スフィンクス
突然、俺達を攻撃して来た骸骨兵団は、ウメさんとアンの活躍によって、無事に殲滅する事が出来た。
しかし、有無を言わせず攻撃を仕掛けて来るとは、この骸骨兵団は何かを守るために配置されていたのだろうか。
俺は、骸骨兵士の死体、いや既に骸骨になり果てているので死体とも言え無いのため、残骸と言うべき骨を、詳しく調べて見る事にする。
骸骨兵士の残骸へ近づいてみると、この骸骨が人工的に作られたイミテーションで有る事が見て取れる。
先ず、骨と骨を繋ぐ関節が、守護者ゴーレムと同じ構造の球体関節だったのだ。
そして、破壊された髑髏、いや頭蓋骨の中から魔結晶と思われる破片が多数、散らばっていた。
俺は、砕かれた骸骨を手に取り、骨の内部を調べてみる。
骨の内部は、全てが石で作られており、骨よりも重量が有った。
やはり、これは骨では無く、全て石で作られた骸骨のレプリカだったのだ。
「この骸骨兵士は、ゴーレムだよ」
「えぇっ! 骸骨のゴーレムなの?」
「そうだよ、アン。砕かれた骨を良く観察してご覧。これは骨じゃ無くて全て石だ」
アンやロック、そしてサクラさん達も砕かれた骸骨や、バラバラになった骸骨兵士の骨モドキを手に取り、そして納得する。
「本当です。この骸骨兵士は、全身が石で作られてぃます」
「そうだよ、ロック。君が操る守護者ゴーレムと構造が全く同じだ」
「小型の守護者ゴーレムと言った感じですね」
「そうだ、だとすれば、この骸骨兵団を操っている、指揮者ゴーレムか、或いは操縦装置が何処かに有るはずだ」
「だとしても、既に命令されて待機して居ただけだとすれば、それが無ぃかもしれません」
「成る程、半自律で動けるのだったか。この地下室へ、誰かが入って来ると、攻撃する様に命令されて居た可能性も大きいな」
「その通りです」
俺は、この地下室への入り口の扉を確認してみると、今だ扉は閉じたままの状態で、外へ戻る事は出来ない状態だ。
それに対して、骸骨兵団が出てきた小さな扉は、開いたままの状態なので、先へ進む事は出来そうだ。
この状況では、戻る選択肢を選ぶには、爆薬かロケット弾で入り口の扉を破壊するしか無い。
それは、何時でも出来る事なので、取り敢えず先へ進んでみるか。
「此処で戻るのも悔しいから、先ヘ進んでみようと思うけど、みんなはどう思う?」
「アタイは、先へ進んでもみたいよ」
「僕もです。折角、骸骨兵士を倒したのですから」
「私は、ジョー様に従いましゅ」
「……あたしは先に行ってみたい」
「私もジングージ様に従います」
「私どもは、主様の意思に従います」
「よし、じゃあ、先に進んで見よう。撤退は何時でも出来るしね」
「「「「「はいっ!」」」」」
俺達は、慎重に骸骨兵団が現れた扉を潜る。
扉の奥は、通路になっており、今まで居た地下室よりも天井も低く、狭い通路だった。
しかし、通路の内部は明るく壁面全てが光っており、LED懐中電灯も不要な明るさだ。
通路を慎重に警戒しながら進むと、また地下室の空間へとたどり着く。
先ほどの地下室よりも大分小さく、天井も低いのだが、扉は無く通路と繋がっている。
この地下室に、先ほどの骸骨兵団が待機していたのだろうか。
そして、この地下室には扉は無く、完全に行き止まりの空間だった。
「此処で行き止まりだな」
「そぅですね。何処かが開くかも知れなぃので、調べてみます」
「ああ、頼むよ、ロック」
「アタイ達も、調べてみるよ」
取り敢えず、全員で地下室を調べてみる事にする。
すると直ぐに、ロックが奥の壁を触り、俺を呼ぶ。
「ジョーさん、此処に何か表示されました!」
「今行く」
ロックが奥の壁を指さしており、そこには指揮者ゴーレムの空間画像投影と同じ様な表示が現れており、画像の代わりに文字が表示されていたのだ。
表示されている文字は、俺にも読む事が可能な、この異世界の標準的な文字だった。
そして、その表示されている文字は、何とも不可解な質問で、まるで学校のテスト問題の様だ。
『円周率を10桁以上答えよ』
「何だか、人を試す様な質問だな……」
「ジョーさん、円周率って何ですか?」
「ああ、数学の基本的な問題だよ。しかし、答えよって言っても、どうやって答えるんだ?」
「此処に、小さな表示が出てきましたよ」
そこには、まるで電卓、いや10キーの様な表示が出現していた。
この10キーで、円周率を入力すれば良いらしい。
俺は、その空間表示された10キーから、円周率を入力して行く。
円周率を10桁以上なんて、日本であれば中学生だって答えられる。
「3.1415926535……と」
俺がπ、円周率を10桁入力すると、大きな空間投影表示の文字が消え、新たな表示が現れる。
『知的段階5以上の知的生物と認識』
『次の質問に答えよ』
『物体と仕事量の関係を述べよ』
なんだ、今度の質問は一気にレベルが上がったぞ。
これは、どういう意味の質問だろうか。
俺は、思いつく知識を絞り出す。
そうか、これはアインシュタインの特殊相対性理論に出てくるエネルギーと質量の公式だ。
その公式を頭に思い浮かべるが、どうやって入力すれば良いのかが、これまた不明だ。
そもそも、この異世界の文字では、E=MC2を表せない。
すると、表示されていた10キーが消え、まるでタブレットの様な空間画像が表示される。
ここへ、公式を書けと言うことか。
俺は、この異世界の文字で、こう書いた。
「仕事量は、物体の質量と光の速度の自乗に等しい」
俺が空間投影のタブレットへ指先で、そう書くと大きな画面の空間投影の表示が消えて、新たな表示が現れる。
『知的段階10の知的生命と認識』
『入室を許可する』
その表示と共に、壁の一部が地下へと潜って行き、新たな地下室が目の前に現れた。
どうやら、この先へ行くには、このスフィンクスもどきの質問に答えないと駄目だった様だ。
俺が答えた質問の答えは、恐らくこの異世界の人類では最初の質問からして答えられないだろうし、二番目の質問には元居た世界の者でも、全員が答えられる質問では無い。
幸い、俺が知っていた答えだったから良かったが、別の質問であれば間違った可能性の方が大きい。
俺は、開いた壁の向こう側の空間を、慎重に観察してみる。
今度の地下空間は、かなりの広さがあり、中央には得体の知れない巨大な構造物が鎮座している。
何かのモニュメントの様にも見えるが、魔結晶の光の様な輝きが、不規則に点滅している様子が伺えた。
他にも、机の様な制御板らしき物が点在しており、そこには椅子も設置されている。
また、別の場所にはベッドと思しきものもあり、その脇には医療機器の様にも見える物体が置かれていた。
此処は、何かの実験室だったのだろうか。
「ケサラ、この地下室に危険な存在を感じるかい?」
「いいえ、今の状況では危険は感じませんです」
「そうか、ならば折角、入室許可が出たんだから、入ってみるか。一応、俺だけが入室できるのかもしれないので、みんなは此処で警戒をして待機して居てくれ」
「大丈夫? ジョー兄い。アタイ達も一緒の方が良いんじゃないの?」
「……あたしも一緒に行く」
「僕も行きます」
「主様、お一人では何が起こるか判りませぬ故、我らも同行させて下さい」
「入れるかな? あの質問内容だと、俺だけしか入れないかもしれないけど……」
「アタイが試してみるよ」
そう言って、アンが最初に入室しようとすると、結界に弾かれた様に外へとはじき飛ばされた。
「アン、大丈夫か!?」
「あいたたた……。大丈夫、いきなり、はじき飛ばされただけだよ」
「……あたしが試してみる」
ナークがそう言い、防御結界の魔法を発動したまま入室を試みる。
すると、ナークの結界と、地下室の入り口が激しく光り輝き、ナークは中へと入ることが出来ず、その場から後ずさりをした。
「……何かの結界が張られている」
「やはり、そうか。どうやら俺しか入室出来ないみたいだな」
「主様、やはり、お一人では危険でございます。入るのは、お止め下さい」
「それでも、此処へ入らないと、入り口の扉も開かないかもしれないからな。ケサラも入れないだろうから、此処で待っていてくれ」
「試してみるです」
「止めろ、身体が小さいのだから、結界の影響も大きい」
「はいです……」
俺は、地下室へと一人で飛んで行こうとしたケサラを止める。
そして、静かに深く深呼吸をし、手にしている89式小銃を何時でも発射出来る様に構えて、ゆっくりと地下室の中へと歩いて行く。
やはり、結界は反応せずに、俺は地下室へと何の抵抗も受けずに入室出来た。
しかし、個人を識別出来る結界を張る事も出来るのか。
本当に、古代文明の残したアーティファクトには、驚かされるばかりだ。




