞っており、防御には間に合わない。
城に残っている全ての魔術師を集め放たれた飽和攻撃。床や壁の大理石が焦げるどころか一部溶け出すほどの熱量。これなら。玉座の間に集った者たちはそう確信した。
「あっちいじゃねえかごらあああああ!!」
爆炎の中から、全身が煤けたそいつが飛び出してくるまでは。
音速の雲を牽きながら駆けるそいつに誰も反応できない。振り上げた拳は、正面で目を見開いた兵と魔術師たちに叩き込まれる。
為す術もなく吹っ飛ばされる有象無象。その後ろに控えていた人物が、ゆらりと席を立った。玉座から立ったのは、豪奢な装束を纏いきらびやかな王冠を被った人物―――王。
彼は残った兵や城のものたちに「下がれ」と一言だけ言うと、傍らに立てかけておいた剣をすらりと引き抜く。
「異世界の勇者、己が力に増長したか。だがこの国を、余を嘗めるな。幾度もの魔の侵攻、食い止めたのは勇者のみの力ではない。その勇者をも征したのが我が力だ」
そして王は、揺るぎなく剣を突きつける。
「さあかかってくるがよい。産毛も生えぬひよっこめが……」
ぽきん。
王の言葉は最後まで続かなかった。いつの間にか近寄ったそいつが、突きつけられていた剣をあっさりとへし折ったからだ。
あまりにも予想外の展開に、ぱくぱくと二の句が継げなくなる王。にっこりと笑うそいつ。
ごっ!がっ!ぼっ!どっ!ずんっ!べきっ!ばきっ!ごきっ!ずどがっ!ごめすっ!めたたっ!がぎゃりっ!どてぽきぐしゃぐちゅめぢぱぎゃびすぱがぶしゅびちゃぞりごりぶしゃあっ!!!
あっという間に原形を留めない肉塊が。誰も止める暇がなかった。止められなかった。手を出したら確実に同じ目に遭うと本能的に理解したからだ。
が、そんな空気を破る者も存在する。
「お、お待ち下さい!」
必死の声を上げたのは、豪奢なドレスを身に纏った妙齢の美女。身につけているものから恐らくは王妃なのではないだろうかと推測されるが、そんなことをそいつは気にもとめない。ただ胡乱げな視線をぎろりと向けるだけだ。
その視線に怯え……ないでなんか顔を上気させながら、王妃はそいつに訴える。
「どうか、どうかご慈悲を! お怒りをお収めくださいませ! そのためなら何でもいたします!」
そしてなんか、ことさら胸元を強調したくねくねとした動きでそいつに迫る。
「お怒りを収めて下さるのでしたら、この熟れた人妻の肉体を存分に蹂躙して下さっても構いません! くわえます挟みますもうぬっちゅんぬっちゅんのぐっちょんぐっちょんな感じで! なんでしたら今この場衆人環視の中でずっこんばっこんいってくださってむしろばっちこい! さあどうぞ!」
がばりとスカートをたくしあげ、気合いの入った下着に包まれた尻を突きつける。
「きったねえ尻向けてんじゃねえぞばばあ!」
そいつは容赦なくその尻を蹴り飛ばした。
で。
「永劫の争いを続けてきた光と闇。闇の支配者である魔王はこの大陸の覇権を得んと侵略を続けていた。対する光の神の使徒たる我が国はそれに対抗するため……」
「なに語り出してやんだよてめえらのしょうもねえ都合なんざどうでもいいっつーの」
蕩々と語り出した王に踵落としを叩き込み踏みつけるそいつ――天下 太平。
玉座の間にずらりと並んで正座している国の主要人物。その中には鼻にガーゼを当てて恨みがましい目で太平を見る巫女姫や、首を痛めたか斜め45度の方向に傾いている金髪美形の姿もあった。
なお背後の壁で「スパンキングからの壁拘束放置プレイ!? なんて高度な……」などとほざきながら蠢いている尻があるが、誰もそちらの方に視線を向けようとしていない。うん、気持ちは分かる。
ともかく太平は床に倒れ伏した王の頭をぐりぐりと踏みつけながら、不機嫌を隠そうともしないで吐き捨てるように言う。
「余計なことは言わねえ。とっとと慰謝料出してオレを元の世界に帰せ。以上だ」
「い、慰謝料!?」
頭が割られそうな状況の中、聞き慣れない言葉を耳に入れた王が思わず問い返す。もちろん太平は容赦なくて。
「迷惑をかけたという謝罪の意志を金銭で示せってこったよ。王様なんだ、銭はあんだろが」
「ご、強盗!?」
「人聞きの悪いこと言うなどあほう。いきなり呼び出して無理難題押しつけようとしやがったてめえらに言われたかないわ」
と、その時点まで黙っていた巫女姫が、いきり立った様子で食って掛かった。
「黙って聞いていれば勝手なことを! 我が国を! ひいては世界を救うという名誉と栄光を無理難題などと! 勇者であるならば静粛にその運命の重さを受け止め……」
勇気ある行動である。だが無意味だ。
太平は躊躇無く巫女姫の顔面に回し蹴りを放った。
半端に膝立ちの姿勢から縦回転で吹っ飛んで背後の壁に叩き付けられる巫女姫。「い、一度ならず二度までも!!」等と吠えて立とうとする金髪を踏みつけ床にクレーターを穿ち、太平は忌々しげに壁画となった巫女姫を睨み付ける。
「偉そうにほざくな誘拐実行犯が。望んでもいねえ名誉だか栄光だかなんぞ鼻水かんだティッシュよりもいらんわ。そもそもてめえらの国や世界がどうなろうと知ったことか。てめえのケツくらいてめえで拭え」
ぶっちゃけすぎである。デート前で浮かれていたところをかっさらわれた太平の機嫌は普段にもまして斜めに過ぎた。もはや真っ当な会話どころか居並ぶ者たちを人間扱いしてくれるかどうかもあやしい。
王国の人間たちはおののいていた。今までの歴史を鑑みても、このような横暴かつ暴力的かつ圧倒的な人物が召還されたことはなかった。最初は混乱していても勇者として召還されたと聞けば「異世界召還モノキター!」と喜ぶ人間が多かったし、少し難色を示しても歴代の巫女姫以下城の綺麗所が色目を使えばあっさり言うことを聞く者がほとんどであったし、さらにごねても王以下城の実力者が誠心誠意『説得』すれば従順にもなった。いきなり城を半壊させ王以下要人を全員叩き伏せる人物など、そもそも想定外以前の問題である。
そんな混乱を余所に、太平は床に伏したままだった王の胸元を掴み上げ引きずり上げる。
「そういうわけで出せ。そして帰せ。それ以外は望まねえからとっととやれ」
「へ、ひえ……ひや……」
涙と鼻水、ついでに失禁して色々なものを垂れ流しながら情けなく呻く王。持てる全てが通用しない、そんな相手は初めてだった。敵対者である魔王の軍勢でもここまで凶悪ではないだろう。恐怖に支配された王には、最早抵抗できるほどの気力は欠片も残っていなかった。
だがしかし。
「な、ないのだよう……送り返す手段など……」
「あ゛?」
なに寝言言ってるんだこいつといわんばかりの太平の言葉に対し、必死で訴える王。
「だから……ないのだ、『召還した人物を元の世界に送り返す法』など! ……我々に伝えられているのは召還の術のみで! つ、償いなら何でもする! だから……」
必死の言葉。だがそんなもの太平の心には響かない。
彼は溜息を大きく吐いて、心底うんざりしたような態度と声で言う。
「あのな、オレは出来るかどうかを聞いているわけじゃねえんだよ」
ぐい、と王を引き寄せ、触れんばかりの位置で言い放つ。
「『やれ』、っつってんだよ」
さて、そのころ太平が消えた元の世界はと言えば。
「「「「「えらいこっちゃああああああ!!!」」」」」
あちこちでこんな悲鳴が上がっていた。
そりゃ世界中の裏表で注目されている人物が、環視のまっただ中なんの前触れもなく姿を消したらそうもなる。いったい何事か、下手人は誰か。様々な推論と疑心暗鬼が混乱を呼ぶ。
「だから! こっちも何がなんだか分からないんですよ! いきなり前触れもなく姿を消したんですから! ともかく専門の調査チームがいります、まずは彼の行方と原因の究明を! 急いでください!」
携帯電話に怒鳴りキーボードを叩いて各種監視システムのデータを洗い直している望。太平監視の最先端にいる彼女にとって、今回の事件はいきなり嵐の中に放り込まれたような物だ。
ともかく方々に連絡を取って対策をとるしかない。盗聴などに気を遣っている余裕もなかった。
このままでは、まずい。勘と本能、そしてここにきて鍛え上げられた嫌な予感だけは外さない感知能力。そのすべてが激しく警笛を鳴らす。このままでは混乱必至だ、太平がいるから巻き起こる騒動もあるが、彼がいるからこそ押さえられていた騒動もあるのだ。それが一気に噴出すれば。
悪寒に背筋を振るわせながら、それでも望は己が持つすべてのコネに渡りをつけ状況を打開しようとあがく。
ここでいつもならちょっかいをかけてくるはずの誰かさんが、全く反応しないことなど気付く事無く。
王国の重鎮たちは、必死で送還の方法を探していた。
全く想定外、思いつきもしなかった術を使えと言われ死ぬほど困る王たちであったが、太平はすげなくこう告げる。
「無いなら探せ。でなきゃ作れ」
無茶振りも良いところであった。
この国で、いやこの世界で使われている魔法という技術は、遙か昔から伝えられたものだ。自分たちで産み出したものではない。どうすればどうなるかは分かっていたが、どういう原理でどうして発動するのかは全く分かっていない。いや、分かろうともしていなかった。つまり新しいものを作るつもりであれば、一から原理を理解していく必要がある。とてもじゃないがすぐに出来るというものではない。
しかし太平はやっぱり容赦が無くて。
「三十分経つごとにランダムで一本、折るからな」
何を!? とは誰も聞けなかった。聞かなくても大体分かった。そしてこの男はやると言ったら絶対やる、そういう凄みがある。
結果、王以下重鎮たちは過去から面々と伝えられる伝承や無駄に積み上げられた資料などを必死でひっくり返し片っ端から目を通しているが、当然ながら結果は芳しくない。
三回、ぽきんという音と誰かの悲鳴が上がったところで王は五体倒置で平謝った。
「も、申し訳ありません! やはり送還の方法など存在しない……」
「はよ作れ」
「……は?」
「はよ作れ」
見上げた太平と視線が合えば、どす黒いオーラと溶岩のような怒りを湛えた視線に射抜かれる。
死んだ。これ死んだ。王は死を幻視し、その魂はすうっと肉体から離れつつあった。
そこで思いっきり焦ったような声がかけられる。
「おおおお、お待ちくだされ!」
声の主は王宮筆頭魔術師。太平の気配に心底ビビりながらも、命がけで宥めようとする。
「た、たしかに我々が持つ知識の中には送還の術など存在いたしませぬ! ですが、魔族なら! 人外の法を用いる魔王の勢力であれば! 送還の術が存在する可能性もありまする!」
「ほう?」
視線が筆頭魔術師に向けられる。それだけで失禁しそうになったが何とか堪え、初老の魔術師は震えながらも言葉を紡ぐ。
「か、確実とは申しませぬが、上位の魔族は天変地異を自在に操り、別世界より異形の怪物を召還することすらあり申す。可能性は高いのではないかと……」
「おし、ちょっと詳しく話聞かせてもらおうか」
むんずと筆頭魔術師の襟首を掴み、そのままずるずると引きずって部屋からでようとする太平。筆頭魔術師は「ちょ、ちょっと!? おまちくだされ!?」と泡を食っているがもちろん耳には入っていない。BGMは当然ドナドナだ。
王たちはこっそり胸をなで下ろす。これで自分たちの危機は去った。魔王の元に向かうのであれば当分は帰ってくることもあるまい。後先考えずに突っこんで自滅してくれればなおよし。まあ筆頭魔術師はしばらく酷い目に遭いそうだが、我々のために貴い犠牲になってもらおう。
だが現実は甘くなかった。
「あ、もし魔王んとこがダメだったらまた戻ってくるからな。それまでに作っとけよ?」
部屋の出口で首から上だけ振り返り言い放つ太平の言葉に、びきりと空気が凍った。全然風前の灯火脱してない。
だらだらと脂汗を流しながら太平を見送る王たち。もしかして魔王を倒すつもりなのか。いやいやそんな、簡単に出来るはずがと必死で否定しようとするが、もう確信とも言えるレベルの悪寒が消えてくれない。
もちろん単なる魔王ごときが太平をどうにか出来るはずもない。もし魔王の元で帰還の手段が得られなかったら太平は確実に帰ってくる。本能的にそれが理解できたのであろうか。
しばらく固まっていた王が、ぎぎぎと動き出す。今にも泣き出しそうな顔で、彼は声を裏返して懇願するように命じた。
「ま、魔法の解析と送還術の作成を急ぐのだ! 一刻も早くこの世界から驚異を取り除くために!」
彼らはこれまで以上に死にものぐるいとなって行動を開始した。
結局の所彼らの行動は無駄になったが、これが元に王国の魔法技術は爆発的な進化を遂げ、世界のイニシアチブを握るきっかけになるのだから世の中何が幸いするか分からない。
一方、連れ去られた筆頭魔術師はというと。
「これが今現在最も精巧な世界地図ですじゃ」
そう言って彼は羊皮紙を広げる。覗き込んだ太平は思った以上の精巧さにふむ、と納得して頷いた。取り敢えずは大人しくしてくれているが一爆発するか分からないと、びくびくしながら筆頭魔術師は地図を指し示しつつ説明する。
「ここが我が国、そしてここがこの王城となりまする。魔族の領域はこちら、そして魔王の居城がここになりまする」
大陸の三分の一を支配する魔王の領域。それに隣接した王国は魔王との戦いにおける最前線であった。何年かの周期で活性化する魔族に対抗するための勇者召還であったが、ここにきてそれが一気にひっくり返るとは、初老の魔術師は思いよりもしなかった。
異世界の勇者とやらに頼りすぎていたのかも知れんのおと、遠い目になる筆頭魔術師。そもそもなぜ異世界から勇者を召還するなどと言うことになったのか、実はそれすらもよく分かっていなかった。しみじみと筆頭魔術師が現実逃避気味に考えているのを余所に、太平は地図を睨みながら考え込んでいた。
ややあって。
「……おっさん、外見られる場所はあるか?」
「ぬ? こちらに」
いきなりなんだと疑問を抱くが理由もなく逆らうわけにも行かず、筆頭魔術師は近くのバルコニーへと太平を案内する。そこで地図を広げた太平は無造作に問うた。
「で、どっちが北よ」
「あ、あちらになりもうす」
「この山脈はどっちだ」
「あの、微かに見えるあれがそうですじゃ」
そうやっていくつか質問し、太平は一々頷いて何かを確認している。そうしながら時折風向きを確認したり雲の流れを観察したりしていた。
そして。
「おい、投石機とか、長距離にモノ飛ばす攻城兵器はあるな?」
そう問いを放った。
まさか。何をやるつもりなのか予想して魔術師は戦慄する。
そんなことが出来るはずはない。そう理解しているはずなのに悪寒が止まらない。
当然ながら。
太平はやる。
とある朽ち果て駆けた廃墟の中。薄暗い闇の中で蠢く影がある。
一様に薄汚れた浮浪者のような格好。だがその目はぎらついた輝きを宿している。その中の一人が、口を開き怨嗟を込めた声を放つ。
「……千載一遇の機会が訪れたある」
それに同調するように集った男たちも頷いた。
「まったくある」
「この機会逃すわけには生きませんなほる」
「あの男のおかげでどれだけ煮え湯を飲まされたかほる」
男たちは以前太平にちょっかい出して酷い目に遭わされた某国家群の諜報員たち……の残党である。
矢も楯もたまらず命からがら逃げ出して、地下に潜り今まで何とか生きながらえてきた。冗談でなく泥水を啜るような生活を続けてきたわけだが、ここに来てなぜ集うのか。
要因は一つしかない。どこから聞きつけたのかは知らないが太平の消失を知ったのだろう。
「あの日本鬼子が姿を消したのは好機ある。これまでの鬱憤、その債務を奴の家族や周囲の人間に支払ってもらうある」
「そうほる! これは虐げられた我々の正当な権利なにだ!」
「謝罪と賠償をしる!」
「日本鬼子ごときが我々を無礼たことがどれほど愚かなことか教えてくれるある!」
口々に勝手なことをほざく男ども。元々自分たちがやらかしたことが原因だと言うことは忘却の彼方である。
だが、彼らの因果応報はまだ終わっていなかった。
「……なかなか面白い話してるじゃないか、ああン?」
突如かかった声にびくうっと身を震わせる男たち。ばりばりと漂う嫌な空気を感じながら、そおっと声がかけられた方向を向いてみましたなら。
明らかにヤバげなオーラを背負って殺気だった、各国の諜報員の方々がいらっしゃいました。
その真っ先に立っている支所長は、普段と違った鬼の笑顔で語りかける。
「ただでさえクソ忙しいってのにこのぼんくらどもは性懲りもなく……」
「面倒増やしやがって……」
「泣かす……いやツブす……」
口々に怨嗟の声を上げる諜報員たちの様子に総毛立つ男たち。
そして。
「「「「「てめえら! ちょっと逝ってこいやああああああ!」」」」」
怒号が上がり、諜報員たちは一斉に男たちへと襲いかかった。
暗雲が天を覆い、雷が轟き渡る。
大陸の三分の一を占める魔族領域。その中央にそびえ立つ巨大な異形の摩天楼、魔王城。
その謁見の間では、今日もまた人類を脅かす策が練られようとしていた。
暗闇の中で突如点き始める灯火。闇の奥に座する存在が、威厳ある声を響かせる。
「来たれ、死天王よ」
ごう、と大気が渦巻く。強大な気配が四つ、謁見の間に現れようとしていた。
「死天王が一人、憤怒のランドウ今参ったァ!」
巌のような体格をした大男が雄々しく床を踏みならし見得を切る。
「ふぇふぇふぇ、死天王が一人憎悪のフレム、ここに」
血のような深紅のローブを纏った小柄な老人が、炎を纏って現れた。
「死天王嫉妬のアクア、お呼びになりまして?」
妖艶な、全裸の方がまだ大人しいような格好をした女が悪戯げに微笑む。
「……狂気のウィン、推参」
そして最後に闇からしみ出るかのごとく、この世のものとは思えぬ美男子が無表情に出現する。
傅く四人の前で、雲間から差し込む月の明かりにより微かに闇が晴れていく。照らされるは玉座。
座しているのは豪奢かつおどろおどろしい衣装を纏った、隆々たる体躯の男。その頭部の両側から生えている角が人間でないと主張している。だがそれがなくとも人間とは見られないであろう。
人のものとはまるで違う、異様な覇気。世界を喰らい尽くさんとするかのようなそれは、まさにその存在を的確に示していた。
魔王。いにしえの彼方から幾度か出没し、世界を危機に陥れる存在。近年成り上がったこの魔王もまた、世界を手中に収めんと己の本能のままに侵略を続けている。
その魔王が、重々しく口を開いた。
「王国が、異世界の勇者を召還したそうだな」
その言葉にフレムが応える。
「ふぇふぇふぇ、然り。先だって召還の反応がありましたじゃ」
「なるほど、な……我が闘争もいよいよ本番と言うことか」
王の言葉に、死天王たちはいきり立ち我先にと主張し始めた。
「王よ! 勇者の討伐、このランドウにお任せを!」
「ふぇふぇふぇ、ここはこのフレムの知謀によって勇者を貶めるのが上策かと」
「わたしに任せて下されば、勇者を骨抜きにしてご覧に入れますわ」
「……ご命令とあれば、一刀の元片を付けてご覧に入れましょう」
部下たちの言葉に、魔王はく、と愉悦の笑みを浮かべた。
「頼もしいことよ。……だがな、余はこれまでの魔王と同じ愚は犯さん」
ずお、と玉座から立ち上がり、ばさりと外套を翻して、魔王は高らかに告げる。
「これより我ら全軍をもって勇者を殲滅する! 我が最大の障害を全力を持って駆逐し、返す刀で人類の守護者などと嘯く王国をも滅ぼしてくれるわ!」
その言葉に驚く死天王。これまでの魔王ならば自身から動こうとはせず、まずは部下の戦力を投入して様子を見ようとするものばかりであった。勇者に対し全軍前線力を投入しようなどとは前代未聞である。
「お、お待ち下され! 我が君のお手を煩わせることはありませぬ、ここは我等死天王にお任せを!」
フレムが泡を食ったように訴えるが、無論魔王は聞く耳を持たない。
「その驕り、その油断がこれまでの魔王に敗北をもたらして来たのだ。最早油断も余裕も不要! 余に匹敵する力を得る前に勇者を叩き潰し、魔族の繁栄を永劫のものとする! 異論は認めん、ただ余に従いついてこい!」
「「「「は、ははーっ!」」」」
圧倒的な気迫とカリスマの前に、平伏せざるを得ない死天王。確かにこの魔王であれば、今までと違い魔族に勝利をもたらすことが出来るかも知れない。死天王はそれを幻視したのだ。
まあその、相手が『アレ』でなければそうなっていたかも知れないけれど。
前触れもなく衝撃が魔王城を揺るがし、謁見の間が吹っ飛んだ。
は、と気付けば崩壊した謁見の間と、壁や床にめり込んだり刺さったりしている死天王の姿。いきなりの衝撃に、僅かな時間ではあるが意識を飛ばしていたのだと悟った魔王は、がばりと身を起こし今更ながら警戒を始める。
謁見の間の中央。もうもうと煙が立ちこめる爆心地。粉塵の最中に、ぎうんと点る赤い光。どん、と大気をかち割る音と共に粉塵が吹き飛ぶ。何の反応も出来ないまま胸元を捕まれた魔王は、そのままの勢いで壁に叩き付けられる。
「がっ……は……!?」
背骨を中心に全身が軋む衝撃。眩む視界の真正面、赤く輝く眼差しと視線があった。
「てめえが魔王か?」
地獄のそこから響くような声。それに怖気を感じつつも、魔王は虚勢を張ろうとする。
「く、余を誰だと……」
ずがん。
「だから魔王かって聞いてんじゃねえかよとっとと応えろ」
電光の速度で顔面に叩き込まれる頭突き。鼻骨が砕け鼻血を噴き出しながら、魔王は「はひゅい」と間の抜けた声を上げるしかない。その時。
「我が君になにをするかあああああ!!」
迫る悪鬼の背後で、めり込んでいた壁を粉砕し飛び出したランドウが、いや、それを目くらましにして死天王全員が襲いかかる。しかし紅眼の悪鬼は胸ぐら掴んだまま魔王を壁から引きはがし――
「魔王シイイイルド!」
とか咆吼して魔王で死天王全員を殴り飛ばした。
シールドじゃ、ねえ。そう誰かが思ったのかどうか定かではない。ともかく一瞬で死天王は前衛的なインテリアに逆戻りし、悪鬼はぐいぐいと魔王を揺さぶりながら凄んだ。
「さあてとりあえず聞きたいことが……っておうコラ白目剥いてかっくりしてんじゃねえぞ聞かれたことには応えんかい!」
気付けのつもりか、ぐったりした魔王をがっつんがっつん殴りだす。そんなことをすれば余計に目が覚めないような気がするのだが。
しばらくの後。
「「「「「ずびばぜん゛も゛う゛がん゛べん゛じでぐだざい゛……」」」」」
ボッコボコにされた魔王と死天王が土下座で許しを請うていた。悪鬼―――太平は、ふんと鼻を鳴らして忌々しげに言う。
「最初から大人しくしてりゃあ面倒ないものを……まあいい、ちょいと聞かせろ。こっちに召還された異世界の人間を元の世界に戻す方法に心当たりはあるか?」
「「「「「は?」」」」」
唐突な質問に、目を丸くする魔王と死天王。困惑し顔を見合わせてから、魔王が恐る恐る問うてくる。
「あ、あの~、貴方様は勇者なのではないのですか?」
その問いに、ぎろりと視線を向ける太平。
「んなモンになった記憶はないわい。こちとらとっとと帰りたいだけだ。オレが帰った後この世界がどうなろうと知ったことか。世界征服でも人類抹殺でも好きにしろや」
「「「「「(えええ~!?)」」」」」
勇者と戦う覚悟はあった。だがこんなんは予想外も良いところだ。自分たちを屈服させておきながら世界を救うつもりもないと言うのか。
なんなのだこの男は。まったく想定外の存在に対し、困惑するしかない魔族たち。しかし状況は待ったなしである。
「で、帰る方法を知っているのか知らないのか、とっとと応えろ」
有無を言わさぬ調子で再び問いかける。額にはぶっとい青筋がびきびきぃと自己主張していた。言うまでもなくヤバいと分かる。
魔王は慌ててへどもどしながら対応した。
「いや、そ、それはその、ふ、フレム! 参謀である貴様であればその、なんぞ知っているであろうが!」
「い゛ィ!? や、ややや、このフレムそう言ったことに関する知識は……どちらかと言えば人脈の多いアクア殿のほうが……」
「へひゃァ!? わわわわわ、わたしは知りませんですし知り合いにもそういうことに通じているような者は!? わたしよりも空間を渡る術に長けたウィンのほうが!」
「!? 我が術はこの世界限定で場所のみを移動するものであり世界を越えるものでは決して……」
醜いなすりつけ合いであった。当然ながら太平はさらにびきびき。そして魔王たちはさらに焦ってなすり合いを続ける。もう暴行秒読みであった。
と、その時恐る恐ると言った感じでそろりと声をかけるものが。
「あ、あの~、我々ではなく各地を守護してる精霊種族であれば……」
「「「「え?」」」」
「え?」
意見を述べてきたのがどう見ても脳筋であるライドウであったためか、残りの死天王と魔王は目を丸くしていた。そんなことを一切気にしない太平だけが、「詳しく話せ」と続きを促す。
「は、その、小生魔族領域の治安維持なども担当しておるのですが、その関係上領域内の情報など様々な話も耳に入ってくるわけでして……神に通じ魔法のノウハウを世界にもたらしたとされる精霊種族なら、お望みの術を網羅しているやも……」
彼の台詞に、魔王たちは歓喜の声を上げた。
「素晴らしいぞランドウ! てっきりただの脳筋で死天王の中でも一番最初に撃破されるかませ犬的な存在だと持っていたのにやるではないか!」
「お見事にござりまする! 我輩用意していた「ふぇふぇふぇ、きゃつは死天王の中でも一番の小物」という台詞が無駄になりもうしたがそれはそれこれはこれということで!」
「見直したわ! てっきり数もまともに数えられないようなお馬鹿だと思っていたのに知性があっただなんて! 会話が成り立たないだろうからまともに話をしないようにと考えていた自分が恥ずかしいわ!」
「……感謝を。いざというときには盾にしようと思っていたが、それだけは止めておくことにする」
「…………貴殿らが小生をどう思っていたかよくわかりもうした」
この時魔王軍幹部の結束に、大きな亀裂が入ったことは間違いない。
ま、それはさておき。
「で、その精霊種族とやらはどこにいるんだ?」
盛り上がりに水をぶっかけるような太平の言葉。ざあ、と魔王たちが一斉に青ざめた。皆が一斉に救いを求めるような目でライドウを見るが、彼は泣きそうな顔でぶるぶる首を振った。
「いやその! 小生も詳しい場所までは!?」
「探せや」
ぶった切るような冷たい言葉に、魔王たちはびきりと硬直した。ぎぎぎと太平の方を見る。
目がマジだ。
「魔王ってくらいだから手下がわんさかいるんだろうが。とっとと探せ」
「「「「「よ、よろこんでー!!」」」」」
直立不動で敬礼する魔王たち。全速全力で動こうとするその背中に、太平はさくりと声をかけた。
「あ、十分経過するごとにランダムで一本、折るから」
一瞬の硬直の後、魔王たちは死にものぐるいで行動を開始した。
結果、五回のぽきんと悲鳴ですんだ。
漆黒の宇宙に蒼く輝く光。銀河の宝石、ぼくらの地球。
その地球が今、何回目になるか分からない危機を迎えていた。
星の海を往き地球に迫る影。数多の宇宙船。その中央に一際大きい船がある。
「……ほう、あれが地球か」
玉座で肘をつき、舐めるような目で地球を見据える者。宇宙皇帝一族が長、チルド大王。
その前に立ち薄ら笑いを浮かべる者。
「そうだよパパ。……ボクをコケにしてくれた星さ」
全身のあちらこちらが機械化されたその人物はまぎれもない。かつて太平に伸され売り飛ばされた宇宙皇帝プリーザだった。どうやら命からがら逃げ出しリベンジしにきたらしい。あれだけやられても懲りないというのはアレだが、悪人というのはそれくらい図太いものだ。
何よりも。
「……あの男が姿を消した今、地球を攻め落とす絶好の機会だよ。ぐちゃぐちゃにして粉々に砕いてやるんだ」
「ワシとしては可愛いお前をこんな目に遭わせてくれた礼をそいつに直接……」
「やめてパパしんじゃうやめて」
「……お、おう」
真顔で懇願する息子(?)の様子にちょっと引く大王。微妙に情けないが実際彼らは脅威である。このまま地球は蹂躙されてしまうのであろうか。
んなわきゃない。
突如ずずんと衝撃が船を揺らす。プリーザはべしゃりと床に激しくキス。玉座から転がり落ちそうになった大王が、必死で掴まりながら声を張り上げた。
「な、何事か!?」
「そ、それが……突然現れた合体とか変形とかする『巨大ロボ』が艦隊に襲撃を!」
泡を食って報告する部下の言葉に目を剥く大王。
そして宇宙空間では一方的な殲滅戦が行われていた。
「必殺と書いて必ず殺す星義一刀っ!」
とんでもない長さまで伸びたエネルギー剣で艦隊を薙ぐ派手なカラーリングの巨大ロボ。
協会より貸与された汎用決戦合体人型兵器【グレートスプリガン】を駆るのは、鬼気迫る様相のマナレンジャー。
「ただでさえごたごたしてるってのにこのごんたくれどもがあああ! まとめてぶっ飛ばしてやるわよ!」
「「「「応っ!」」」」
目を血走らせたレッドが吠え、残りのメンバーがそれに唱和する。彼女らの憤怒に呼応するかのようにグレートスプリガンは全身から炎のごとく余剰エネルギーを噴き出し、光の剣がその色を深紅に変えた。
「これがアタシのっ! 赤い一撃だああああ!!」
艦隊の前衛が木の葉のように吹き飛ばされる。大暴れするグレートスプリガンの背後、蒼い地球を背にする影が一つ。
協会よりジャスティオンに貸与された、対大型敵性体戦闘用万能可変戦闘母艦【グラン飛鳥】。それは状況に合わせて姿を変える。通常形態である戦闘母艦、巨大敵性体との格闘戦を考慮に入れた人型形態。そして、残る最後の形態。今正に、その姿へと転じようとしていた。
「グラン飛鳥、シューティングフォーム!」
ジャスティオンの命を受け、艦体が複雑に変形を開始する。前面に開く砲口。大分無理をした形状だがそれは砲、いや銃の形をしていた。
ブリッジの中央で構えたジャスティオン。そのヘルメットのバイザーに、ぎいんと力強い光が点る。
「俺たちの平穏のために纏めて死にくされやあああああ!!」
「先輩それ正義の味方の台詞じゃないです」
オペレーターやってる勇気の言葉など耳にはいることなく、ジャスティオンは引き金を引いた。
「ちょ、登場頭から必殺攻撃とかありですかあああああ!?」
窓にへばりついたプリーザが抗議の悲鳴を上げるが全く意味はなく。
侵略者の艦隊は閃光に飲まれた。
『それ』は見ていた。
王国が蹂躙される様を。魔王が打ち倒されたのに滅ぼされていない様を。
なぜだとそれは答えのない問いを虚空に放つ。この世界を維持するための機構、人類と魔族を競い合わせ続けることによって過度の文明進化と人口爆発を押さえ、重要因子かつ起爆剤として異世界より勇者という因子を取り込み血統と文明の劣化を最小限にする。この世界を永続させるために用意した機構が今完全に覆されそうとしていた。
己に準ずる力を与えられた精霊種族は片っ端から殴り倒され、最強の幻獣種である龍族はこぞって仰向けになり腹を見せ、あ、忘れてたと王国にとって返し慰謝料の名の下に金銭を強奪され、そういやお前らが原因じゃねえかと魔王勢からも財産がはぎ取られている。なぜだ。なんで。どうして。状況について行くことが出来ず疑問だけが膨れあがっていく。
「うんそりゃ……『運が悪かったとしか言いようがない』ねえ」
突如背後に現れる、邪悪にしておぞましい気配。虚をつかれたそれは、戦慄を隠さずに振り返る。
そこに存在するのはわだかまる闇を凝固したような女。暗がりの中で三眼が燃えていた。
「やあやあ初めましてあるいは久しぶり、【創世の女神様】?」
生理的嫌悪感しか感じさせないその声にそれ――創世の女神と呼ばれた存在は、ぎり、と歯噛みする。
「貴様の仕業ですか……っ!」
数多の世界を弄び食い物にしてきた混沌の権化。それが己の創りし世界に介入してきたのか。
許せない。許さない。女神は物理的な威力を伴うような覇気を放出し、邪神と相対する。
「この世界は我がものです。虫一匹草一本まで我が所有物、貴様ごときに指一本触れさせるものですか!」
怒気を露わにする女神に対し、邪悪な混沌はまるで柳に風と受け流す。
「その箱庭を維持するために延々と争いのループを生じさせ、時折外部因子を投入して劣化を防ぐ。……うんうん、実にボク好みの設定だ。創造者の偏愛ぶりがよく分かる構成だねえ」
世界そのもののあり方を見渡して一人で得心している。まるで相手にされていないような態度に、女神はますますボルテージを上げる。
「貴様に! 世界を滅ぼすしか脳のない貴様になにが分かるというのですか! 己が創ったものを己の好きにしてなにが悪いというのです!」
「いやあ別に? 好きにしたら?」
さくりとかえされた言葉に、へ? と目を丸くする女神。
対する邪神は両腕を広げ、詠うように芝居じみた台詞を放ち始めた。
「それが超越者の特権だ。当然だろう当然だとも、強きもの強大なものの傲慢こそが世の道理。弱者の戯言に価値はなく、駒と成り果て世界で踊る。有象無象の主義主張など知らぬ存ぜぬ一切合切どうでもいい。己の意のままに己の望むままに世界を回し回し回し回す。それこそが超越者。それこそが創造者。言語道断縦横無尽自由自在臨機応変自分勝手、そうあるべきなのだよ『かみさま』というやつは!」
そこまで言って。
彼女は胡散臭いメガネ巨乳に成り下がった。
「ま、そんな理屈を彼が理解してくれるかどうかは、別問題だけどね?」
理解及ばず唖然とする女神の肩を、『だれか』ががっしりと掴んだ。
背後に宿るは、憤怒の気配を纏った『そいつ』。闇の中、双眼が赤く光った。
何者にも回避不可能な、地獄が始まる。
こうして、イーセカイは女神の呪縛から解き放たれた。
なぜか満身創痍の王国首脳陣と、どういうわけだかずたぼろの魔王勢は交渉の席で意気投合し、ここに前代未聞である人類と魔族の和平交渉は成った。
その後魔王勢幹部と王族の駆け落ち騒ぎがあったり女神信仰の宗教が一掃されたりと色々騒ぎはあったが、概ね良好に両者は溶け込んでいき、これまでにない長さで平穏は続いた。
なお王国に伝えられていた異世界の勇者を召還する術は禁呪となり、完成した送還術と共に封じられたという。
その原動力となった勇者の名は、伝えられていない。
「で、先生が迎えに来たわけだ?」
「うんまあ、正直ボクいらなかったかなあって思うけど一応」
「いやこいつ以外としぶとかったし、へたすりゃデートまでに帰れないところだったから。とりあえずはありがとうございますってことで」
「……ひゃっほう太平君がデレましたよ!? これはまひと君とか神さんに自慢しないと!」
「やっすいなあ。あ、余計なことしたら殴りますよ?」
「すみませんチョーシこいてました」
言葉を交わしながら、二つの影が光に飲み込まれていく。
その背後でずたぼろにされた女神が、うつぶせ状態でかちあげた尻からぷすぷすと煙を噴いていたが、無論顧みるものなど誰もいなかった。
「だ~れ~か~! 後かたづけ手伝えええええ!!」
「「「「「望ちゃんふぁいと!」」」」」
干上がれと申すか。
でも体重はなかなか減らない緋松です暑いよ。
さて、今回よりリミッターが外されておりますがその分時間がかかってしまいました申し訳ありません。
ともかくよくある召還ものに太平君ぶち込んでみたらこうなると、そういうことです。ゼロ●とかだったらトリ●ティン滅びます確実に。
こんな感じで暫くは太平君がこんな状況にいたら? ってネタが続くんじゃないかと。っていうかむしろそう言うのがやりたかったんだよなあ俺。前振りが長すぎるつーの。
まあ己に対する愚痴とともに今回はこんなもので。
あ、エンディングのイメージはアンディモリの【ベンガルトラとウィスキー】で。




