降伏か死か
業火に焼き尽くされるガウシアン帝国艦隊の軍艦は、大砲用の火薬樽に炎が引火し、次々と誘発を起こし、爆煙と共に火柱が多数空高く吹き上がる。
吹き飛んだ火薬樽は、隊形を取って航行していた隣接している小型の軍艦へと飛び火し、小型の軍艦の帆が燃え上がった。
一端、火災を起こした軍艦は、連鎖反応を起こす様に、大砲発射用の火薬樽が爆発を起こし、そして炎上する。
地獄の炎は、真っ暗闇の海を明々と照らし、その明るさは昼間の様だ。
アパッチ・ロングボウから発射した八発のヘルファイア・ミサイルによって、着弾したガウシアン帝国の軍艦八隻は撃沈された。
そして飛び火の誘発によって炎上中の小型軍艦は二隻あり、残りは5隻の軍艦と兵員輸送用の改造民間帆船の十五隻を残すのみだ。
俺は、迷うことなく直ちに第二波の攻撃を決断する。
ここで情けを敵に掛けると、必ずしっぺ返しを食らう事になるだろう。
残り5隻の小型軍艦は、既に火器管制システムの攻撃コンピューターによって、ロックオンされた状態だ。
残るミサイルは、ハイドラ70を19発装備しているM261ロケット弾ポッドが2基、両スタブウィングに装着してあるので、計38発のハイドラ70ロケット弾を発射可能だから、敵戦艦を全滅させる事は容易い。
しかも、搭載しているハイドラ70は、ヘルファイアと同じ制御が可能なDAGR型なので、ロングボウの火器管制システムによる自動追尾型なので発射するだけで敵艦へ命中する。
ハイドラ70ロケット弾の破壊力は、ヘルファイアに比べると劣るが、その分、複数のハイドラ70を発射して補える。
俺は、先ず5発のハイドラ70を発射した。
「ハイドラ70、発射!」
右側のスタブウィングに装着してあるM261ロケット弾ポッドから、5発のハイドラ70が敵艦に向けて飛翔して行く。
ヘルファイアの着弾よりも小さな爆発だが、5発全てが小型戦艦に命中し爆発を起こす。
一隻は、着弾と共に火薬樽も爆発した様で、船体が真っ二つに折れて轟沈した。
残る4隻は、炎上こそしているが、今だ健在だ。
ハイドラ70の着弾を確認して、間髪を入れずに今度は左側のスタブウィングに装着してあるM261ロケット弾ポッドより、4発のハイドラ70を発射する。
再び、全弾が敵小型戦艦へ着弾し、同時に爆発を起こす。
ロングボウの火器管制システムは、マニュアルでのロックオンも自由に行えるのだが、複数のターゲットをロックオンするには、それなりの手間がかかる。
しかし、これで敵艦隊の戦艦は、全て航行不能、もしくは撃沈したので、残るは兵士輸送用の民間用木造帆船を改造した艦が15隻だけだ。
俺は、アパッチ・ロングボウの機首をイサドイベの方角へ向け、高度を上昇させた。
現在ロングボウ・レーダーの探査レンジは、探査範囲が前方に集中している状態なので、機首をイサドイベ方面へ向けて、ガウシアン帝国艦隊の分隊の状況を把握するためだ。
スクリーンには、7隻表示されていた濃い点が、既に3個に減っている。
恐らくアンは、分隊の艦隊が16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲の射程距離内へ入ると同時に、砲撃を開始したのだろう。
それにしても、相変わらずアンの砲撃は凄い。
ロックも16式機動戦闘車の自動追尾で、敵艦を砲撃しているのだろうが、自動追尾でロックオンした場合は、吃水線ギリギリを狙う事はせず、船体中央を狙うので撃沈には至らない可能生が高い。
それに対してアンは、最初に教えた喫水線に狙いを定めて砲撃するので、敵艦を一撃で撃沈する可能性が高いのだ。
よし、イサドイベの防衛は、アンやロック達に任せて置いて問題は無い。
16式機動戦闘車でのガウシアン艦隊迎撃の様子は、捕虜のフーリエ艦長にも見せている。
戦いが終わった後、フーリエ艦長や士官はガウシアン帝国へ帰国させ、俺達の戦力を皇帝へ報告させる予定だ。
そして、二度とイサドイベやスベニへ侵略などを起こさない様に、相手が遙かに強力な戦力を持っている事を、見たまま報告させる。
そのためには、帰国用の艦船も残して置かねばならないので、兵員輸送用のガウシアン帝国船を全滅させる訳にはいかないのだ。
俺が敵船の残数などを確認していると、アンから通信が入って来た。
『こちら、クーガー。マーベリック聞こえる?送れ……ザッ』
「ナーク、通信を頼む」
『……了解。こちら、チャーリー。クーガー、良く聞こえる。送れ』
『了解だよ、チャーリー。敵の戦艦は、4隻撃沈と残りは炎上中だよ。兵員輸送の帆船は、逃げ様としたので、威嚇砲撃をしたら、白旗掲げたよ。どうする?送れ……ザッ』
『……了解。流石だねクーガー。マーベリックの指示を仰ぐから、少し待って』
『了解だよ。そちらの本隊も、殆ど濃い点が消えてるよね。送れ……ザッ』
『こちら、マーベリック。クーガー良くやった。白旗を掲げているなら、それ以上は攻撃をするな。パワーアンプで、武装解除を指示して撃沈した艦船の生存者を救助させてくれ。送れ』
『了解だよ、マーベリック。その後はどうするの?港へ入れるの?送れ……ザッ』
『いや、港へは入れずに、港の入り口で待機させておけ。不審な動きをしたら威嚇砲撃をしてやれ。送れ』
『了解だよ、マーベリック。それじゃ、そうするよ。それじゃね……ザッ』
『了解、クーガー。宜しく頼む。良くやったなクーガー。以上、通信終了』
タイミング良く、アンから通信が入り、ロングボウ・レーダーで確認した状況を裏付け出来た。
それにしても、早々と降伏してくるとは、兵員輸送用の民間船改造艦の艦長は、軍人ではなく民間人なのかもしれない。
無駄な攻撃をしなくて済むし、無駄な死傷者が出ないので良い事なのだが。
さて、こちらもアンに負けては居られないので、さっさと残りの十五隻を片付けるとしよう。
俺は、再びアパッチ・ロングボウの機首を、残存するガウシアン帝国艦隊へと向け、高速で接近して行く。
残存する艦隊まで接近してから、再びPAで降伏勧告をアナウンスする。
「ガウシアン帝国艦隊へ告ぐ。これが最後通告だ。降伏しろ。さもなければ、業火に包まれた軍艦と同じ末路を歩む事になるぞ。降伏の意思があるならば、甲板で白旗を振れ。繰り返す。降伏するならば白旗を振れ。30秒間だけ待ってやる。もう一度言う、次は無いぞ。以上だ」
すると、一隻の帆船の甲板から、複数の兵士がマスケットを構えて、こちらへ発砲してきた。
全く、懲りない連中だ。
俺は、マスケットを発砲してきた帆船に向けて、M230機関砲、チェーンガンを発射する。
ブーンと言うモーターの回転音と共に機関砲の発射音がし、30mmNATO弾が敵船へ向かって飛んでいく。
マスケットを構えていた兵士は、そのまま沈黙すると同時に、船から大きな爆発が起こる。
敵船にとっては、運悪く火薬樽へ30mm弾が直撃してしまった様で、船はそのまま爆発、炎上する。
また、一番遠くに居た帆船は、船首を反転して逃走を開始しようとした。
ふん、逃がすものか。
俺は、再び逃走する帆船をロックオンし、ハイドラ70ミサイルを一発、発射する。
帆船には直ぐに命中し、メインマストが折れて帆が炎上し始めた。
そして再び、PAでガウシアン兵へ指示する。
「刃向かう者や逃走をする者は、今見た様に容赦はしない。降伏か死か、どちらかの選択肢しか、お前達には無い。後、15秒だぞ」
すると、残りの帆船の甲板上で、多くの兵士が白旗を振る姿が確認できた。
往生際が悪かったが、ようやく降伏する決断をした様だ。
俺は、PAを使いガウシアン帝国の兵士へ指示を行う。
「よし、降伏を確認した。以後は、こちらの指示に従え。逃走したり攻撃の意図が見えたら、直ちに攻撃するからな。まずは、お前達の仲間を救助しろ。そして、救助が終わったら、イサドイベの港まで航行して来い。繰り返すが逃走しても無駄だ。自国まで逃げ切れると思うなよ。尚、マスケットや火薬などは投棄せず、船倉へ保管し兵士は武装を解除しておけ。イサドイベまで来たら、次の指示を与える。以上だ」
俺は、PAを切り、帰還すべくアパッチ・ロングボウの機首をイサドイベ向けて飛行を開始する。
今回の戦闘で、一体何人のガウシアン帝国兵が死んだのだろうか。
それを考えると、戦いに勝利した事を素直には喜べない。
しかし、もしも俺の装備が無かったとしたら、結果は全く逆になっていたに違いない。
ガウシアン帝国の大砲とマスケットによって、イサドイベやスベニの民達が大勢、命を落とすか奴隷として囚われた事だろう。
民を守るための戦争なのだから、仕方が無いことなのか。
勇者、西住小次郎大尉殿の残した「平和」と言う言葉の意味を思うと、複雑な心境だった。
俺の言った「降伏か死か」と言う、敵に過酷な選択を迫るのが、本当に良かった事なのだろうか。
「……何を考えているの?」
「いや、ちょっとね」
「……貴方は大勢の民の命を救った。それで良いのよ」
「そうかな……」
「……そう。それで良いの」
「そうか……、もう夜明けだな。太陽が昇って来た」
「……綺麗……」
「ああ、今日も良い天気だ。さあ、ナーク、みんなの所へ帰ろう」
「……はい」
第三章 了
第三章、お終いです。
第四章へと続きますので、引き続きご愛読を宜しくお願い致します。




