表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KKK  作者: てこ/ひかり
幕間
12/12

グラウンド整備

「真堂先生! 今回の汚職事件について一言!」


 真堂英二が表に姿を現すと、待ってましたとばかりに一斉にカメラのフラッシュが焚かれ、真昼のように辺りが真っ白に染まった。絶え間ない閃光が暴力的に網膜を焼き、彼は思わず低い唸り声を上げた。


「真堂先生!」

「ワシャ、知らん。全部秘書がやった。知らん知らん。アイツに聞いてくれ」


 真堂は渋い顔で一方的に捲し立て、でっぷりと突き出た腹を揺らしながら、急いで待っていたリムジンに乗り込んだ。なおも追い縋る記者を煙に巻き、彼は声を荒げて運転手に発車を命じた。この辺りではまず見ることのない黒い高級車が、人気のない夜の縁茂町を駆け抜けて行く。


「やれやれ……酷い目に遭ったわい」

 真堂は……まるで自分は被害者だと言わんばかりに……肩を落とし、ハンカチで顔を拭った。何が汚職事件だ。確かにワシは金を受け取った。しかし、それが何だ? 先ほどの、何処の馬の骨とも知れない記者の……この町の者でないことは確かだ……鬼の首を取ったような顔を思い出し、真堂は手を震わせながら葉巻に火を着けた。


「フン……!」

 全く、これだから政治の素人は困る。政治とは金なのだ。人は金で動く。良く世間では『利権政治』だとか『既得権益』だとか、さも悪いことのように喧伝されるが、真堂に言わせれば全く馬鹿げた話だった。金そのものが政治だと言うことが何故分からないのだろう? 金があるから、人が言うことを聞く。試しに明日から、給料0にしますと言ってみれば良い。恐らくほぼ全てのサラリーマンは、仕事に来なくなるはずだ。


「あのクソガキめ……今に思い知らせてやる……!」

 リムジンの中で、真堂が顔を赤らめた。長らく政治家をやっていると、新聞社にも旧知の仲は多い。パワハラで退職に追い込むか、あるいは無理やりセクハラ疑惑をかけて逮捕させるか。その両方でも良い。黒黒とした感情が腹の底で沸々と煮えたぎり、真堂の頭に血を昇らせた。医者に止められた葉巻も、それはそれは進むと言うものだ。


 しかし……窓の向こうの故郷を眺めながら、真堂は深く煙を吐いた。今回の件は秘書が独断でやったことにして、一件落着だが、それでも多額の活動資金を失うのはやはり痛い。札束で頬を殴って言うことを聞かせてきた彼にとって、それしか政治の仕方を知らない彼にとって、これは死活問題だった。何処かで、また別の方法で金を集める必要がある……。


「……病院に寄ってくれ」


 真堂が運転手にそう告げると、黒のリムジンは次の十字路をゆっくりと右に曲がった。


 それから数十分後。町で唯一緊急搬送を受け入れている、緑茂病院に真堂はやって来た。人気はない。今頃記者たちは、真堂の自宅の前で張り込みをしているだろうか。尾行されていたら……構うものか。真堂は月明かりの下、贅肉を波立たせて嗤った。政教分離の問題にまで突っ込んでくる、そんな度胸のある記者があの中にいるとも思えない。ましてやここは縁茂町。野球の町だ。下手に手を出したら小火(ぼや)どころでは済まないことは、向こうも分かっているはずだ。


 夜風が裏の雑木林を揺らし、野鳥が短く鳴いた。院内に入ると、奥の診察室で白衣を着た男が彼を待っていた。


「真堂先生……まさか、葉巻吸ってないでしょうね?」

「すまない、佐藤君。急ぎなんだ。新たに提供者(ドナー)を見つけたい」


 佐藤と呼ばれた男は、ニュースを見たのだろう、真堂にまだ何か聞きたそうだったが、政治家先生はそれを遮って話し始めた。


「アフガニスタンかエジプト辺りに、活きの良いのはいないかね?」

「……先月も2人施術しましたし、そう簡単には」


 佐藤は弱々しく首を振った。彼は分厚い眼鏡にマスク、白い抗菌頭巾まで被っていたが、それでも苦しそうに顔を歪めたのが見てとれた。


「それじゃあ、待機患者(レシピエント)は?」

「先生、この間仲介業者(ブローカー)が捕まったばっかりですよ。しばらく渡航は止めておこうと言ったのは、先生じゃないですか」

「そうも言っておられんのだ。ニュースを見ただろう?」


 佐藤が絶句して、診察室を沈黙が覆った。真堂が仰々しく両手を広げた。


「何とかならんかね? 次の選挙のために、どうしてもまとまった金がいるんだ」

「しかし……」

「誰か、パワハラで自殺に追い込んでも良いぞ。おぉそうだ、さっきうってつけの記者を見つけたんだった。あの女記者……確か、名前は何と言ったかな」


 真堂英二は縁茂教の幹部でもあった。野球が盛んなこの町で、体育会系の厳しい上下関係と暴力行為に目を付けたのは彼だった。洗脳に持ってこいだと思ったのだ。事実、ここの住人は誰1人真堂に逆らうことなく、また「あの時殴られたから成長できた」と信じ込んでいる。だから、人を殴ることにも躊躇いがない。一度命令すれば、たとえ実の家族でもきっと喜んで殴り続けるだろう。


 臓器移植は時間との戦いだ。心臓で4時間。肝臓で12時間。腎臓で24時間以内に手術しなければならない。海外の貧困地域では、借金を苦に己の内臓を売る者も少なからず存在し、また移植を受ける側(レシピエント)も、多額の費用を払い、自分に合う臓器を求めて海外に渡航するケースもある。国内で待っているだけでは、いつまで経っても『自分の番』はやって来ないからだ。そんな、何時間以内だなんて、自分の周りで都合良く人は死んだりしない。


 ()()()()()()()()()()()()()


「先生、僕は……」

「あぁ心配するな。君は手を汚さんで良い。全ての手配はワシがやる」

 ……もちろん実際に手配するのは、彼のお抱えの秘書の1人なのだが。狼狽を隠せない佐藤に、真堂はにっこりと笑い、胸を叩いた。


「佐藤君。何か勘違いしているようだが、これは善行だ。世のため人のためなのだよ。世界にはまだまだ、困っている人、助けを求めている人が大勢いる。政治家として、医師として、高い志を持ってその手助けをしようじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ