ドッキング
ミラが、「浮け!」と命令した直後、飛行装置はもの凄い速度で上空へと舞い上がって行った。
そして、あっと言う間に、遙か上空へと上昇してしまい、その姿は青空に浮かんでいる雲と同化して、空間投影されているビューアの視界からも消えてしまう。
『きゃあ~っ!』
『……うっ! ミラ、停止させて』
ミラの悲鳴と、ナークの苦痛を伴った声が、ヘルメットの中から聞こえてくる。
『ミラ、ナーク、大丈夫か?!』
『ミラ、飛行装置へ止まれと命じて!』
『……大丈夫。今、空中で止まった』
『皆さん、申し訳ありませんでした。こんなに早い速度で浮かび上がるとは、思いもしませんでした』
『良かった、無事だったか……。急加速すると、身体に負担がかかるから、注意してくれ』
『……アパッチの加速とは比較にならない速度』
『ああ、凄い加速力だったな。そのまま降下する様に命令してくれ。あっ、ゆっくりと降下だ。単純に降下と命令すると、地面に激突するぞ』
『判りました。ゆっくりとした速度で降下させます』
俺は、スマートフォンを取り出して、マップ表示の画面へと切り換える。
俺達の居る場所から、少し東側の方でミラとナークを示す○印が重なって表示されているのが確認できた。
平面表示なので、高度までは確認出来ないが、無事なので問題無いだろう。
完全な垂直上昇では無かったの様だが、これはどう言う事なのか。
考えられるのは、この惑星の自転によるものか、或いは魔結晶の機能が重力を遮断したため、惑星の遠心力によって東へ飛ばされたのか。
いや、惑星の自転によって、飛行装置が取り残されたのだとすれば、西側へ移動する筈だから、やはり惑星の遠心力による影響かもしれない。
何れにしても、浮遊だけだと完全に垂直上昇はしない様だ。
『ナーク、スマートフォンで地図表示をして、俺達の居る場所まで飛行できるか?』
『……待って、今調べる』
『頼む。此方では、そちらの位置は確認出来ている』
『……見えた。ミラさん、そのまま前進しながら、90度方向転換して』
『はい、ナークさん。やって見ます』
『ミラ、ゆっくり前進させて』
『はい、ゆっくりと前進……。右方向へ向かって前進……』
『……その調子。上手よ、ミラさん』
『はい。あっ、古代遺跡都市が見えてきました』
『ああ、こちらでも肉眼で確認できた。上手いぞ、ミラ』
『ミラ、頑張って。焦らずに念じるか、命令するのがコツだよ。僕も最初は指揮者ゴーレムを何度も暴走させたけど、慣れれば大丈夫だから』
『うん、お兄ちゃん、判った』
ミラとナークの搭乗している飛行装置が、俺達の立って居る上空へと舞戻ってきた。
高度は、100m位だろうか、かなりの低空飛行だ。
しかし、初めての操縦で、これだけ安定して飛行させられれば、上出来だ。
やはり、ロックが言う様に、命令の匙加減のコツさえ飲み込めば、後は自動運転の様に制御出来るのだろう。
俺が、初めてドローンを無線コントロールした際も、制御用のスティックを動かす匙加減が掴めず、機体が急激に姿勢を崩しドローンが墜落してしまった事を思い出す。
俺もドローン制御の経験が、実機であるAH-64D アパッチ・ロングボウの操縦にも役に立っているので、何事も経験の積み重ねが大事なのだ。
『ミラ、お帰り。そのまま古代遺跡都市の上空を、自由に飛び回ってくれ。速度だけは注意してな』
『はい、やって見ます』
ミラは、そのまま飛行装置を飛ばし続け、上昇や下降も行っている。
ヘルメットの通信音声から、ナークがアパッチ・ロングボウの飛行訓練の際に、俺から言われた内容を、そのままミラに教えている。
やはり、アパッチ・ロングボウの飛行訓練の成果が出ている様で、俺としても嬉しいナークの飛行教官ぶりだ。
それから、一時間近くミラは飛行装置を飛ばし続け、かなり自由に操縦できる様になってきて、高速飛行から急停止して、その場でホバリングしての空中停止もやって見せる。
飛行速度も、慣れてきた所で高速飛行をやってみている様で、その加速速度が凄かった。
元の世界で言えば、空自のF-15並みの速度で古代遺跡都市の上空を通過して見せる。
それでも、最大速度では無い様なので、恐らく音速を超える速度を、あの飛行装置は出せる様だ。
指揮者ゴーレムと合体した際、その速度が維持できるとは思えないが、単独飛行であれば音速を超える事が出来るのは、凄い性能であり古代人のアーティファクトの素晴らしさを、まざまざと見せつけられた。
そろそろ、時間もかなり経過したので、最後の訓練として、指揮者ゴーレムとのドッキングを行ってみる事にする。
このドッキングに関しては、俺にも全くアドバイスが出来ない機能だったので、ロックとミラに任せるしか無い。
『ロック、ミラ。それじゃ、最後に指揮者ゴーレムと飛行装置の合体を練習してみてくれ』
『はぃ、ジョーさん。僕も初めてなので慎重にやってみますね。ミラ、飛行装置の体勢を変ぇてくれるかぃ? 機首を空に向けるんだよ』
『うん、お兄ちゃん。やってみるね』
『ゆっくりだよ。指揮者ゴーレムの上まで飛行してきて、そこで飛行装置の姿勢を変ぇるんだ』
『今、指揮者ゴーレムの真上に来たよ。これから姿勢を変えるね』
ロックとミラの兄妹は、慎重にドッキング作業の準備に入る。
ミラが飛行装置を、指揮者ゴーレムの上空50m位まで高度を下げ、そのままホバリング体勢を取った。
ロックは、指揮者ゴーレムの両腕を水平方向に伸ばし、両脇を開けて待機状態になる。
右腕には、巨大なレールガンを持ったままだ。
ミラの操縦する飛行装置は、ホバリングのまま機首を上空へと、ゆっくり持ち上げている。
そして、完全に飛行装置が垂直になってホバリングを行っている状態になると、ロックとミラが同時に命令を発した。
『『合体!』』
ミラの操縦する飛行装置の姿は、指揮者ゴーレムの後方へと回り込んでしまい、空間投影されているビューアの死角となり、もはやその姿は見えなくなっている。
予め、偵察者ゴーレムを一体、待機させておけば良かったと悔やむが、後悔先に立たずだ。
少し間を置いてから、指揮者ゴーレムの身体が「ガシーン!」と言う音と共に、激しく揺れた。
どうやら、飛行装置が指揮者ゴーレムの背中部分へドッキングした様だ。
果たして上手く、正常にドッキング出来たのだろうか。
すると、俺の座っているシートの後ろ側から、何かが開閉する様な音が聞こえて来る。
俺は、座席にシートベルトで固定していた身体を曲げて、後方を振り返った。
ロックも同様に、座席越しに、後方を振り返っている。
指揮者ゴーレムの背中部分は、外側へと小さな扉状に折れ曲がって行き、人一人が潜れる位の四角い穴が二つ空いた。
そして、その穴からはヘルメットの通信音声ではなく、生の声でミラとナークの声が聞こえて来たのだ。
「お兄ちゃん、上手く合体できたよ!」
「……合体した瞬間、飛行装置の搭乗口の床が開いた」
俺は、座席のシートベルト外し、背中に空いた下側の横穴へ身体を潜り込ませる。
そして、俺が頭を上げると、そこにはナークの両足が有った。
「……ジョーさん、そこは良くない」
「悪い……。まさか、こんな形で指揮者ゴーレムと飛行装置が繋がるなんて、思いもしなかったんだ。ごめん……」
どうやら、指揮者ゴーレムと飛行装置が合体すると、互いの搭乗員が行き来出来る様な構造になっていた様だ。
そう、指揮者ゴーレムの背中には、飛行装置専用の裏口が装備されていたのだ。
俺は、少し顔が赤くなるのを感じながら、再び指揮者ゴーレムの座席へと戻り、そのままシートベルトを再び締め直す。
よし、これで指揮者ゴーレムと飛行装置の合体が完了した。
後は、合体した形態での指揮者ゴーレムの飛行を試験し、レールガンの試射を行っておけば、雷竜の迎撃準備が調うのだ。
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『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』
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舳江爽快




