ダンジョンコアは困惑する
『どうか、我々に協力していただけませんか』
「いいよ」
リアの返答は素早かった。たったの数秒で、具体的になにを望まれるかすら分からないというのにダンジョンコアへの協力を決めた。今のリアは先代【水】の属性保持者たるルフィからの依頼の真っ最中だというのに。
そして、ダンジョンコアも、リアは何か訳があってここに来ている、ということをなんとなく察していた。その上で己の願いを口にした。勿論、それが受け入れられることはないだろうと思っていた。
だがリアは即座に協力を決めた。約束をした。神々によって創られた存在であるダンジョンコアと。
それは、その約束を果たさなければ、神々によって罰が下されたとしてもおかしくはない、ということだ。
故にダンジョンコアは驚愕した。
『よろしい、のですか?』
「うん。おそらく君の望みは私のやるべきことに1手間加えるだけで問題ないと思うし」
『我々は、ブット・ルーズを止めるための協力、などという抽象的な表現を使いました。その“協力”の中には、何が含まれているか等分かりません』
『だというのに何故、協力しよう、と思ってくださったのですか?』
「――だって、ブット・ルーズは報いを受けるべきことをしたんだから、その報いを与えることを望むのは、当然のことでしょ?」
ダンジョンコアの問いに、リアは微笑みながら答えを述べる。
「愚かなことをした、人の何かを奪った、そんな人物が誰かに報いを受けることを望まれるのは、当然のことでしょう?」
――だが、リアの瞳は笑っていない。
「でも、その報いを与えられる程の力を持たない人もいる」
――いや、笑っているのかもしれない。
「だから、報いを受けるべきなのに、報いを受けずに済んでいる者たちに報いを受けさせる」
――だがもし、今笑っているのだとしたら、これは、
「それが今の私の信念で、仕事だから」
――狂気的な笑み、というのだろう。
「私の答えはお気に召したかな?ダンジョンコアさん」
『……理解、は、出来ました。質問に答えてくださり、ありがとうございます』
ダンジョンコアには何故そのような考え方をするのか、するようになったのか分からなかった。
ダンジョンコアには何故そのように狂気的な笑みを浮かべているのか分からなかった。
けれどリアが何を言いたいか、それを言葉として理解することは出来た。
故にあのような煮えたぎらない返答となったのだろう。
「それで君は、私に具体的には何を望むのかな?」
けれどリアはダンジョンコアの困惑に気づきながらも己が問うべきことを問うた。
カツンカツン
Cランク迷宮、『蘇りの迷宮』31階層。そこではゆっくりと足を進める【水】の属性保持者の姿があった。
「まさか本来あってはならない筈の31階層を無理やり作るとはなぁ。これもダンジョンコアが言ってた越権行為の1つなんだろうね」
31階層、それは本来このダンジョンにあってはならないものだ。
何故ならばボス部屋があった階層よりも下の階層は存在しない。
何故ならばボス部屋がそのダンジョンの大黒柱のような存在であり、その大黒柱より下に場所を作るのは理論上不可能である、と長年の研究により人間は答えをだした。
更にその考えは昔神によって肯定されている。
つまり、30階層にボス部屋があるこの『蘇りの迷宮』には31階層があってはならない筈なのだ。
しかし、今現在リアがいるのは31階層。それすなわち、
ブット・ルーズは不可能である筈のことをダンジョンコアに強要したということだ。
「道理で神の意思に従い、動く。ただそれだけ存在である筈のダンジョンコアが、わざわざ私に協力を願い出てくる筈だよ」
それを理解したリアが不快感に顔を歪ませながら呟いた。
「まぁ、あんなクズは取り敢えず放っておいて、子供たちを探さないといけないんだけど」
「というか31階層の存在に気付く奴なんて居ないだろうになんで迷路にしたの。迷路の何処に居るかは権限取られてて分からないー、とかダンジョンコアも言うしさぁ」
それはさておき、とリアは己が進む道を眺めながらため息をついた。
リアが迷路を進み始めて30分――
「え~と、君たちはここに捕らえられてる奴隷さんたち、だよね?」
リアの記憶力を生かし、リアはやっと捕らえられた者たちの発見に成功した。
しかし、捕らえられている者たちはリアを見ても怯えて後ろに下がるか、兄弟であろう者に抱きつく者ばかりで、リアの言葉に返答はない。
「……まぁ、違ってもいっか。ここに捕らえられてるのは間違いじゃないだろうし」
その様子にリアはため息を吐きながらもそう呟くと、捕らえられてる者たちの中でも一番リアの近くにいた者の目を見て、
「君たちはここから逃げ出したい?逃げ出したくない?……まぁ、3名ほど許可なしで元から行く予定だった孤児院に行くこと決定してるけど」
と、言い放った。
突然のリアの発言に、捕らえられてる者たちは目を見合わせている。
「まぁ、私としては別にその3名以外の救出は依頼内容に入ってないし、」
「ダンジョンコアには君たちを救って欲しい、としか言われていない以上、逃げ出したくないというのならそれが君たちにとっての救いだ、と判断するけど。」
その様子を見て、リアは残酷な、しかし元からの予定であったことを口にする。
そのリアの表情には何の感情も含まれていない。
自分の意思に関係なく捕らえられてる者たちは哀れだと思うが、己はただ、事務的に己が何をするかの説明をしているに過ぎないからだ。
故に捕らえられてる者たちは混乱したことだろう。リアの目的が全く分からないから。リアのしたいことが全く分からないから。
――リアのことを、未知の存在のように感じたから。
しかし、捕らえられている彼らにとってそれは些細なことだった。
何の罪も犯していないというのに受けているこの理不尽な生活から抜けだせられるのなら、たとえこんな未知の存在が救世主でもなんの問題もなかったのだ。
「「「私/僕/俺も助けてください/くれ!」」」
故に彼らは己の偽りなき願いを口に出した。
「了解」
そして、彼らの様子に満足そうにうなずきながら、ダンジョンコアの願いを聞き届けたときと同じように微笑んだ。
次回はシャナ視点になりまーす!




