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慈愛の光

 傅いた修道女は、何も言わずに俯いたままだ。

 スタリオン教皇やマーガレット司教も言葉を発しない。

 それまでは、小声だったが会話が聞こえていた部屋が沈黙に包まれている。

 どうやら、俺が何か言わねばならない雰囲気だ。


「お立ち下さい、セレステさんでしたか……。自分は、スベニの冒険者でジョー・ジングージと言います。宜しくお願いします」

「め、女神様の使徒様、私はセレステにございます。お初にお目に掛かり光栄でございます」


 そう言うと、聖女セレステは、すくっと立ち上がり、深々と頭を下げる。


「セレステ、マーガレットの隣に座らせていただきなさい。宜しいでしょうか? ジングージ様」

「はあ、どうぞ、遠慮無くお座り下さい。自分は部外者、特に自分の許可は不要です」

「有り難うございます。それでは……」


 そう言うと聖女は、マーガレット司教の隣へ座る。


「大変にご無沙汰しております、マーガレット様」

「元気そうで何よりです、セレステ。また、聖女としての活躍、私も嬉しく思っておりますよ」

「恐縮です。これも、マーガレット様の教えのたまもの、有り難うございます」

「貴方の努力の成果です。女神様に感謝するだけで良いのですよ」

「はい……」


 どうやら、マーガレット司教とは面識があったようだ。

 そんな話をしながら、俺や"自衛隊(ジエータイ)"、"九ノ一(くのいち)"の方を聖女が見回す。

 聖女セレステの瞳はスカイブルーで美しく澄んでいる。

 頭髪の色は、頭に被っている頭巾のようなベールで判らない。

 顔立ちは端正で歳の頃は20歳前後だろうか。

 その彼女が、一人の仲間をじっと見つめた。

 それはミラ。


「貴女が、噂で聞く新しき聖女でしょうか?」

「は、はい、セレステ様。ミラ、ミランダと申します」

「やはり……。貴女の身体から慈愛の光が漏れているのを感じます」

「えっ? そうなのですか?」

「はい。恐らく、貴女の力は私と同じ、いえ、私を上回っているかもしれません」

「そ、そんな……。私はまだまだ修行の身、セレステ様の足下にも及びません」

「セレステさん、貴女も神眼・真眼をお持ちなのですか?」

「いいえ、使徒様。私には教皇様やマーガレット様の神眼はありませんが、慈愛の光の強弱を感じる事ができます」

「慈愛の光の強弱ですか……。その強弱で、回復や治癒の力が決まるのですか?」

「はい。ただし、回復、治癒の力が無くとも、慈愛の光は誰しもが少なからず持っております」

「なるほど……慈愛の光ですか……」

「ジングージ様、何か?」

「はい、以前に悪魔(デーモン)族との遭遇で、どうやら弱点が光の結晶だったのですが、ミラに近づいて弱体化した原因は、光の結晶だとばかり思っていたのです。どうやら、それだけでは無かったのかなと」

「悪魔族? それは、魔族の……」


 スタリオン教皇は、そこまで言うとナークを見て、口をつぐむ。


「悪魔族は魔族とは無関係です。邪悪な一族で魔王の復活を企んでいるようです」

「なんと、魔王復活を……」


 俺は悪魔イニットとの戦いを撮影した動画を再生し、教皇に見せた。

 そして、タースで起きた傭兵反乱事件の顛末を話す。

 そして最後に無限収納(インベントリー)から悪魔イニットの残した漆黒の魔結晶も見せる。

 すでにマーガレット司教は詳細を報告していたのだが、悪魔族の存在は知らなかった。

 同様に、スタリオン教皇も悪魔族に関しては、全くその存在を知らず初めて知ったと言う。

 そして最後に、巨大な白の魔結晶、いや光の宝珠を無限収納から取り出した。


「おおぉ~、なんと巨大な光の宝珠……」

「こ、これほどの光の宝珠が存在していたのですか……」

「このジングージ宝珠を初めて見た時、私も驚きました。そして、この宝珠によりミラが覚醒したのです」

「素晴らしい。この宝珠、いやジングージ様の宝珠、マーガレットが管理しておるのか?」

「はい、兄上様。ジングージ様よりお預かりしておりましたが、今回、使者達が略奪したのでございます」

「な、なんだと! 使徒様の宝珠を略奪だと!」

「ああ、もう取り戻したので構いません。彼らには罰も与えましたし」

「知らぬ事とはいえ、申し訳ございませんでした、ジングージ様。お許し下さい」


 スタリオン教皇は、そう言うと深々と頭を下げた。

 それに合わせるように、配下の神官たちも椅子から降りで土下座をする。

 この異世界にも、土下座があったのか。

 俺は彼らに椅子へ座るように言い、スタリオン教皇も頭を上げる。

 

「この光の宝珠の力で悪魔族はスベニに近づけなかったようです」

「使徒様、この光の宝珠からも慈愛の光が発せられております」

「なるほど、と言うことは慈愛の光が悪魔族を弱体化させるのかもしれませんね。回復魔法や治癒魔法を使うと、光るのは知っていましたが、それとは違うのですよね?」

「はい、私には、全く違った光に見えます。ジングージ様の宝珠、触っても宜しいでしょうか?」

「構いませんよ、何なら回復魔法を発動してみてください」

「有り難うございます。それでは、失礼して……」


 セレステは、光の宝珠へ手を触れ目を閉じる。

 ほんのりと頬がピンク色に染まり「ぁっ……」と吐息を漏らす。


「我らが主神、フノス様へお願い申し上げます。女神様の下僕の私めに、回復のお力をお貸し下さいまし」

周辺(エリア)回復(ヒール)!」


 聖女セレステの周辺回復魔法により、光の宝珠が発光。

 セレステの身体も光り輝き、部屋を光が覆い尽くす。

 同時に、身体の疲れが一気に吹き飛ぶ。

 流石に聖女による回復魔法だ。

 それは、ミラによる回復魔法に、勝るとも劣らぬ力だった。


「す、凄い力です……このような光の結晶の力、聞いたことも見たこともございません」

「そうなのですか。自分は、単に魔力の持続時間の違いだとばかりだと思っていました」

「確かに光の結晶の大きさによって、治癒術の回数が異なりますが、一度に施す治癒術の強弱にも影響します。ただし、それは使い手の能力に比例します」

「なるほど、聖女であるセレステさんが使えばという条件付きなのですね」

「……はい。私に限らず、ミラさんでも同じでしょう」

「わ、私は、その光の宝珠の親子結晶となる、この光の宝珠を使っておりますので……」

「それは、この光の宝珠の子結晶なのですか?」

「はい、ジングージ様に賜りました」

「それで、貴女に慈愛の光が……羨ましいですわ、ミランダさん」


 聖女セレステが胸に下げている光の結晶は、ビー玉程度の大きさだ。

 対してミラの下げている光の結晶は、数倍大きい。

 どうやら、慈愛の光の大もとは、巨大な白の魔結晶、ジングージ宝珠に有るようだ。

 慈愛の光が悪魔属の弱点だとすれば、これまでの辻褄が合う。

 単なる光の結晶が弱点では無かったようだ。


「ならば、この巨大な光の結晶、セレステさんへお預けしましょう」

「えぇ! そ、そんな大それた事……」

「それは良いお考えですね、ジングージ様」

「マーガレット司教も、そう思いますか?」

「はい、ジングージ様の宝珠、聖都で管理して頂くのが宜しいでしょう。セレステならば、問題無く使いこなせますし」

「よ、良いのか!? マーガレット?」

「はい、ジングージ様の御心は、女神様の御心ですわ、兄上様」

「あのう……ただし条件があります」

「何でございましょう? 使徒様?」

「えっと、名前をジングージ宝珠から、他の名前に変えて……」

「それな成りませぬ、ジングージ様!」

「もちろんですとも、使徒様。マーガレットの言うとおりでございます」

「わ、私も使徒様のお名前を頂いた宝珠の方が、良いかと存じます」

「却下ですか……。判りました、それでは、この光の宝珠は、聖都で管理して下さい。そして、宝物として出はなく、セレステさんが実際の治療に役立てて使うと言うのが、自分の願いです」

「御意!」

「あ、ありがとうございます、使徒様。これで、今よりも多くの方々を治療する事ができます」

「これが役に立つなら、それで良いのですが、名前は出来るだけ言わないで下さい」

「それでは、外部の者には使徒様の宝珠と申しましょう」

「……それは、止めておいてください。自分は女神様の使徒という自覚が無いので……」

「そ、そうですか、残念です」


 俺の斜め前に座るマーガレット司教と目が合う。

 マーガレット司教はにっこりと微笑む。

 俺も、それにつられて笑ってしまう。

 これで、光の宝珠の警護から解放されるという思いが伝わって来た。

 そう、厄介払いだ。

 この聖都ならば大勢の聖騎士が居るので警備は万全だ。

 どうせ、アリスさんやエリスさん、そしてミラ持つ光の結晶は、光の宝珠と親子なので離ればなれになっていても問題はない。

 そして、ここ聖都で聖女のセレステさんが使えば、それを目指して聖都へやってくる人々の役にもたつから一石二鳥だ。


 そしてもう一つ。

 ミラが覚醒したきっかけは、この光の宝珠だった。

 この聖都ならば、より多くの"女神様の祝福"を持ちながら、未だ覚醒していな修道女見習いも多いだろう。

 その未覚醒の修道女達の中から、第二、第三のミラ、即ちより多くの聖女が覚醒する可能性もある。

 あるいは、回復や治癒の魔法を覚醒する可能性もあるから、この聖都へ奉納した方が良いのだと思う。

 そう言う事も想定して、マーガレット司教は心から喜んでいるのだろう。

 慈愛の光。

 それは宝珠が放つだけではなく、マーガレット司教からより強く発せられているように、俺には感じられたのだった。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

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