骸骨兵団
此処に古代文明による勇者召喚魔法陣が存在しているならば、近くに似たよ様な施設か制御を行ったりする場所があるかも知れない。
ざっと魔法陣の周囲を見回すと、他の建物とは明らかに異なる建造物が、四箇所建っている事に気がつく。
それらの建物は、魔法陣を中心にして東西南北の方向に建っており、全く窓の無い円柱状の塔だった。
同じ塔の様な形状だった、守護者ゴーレムの管制塔とは違い、高さもずっと低い建物だ。
取り敢えず、今居る場所から一番近い、南側の塔を調査してみる事にする。
俺を先頭にして、塔の下側まで全員で歩いて行く。
塔の周囲には、一切の出入り口や扉は見あたらず、何処からも中に入り込める構造にはなっていない。
これは、昨日探索した管制塔の最上階に有った隠し扉の様に、ロックならば扉が開くかもしれないと思い、俺はロックへ塔へ触る様に依頼をしてみる。
「ロック、悪いけど、この塔へ触ってみてくれないか?」
「はぃ。この塔にも隠し扉が有るのでしょぅか……」
ロックは、そう言うと右手で塔の表面を触った。
すると俺達の期待通り、低い機械音が聞こえて来ると同時に、塔の表面が内側へと少し凹み、そのまま内側でスライドして塔への入り口が現れる。
塔の中は、真っ暗だったのだが、隠し扉が完全にスライドすると、なんと自動的に照明が灯された。
そして、明るくなった塔の中には、地下へと続く階段が見えたのだ。
「どうやら、ロックが居れば隠し扉の鍵も、簡単に開いてしまう様だね。文字通りのロック・スミスだよ」
「ロック・スミス? 僕には家名は有りませんが……」
「いや、俺の居た世界では、錠前屋の事をロック・スミスと言うんだよ」
「そぅなんですか。僕の父親は錠前屋では有りませんでしたけど」
「ああ気にしないでくれ。兎に角、入り口が有った訳だから、注意しながら降りてみよう。俺とアンが先行する。ナークはミラとコロニを頼む。ベルとロックは俺に続いて、ナーク達の後へ"九ノ一"が続け」
「「「「「了解です」」」」」
塔内部の階段は、塔の中を螺旋状に地下へと降りて行く構造になっており、明るく内部は照らされているのだが、発光源は何処にも見あたらず、どうやら壁自体が明るくなっている様だ。
俺は、注意深く階段を降りて行き、そして平坦なフロアまで降った。
目の前には、隠し扉では無く、大きな金属製の扉が俺達の行く手を遮っている。
俺は、その金属製の扉を押したり引いたりしてみたが、全く動かす事は出来ない。
もう一度、ロックに頼んでみるしか無いか。
「ロック、もう一度頼む。注意して開けてくれ。全員、銃の安全装置を解除しておけ」
「はぃ。良いですか? 触ります」
「「「「安全装置を解除、射撃準備完了!」」」」
「触ってくれ、ロック」
「はぃ」
ロックは慎重に、ゆっくりと右手を金属製の扉へ触れる。
と同時に、金属製の扉が、低い機械音を発して奥へと開いて行き、同時に暗闇の地下空間が見え始めるが、直ぐに自動的に地下室内の照明が灯った。
地下室の広さは、想像以上に広くて、そして何も無い空間だった。
周囲を警戒しながら、その地下室へと俺達は足を踏み入れ、地下室の内部へと進んで行く。
方向感覚が、螺旋階段を何周も回って降りて来たので、方向感覚が少しおかしくなっていたが、恐らく魔法陣の下だと思われる。
何も無く無駄に広い地下空間は、本当に何も落ちておらず壁際にも何もない。
一体、この無駄に広い地下室は、何だったのだろうか。
天井までは、かなり高さが有るのだが、それでも5m位なので、ゴーレムの格納庫では無い。
俺達の入って来た入り口だけが、ポツンと壁に有るだけで周囲の壁には、他に出入り愚痴らしき扉は無い。
いや、俺達の入ってきた出入り口と対照の位置に、小さな扉らしき物が有った。
人間が一人潜れる位の、小さな扉だ。
俺達は、何もない地下室を横断し、反対側の壁に有る扉まで警戒を怠る事無くゆっくりと進んでいく。
この扉も、俺が開け様と試みたが、全く開ける事は出来なかった。
再び、ロックへ扉へ触って、開ける様に依頼する。
だが、この扉は、ロックが触っても全く開く事が出来ない。
自動扉では無く、別の方法でなければ開かない構造の様だ。
言い換えれば、それだけ重要な部屋への入り口なのかもしれない。
俺は、扉の周囲や扉自体を、詳細に調べ始める。
金属製の扉で、窓らしきものは無く、のっぺりとしている。
一枚構造なので、奥か此方へ開くドア構造か、或いはスライド型のドアなのだろう。
89式小銃のストック部分で、扉を叩いてみると、音が大きく反響して聞こえた。
少なくとも、ダミーの扉では無い様で、扉の向こう側は空間になっている様だ。
扉には、鍵穴の様な穴もなく、取っ手らしき凹みも出っ張りも無い。
こうなれば、爆薬で破壊してしまうしか無いか。
俺がそう思った瞬間、扉の奥で何やらカシャカシャと音が聞こえ始めた。
これは、扉が開く音なのか。
その時、俺の肩に止まっているケサラが叫んだ。
「ジョーさま、危険が迫っているのです!」
同時に、背後でコロニちゃんと一緒に居るパサラも叫ぶ。
「きけん! 逃げて!」
俺は、二人の妖精の警告に、直ぐさま行動を起こす。
「全員、待避だ。入り口へ急げ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
俺達は、急いで入ってきた扉へと走る。
だが、それは無駄だった。
俺達が入ってきた大きな扉は、勝手に閉まり始めて、そして完全に地下室へ閉じ込められてしまった。
ロックが、入り口の扉を幾ら触っても、再び大きな扉は開く事は無かったのだ。
そして、入り口が閉まると同時に、先ほどまで閉じていた反対側の小さな扉が開き、そこから異様な集団がカシャカシャ、カチャカチャと不気味な音を発しながら地下室へとなだれ込んで来た。
「何だ、あれは……骸骨?」
「気持ち悪いよ、兄い。骸骨の軍隊だよ!」
アンが言うとおり、無数の骸骨兵士が、俺達へと迫って来たのだ。
骸骨兵士は、手に剣を持つ者や、槍を携えている者などが居り、あからさまな敵意を俺達へ向けている。
髑髏の目の部分は、黄色い光を発しており、顎が動く度にカチャカチャと音を発して、その不気味さを増す。
そして、その背後からは、髑髏の目の部分が赤い光を発している骸骨兵士も迫って来る。
手には、魔法使いの杖を持っており、骸骨の魔法使いなのか。
俺達は、入って来た大きな扉を背にして、逃げる術を奪われてしまったので、もはや彼奴らと戦闘を行うしか無い状況だ。
もう、躊躇している時間は全く無い。
俺は、全員へ攻撃命令を出した。
「全員、骸骨兵団へ向かって射撃開始だ!」
「「「「「了解!」」」」
ダダダダダダダッ!
皆が89式小銃を、骸骨兵士へ向かって発射する。
しかし、骨だらけの骸骨兵士へのダメージを与える事は殆ど出来ない。
身体の骨に命中した弾丸は、骨を砕いたのだが、それ自体は全くダメージになっていないのだ。
「アン、頭だ。髑髏を狙え!」
「判ったよ!」
アンがそう言うと、ズダンッ! とアンの対物狙撃銃バレットM82A3が発射され、髑髏が粉砕されて、骸骨の身体が崩れ去った。
「頭が急所だ。みんな髑髏を狙え!」
「「「「「了解!」」」」」
標的を骸骨兵士の頭部、髑髏へ変更すると、次々と骸骨兵士の頭部が砕かれて行く。
しかし、骸骨軍団の兵士の数は、40体から50体近くも居り、その数は中々減って行かない。
その時、俺の背後から大きな声が聞こえた。
「主様、避けて下さい!」
声の主は、ウメさんだった。
そして、ウメさんは、腹ばいになって状態で、骸骨兵団へ向けて重機関銃M2を発射した。
ズダダダダダダダダッ!
瞬く間に、骸骨兵団の頭が次々と粉砕されて行く。
が、骸骨兵団も、次の攻撃を仕掛けて来た。
キーンと言う、聞いた事のある高周波音が聞こえて来たのだった。
「全員、ナークの近くへ寄れ。ナーク、完全防御魔法を発動してくれ!」
「……判った」
ナークの目が青白く光り輝き、俺達の周囲を青白い光が覆う。
殆ど同時に、赤い光を放つ髑髏の骸骨魔術師の杖から、複数の火炎弾が発射された。
此方へ向かって来た火炎弾は、ナークの張った防御結界に弾かれ、炎が四方へ拡散して行く。
「ナーク、防御結界を解いてくれ。アン、ウメ、奴らを狙って攻撃しろ」
「……結界を解いた」
「アタイは奥の魔法使いの奴を狙うよ」
「私は手前を狙います」
アンが奥の魔術師骸骨をバレットM82A3狙い撃ち、ウメさんが再び重機関銃M2を骸骨兵士へ向かって発射した。
俺やロック、そして他の"九ノ一"達も、89式小銃で骸骨兵団の髑髏を狙い撃つ。
二度目の魔法攻撃は無く、程なくして俺達は骸骨軍団を殲滅する事に成功したのだった。




