再会
AH-64D アパッチ・ロングボウの最大速度で聖都まで戻った俺とナークは、"白の広場"の上空まで到着し二度ほど旋回しながら高度を下げる。
既に"白の広場"には、多くの聖騎士に混じってギルさん達"雛鳥の巣"の面々の姿も見えた。
アパッチ・ロングボウを"白の広場"に駐機してあるCH-47JA チヌークの隣へゆっくりと着陸させる。
既にナークはアパッチ・ロングボウの操縦を完全にマスターしているので、安心して離着陸までも任せたままだ。
着陸後、直ぐにナークはコクピットのキャノピーを開ける。
まだローターは回転したままなので、頭上に注意をしつつ俺は前席から降りた。
「よう、ジョー。流石に早かったな」
「ギルさん、お待たせしました。それで、クールマの子供と言うのは?」
「ああ、こっちだ。来てくれ」
「はい」
ギルさんの先導で、聖騎士達が取り囲んでいる場所まで付いて行く。
ギルさんと俺の姿を見ると、聖騎士達は囲みを解いて道を空けてくれる。
聖騎士達の囲みが割れると、囲みの奥には大きな荷車に大型の陸亀が積まれていた。
この巨亀がクールマの子供か。
確かに親亀のクールマに比べれば、その大きさは百分の一にも満たない大きさだ。
しかし、俺の知る陸亀と比較した場合、その姿は五倍以上も大きい。
こんな大きな子亀の卵って、どれだけ大きかったのだろう。
子クールマは微動だもせずに荷車の上で静かにしている。
しかし、その眼はしっかりと開かれており、時たま視線を動かしていた。
俺の知る亀ならば、卵から生まれると直ぐに動き出すはずなのだが、この子クールマは大人しい。
ひょっとしたら、弱っているのだろうか。
「この子クールマを最初に発見した方は何方でしょうか?」
「はっ、使徒様。それは自分であります!」
子クールマの乗る荷車の側にいた聖騎士がそう言って俺に礼をする。
「この子クールマは、卵から出てからずっと大人しいのでしょうか?」
「いいえ、卵を割って外へ出た際には、動き回っておりました。しかし、暫く経過すると動かなくなって大人しくなりました。その際、卵を隠してあった家屋は破壊されてしまいました」
「そうですか。怪我人は?」
「いいえ、人から逃げる様な動きをしていましたし、全員が家屋の外へ出たので怪我人はおりません」
「良かった……。それで、この子クールマ、いやクールマの卵を発見した経緯は?」
「それは、自分が聖都内を探査中に、大きな白犬が家屋の前で吠えておりまして、その犬が気になって家屋を調べようと中へ入ったら、巨大な卵があったのです」
「大きな白犬ですか……。その犬は?」
「はい。ギル殿からの知らせで、子クールマを荷車へ乗せるまでは、近くに居たのですが、我らが運搬を開始すると何処かに行ってしまいました。その犬も、何か関係があるのでしょうか?」
「いや、判りませんが、ちょっと気になったもので……。ギルさん、クールマって、何を食べるのですか?」
「クールマは魔獣には珍しく草食だぜ。草木なら何でも食っちまう」
「では、この子クールマにも何か食べさせた方が良いでしょうね。何方か、馬用の飼い葉を沢山、持ってきていただけますか?」
「「はっ、直ちに」」
聖騎士二人が、そう返事をして走り去る。
生まれてから直ぐに何かを食べるかどうかは不明だが、この巨体だ。
燃費はさぞかし悪いだろうから、何かを食べさせた方が良いだろう。
それに加えて、弱っているのだから回復魔法も効くかもしれない。
「あと、神殿からセレステさんを呼んできていただけますか?」
「はっ! 使徒様、何処かお怪我でもされたのでしょうか?」
「いや、この子クールマが弱っているようなので、回復魔法が効くかなと思いまして……」
「ジョー、魔獣に回復魔法を施してもらうのか?」
「はい、効かないのですか?」
「いや、確かに馬が疲れた時、治癒師の回復魔法が効くからな。魔獣でも同じだから効くかもな」
「では、やってみましょう。ここでこの子クールマに死なれてしまっては、ここへ向かってくる親クールマが更に怒り狂ってしまう可能性もありますからね」
「確かにそうだ。やって置いた方が良さそうだな」
「では、自分が聖女様をお呼びに行ってまいります」
「お願いします」
聖騎士の一人がそう言うと、神殿の中へと走り去って行った。
神殿へ向かった聖騎士と入れ違うように、飼い葉を取りに行った二人の聖騎士が戻ってくる。
彼らの後からは馬耳の獣人達が、大きな籠を抱えて走ってきた。
どうやら、聖都でも馬の面倒は馬人族達が行っているようだ。
「ありがとうございます。飼い葉を子クールマへ与えて下さい」
「「「「畏まりました」」」」
馬人族の人々は、少し躊躇しながらも子クールマの口元へ飼い葉を置く。
すると、子クールマは匂いを嗅ぐような仕草をしたかと思うと、むしゃむしゃと飼い葉を食べ始めた。
その食べる速度はもの凄く速く、あっと言う間に籠からだされた飼い葉を食い尽くす。
直ぐに別の籠から飼い葉を補充すると、それも食べ始める。
もの凄い食欲だ。
まあ生まれてから何も食べていないのだから、空腹だったのだろう。
荷車の上で身動きしない状態だが、子クールマは一心不乱に飼い葉を食べ続ける。
そうして持って来てもらった飼い葉は瞬く間に食い尽くされた。
すると、子クールマは首をもたげて、なにやら周りを見始める。
どうやら、未だ食べたいらしい。
追加の飼い葉を持ってきて貰うように、馬人族の人へ依頼すると、直ぐさま馬人族の人々は"白の広場"から走り去って行く。
彼らが"白の広場"から見えなくなると、神殿から神官達の集団がこちらへ向かって歩いて来た。
「ジングージ様、お呼びでしょうか?」
「あっ、セレステさん。お呼びだてして申し訳ありません。この子クールマへ回復魔法を施し欲しいのです」
「子クールマ……。この大きな亀が、クールマの子供なのですね?」
「はい。たった今、食事を与えた所なのですが、どうも元気が無さそうなの……」
「私は、判りました。でも私は人族や獣人族以外には、治癒術を施した事が無いのですが、やってみます」
「お願いします」
「はい。では……」
聖女セレステは、そう言うといつものように女神様への祈りの言葉を述べ、回復魔法を子クールマへと施した。
子クールマの身体が青白い光に包まれる。
どうやら、問題なく回復魔法は効いたようだ。
と、子クールマは荷車から降りようとして後ずさりを始めた。
元気になったとたんに、荷車から逃亡を試みているようだ。
「セレステさん、クールマから離れて下さい!」
「はい!」
聖女セレステが荷車に乗った子クールマから離れると、ギルさん達"雛鳥の巣"の三人が子クールマを押さえにかかる。
同時に多くの聖騎士達も子クールマへと走り寄って子クールマを押さえた。
しかし、大きな荷車に乗せられた子クールマは、荷車から降りようと巨体を激しく動かしたので、荷車は瞬く間に破壊されてしまう。
これは危険だ。
この巨体に体当たりされたら、人間はひとたまりもない。
「危ない! ギルさん達も離れて下さい」
「おう、こりゃ、俺達じゃどうにもなんねぇぜ」
「リーダー、危ない!」
「きゃっ~! 大人しくしなさいよ~」
取り押さえようとしたギルさん、ガレル君、ハンナさんも危険を察知し、子クールマから離れる。
同様に聖騎士達も、子クールマの周りを囲みつつ距離を置く。
それにしても、流石に聖女セレステの回復魔法だ。
こんなに元気になるとは思わなかった。
しかし、この状態では子クールマを親クールマへ届ける事など不可能だ。
CH-47JA チヌークへ乗せて運ぶ予定だったが、こんなにも激しく動き回るとなるとチヌークが墜落してしまう。
俺は子クールマに回復魔法を施した事を後悔し始めた。
と、その時、俺の肩に乗っていたケサラが叫んだ。
「主様! 福音が近づいて来るのです!」
「福音? ケサラ、それは何だ? 危険じゃないのか?」
「あちらから福音が来ますです」
ケサラが俺の肩から飛び立ち、"白の広場"の南側へ飛んでいく。
そして、その方向からは大きく真っ白な犬が一匹、こちらへゆっくりと歩み寄ってくるのが見える。
いや、俺はその姿を生前見た事があった。
犬では無く大きな白い狼だ。
そして、その大きく白い狼は女神様の眷族だと女神様から知らされた。
その大きく白い狼の名はフェンリル。
名前は、マーガレット司教から後に知らされたのだが……。
『神宮司様、ご無沙汰しております』
俺に近づいてきた大きな白狼フェンリルは、俺に念話でそう語りかけて来たのだった。
お陰様で『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』、連載開始から一年を経過しました。
今後も宜しくお願いを致します。
舳江 爽快




