ミラの決意
ミラの声で、俺とロックは直ぐにミラの元へ走って行く。
ミラは、突然開き壁の中から現れた大きな棚に、驚きを隠せない様子だ。
「この壁は、先ほど僕も触ったのですが、開きませんでした」
これは、どう言う事だろうか。
俺は少し考えてから、ある結論にたどり着く。
「ミラ、もう一度、壁の横を触ってみてくれる? 閉じろと念じながらね」
「はい……。閉じました」
「ロック、触ってみてくれないか?」
「はぃ。……駄目ですね。開きません」
「それじゃ、ミラ、開けてみてくれ」
「はい。……開きますね」
「これも、古代人が作った安全装置の一種だな。一人では、強力な神鉄製の弾丸を取り出せないんだ」
「成る程。この地下室へ入るのにも、僕とミラ二人で壁を触らなぃと開きませんでしたからね」
「ああ、そして多分だけど、あの電磁砲の発射にも、同じ様な安全装置が仕掛けてあると思う」
「ぇぇっ! それって、僕一人では、ぁの銃を撃てなぃと言ぅ事ですか?」
「そうなるな。俺の居た世界でも、強力な攻撃兵器を搭載した船の場合、必ず二人で無いと発射出来ない仕組みになっていた」
「……それで、指揮者ゴーレムの乗員用座席が、三つも有った訳ですか」
「そうだ。それと、飛行装置を操るにも、ロック一人では出来ないんじゃないか?」
「どぅしてですか……? 守護者ゴーレムや偵察者ゴーレムは、指揮者ゴーレムから操れるし、命令さぇしてしまぇば単独でも動きます。だから、飛行装置も同じだと思ぅのですが?」
「いや、何となく古代人の用心深さを考えると、そんな気がしたのさ。試験してみないと本当の所は判らないけど、それだけ、あの電磁砲の破壊力が高いと言う事さ」
「そぅですか……。僕は、ミラに乗って欲しくは有りませんけど、ミラはどぅなの?」
「お兄ちゃん、私は構わないよ。司教様にも、人々を救うための戦いなら、貴女も戦う覚悟は持ちなさいと言われているの」
「ミラ……。司教様は、そんな事まで見越されてぃたんだね」
「戦うのは怖いけど、お兄ちゃんだけに背負わせるなんて、私は嫌なの」
青い髪と青い瞳をした兄妹は、お互いの顔を見つめ合い、そして、二人で頷き合った。
ミラも強い信念を持っているし、マーガレット司教が、ミラを俺達に同行させている理由を、改めて知る事になる。
俺は二人だけの話しを邪魔をしない様に、棚の中を調べてみる事にした。
棚の中には、レールガン用の弾倉が二種類積まれており、片方は神鉄製で残りは鋼鉄製の弾丸が詰められているマガジンの様だ。
マガジンの色は、それぞれで異なっておりマガジンの素材自体も、それぞれ神鉄と鉄で出来ている様に見える。
更に、手の届く棚には、明らかに航空用のヘルメットと思われる、フルフェイスのヘルメットが5個置いてあり、その下には真っ白なユニフォームらしき航空機専用と思われる衣装まで置いてあった。
「ジングージ様、大変失礼しました。もう大丈夫です」
「本当に、良いのかい? ミラ」
「はい。私も戦います。皆さんと一緒に」
「ありがとう、ミラ。君の決意を俺は尊重するよ。それじゃ、早速で悪いけど、この棚の装備品の情報を引き出してくれないか?」
「はい。ただ今」
「僕もやってみます」
ミラとロックは、棚に積まれている装備品に掌を当て、それらの情報を頭の中に流し込んでくれる。
「この弾倉には、なんと百発の弾丸が装填されています。収納鞄の魔法と同じ原理の様です」
「百発とは凄いな。神鉄の弾丸も鋼鉄の弾丸も同じ?」
「はい。同じ百発です」
「この兜は、飛行装置を操る際に使用する様です。同じ様に服も専用の服で空気が薄くなっても身体を守ってくれる様です」
「気密服だったのか、凄いな」
「……あたし達が、アパッチに乗った時、着替えたのと同じ?」
「そうだよ、ナーク。最もあの服には気密機能は無いから、この服の方が凄いけどね」
「……何故、違うの?」
「それは、飛行速度と、上昇可能な高度が全く違うからだろうな。飛行装置の方が、どちらも優れているんだと思う」
「……そう」
ナークは、納得しきれていない様だが、それ以上の質問は来なかった。
取り敢えずは、指揮者ゴーレムの装備は、これで全て揃ったので必要な作業を行う事にする。
先ずは、内装の吸音マットの交換と、座席の交換作業だ。
しかし、どうやって作業をすれば良いのだろう。
幾ら待機状態で低い姿勢を取っている指揮者ゴーレムとは言え、あの胸の操縦席へ何度も上り下りするのは面倒だ。
何処かに、必ず作業用の足場の様な構造物がある筈だが。
俺は、この地下室の床面を改めて見回してみる。
そこには、先ほどまでの何も無かった地下室とは違い、幾つもの黒い線が描かれていた。
飛行装置の置かれている台座の部分からは、一直線に先ほどまで居た地下室へ伸びる黒線があり、開閉式の壁部分で途切れている。
そして、俺達が入ってきた壁があった所からも同じ様に黒い直線が引かれ、その先には楕円形の形が黒線で描かれて居た。
あの楕円形の部分が怪しいと思い、俺はその楕円形が描かれた場所まで行く。
黒い楕円形の線は、その黒線の中心に僅かだが溝が見える。
しかも、描かれている楕円形のサイズは、指揮者ゴーレムの身体がすっぽりと入る大きさだ。
これは、開閉可能な構造になっているか、もしくはエレベーターか。
俺はロックを呼んで、指揮者ゴーレムを動かしてもらう事にした。
ロックは、俺の依頼に応えて、直ぐに指揮者ゴーレムに乗り込み、楕円形の中へと入る。
「ロック、下降と念じてみてくれ」
「はぃ。……ぅわぁ! 床が沈み始めました!」
「やはり、エレベーターだったか。ロック、胸の所まで下がったら停止と念じてくれ」
「はぃ。停止!」
ロックの命令に従い、指揮者ゴーレムの胸の扉の所で、エレベータの下降は止まる。
これならば、簡単に座席や吸音材を交換できるし、他の作業も容易に行えるだろう。
俺達は全員でその作業を行う事にし、以前に俺とロックで内部へ貼った綿入り布団の除去作業を女性陣が行い始めた。
コロニちゃんも、女性陣達を手伝っているので、吸音材の交換は彼女達に任せておいて大丈夫そうだ。
俺とロックは、座席の交換作業と追加作業を行う事にした。
既に操縦席の床には穴が開けられており、ご丁寧にネジ穴になっているので、スパナさえあれば、この作業も難しくは無い。
作業は一時間ほどで完了し、折角ドリルまで発見したので、懸案事項だった無線機用アンテナの取り付けを行う事にする。
指揮者ゴーレムの動きを邪魔しない場所へ無線アンテナを取り付け、操縦室へ広帯域多目的無線機(車両用)を取り付け、車載用バッテリーも乗せたいのだ。
俺は無限収納から広帯域多目的無線機(車両用)を召喚し、操縦席のメイン・パイロット席の後ろ側へ現物合わせで取り付ける。
バッテリーとアンテナは96式装輪装甲車用の物を流用し、指揮者ゴーレムの一番動きを邪魔しない場所として、両肩の後ろ側へ取り付ける事にした。
ロックに整備用エレベーターを指揮者ゴーレムの肩まで下げて貰い、両手持ちの大型ドリルで穴を開ける試みをした。
しかし、このドリルの刃を回転させる力は、一体なんなのだろうか。
少なくとも、魔法では無い別の力だと思われる。
そうで無ければ、俺にはドリルを動作させる事が出来ない筈だから。
そんな事を考えながら、指揮者ゴーレムの肩へ穴を開ける作業を続けたが、流石に神鉄は硬く両肩へ二つの穴を開けるのに、一時間近くも要してしまい汗だくだ。
穴さえ空けば、アンテナの取り付けは簡単だった。
全周波数対応アンテナのマッチング回路が有る基台部分を、そのまま取り付けて基台部分のナットで締め込む。
首の回転の邪魔にならない用に、両肩から斜め後方へアンテナ部分が伸びており中々格好が良い。
後は、内部の同軸コネクタへ同軸ケーブルを繋いで、広帯域多目的無線機(車両用)と同軸ケーブルを接続すれば作業は完了だ。
これで、何時でも無線連絡が可能となるが、俺の無限収納へ格納してしまうと召喚した無線機やアンテナが消え、再び同じ作業を繰り返さねばならない。
この無限収納の仕様、何とかならないものだろうか。
飛行装置への無線機搭載は、今回は見送る事にする。
何故ならば、ドッキングを行うのであれば、必ず指揮者ゴーレムと飛行装置間での通信機能を装備している筈だと推測したからだ。
加えて、飛行装置のキャノピーは、透明素材だったので無線電波を通すと思われたので、ハンディー・トランシーバーでも通信が可能だろうと考えた。
さあ、後は飛行装置のテスト飛行と、指揮者ゴーレムとのドッキング、そしてレールガンの試射を行えば、雷竜への防戦体勢が調う事になる。




