人質救出作戦
聖女セレステを交えて教皇らと歓談していると、一人の神官が息を切らせて入室してきた。
「デボネア大司教様! 治癒院を任せていたトレディアが逃走しました!」
「何だと! 直ぐに追っ手を差し向けよ!」
「はい、既にギャラン隊長へ報告しております。聖騎士隊が追跡中です」
「そうか……。教皇様、お聞きの通りです。誠に申し訳ありません」
「治癒院を任せていたトレディアとは、如何様な者か?」
「はい。中々に切れ者でございまして……いや、治癒院を効率よく、運営しておりました」
「そうか、セレステは存じておるか?」
「もちろんでございます。治癒院を訪れる患者を、病状や緊急度に応じて治癒の順番を変えるなど、良い働きをしておりましたが……」
「成る程、お前の目からはどのような感じを持った?」
「特には……。ただ、緊急度の高い患者と言うのが、それ程でも無かったとか、逆に待たされた患者は、もっと急いで治癒すべき患者だったとかが多かったかと思います」
「ふむ、ミスも多かったと言う事か……。それで、そのトレディアがデボネアに助言をしたのだな?」
「はい。治癒院をもっと稼働率を上げるには、新しき聖女も治癒院へ招くべきだと……」
「他には?」
「は、はい。マーガレット司教は、新しき聖女を使って、教皇の座を狙っているとも……」
「愚かな事を……。それで、お前はそれを真に受けたのか?」
「は、はい。申し訳ございませんでした」
スタリオン教皇に指摘され、再びデボネア大司教は、その場で土下座の姿勢に移行した。
「デボネアよ。まさかとは思うがトレディアなる者より、付け届けなど受けては居るまいな?」
「……。も、申し訳ございません、教皇様……」
「何を貰ったのだ?」
「き、金子を……」
「その金子、己の私腹としたのか?」
「は、はい……」
「何時からだ?」
「三月ほど前からでございます……」
「……お前も、賄賂と知りつつ私腹を肥やしていたのだな」
「……」
デボネア大司教は、土下座したままの姿勢で、無言のまま頷く。
「セレステ、まさかそなたは、この事を知って居ったのでは有るまいな?」
「め、滅相もございません、教皇様。デボネア大司教やトレディア院長からは、何も聞いておりません!」
「うむ、そなたの知らぬ事、あい判った。どうやら、黒幕はトレディアらしいな」
「デボネア大司教、他に知っている事はありませんか?」
「はい、マーガレット様。……トレディアに治癒院を任せたのは、治癒院の効率化という提案をしてきたからでございます」
「その提案で、彼を院長に?」
「はい。そして彼に任せてから見事に治癒院の混雑が、一気に減ったのでございます」
「そして、彼から賄賂が届くようになったと」
「は、はい。そうでございます」
「確かに、トレディア院長が着任してから、治癒院の混雑は大きく減りました。私以外の回復師や治癒師も、それまでとは、比べられない程に休憩も取れるようになりましたし……」
デボネア大司教や聖女セレステの話を聞いていると、何かが引っかかる。
確かに、混雑していた治癒院を効率化した功績は有る。
しかし、その結果だけでも十分な働きなのに、何故デボネア大司教に賄賂まで渡す必要が有ったのか。
と、その時だった。
聖騎士が部屋へ入ってくるなり叫んだ。
「逃走中のトレディア院長が、孤児院へ立て籠もりました!」
「なんだと!」
「孤児達を人質にとっており、手が出せません!」
「なんと、卑劣な……」
「自分達も、出動しましょう」
「使徒様が……」
「お任せください。子供達には危害を加えさせません。絶対に」
「お願い致します……。孤児院への案内は、聖騎士達にさせましょう」
「お願いします。よし、全員、出動だ」
「「「「「はい!」」」」」
「ジョー、俺達も行くぜ」
「お願いします」
「儂も行ってやろう」
「テンダーさん、ここでマーガレット司教と待っていて……」
「儂も行くぞい」
「……はい。では……」
「コロニ、君はマーガレット司教と、ここで待っていなさい」
コロニは、皿の果物をフォークで刺して口に運ぶところだったが、俺の方を見てから頷いた。
「コロニとパサラは待ってる」
パサラはそう言うと、再び皿に盛られた果物を食べ始める。
同じ皿の側にいたケサラは、直ぐに飛んできて俺の肩へ止まった。
「マーガレット司教、コロニを少しの間だけお願いします」
「はい、ジングージ様。お気を付けて」
「では、行ってきます」
俺達は、席を立ち部屋を出る。
神殿の広い廊下を抜け、大きな扉を潜り"白の広場"へと出た。
俺は直ちに無限収納から96式装輪装甲車を召喚。
"白の広場"に居た聖騎士や神官達から、「おぉ~!」と驚きの声があがる。
「聖騎士の方、先導してください」
「はい、私が先導致します、使徒様」
「貴方は、ギャラン隊長でしたね?」
「はっ、聖都聖騎士隊の隊長を務めております、ギャランでございます。以後、お見知りおきを」
「では、お願いします。全員、直ちに96式装輪装甲車へ搭乗。ロックとミラは指揮者ゴーレムと飛行装置へ搭乗して、上空にて待機」
「「「「「了解!」」」」」
ギャラン隊長は、部下が引いてきた白馬に跨ると、直ぐに走り出す。
それに続いて部下の聖騎士が四名、彼の後へ乗馬して続く。
俺も直ちに96式装輪装甲車へ乗り込む。
既にナークが操縦席に乗っており、直ぐにギャラン隊長達を追い96式装輪装甲車を発進させる。
車長用のハッチを開き、外を見るとミラが乗り込んだ飛行装置が、ロックの操る指揮者ゴーレムとドッキングをしていた。
そしてドッキングと同時に、飛行装置を背負った指揮者ゴーレムが音もなく上空へと舞い上がる。
"白の広場"に居た聖騎士や神官達は、舞い上がって行く指揮者ゴーレムを見上げる者。
俺達の乗る96式装輪装甲車を呆然と見続ける者。
初めて見るのだから仕方が無いが、その驚いた表情は何とも言えない姿だ。
神殿の大きな扉の前には、スタリオン教皇やマーガレット司教。
そして聖女セレステや、コロニの姿も見えた。
先導するギャラン隊長達の馬は、かなりの速度で聖都の広い通りを駆け抜けて行く。
96式装輪装甲車は、彼らに接近しすぎない速度で、その後へ続く。
大通りの両側には、多くの人々が立ち止まってこちらを見ている。
馬車や荷車は、ギャラン隊長達の指示によって、両脇へと止められてまるで96式装輪装甲車が緊急車両のようだ。
まあ、事態が急を要する事件なので、緊急車両である事は間違いない。
暫く先導するギャラン隊長達の後を走って行くと、聖都を囲む城壁が見えて来る。
その城壁の手前に、木々が植えられた公園のような場所が見えた。
その公園のような場所の奥には、二階建ての比較的大きな建物が建っている。
そして、その建物を取り囲むように大勢の聖騎士が居る。
どうやら、あの建物が聖都の孤児院らしい。
遠くからだと公園のようにも見えたが、そこは畑になっていた。
どうやら孤児院の菜園だったようだ。
ギャラン隊長の馬が止まり、部下達も馬を止めで下馬する。
俺達も、そこへ到着し96式装輪装甲車を停車させ、直ぐにナークが後部ハッチを開けた。
俺も車長席から降りて車外へ出る。
この場所からなら、孤児院の全ての窓が見えるので、狙撃地点としては申し分無い。
「アンは、96式装輪装甲車に残って狙撃の準備」
「判ったよ」
「指示は、ハンディー・トランシーバーで行うので、待機してくれ。他の者は直ちに下車」
「「「「「了解!」」」」」
俺の指示で、アンは96式装輪装甲車の天井に昇ってから、愛銃の対物狙撃銃バレットM82A3の二脚を開いてセットする。
他の者は、各々の装備を手にして孤児院へと走っていく。
ギルさん達"雛鳥の巣"の三人も、遅れる事なく一緒に走る。
ただひとり、ゆっくりと歩いて行くのは、もちろんテンダーのおっさんだ。
その表情は、なんだか楽しそうに見える。
テンダーのおっさんにしては、珍しく技術関係では無い事なのに、何で楽しそうなのか俺には判らない。
孤児院の上空には、既にホバリング態勢をとっている指揮者ゴーレムが浮かんでいた。
その右手には、火、水、風の魔石が埋め込まれた巨大な魔剣も既に握られている。
相手を殲滅するだけの攻撃なら、指揮者ゴーレムの攻撃だけで建物もろとも破壊できる。
しかし、今回のような人質を取られての立て籠もりでは、それも出来ない。
なんとしても、孤児院の子供達を無傷で救出しなければ……。
俺は、この状況をどうすれば良いか、孤児院の建物を見つめながら救出作戦を考えるのだった。




