刺身と白米
俺とガイオスさんが握手をしていると、ガイオスさんの背後へ複数の魚人達が海面より顔を覗かせた。
その中には、アリエルさんの顔もある。
アリエルさんは、俺に向かって「ジョーさん、私のお母様なの」と言って、一人の人魚、いや魚人族の女性の手を取った。
すると、俺と握手をしていたガイオスさんが振り返り、「紹介しよう」と言ってから俺の手を放す。
「俺の妻で、アリエルの母、アリシアだ」
「ジョーさん、この度は娘を送り届けて頂き、本当に有り難う。私はガイオスの妻、アリシアです」
「アリシアさん、初めまして。自分はスベニの冒険者、ジョー・ジングージです。宜しくお願いします」
「家名をお持ちとは、貴族様でしょうか?」
「いえ……いや、先日、騎士の称号をタースのフェアウェイ大公閣下から頂きましたが、貴族ではありません……でしたかな?なので、お気になさらず」
「そうですか、騎士様でしたか。それではジングージ様とお呼びしないと、失礼になりますわね」
「いや、ジョーで構いません。仲間も、そう呼んでくれています」
「はははは。ジョー、お主は愉快な奴だな。俺は、お前が気に入ったぞ。お前と友になれた事、アリエルに感謝せねばな」
「あははは……。お父様、ジョーさんは、本当に良い人だよ。最初に会ったときからね」
「お前の人を見る目は怪しいが、ジョーは確かに良い奴だな」
「そうですよ、アリエル。これからは、知らない人族に付いて行っては、絶対に駄目ですうからね」
「はい……十分に反省してます……」
アリエルさんが誘拐されてしまったのは、天真爛漫な上、警戒心を殆ど人族に対して持って居なかったので、闇ギルドの奴隷商人に捕らえられてしまったためだ。
その顛末を知る両親は、アリエルさんに対して、厳しく怒る事はしないまでも、ちゃんと本人に納得させた様だ。
それにしても、アリエルさんの母、アリシアさんは、海面から上半身を除かせているのだが、その放漫な二つの乳房が露わになっており、俺は自分の目が泳いでしまっているのが、良く判っている。
そして、その泳いだ目が次に捕らえるのは、彼女達の周囲に上半身を露わにしている他の人魚、いや女性の魚人さん達の胸だ。
アリエルさんは、まだ"自衛隊"女性陣が作ったブラジャー・モドキを胸に着けていたのだが、他の魚人女性達は、胸には何も着けていない。
当然ながら、そうなると俺の目は、その露出した胸へと視線が次々と移って行ってしまう。
俺の後ろには、"自衛隊"と"九ノ一"の女性陣達が全員居るのにも関わらずにだ。
俺以外の男性陣はと言うと、ロックやマヌーさん、ローランさんの3人だが、何故か平然としている。
どうやら、狼狽えているのは、俺だけの様で、変に狼狽えるから女性陣に後ろ指を指されてしまうのだろう。
俺は、自分の顔が赤くなってきているのを感じたのだが、そんな俺に助け船をガイオスさんが出してくれた。
「ジョー、そろそろ昼時だが、どうだ、俺達と一緒に昼飯でも食わんか?」
「お昼ご飯ですか。そうですね、自分達は携帯保存食などもありますので、ご一緒に頂きましょうか?」
「お前達は、15人程かな?俺達は、漁に出ている連中を入れても、今この村に居るのは30人程だ」
「そうすると50人分は必要ですね。では、主食の方は、自分達に任せてください。直ぐに準備を致します」
「そんなに大勢の食事を簡単に賄えるのか?いや、人族の暖かい飯を食えるのは、有り難いのだが」
「大丈夫です。一時間位は、準備に要しますが、宜しいですか?」
「無論だ。漁に出ている連中も、その位で帰ってくるだろうからな」
「はい。では、直ちに準備を開始します」
「ああ、俺も此から漁に出てこよう。何か食いたい獲物はあるか?」
「獲物ですか……蟹とか海老とか、貝などが好物です。後は、烏賊も大好きです」
「よし、任せておけ。では、後でな」
こうして、俺達は図らずも新鮮なシーフードの昼食を頂ける事になった。
俺達も、早速、準備を開始する事にし、俺は無限収納から、野外炊具1号(22改)を召喚する。
それから、調理用の水も必要なので1t水タンクトレーラを野外炊具1号(22改)も召喚し、鍋やバーナー、米に加えて戦闘糧食Ⅰ型と、オブライエン少佐と交換したコンバット・レーションなども召喚した。
既に、"自衛隊"のメンバーはもちろんの事、"九ノ一"のメイド部隊も、タースの難民キャンプでの実践で、野外炊具1号(22改)での米の炊き方などは熟知してる。
俺達が全員で昼食の準備を行って居ると、同行していたマヌー隊長とローランさん、そしてマヌー隊長の部下達が4名は、ぽかんとしていた。
暫くすると、甘いマスクのイケメン、マヌー隊長が口を開いた。
「ジングージ卿、我々も何か手伝いする事は、あるまいか?」
「そうですね……鍋で湯を沸かしておりますが、薪があれば助かります」
「薪か。では、周囲を探して参いろう。おい、お前達も探すのを手伝え」
「「「「はっ!」」」」
「では、それがしも参りますぞ」
「ヴァンチュラ卿は、魚人族の方へ今回の件に関して、詳しくお話をされてください。特にアリエルさんの母君、アリシアさんへ、お願いします」
「うむ、そうですな。それがしが適任ですなあ。なにせ、同じ牢へ囚われて居たのですからな。はははは……面目ない」
「では、お願いします」
「承りました」
そう言って、ローランさんは、浜辺に居るアリシアさんとアリエルさんの母娘に走り寄って行った。
しかし、闇ギルドに囚われて居た事が、未だに自虐する程の屈辱だったのだろうか。
騎士職、しかも半ば引退したとは言え、元は近衛隊長を勤めて居た程の実力者なのだから、心の傷は、そう簡単には癒せないのだろう。
俺自身も、心の傷が自衛官を目指す原動力になったのだが、未だに傷は癒えていないのだから。
浜辺では、すっかり仲良くなったアリエルさんとローランさんの笑い声と、アリシアさんの笑顔も見える。
それは、まるでローランさんが娘とその子、つまり孫娘と遊んでいる様にも見えた。
約一時間後、食事の準備は調った。
大量の白米に、暖めた缶飯やコンバット・レーションなどを折り畳みテーブルに並べる。
マヌー隊長達に集めて貰った薪で、大鍋には湯が煮えたぎっており、後は獲物を投入するだけだ。
本当は、醤油が欲しいところだが、今回は魚醤で代用だ。
すると、海の中からガイオスさん達、魚人族の漁師さん達が上がって来た。
手には大きな網を持っており、その中には大量の蟹や海老が入っている。
「待たせたな、ジョー。大漁だぞ」
「凄いです。ガイオスさん……美味しそうですね。こちらの準備は完了です」
「うむ、良い匂いがしているな。そちらも旨そうだ」
「はい、お口に合えば良いのですが……では、早速、頂きましょうか」
「獲物を煮たり焼いたりしなくて良いのか?」
「何を仰います、折角の新鮮な獲物、生で食べるのが自分の祖国の流儀です」
「おお、そうか、そうか、本当にお前は良い奴だな。人族は、生で食わんから、気に入らなかったのだが、お前は判っているな」
「当然です。生で魚介類を頂くのを、祖国では刺身と言っておりました」
「サシミか。よし、ではサシミを食おう」
「はい、頂きます!」
こうして俺は、本当に久々となる刺身を、炊きたての白米と一緒に食べさせて頂く。
ナンプラーに似た魚醤ではあるが、これを少し着けた蟹と海老の刺身は、途轍もなく美味だった。
欲を言えば、醤油と山葵も欲しかったが、この異世界の魚醤も、十分に美味しい。
ガイオスさんも、「魚醤を付けたサシミは旨い」と言い、「暖かい白米と合うな」と絶賛している。
生で蟹や海老、そしてホタテ貝や烏賊を食べている俺や魚人族を見ていた"自衛隊"と"九ノ一"の面々も、我慢できなくなったのだろう、意を決して刺身を口に入れると、それからは、もう止まらなかった。
最後まで口にしなかったマヌー隊長と部下の方やローランさんのために、大鍋にも蟹や海老を投入して、茹でた蟹と海老を堪能してもらう。
貝や烏賊は鉄網の上に乗せ、焼いてから食べて頂く。
こちらも、魚醤で味を調えると、香ばしい匂いが食欲をそそる。
塩味の濃い缶飯やレーションは、特に魚人族の方々に好評だ。
やはり塩分濃度の関係なのだろうか、味の濃い食事を好んでいる。
こうして、俺達と魚人族の豪華なシーフードによる昼食会は、延々と続くのだった。




