地獄の炎
「……本当に飛んだ」
「そうさ、これは飛ぶ"鉄の箱車"だからね」
「……凄く早いね」
「MCVやWAPCの約3倍の速度だよ」
「……3倍……時速300Km位?」
「そんなところだね。今は未だその半分位だけど。少し上昇するよ」
「……暗くて、高さが判らないけど」
「夜は計器の数値で状態を把握するんだよ。この戦いが終わったら、詳しく教えるね」
「……うん」
ナークは、初めての空の旅に驚いているが、夜間飛行なので景色も何も見えないのが、可哀想だった。
既にイサドイベの街からは、かなりの距離を飛んで来たが、灯火管制されているため街の灯りが全く見えず、漆黒の海と満天の星だけしか見えていない。
俺は、AH-64D アパッチ・ロングボウの真骨頂である、AN/APG-78 ロングボウ・レーダーを起動する。
アパッチ・ロングボウの名前の由来でもある、このロングボウ・レーダーは、35GHz帯のミリ波レーダーで敵を正確、且つ高速に索敵可能なシステムだ。
本来は、対地、対空用のレーダーであるが、全くレーダーに関して妨害や対策が無い、この異世界であれば、対艦レーダーとしても十分に機能すると思われる。
そして、かなりの高度まで上昇すると、コクピットのCRT上に、幾つかの反応が現れた。
反応点は、大きく二つの群に別れており、それぞれの群は複数の反応が集まっている。
これが恐らく、ガウシアン帝国の無敵艦隊だろう。
各群の反応には、明らかに反応の強い点と、薄い反応を示している点がある。
反応の違いは、レーダー電波の反射強度の違いだろうから、濃い反応を示しているのが、鉄の装甲を施している軍艦で、薄い反応は木造船で兵士運搬用の民間船を改造した艦艇と思われた。
既に、ロングボウ・レーダーに直結している戦闘コンピューターは、目標を識別して攻撃優先識別までを完了していた。
これならば、アンの様な天才砲撃手が搭乗していなくても、俺だけでも敵艦隊を攻撃可能だ。
そして、このロングボウ・レーダーが捕らえた敵艦隊の情報は、C4Iシステムを通じて、アンやロック達の乗る16式機動戦闘車へも、データーが送られているのだ。
残念ながら、この異世界ではGPSが機能しないので、自分の絶対位置が特定できないため相対位置だけの把握になってしまう。
ただし、俺のスマートフォンに搭載されているマップ表示には、ゴッド・ポジショニング・システムが動作するので、それと重ね合わせてみれば絶対位置の特定も、ある程度は正確になる。
イサドイベの16式機動戦闘車には、俺のスマートフォンをマップ表示を起動して置いてきてあり、俺の位置や"自衛隊"、"九ノ一"全員の位置がリアルタイムで表示されていた。
もちろん、俺の乗るAH-64Dの副操縦士席のコクピットにも、スマートフォンを取り付けてありマップ表示を行っている。
「アイスマン聞こえるか?こちらマーベリック。送れ」
『こちらアイスマン。良く聞こぇます。送れ……ザッ』
「敵艦隊の索敵位置、そちらでも確認出来ているか?送れ」
「了解。確認出来てぃます。小さいぃ群がスベニ攻撃艦隊ですね?送れ……ザッ』
「そうだと思う。俺達は本隊の艦隊を先ず叩くから、スベニ攻撃艦隊と思われる艦隊は、そちらで攻撃してくれ。送れ」
『了解しました。予想どぉり進行速度が速かったですね。送れ……ザッ』
「そうだな。あの艦長が正直に情報を話すとは思っていなかったけど、話半分の艦隊数だったのは良かったよ。送れ」
『了解です。クーガーも了解ですか?送れ……ザッ』
『こちらクーガー。全部了解だよ。敵艦隊が射程範囲に入ったら直ちに攻撃して良いの?ジョーに……じゃなかった、マーベリック?送れ……ザッ」
「こちら、マーベリック、了解。クーガー、そのとおりだ。絶対に河を遡らせるな。そして、兵士を上陸させないでくれ。送れ」
『クーガー、了解。任せておくれよ。絶対にスベニへは行かせないよ。ベル……じゃなかった、マーリンが喋りたいって言ってるので、代わるよ。……こちらマーリンでしゅ。私も頑張りましゅ。送れでしゅ……ザッ』
「マーリン、クーガー、こちらマーベリック、了解。よし、それじゃ、みんな作戦どおりだ。宜しく頼む。以上、通信終了」
ガウシアン帝国のフーリエ艦長から得られた情報は、やはり虚偽の情報だった。
先ず、進行速度は半日程度速かったので、夜明け前にはイサドイベを攻撃可能な海域へ到達するだろう。
更に、艦隊は既にスベニ攻撃艦隊と、イサドイベを攻撃する本隊とに分離しており、その艦隊の数はフーリエ艦長の言った数の約半数に過ぎない。
ロングボウ・レーダーによる索敵では、本隊の艦隊に軍艦が15隻で、木造船が15隻の計30隻。
スベニ攻撃艦隊は、本隊より3時間程度先行しており軍艦が7隻で木造船が10隻の計17隻だった。
恐らく、既に撃沈した三隻が、スベニ攻撃艦隊へ合流して河を遡る作戦だったのだと思われる。
航路も本隊の艦隊は、真南から一直線にイサドイベへ進行して来るのに対し、スベニ攻撃艦隊は大きく東からイサドイベに向かっていた。
艦隊を二つに分けて、本隊の艦隊を迎撃する敵があった場合、スベニ攻撃艦隊を側面から回り込ませて挟み撃ちによる攻撃も可能な陣形がとれるからだろう。
レーダーの無い世界であれば、有効な艦隊陣形ではあるが最新レーダーを装備している、このアパッチ・ロングボウには無駄な陣形だ。
本当は、スベニ攻撃艦隊を叩いてから、本隊の艦隊を叩きたいところだが、搭載している武装では全てを撃破する事は叶わない。
スベニ攻撃艦隊は、アンとロックに任せ、俺達は本隊の艦隊を攻撃する作戦だ。
敵ガウシアン帝国艦隊の本隊までの距離は、残り3Km程だ。
既に、攻撃の射程圏内には入っているのだが、不意打ちを食らわせるのは性に合わない。
敵艦隊は「く」の字型の艦隊隊形をとっているので、その背後から艦隊の中へ突入する。
かなり危険な行為だが、逆に砲撃を受ける心配は無くなり、攻撃されてもマスケットの銃撃程度だろうから、撃墜される心配は殆ど無いと思いたい。
自衛隊仕様のAH-64Dに搭載されているアローヘッドを起動する。
アローヘッドは、赤外線センサーによるシステムで、暗闇であっても正確に敵を捕捉できる上、映像としても視認可能になるので、闇夜の作戦には大活躍する。
既に敵艦隊には、アパッチ・ロングボウのエンジン音が聞こえている距離なので、敵艦隊も警戒をしていると思われが、まさか空飛ぶ"鉄の箱車"だとは重いもしないだろう。
敵船の上空からアローヘッドの映像を見ると、甲板上にマスケットを構えた敵兵の姿が多数見えていた。
俺は、PAのスイッチを入れてアナウンスを開始する。
「ガウシアン帝国艦隊に告げる。我々はイサドイベとスベニを守る者だ。直ちに進路を反転して、自国へ帰還せよ。従わない場合は、直ちに攻撃を行う」
俺の勧告アナウンスに対して、少し間を置いてから敵船の兵士がマスケットを発砲して来た。
発砲音は聞こえ無いが、アローヘッドにはマスケットの銃口が発火したのを、しっかりと映し出している。
もちろん、弾丸はアパッチ・ロングボウの機体を掠る事もなく、ローターにも当たらない。
上空に発砲はしているが、エンジン音の発生場所を狙って撃ったに違いないだろう。
しかし、これで奴らの返答は判ったし、先制攻撃を仕掛けてきたのは、ガウシアン帝国側だ。
「我々への発砲攻撃は、宣戦布告と認識した。我々も自衛行動に移行する」
そうアナウンスを行い、俺は一気に高度を上げて敵艦隊から離脱をした。
敵の射程圏外へと離脱を行い、ホバリング・モードへ移行し、おれは攻撃システムを起動する。
既に敵の艦隊は、攻撃システムでロックオン済みなので後は、発射トリガーのボタンを押すだけだ。
先ずは、大型軍艦から片付けてしまおう。
「ヘルファイア、全弾発射!」
俺は、AGM-114 ヘルファイア・ミサイルを全弾、発射した。
ロケットの噴射炎が尾を引き、敵戦艦目掛けて飛翔して行く。
そして、艦隊の旗艦と思われる最も大型の戦艦へ先ず命中し、大爆発を起こす。
他の7発も、大型戦艦から順に、中型戦艦まで全てが着弾して大爆発する。
それは、ヘルファイア・ミサイルによって起こされた、文字通りの地獄の炎、業火の様だった。




