討伐報酬
「コロニ、しっかりとガイドの仕事をしたか?」
シラリアさんの質問に対してコロニちゃんは、満面の笑みを浮かべて何度も頷いており、可愛い尻尾が激しく左右に振れている。
「そうか、それでジングージ殿、今回は何を討伐されてきたのでしょうか?」
「はい、オークの大群に襲われたので、それを殲滅しました。そのまま、死体は放置しようとしたのですが、コロニちゃんに指摘されて討伐の証しの右耳だけ回収してきたのです」
「オークの大群……何体程でしたか?」
「正確に数えて無かったのですが、何体分あったのかな? ロック、数えて貰ったんだろう?」
「はぃ。全部で138体分でした」
「なんと、138体もの大群を殲滅したのですか……素材回収すれば、かなりの額になりますが」
「ああ、それならバタイさん達のパーティーへ回収を任せました。20体から30体は素材回収できると言ってましたよ」
「死体の場所は、どちらでしょうか?」
「守護者ゴーレムの軍団が置いてある近くの、最も高い塔の建物です」
「なるほど、彼処にはオークが以前より巣を作っておりましたが、大きな集団だったので放置しておりました。それを討伐して頂けたとは感謝いたします。残りの素材も、緊急依頼を発動して冒険者達に回収させても宜しいでしょうか?」
「勿論、構いませんよ。バタイさん達も、全数の素材回収は無理みたいなので、争いにならないならば、どうぞ素材の回収をしてください。我々は捨ててきたので、権利も放棄しております」
「有り難いお言葉、重ね重ね感謝いたします。メリボ、直ちにオークの素材回収を行う緊急依頼を発動して、仕事の無い冒険者達に回収業務をさせてくれ。但し、優先回収権利は、バタイ達のパーティーだ」
「はい、会長。直ちに緊急依頼を発動します」
シラリアさんに命じられて、仲間達と一緒に会長室へ来ていた受付嬢のメリボさんは、部屋から急いで出て行った。
「それでは、オークの討伐依頼138体分を換金致しましょう。討伐受付で渡された木札を頂けますか?」
「はぃ、これです。ぉ願ぃします」
シラリアさんの言葉にロックが応えて、手に持った袋から多数の木札を取り出す。
木札には、数字が焼き印で押されており100と印字された木札が1枚と、10と印字された木札が3枚、そして1と印字された木札が8枚だ。
なるほど、これで138体を表しているのか。
生臭いオークの右耳を、此処へ持って来なくとも良いわけだ。
更に、オークと焼き印で押された木札をロックが最後に一枚取り出す。
「はい、確かにオーク138体ですね。それにしても、100の木札をオークで見たのは私も初めてですよ。普通は、100の木札はゴブリンでも珍しいですからね。はははは……」
「恐縮です。オークの討伐は、一体で幾らになるのでしょうか?」
「オークは、雄雌変わらずで一体、銀貨1枚です。今回は、金貨と銀貨にしますか?」
「あっ、いや。コロニちゃんに全部支払ってくださいますか?自分達は、放置して帰って来る所でしたから」
俺がそう言うと、コロニちゃんが首を左右に激しく振り続ける。
「そう……普通だと、ガイドの取り分って、どうなんでしょうか?」
「そうですね。パーティーによりますが……均等分配の場合もありますし、総額の1割程度と言う事もあります」
「そうですか、では均等分配にしましょう。ですから、銀貨でお願いします」
「承りました。では、受付で換金をして下さい。これを受付に渡して下さい」
シラリアさんは、そう言うと小さな羊皮紙へ、何やら羽根ペンで書いてから俺に渡してくれた。
羊皮紙には、銀貨138枚、シラリアとサインが入っている。
「有り難うございます。それでは、自分達は、これで失礼します。今晩でも、皆さん交代で入浴へ是非、おいで下さい。宜しければ夕食もどうぞ」
「有り難うございます。職員達も喜ぶでしょう。ご迷惑にならない様に、交代で寄らせていただきます」
「はい、お待ちしております。それでは、失礼します」
全員が会長室を退室し、俺が最後に部屋から出る時、ふと思い出した事があったので、それをシラリアさんへ尋ねる。
「おっと、聞き忘れていた事を思い出しました。コロニちゃんのガイド料って、一日如何ほどを支払えば良いのでしょうか?」
「一般のガイドであれば、ガイド一人につき一日銀貨一枚が相場ですから、その半額程度で宜しいのでは無いでしょうか」
「一日、銀貨一枚ですね。判りました」
コロニちゃんのガイド料を確認して、俺も会長室を退室して皆が受け付けカウンターの方に移動して行く後を追う。
冒険者ギルドの受付ロビーは、俺達が来た時とは違い、多くの冒険者が集まって来ている。
どうやら、オークの素材回収緊急依頼が、瞬く間に広まったらしい。
緊急依頼が掲示されている案内板の前には、多くの冒険者が依頼票を読んでおり、そのまま冒険者ギルドを足早に立ち去る者や、受付カウンターへ古代遺跡都市への入場票を申請する者が列を作る。
そんな混雑している受付カウンターから、俺達の姿を見つけた受付嬢のメリボさんが、俺達に大きな声で呼びかけて来た。
「ジングージ様、此方へどうぞ」
「あっ、はい。今、行きます」
「緊急依頼で、混雑してしまい申し訳ございません。討伐の換金ですね、此方で承ります」
「ありがとうございます。では、これでお願いします」
俺は、シラリアさんから貰った小さな羊皮紙を、メリボさんへ渡す。
すると、メリボさんは、「少々、お待ち下さい」と言ってから、受付カウンターの奥へと走り去って行く。
恐らく、現金を仕舞ってある金庫か、会計の専門職員の元へ行ったのだろう。
少し待っていると、メリボさんが革袋を持って、受付カウンターへ戻って来た。
「それでは、これが討伐報酬になります。お確かめ下さい」
「ありがとうございます。確認させて頂きますね」
俺は、受付カウンターで、革袋の中身を全て出し、銀貨の枚数を数え始める。
「確かに138枚です。有り難う」
「はい、また宜しくお願いを致します」
「それでは、仕事が終わったら、是非、我々の宿営地へお越し下さいね。お待ちしていますので」
「はいっ!有り難うございます。必ず伺います!」
「では、また後ほど」
メリボさんから討伐報酬を受け取り、俺達は混雑する冒険者ギルドの受付ロビーから、裏口へと向かい表に出る。
俺達は、冒険者ギルドの裏手にある空き地へ止めてある軽装甲機動車へと向かう。
空き地には、冒険者もまばらで、討伐専用の受付にも冒険者が列を作ったりはしていない。
もっとも、これからオークの素材買い取りが開始されると、ここも長蛇の列が出来るのだろう。
全員が、軽装甲機動車へ乗り込むのを待ち、俺は各自へ討伐報酬を分配する事にした。
「今回は、俺達パーティー"自衛隊"に加えて、コロニちゃんの計6名での討伐だから、銀貨138枚を6分割して一人銀貨23枚が報酬だけど、それで良いね?」
「「「「はい。問題ありません」」」」
それを聞いていたコロニちゃんは、少し不思議そうな顔をして、顔を傾ける。
その表情は、まるで子犬が不思議な物を見た時にする表情とそっくりで、とっても可愛い。
俺の意図に、"自衛隊"の面々は気がついているのだろ、皆が笑顔だ。
俺は、銀貨を23枚づつ数えて、各自に配り最後に空になった革袋と一緒に、コロニちゃんへも渡す。
そして、俺の分の23枚の銀貨から15枚を分けて、それをコロニちゃんへ渡して言った。
「それからこれは、ガイド料だよ。取り敢えず半月分を前払いね。相場が一日銀貨1枚だそうだから、これで良いかな? 延長になったら、またその時支払うからね」
俺の言葉を聞いたコロニちゃんは、大喜びしながら何度も頷いている。
もちろん、お尻の尻尾は、なおも激しく左右に振られて、本当に千切れんばかりだ。
俺から追加で受け取った15枚の銀貨を、先ほどの23枚の銀貨と一緒に、革袋へ仕舞い込むと、背負っていたリュックサックの様な袋へと仕舞い込む。
金を稼ぐ厳しさを、こんな幼い子が知ってしまう現実は、本当に悲しい事なのだが健気でもある。
それを少しでも、大人が助けられるのならばと言う思いは、俺と仲間全員の共通認識だ。
そしてコロニちゃんは、リュックサックの中から、俺が与えた89式多用途銃剣を取りだし、俺へと返す素振りをした。
「それは持って居て良いよ。まだガイドしてもらうから、有った方が便利だろ」
すると、再び笑顔で何度も頷いてから、ホルダーに収まっている89式多用途銃剣を、再びリュックサックの中へと仕舞う。
一連の動作をしている最中も、お尻の尻尾は激しく左右に振られている。
狼人族や犬人族の尻尾は、本当に判りやすい感情表現だと俺も笑顔になってしまう。
さて、そろそろ宿営地へ戻らないと、アンから無線連絡が入りそうな時刻だ。
俺は、軽装甲機動車のエンジンを始動し、宿営地へ向けて帰還すべく発進した。




