帰還
俺の操縦するCH-47JA チヌークは、快適に巡航速度の200Km/hで飛行している。
そして、ロックとミラの操っている、指揮者ゴーレムと、その背中に合体している飛行装置も、チヌークに速度を合わせて少し前方をゆっくり飛んで行く。
もちろん、俺達の向かっている場所は、懐かしの我が家が有る自由交易都市スベニなのは、言うまでも無い。
古代遺跡都市とスベニの間には、かなり高い山脈があるので、その山脈を東へ迂回してから、現在は大河に沿って北上するコースを飛行中だ。
指揮者ゴーレムと飛行装置だけなら、山脈を越えて直線距離での飛行も問題無いだろが、チヌークでの山越え飛行は、少々不安もあったので、迂回コースを選ぶ事にした。
『ロック、ミラ、異常はないか?』
『はぃ、ジョーさん。特に問題は有りません。順調そのものですよ』
『こちらも順調だ。もう少しでスベニが見えて来る筈だから、そっちは先行して行くか?』
『はぃ。そぅですね……ミラ、どぅする?』
『ジングージ様、お兄ちゃん。このまま一緒に帰りましょう。スベニの皆様に、一緒の姿を見て頂きたいです』
『そうだな。一緒に帰って、飛べる様になった指揮者ゴーレムの姿も、皆さんにお披露目したいな』
『はい。私、そうしたいです』
『そう言う事なので、ロックも良いよね?』
『もちろんです。それでは、この速度を維持します』
『ああ、頼むよ。スベニの上空まで到着したら、街の上空を低空飛行して、何周か旋回しよう。みんな、指揮者ゴーレムが飛ぶ姿に驚くよ』
『それは、楽しぃですね。判りました』
『はい、ジングージ様。教会の皆さんも、驚くでしょうね……うふふふ』
珍しく、ミラが悪戯ぽっく笑っている。
港湾都市イサドイベと、古代遺跡都市の探索で、スベニを離れて既に1ヶ月半が過ぎている。
その間、ミラはマーガレット司教や、教会のアリスさんやエリスさんと離れているので、少し恋しくなっているのかもしれない。
俺達、パーティー"自衛隊"は、パーティー"九ノ一"達の住む家の増築が終わるまで、スベニへは帰還しないで居たのだが、ミラは先に教会へ戻しても良かったのだ。
しかし、指揮者ゴーレムと飛行装置を合体させた状態であれば問題は無いのだが、分離した状態ではミラが操縦しない事には、飛行装置を飛ばす事も出来ない。
そして、ミラも飛行装置の訓練や、指揮者ゴーレムとの合体訓練を率先して行い、帰りたいとは一言も言わないで頑張ってくれたのだ。
今後は、指揮者ゴーレムを飛行させて移動する場合には、ミラがメンバーとして不可欠な存在になってしまった。
事情を話せば、マーガレット司教はミラのパーティー"自衛隊"の活動を優先させてくれるだろうが、俺としては何となく心苦しいところだ。
「……ジョーさん、聞いて良い?」
「なんだい、ナーク?」
「……このチヌークや、アパッチの胴体に描いてある赤い印は何?」
「印? ああ、日の丸の事かい。赤い丸に外側へ白い輪が描いてある印の事かい?」
「……そう」
「あっ、アタイも、それ気になっていたんだよ」
「私もでしゅ。あの印はなんでしゅか?」
「ああ、サクラは知っているんじゃないか?」
「主様、初代様の鉄の箱車にも描かれていたそうですが、私も存じません」
「知らなかったのか。あの日の丸は、俺や西住小次郎大尉殿の母国の国旗だよ」
「……国旗だったの」
「そうだよ。国旗は白地の長方形の旗に、赤い丸だけなんだけど、航空機には白枠の輪に、中を赤い丸で描くんだ」
「へぇー、随分と簡単な国旗だったんだね」
「そうだね。簡単だけど判りやすい。赤い丸は、太陽を表しているんだ。俺達の国は、東の果てにある島国だったから、日出ずる国とも言われてたんだよ。アズマ国もそうだろうけどね」
「……判った」
「主様、それで指揮者ゴーレムの飛行装置の翼にも、赤い丸を描いたのですね」
「そうだよ。飛行措置は、白い翼だったから赤丸だけにしたけど」
「何故、飛行装置にも赤い印を描いたのでしゅか?」
「同じ様な装置が有った場合、識別の印にもなるだろう。まあ、指揮者ゴーレムや飛行装置が、他にも有るかどうかは、今のところ判らないけどね」
「ジョー兄い、偵察者ゴーレムの翼にも描いたのも同じ理由?」
「そうだよ、またアンに打ち落とされそうになると、困るからな」
「あ、あれはアタイ、魔物かと思ったんだよ」
「はははは……。あの時は、俺とロックも焦ったよ。まあ、次からは日の丸が付いた飛行物体は、味方だと言うことさ」
「うん、日の丸の目印、良く判ったよ」
俺は、古代遺跡都市へ滞在中、飛行装置や、偵察者ゴーレムの翼にも、日の丸を描いた。
災害救助物資の中に、赤や白のペイント缶とスプレー缶が有ったので、それを流用させてもらったのだ。
災害救助時に使用するマーキング用のペイントなので、本来の日の丸の赤とは微妙に色合いは異なるのだが、少なくとも日の丸には見える。
指揮者ゴーレムの左の上腕にも、日本の国旗を描いたし、守護者ゴーレムにも同様の場所へ国旗を描いておいた。
アーティファクトのゴーレムは、他にも稼働する物が有るかもしれないので、識別用に描いておいたのだ。
本当は、海外派兵用の戦闘服に装着可能な日の丸が装備に有れば良かったのだが、残念ながらそれは無かった。
また、戦闘車両にも日の丸を描きたかったのだが、無限収納を収納してしまい、再び召喚すると描いた日の丸は消えてしまうので、これも断念した。
召喚する度に、また描くのも面倒なで、これを何とかしたい所なのだが、今だに解決策は無い状態だ。
無限収納の装備に、俺の願望が反映されれば一発で解決するのだが、残念ながらそれは叶わない。
「……ジョーさん、スベニの街が見えて来た」
「おお、やっと戻ってきたな。1ヶ月半しか離れて居なかったけど、やっぱり懐かしいなあ」
「あーっ、中央広場の時計台が見えるよ」
「本当でしゅ。皆さん、お元気でしょうか?」
「よし、高度を落としてスベニの上空で旋回するよ」
「うん、アタイ達の家もみえるかな?」
「ああ、増築してもらった家も見えるさ」
大河の西側に有る自由交易都市スベニの姿は、どんどんと近づいてきて、俺達の眼下に見えてきた。
俺は、チヌークの飛行高度を下げてから、スベニの街を左回りで旋回を始める。
街の道路や中央広場に居る人々は、皆が俺達乗るチヌークや、ロックとミラの乗る飛行装置付き指揮者ゴーレムを立ち止まって見上げていた。
チヌークの姿は、スベニの人々は初めて見るし、ローターの回転音に驚いている人々も多い。
しかし、指揮者ゴーレムの姿は、スベニの住人であれば誰もが知っているが、それが飛行しているので驚いているのだろう。
小さな子供達は、手を振っている。
『よし、ロック、ミラ。誰も居なかったから、警備隊の修練場へ取り敢えず着陸しよう』
『了解です』
『了解しました』
指揮者ゴーレムは、水平飛行からくるりと宙返りをして、着地体勢をとる。
もうロックは、ミラと同じで宙返りまで出来る様になっていた。
俺も、チヌークの高度を更に下げてから、ホバリング体勢をとり徐々に高度を下げ、警備隊の修練場の真ん中へ着陸して行く。
指揮者ゴーレムも、ゆっくりと降下してその巨体を修練場の広場へ足を着ける。
そして、そのまま待機状態の姿勢へと鏡始め、胸の観音扉も開き始め、指揮者ゴーレムの右手が胸の扉へと動いて行く。
俺の操縦するチヌークも、ゆっくりと着陸して修練場の土埃を激しく舞いあげた。
俺達が、修練場へ着陸すると、警備隊宿舎から、大勢の警備兵が此方へ駆け寄って来る。
その先頭は、懐かしいビル隊長こと、ウィリアム大佐だ。
ウィリアム大佐は、俺達に手を振りながら何かを大声で叫んでいた。
しかし何故か、表情が険しい。
何か、嫌な予感が俺の頭を過ぎる。
俺は、直ちにチヌークのエンジンを切り、後部ハッチを開いた。
「よし、到着だ。全員、未だ回転しているローターに注意して、チヌークから降りてくれ」
「「「「「はいっ」」」」」




