飛行装置
「この電磁砲が、雷竜に対して有効な攻撃を加えられるのかどうかは、全く未知数だけど強力な兵器なのは間違いないよ」
「古代人達は、このアーティファクトを使ぅ事無く、この都市を捨てて避難したんですよね」
「ああ、だから動作試験も済んで無いだろから、そもそも使えるかどうかも判らない代物だ。だから、俺達で、この電磁砲の動作試験もしなくちゃならない」
「はぃ。全く同じ形をした銃が、ぁの大きな装置にも一個、装備されぃてますね」
「ロック、あれが人工頭脳に教えてもらった、指揮者ゴーレム最強の装備で、俺達の欲しかったアーティファクトだよ」
「何なのですか? 二つの筒と、短い羽根の様な物が三枚着いてぃますけど……」
「飛行装置だよ。あれを指揮者ゴーレムに装着すれば、空中を自由自在に飛べる……筈だ」
「ぇぇっ! 指揮者ゴーレムが空を飛ぶのですか?」
「そうだよ。古代人達が飛行する雷竜を撃退するには、ゴーレムも飛行できなければ有効な攻撃や対等な戦いが出来ないと考え、指揮者ゴーレムを飛行させるために作り出した究極のアーティファクトだよ」
大きな地下空間の中央に有ったのは、二本の先端の尖った筒を並べた様な形で、二本を繋いでいる中央部分からは明らかに垂直尾翼と思われる三角形の翼が装備されている。
そして、両側の筒の横からは、同様に水平翼と思われる短めの翼が装備されていた。
更に片側の翼の下側には、レールガンと思われる銃が装着されているのだが、形状は先ほど見たレールガンと全く同じで、指揮者ゴーレムが握るためのグリップも装備されている。
成る程、恐らくこの飛行装置単独でも、レールガンの発射が可能な様になっていて、両翼の下側へレールガンが装着出来る構造になっているのだろう。
その両翼の構造は、AH-64Dアパッチ・ロングボウのスタブ・ウイングに装備されている兵装パイロンと全く同じで、古代人の残したアーティファクトの先進性を物語っている。
俺は、飛行装置と思われる巨大なアーティファクトの元へと行き、構造を調べて見る事にした。
二つの筒の後部には、噴射口と思われる開口部があり、中を覗き込んでみると、緑色をした巨大な魔結晶が、どちらの筒の中にも装着されている。
調べれば調べる程、良く考えられた推進装置だ。
風の魔結晶を用いて、それをジェット推進の代わりにしている訳か。
そして、二本の筒の間を繋ぐ部分には、複数の青緑の魔結晶が装備されており、これで重力を制御して重い指揮者ゴーレムの体重を無くしてしまい、容易に飛行させる事が出来る訳だ。
三枚の安定翼は、水平飛行を安定して行うには不可欠なので、納得できる構造となっている。
緑の魔結晶によるジェット推進もどきを切り、青緑の魔結晶によって自重を相殺していれば、ホバリング状態も維持できる筈だ。
更に二本の筒を繋いでいる部分には、明らかにキャノピーと思われる操縦席まで有った。
操縦席は、縦列式の複座で二名が乗れる構造だ。
この飛行装置は、恐らく有人制御によって戦闘機としても単独運用出来るに違いない。
「ロック、この飛行装置に手を触れてみてくれないか?」
「はぃ、判りました」
ロックは、指揮者ゴーレムの飛行装置と考えられる装備へ静かに掌を当てる。
すると、巨大な二本の筒と、三枚の翼が少しだけ光り輝き、そして直ぐに光は消えた。
「ジョーさん! 使ぃ方が頭の中に流れ込んで来ました! 飛べます。指揮者ゴーレムは飛行できるんです!」
「やっぱりな……。この飛行装置、単独でも飛べるだろう?」
「はぃ! 単独飛行も出来ますし、アパッチ・ヘリコプターみたぃに空中浮遊も可能ですよ。凄いです!」
「レールガン……電磁砲に関しての使い方は?」
「ぃぃぇ、銃に関しての使ぃ方は、判りません」
「それじゃ、電磁砲にも手を触れてみてくれ」
「はぃ、飛行装置に装着してぁるのには、僕の手が届かなぃので、ぁちらの銃にしますね」
「ああ、頼む」
ロックは、指揮者ゴーレムの飛行装置から離れ、レールガンが単独で置かれてある場所まで走って行く。
そして、そのまま勢いよくレールガンへ手が届く部分、それは小銃で言えばストックに相当する部分へ掌を押し当てた。
「銃の使ぃ方が判りました。小銃と同じですね。引き金を引くだけですが、連続発射間隔が、小銃よりも長い時間を要します」
「どの位の弾丸発射間隔なの? 後、弾倉に入っている弾丸の数と詳細が判るかい?」
「弾丸発射間隔は10秒です。弾倉に装填されている弾丸数は10発で、材質は鋼鉄ですね」
「そうか、弾丸は神鉄製かと思ったけど違うのか……」
「ジョーさん、神鉄製の弾丸も有る様です。探してみましょぅ」
「やっぱりな。雷竜を相手にするなら、鱗と同じ強度を持った神鉄製の弾丸が必要だろうからな」
「そぅですよね」
俺とロックは、対ドラゴン用となる、神鉄製のレールガンの弾丸を探し回る。
恐らく、レールガンの試験用として装填してある弾丸は、鋼鉄製だったのだろう。
古代人にとっても、神鉄製の弾丸は、そう簡単に量産は出来ない貴重品だったのかもしれない。
「……あたし達も探す」
「はい、ナークさん、探しましょう」
ナークがそう言うと、ミラも頷いて神鉄製弾丸が装填されたマガジンを探し始める。
それを見ていたコロニちゃんも、二人の探し回る所へと走って行き、一緒に辺りを探し始めた。
ケサラとパサラの妖精コンビも、辺りを激しく飛び回っているので、レールガンのマガジンを探してくれているのだろう。
しかし、何処にもマガジンらしい姿は無く、組み立て工具の様な道具ばかりが目に付く。
そんな中、大量の布団の様な山が俺の目を引きつけた。
黒い布製で出来ている様で、厚みは5cm位なので、本当に布団の様だ。
恐らくだが、この布団状の物は、指揮者ゴーレムの吸音用内装に違いない。
指揮者ゴーレムの弱点だった、外部からの打撃音が内部で共鳴してしまうのを防いでくれる素材だ。
今は、俺が提案して本物の綿入り布団を内部に貼り詰めて有り、少なからず共鳴効果を防いでいるのだが、専用の吸音素材ならば効果は更に高いだろう。
そして、恐らくセイレーンの歌声による攻撃さえも、この素材ならば防いでくれる筈だ。
そうでなければ、雷竜を迎撃する際に操縦者がセイレーンの歌声で精神攻撃を受けてしまう。
黒い布団状の吸音マットの横には、指揮者ゴーレムの座席シートが三つ置かれていた。
予備のシートとは思えないし、ひょっとすると指揮者ゴーレムは、本来は三人乗りだったのか。
そう言えば、操縦席の床部分には、不自然に穴が沢山開けられていたので、この座席シートを取り付ける穴だったのかもしれない。
座席シートには、現在の座席シートと異なり、4点式のシートベルトまでもが装備されている。
これが正式な座席シートだとすれば、飛行を行う場合にはシートベルトは必須のアイテムとなるので、この座席シートへ改装しなければならないだろう。
沢山の工具類が入っている箱には、俺の良く知る工具に似た形状の物が多い。
他種のレンチやドライバーに始まり、ペンチなども有る。
そして、俺の目に付いたのは、明らかにドリルと思われる両手持ち形状の銃型をしている大きな道具だ。
その先端には、俺の知るドリルの刃と同じ、螺旋型をした錐が取り付けられている。
恐らく、素材は神鉄で作られていると思われる色合いをした刃を持つ錐だ。
これならば、指揮者ゴーレムの途轍もなく硬い身体にも、もしかすれば穴が開けられるかもしれない。
その時、ミラが俺達の方へ向かって大きな声で叫んだ。
「ジングージ様! この壁を触ったら壁が開きました。中の棚に、弾倉らしき箱が沢山積まれております!」




