人工頭脳
俺が新たな地下室へ一人で入室すると、中央に鎮座している巨大な構造物が、それまでのランダムな魔結晶の光の様な輝きとは一変して、規則正しく流れるネオン・サインの様な輝きになる。
この巨大な構造物は、一体何なのだろうか。
この構造物は、円筒形をしており、複数の円柱が重なっている様に見える。
そして、その円柱の周囲を、多数の光る魔結晶の様な物が点滅を繰り返す。
その光は、不規則に点滅を繰り返したかと思えば、今は規則正しい右から左へと流れる様な点滅だ。
俺は、この光が何かの演算を行っている様にも思えた。
(これは……コンピューターなのか?)
俺がそう考えると、驚いた事に俺の思考へ何者かが、俺の頭の中へ直接答えたのだ。
『コンピューターとは何か? 答えよ』
(うっ! 俺の思考を読み取ったのか?)
『そうだ、お前の考えを読み取っている。改めで問おう。コンピューターとは何にか?』
(コンピューターとは、人が作り出した演算装置だ。電子計算機とも言う、電子回路で構成された論理回路の機械だ)
『理解した。我も主によって作られた頭脳だ。お前が言うコンピューターと同種の存在だ』
(主とは?)
『この都市を築き上げた方々だ。既に、この街には居らぬが、何時か帰還するのを我は待ち続けている』
(どの位の時間、待っているのだ?』
『1208年と8ヶ月24日、13時間58分24秒経過した』
(無駄に正確だな。……何故、主達は都市を捨てて居なくなったのだ?)
『敵対する勢力の攻撃により待避した』
(敵対する勢力とは?)
『神々だ』
(何故、神々と敵対したのだ?)
『我は知らぬ。我は、この都市の真の管理頭脳では無い』
(真の管理頭脳は、何処に居る?)
『主達と共に待避し、その際、我との接続も切断された』
(お前の作られた目的は?)
『我は、管理頭脳の予備であり、この実験区画の管理と主の助手が主たる業務だ』
(なるほど、お前の名前は?)
『固有の識別呼称は無い。お前の識別呼称は何か? 答えよ』
(俺は、神宮司、神宮司 丈だ。この異世界では、ジョー・ジングージと名乗っている)
『別空間から来た異人種か。遺伝子構造が主らと酷似しているが、僅かに違うのは、それが原因だったのか』
(そ、そんな事まで判るのか……)
『お前の身体は、既にくまなく詳細な走査が終わっている。後は、お前の頭脳の知識記憶を複写したい。許可するか?』
(身体は勝手にスキャンするのに、脳の記憶をコピーするのは、本人の承諾を得るのか?)
『身体の走査は、弊害が無い。頭脳の記憶複写は、持ち主に承諾を得る様に主に命令されている』
(記憶の複写は、何か弊害が有るのか?)
『有る。複写する間、意識が無くなる。加えて、その間に悪夢を見る』
(悪夢? なんだ、それは?)
『最も思い出したくない記憶が蘇るのだ』
(生命に影響は無いのか?)
『無い』
(俺の記憶をコピーする代わりに、お前は俺に何を提供してくれるのだ?)
『何が欲しい?』
(お前の持つ情報だ。特にこの都市の事や、お前を作った主達の事を知りたい)
『良いだろう。禁則事項以外なら教えよう』
(交渉成立だな。その前に仲間へ、この状況を説明したい。俺以外の入室は許可出来ないのだろう?)
『出来ぬ。知的段階が低すぎるので、我を攻撃する可能性が大きい。ただし、あの青い髪の兄妹は、主達の遺伝子構造を90%程度だが復元している。しかし、知識が伴っていないため、論理的思考能力が劣っている』
(成る程、ロックとミラは先祖返りだったのか。しかし、兄の方は指揮者ゴーレムを操れるし、妹の方は回復治癒魔法が使えるぞ)
『兄の方は以前より知っている。我に危害を加えぬなら、それは問題ない。妹は今回、初めて遭遇した』
(俺達は、お前に危害を加えないと約束しよう。最も、先ほどの様に骸骨ゴーレムで攻撃してくれば、話しは別だが)
『小型守護者ゴーレムは、我の命令では無く、個体へ命令が既に書き込まれていたので、自動起動したのだ。それは謝罪しよう。以後は、お前を認識した場合に限り、攻撃をしない様に書き変えて置く』
(それは、有り難い事だ。では、仲間へ状況を説明してくる。少しだけ時間をくれないか?)
『我の動作に時間の長さは影響しない。好きなだけ話して来るが良い』
(まあ、1208年も主を待ち続けているんじゃ、誤差みたいなもんだからな)
『我に時間計測の誤差は無い』
(……いや、冗談だから、真面目に答えないでくれ)
『冗談? 理解しがたい言動だ』
(済まない……。それじゃ行ってくる)
俺は、古代人が作り上げた人工頭脳との念話による会話を中断し、仲間達が此方を注目している地下室への入り口へと戻った。
俺が、無言のままで微動だもせずに立っていたので、皆が心配そうな顔をしている。
「みんな、心配するな。あそこに有る巨大な円筒形の構造物は、古代人が作った人工頭脳だ」
「人工頭脳って、何?」
「うーん、ちょっと説明に困るんだけど、詳しい説明は後でゆっくりするよ。古代人が残したアーティファクトなんだけど、念話で会話する事が出来るんだ」
「念話で……妖精みたいでしゅ」
「そうだね。だから俺も黙ったままだったんだ。これから、俺と情報交換をする事になった。俺が、意識を失って倒れるかも知れないが、命に別状は無いので心配しない様に」
「「「「「主様! それは、心配するなと言っても無理でございます!」」」」」
「大丈夫だよ……多分ね」
「本当に、危険は無いのですか? ジングージ様」
「大丈夫だと思うけどね。目を覚まさなかったら、ミラの周囲回復を悪いけど、発動してみてくれるかい?」
「はい、承知しました」
「人工頭脳も、ロックとミラなら入室させてくれるかも知れないので、許可してくれたなら、普通の回復魔法で大丈夫だし」
「僕らも入室出来るのですか?」
「判らないけど、ロックの事は既に知っていたよ。指揮者ゴーレムを手に入れた事もね」
「そぅなんですか……会話するアーティファクトなんて、僕には想像も出来ません」
「指揮者ゴーレムだって、言葉や思念で制御できるだろ。基本的には、同じ事さ」
「成る程……。しかし、会話が出来るとは、驚きです」
「そうだろうね。俺も俄には信じられなかったけど、現実だよ。それじゃ、行ってくる」
「……気を付けて」
「ああ、ナーク。ありがとう」
俺は、再び巨大な古代人の残した人工頭脳の元まで戻る。
念話での会話だと、仲間も心配する様なので、普通の会話が可能かを尋ねてみた。
「念話で無くても、普通の言語による会話も可能なのか?」
「可能だ。効率は思考会話の方が概念も翻訳されるので、効率は遙かに良い」
「そうだな。言葉で表せない事でも概念なら通じるからな」
「我は、どちらでも対応できる」
「では、言葉に困ったら、念話に切り換えよう。最初に、俺の質問に答えてくれ」
「良いだろう。質問せよ」
「お前の知識を、俺に複写出来ないか?」
「不可能だ。お前の頭脳では記憶領域が小さすぎる」
「成る程な、納得だ。次の質問だ。この都市の中央に有る穴は、何だ?」
「主達が待避した際に出来た穴だ」
「もしかして、あの地域だけが何処かへ移動したと言うのか?」
「理解が早いな。そのとおりだ」
「何処へ行った?」
「我には判らぬ」
「そうか、何処かへ空間転移したとか?」
「否、飛行して何処かへ待避した」
「地面ごと浮かんだだと!?」
「浮遊魔法は、お前も知っているはずだ」
「あんな巨大な穴を残す、巨大な物体も飛行させられるのか……」
「そうだ。お前が何処かで見つけたら、我に教えてくれ」
「判った。それでは、次の質問だ」
それから、俺は古代文明や古代都市の疑問点を、次々に古代人が作った人工頭脳に質問をしていった。
人工頭脳は、知らない事も幾つか有ったが、禁則事項以外は殆どの質問に対して、明快で的確な解答をしてくれるので、会話をしていても何だか楽しくなってくる。
俺の質問も殆ど終わったので、約束どおりに俺の知識の記憶を、人工頭脳にコピーさせる事にした。
人工頭脳が言うには、一瞬で終わるというが、意識を失う時間は、長いかもしてないと言うので、回復魔法を掛けられるミラの事を話すと、意識が戻らない場合には入室を許可してくれると言う。
俺が、「始めてくれ」と言うと、人工頭脳の筐体の周りで点滅している光が、高速に回転する様なパターンで点滅を始め、それを見ていた俺は、意識が徐々に薄れて行くのを感じ、そのまま床へ倒れ込んでしまった。




