第3話
玄関のドアを開け、小さな声で言う
「ただいま」
台所の方から大きな声が聞こえる
「おかえり、今ご飯作ってるから待っててね」
母の声だ
2階から階段をドタバタと下りる音がする
「お兄ちゃん、おかえり!!
ダンジョンどうだった?」
妹だ
「普通?」
「え〜、何それ。
イレギュラーモンスターが出てきて倒したとか何かないの?」
「そんな魔物出てきたら兄ちゃん死んじゃうよ」
「どんな職業になったの?」
「バフ系の職業だよ」
「稼げた?」
「1番簡単なダンジョンの魔物だから数百円だけだったよ」
リビングの方から母の呼ぶ声が聞こえる
「ご飯できたって」
「え〜、もっと聞きたいのに〜」
「また今度な」
ご飯を食べ風呂に入り部屋に戻った
「喋りすぎた、吐きそう」
鏡で自分の顔を見つめる
「笑顔、ちゃんと作れてたかな
.............
もう、苦しいよ。」
千優という男は産まれた時から心に大きな穴が空いていた。何をしても埋めることができない大きすぎる欠損を抱えていた。
その穴は、いろんな感情を吸い込んで心を乾いた砂漠のようにしてしまう。
「早く1人になりたい。
誰もいないダンジョンは最高だった。」
だから、心を嘘でハリボテにした
「誰か助けて」
その穴は
その魂は
その誰かを待ち続けている
「見つけた」
美しい銀色の髪がキラキラと光る
「もうすぐ会える」
「.に..ゃ.!」
「おに..ゃん!!」
「おにいちゃん!!!」
妹が起こす声で目を覚ます
「お兄ちゃん、おはよう!」
「おはよう」
「あれ?、なんで泣いてるの?」
「え?」
手で目元に触れると濡れている
「多分、怖い夢でも見たんじゃない?」
妹が不思議そうな目で見てくる
「まあいいや、お母さんがご飯だから起こせって」
「ああ、すぐ行くよ」
「「「いただきます」」」
母、妹、千優は黙々とご飯を食べ始める
「お兄ちゃん、今日もダンジョン行くの?」
「ああ、行くよ」
「お兄ちゃんが探索者になるなんて今でも信じられないよ」
「そうねぇ、千優はいつもボーとしてる子だったからお母さんも信じられないわ」
「お兄ちゃんは声が綺麗だから声優になったら良かったのに」
「声優はそれだけで簡単になれる職業でもないよ」
「鈴みたいに綺麗に響く声なのになぁ」
「ご馳走様でした。
準備し終わったらすぐ出るから」
「怪我しないようにね」
「怪我しちゃダメだよ」
「うん、わかってるよ」