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KKK  作者: てこ/ひかり
第二幕
16/17

七回裏 ■■

・登山をしていた20代の男性が死亡 遭難か T県・Y市


 20日、T県Y市で登山に出かけていた男性の死体が山の麓で見つかりました。警察は死体の状況から山で遭難し滑落したものではないかと、事故の詳しい原因を調べています。亡くなったのはT県S市に住む■■■■さん(21)。男性は数週間前に「登山に出かける」と言い残し、しかし翌日になってもまだ戻って来ず、男性の家族が14日に捜索願を出していました。


・6日から行方不明の男性 死体で見つかる H県W町


 H県W町で行方不明になっていた会社員・■■■■さん(20)が13日、県内の海辺で死体となって発見されました。亡くなった■■■さんは今月5日から無断欠勤が続いており、不審に思った職場の上司が警察に相談していました。■■■さんは数日前から「金銭面でトラブルが起きている」と同僚に漏らしており、警察は事件と事故の両方で捜査を進めています。


・海外旅行者の行方不明 半年間で12名確認 K県


 K県内に住む20代〜30代の男性が、海外旅行先で相次いで行方不明になっていることが、K県警への取材で判明しました。旅行先はアフガニスタンやエジプト、タイ、カンボジアなど様々で、特殊詐欺やテロ組織の拠点地域でもあることから、県警はより一層身の安全確保、十分に警戒するようにと警告しています。K県F市に住む■■■■■さん(31)は、先月知人数名と海外に出かけ……。



 ……探偵2人組と別れた翌日。千紘は町内の図書室に来ていた。町の外れにある分館だったが、広さはそれなりにある。勉強している学生、雑誌を読んでいる老人、子連れの主婦……平日の昼間だったが、利用客はそれなりにいた。もっとも、そのほとんどは1階の役場出張所目当てだったかも知れないが。


 千紘は四角く輝く画面から目を離し、軽く肩を揉んだ。窓の外は晴れていた。が、東の空はまたゆっくりと灰色に染まりつつあり、町にはまた一雨来そうな匂いが漂っていた。千紘はネットで検索した行方不明者の記事と、図書室にあった『緑茂高校野球部/栄光の歴史』を紐解き、その氏名を照合しているところだった。今のところ、同姓同名、年齢も一致で見つかったのが5名。


 これだけではまだ何とも言えないが、少なくとも探偵たちの話は、完全に嘘というわけでもなさそうだった。5名とも、明確に殺人事件と断定されておらず、数行程度の、行方不明の地方記事だった。


 余談。日本の検挙率は、殺人や放火などの重要犯罪に限っては80%を超えているが、犯罪全体の平均だと30〜40%に留まる。犯罪の種類によって犯人逮捕の確率が大幅に変わるということだ。仮に検挙率が40%だった場合、約6割は未解決のまま泣き寝入りしている。実際には被害届を出していない、認知されていない犯罪などもあるから、その数はこの比ではない。


 ましてや犯人がいるかどうかも分からない、行方不明など……前述の通り、日本では解剖率が1割程度と、極端に少ない。海外では、警察が一旦病死や事故死・自殺とした死体でも、いざ解剖してみると実は他殺だったと判明するケースが少なくない。実際に見過ごされた殺人、あるいは集団によって隠蔽された殺人も、決して0ではないだろう。


 さらに余談。面白いことに、仮に2人以上の人間がお互い示し合わせることなく1人の人間を殺した場合、殺人罪ではなく殺人未遂罪になる。たとえばAとBが偶然、同時にCを射殺した。直接の死因がAの弾丸だったら、Aが殺人罪、Bが殺人未遂罪になる。ただし死因が分からなければ、両方とも殺人未遂罪となる。

これを同時犯と言う。

現実ではこんなケースは滅多に起こらない。ただし傷害罪については特例があり、たとえば密室で誰が殴ったかが不明だとしても、全員が罪の責任を負う、共同正犯が成立する。


 直接手は出してなかろうが、見張り役も、「もっとやれ!」と囃し立てても、関わった全員が殴った者と同じ罪に問われると言うことだ。


 またまた余談。行方不明者の生存率は、大体発覚後

1週間で90%、

1ヶ月で80%、

1年で60%程度とされている。


 千紘が照会した名前は、5名とも行方不明から3年以上経っていた。

 

死体と言うのは時間とともに腐敗が進み、3日も経てば体内に腐敗ガスが溜まり身体の容積が倍になる。溺死体などは特に膨張が酷く、もはやその貌からは男女の区別すらままならない。夏は特に腐敗が激しい。早ければ1週間程度で白骨化が始まるので、時間が経てば経つほど本人確認が困難になる。


 千紘は深くため息を吐き、目を瞬いた。やれやれ。こうして余談ばっかり、寄り道ばっかりしてしまうのは、全然話が進展しないからなのだが……それでも彼女は、ようやく手がかりになりそうな記事を探り当てた。


 それは今から約30年近く前の、1990年代の記事だった。


 ・【続報】教団幹部が高校生に集団暴行を指示か/緑茂教 緑茂高野球部員自殺


 17日緑茂高校野球部員がいじめを苦に自殺した事件で、緑茂教の幹部が高校生数名に何らかの指示を出していたことが警察の調べで分かった。警察によると、数名の在学生が、緑茂教の幹部・野坊守重氏(42)から指示があったと証言しているとのことである。何の指示を受けていたかは公表されていない。この件について取材班が教団に問い合わせたところ、期日までに回答はなかった。



 このニュースは千紘も以前見た。しかし、教団幹部の名前が載っているのは初めて読んだ。野坊……これは、あの野坊監督と同じ苗字ではないか。千紘は生唾を飲み込んだ。この地方では珍しくない苗字なのだろうか?


 この事件は当時、集団リンチを同級生から受けたのではないか、あるいは監督の体罰が原因ではないかと大騒ぎになったようだ。後に、この記事のように新興宗教の関与も仄めかされたが、自分たちの責任から逃れるつもりかと、世間からはむしろ否定的に捉えられた。一番バッシングされたのは学校であり、監督であり、当時の生徒たちだった。教育委員会が調査を行ったが、真実は結局闇の中。昔の時代の話である。


 もし……千紘は考え込んだ。もしこの記事に出てくる野坊が、今の野坊監督の親戚だったら。あるいは年齢的に、実の父親ということも考えられる。


 良く分からないけど、親が教団幹部だったら、子供も幹部候補生になるんじゃないかしら。確か緑茂高では、幹部候補生たちは野球部員とは別枠で入学していたはずだ。しかし、野坊野人は、部員として甲子園優勝投手になっている……。


 心拍数が早くなるのを自覚しつつ、千紘はある仮説を立てた。もしかしたらここで書かれている幹部の野坊守重氏は、この事件で教団に借りを作った。それで、幹部を降ろされるようなことがあったのかもしれない。結果、野坊野人は候補生ではなく部員として入学した……それで甲子園で優勝したのだから、本人にとってはむしろそっちの方が良かったのかも知れないが。

 

《みぃいなっ、さぁああぁぁぁあんっ!》


 すると突然、耳を劈くような爆音が響いてきて、千紘は飛び上がった。勉強中に居眠りをしていた学生が椅子から崩れ落ち、雑誌を読んでいた老人がぎゃっと悲鳴を上げる。図書室に眠っていた赤ちゃんの鳴き声が谺した。


《みぃな、さぁあんっ! 緑茂教からの、お知らせでぇぇええっすっ!》


 爆弾でも降ってきたのかと思うくらいの轟音に、窓ガラスがビリビリと震えた。時々、田舎では屋外で村全体に聞こえるようなスピーカー放送が流れるが、要するにアレだ。カウンターに座っていた司書のおばさんが、慌ててどこかに走って行った。


《今朝の報告会で、ヤマガリが決定しました……》


 やがて徐々に音量が小さくなったが、千紘はしばらく放心したままその放送を聴いていた。


《……付きましては、ぜひ説明会・臨時集会にご参加ください。本日14時から、緑茂神社の境内で行われる予定です。繰り返します。今朝の報告会で……》


 すると不思議なことが起こった。千紘の周りにいた学生や、老人や、主婦が、ゾロゾロと図書室を出て行くではないか。彼らだけではない。図書室にいた利用者全員が、腰を上げ、帰り支度を始める。これは一体……? 千紘はその様子をぽかんと口を開けて見送った。


「ど、どうしたんですか?」

 千紘は思わず、帰ってきた司書に尋ねた。


「ああ、すみませんねぇ。館内放送の音量が上げっぱなしになってて。でももう大丈夫……」

「いえ、そっちじゃなくて」

 千紘は首を振った。

 放送を聴いて、みんながいきなり帰り出したのはどういう訳だろう?

 ヤマガリ? 

 臨時集会とは?

「大丈夫、大丈夫」

 しかし、千紘が何を尋ねても、おばさんはニコニコと笑みを絶やさず、一切何も答えようとしなかった。


 山狩りとはつまり、山で暮らす緑茂高の野球部員に逃亡者が出たという符牒だった。これから手の空いた町人で山を囲み登り、教団の裏切り者を炙り出そうという。


 こっそり神社に潜り込み、町人と一緒に臨時集会を聞いた千紘は、そのことを知って戦慄した。

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