港湾都市イサドイベ
やがて、俺達の前方には、港湾都市イサドイベの城門が見えてきた。
事前に、レティシア姫やローランさんから聞いていた情報では、イサドイベの城門は北側の此処が最も大きく、東西の城門は小さいとの事だ。
確かに、スベニやタースの城門に比べると、二つの城門が築かれており、その片側には多くの荷車や馬車が列を作り、入城チェックを待っている。
もう片方の城門には、全く入城待ちの馬車や荷車の列は無く、入城をチェックする警備兵の姿も見えない。
すると、ロックから無線連絡が入る。
『こちら、ロックです。ローランさんから、私達が先行した方が良ぃとの提案がぁりました。どうぞ……ザッ」』
『了解。それじゃ、ロック達が先行してくれ。どうぞ』
『はぃ。こちらが先行します。……ザッ』
ロックの操る96式装輪装甲車には、レティシア姫、ローランさんとメイド達が7名と、更にミラが乗車している。
96式装輪装甲車は、俺達が乗り先頭を走行していた16式機動戦闘車の脇をすり抜けて行く。
そして、渋滞をしている城門では無く、全く待ち行列の無い空いた城門へと向かった。
96式装輪装甲車が城門手前で停止すると、大勢の警備兵が何処からとも無く現れ、96式装輪装甲車の周りを取り囲んだ。
そして、更に警備兵が増員されて、俺達の乗った16式機動戦闘車の周りまでも取り囲む。
俺は、警備兵達の姿を車長用のハッチから見下ろしていたのだが、警備兵は全員が剣を抜刀しており、遠くからは弓兵が矢で俺に狙いを定めている。
まあ、観た事も無い鉄の箱車が数台、異音を発しながら隊列を組んで訪れたのだから、警戒して当然だ。
俺達や、後方の73式大型トラック(新)ベースの3 1/2t水タンク車と、最後尾の96式装輪装甲車も停止する。
前方で停止している96式装輪装甲車の後部油圧式ハッチがゆっくりと開いていき、そこからローランさんが下車してくると、警備兵の隊長らしき兵士が驚きの声を上げる。
そして更に、その後からメイドに手を引かれたレティシア姫が下車すると、警備兵は全員その場で傅く。
俺達の周りを取り囲んで居た警備兵も、同様に剣を鞘に収めてからレティシア姫へ向かって傅いた。
俺に狙いを付けていた弓兵も、同様に弓の弦を緩め、矢を外してからレティシア姫に向かい傅く。
どうやら、俺達の一行がレティシア姫を警護して、イサドイベまで来ることは事前に通告されていた様だ。
しかし、まさか鉄の箱車に乗って来るとは、警備兵達も予想外だったのだろう。
皆さん、驚かせてしまい申し訳ありませんでした。
警備兵の隊長と話しが終わったのだろう、ローランさんが俺達の方へ走って来る。
「ジングージ卿、警備兵達が申し訳ありませなんだ。お許し下さい」
「いえ、いえ。警戒するのが当然ですよ。それで、これから、どうしますか?」
「では。このまま"鉄の箱車"で我が主の城へ……シムカス城まで送って頂けますかな?」
「構いません。ヴァンチュラ卿が先導して下さると助かります」
「無論ですとも、承りました。では、それがしが城までの案内を致します」
「はい」
ローランさんは、再び前方に停車してる96式装輪装甲車へと戻り、レティシア姫が再び乗車してから、その後に続いた。
前方で停車していた、ロックの操る96式装輪装甲車の後部ハッチがゆっくりと閉じられ、そして発進する。
その前方には、先ほどまで俺達を取り囲んでいた警備兵たちが、いつの間にか馬を準備したのだろうか、乗馬して96式装輪装甲車を先導していた。
俺達も、それに遅れないように、直ちに発進して後に続く。
俺達のナークが操る16式機動戦闘車の発進に合わせて、アンが運転する3 1/2t水タンク車と、最後尾のベルが操縦する96式装輪装甲車も発進した。
警備兵の乗馬する馬に先導され、港湾都市イサドイベの街中を俺達は、シムカス城を目指す。
城塞都市タースと異なり、このイサドイベにあるシムカス城は、小高い丘の上に建てられており、その姿は走行中の俺にも見えている。
スマートフォンのマップ表示で見ると、城の周りを堀で囲んでおらず、城壁のみが囲っていた。
しかし、シムカス伯爵は、海運によって収益を多く得ている様で、その大きな城が富を象徴している。
イサドイベの街中は、かなり活気に溢れており、道路には多くの通行人が居た。
そして、通行人達は、初めて聞くのだろう、ディーゼル・エンジンの発する音に驚き、ハッチから半身を出してる俺の姿を凝視してくる。
そして、このイサドイベの街も、ご多分に漏れず女性の姿が圧倒的に多い。
当然ながら、若いご婦人が多いのだが、他の街に比べると獣人の比率が多く感じられる。
港町と言う事から、他の場所からの移住などが多いのかもしれない。
丘の坂道を上ると、目の前に迫った城壁が俺達の行く手を遮る。
馬に乗った警備兵達が馬から下り、閉じられている城門の扉を叩き、城壁の中へ何やら告げている様だ。
すると、大きな城門が観音開きで外側へ開き始めた。
俺達の乗っている16式機動戦闘車や、96式装輪装甲車の重量があっても、跳ね橋では無いので、そのまま入城が出来るのは有り難い。
城門を潜ると、中は広場になっており、タースの大公家の城の様に、幾つもの居館や教会が見えた。
そして、警備兵に先導されて、一番大きな居館前へと俺達は案内される。
どうやら、この居館が港湾都市イサドイベを司っているシムカス伯爵の住まいらしい。
前方を走行していた、ロックの操縦する96式装輪装甲車が停車したので、俺達も停車する。
後に続く、3 1/2t水タンク車と、最後尾の96式装輪装甲車も停車した。
前方で停車した96式装輪装甲車の後部ハッチが開かれ、中からメイドに手を引かれたレティシア姫が下りて来る。
更に、他のメイド達も後に続き、最後にローランさんが下りてきた。
俺は、全車へエンジンを停止し、下車する様にハンディー・トランシーバーで指示する。
ただし、3 1/2t水タンク車のタンク内に居る人魚のアリエルさんだけは、そのままタンクに留まってもらう。
アリエルさんは、タンクのハッチから半身を除かせ、「うわ~、海の匂いがするね。イサドイベへ帰ってきたんだね」と嬉しそうに言っている。
俺達全員が下車して、レティシア姫の後に続いて居館へと歩を進めた。
たしかに、イサドイベの街は、スベニやタースとは空気の感じが全く違う。
海辺の街、特有の磯の香りに包まれており、空気の湿度も高い様だ。
だが、俺にとっては4年間過ごした横須賀の街も同じ感じだったので、とても懐かしい感じがする。
レティシア姫が居館の前まで行くと、後ろに居たメイドが数人、居館の中へと小走りに入って行く。
俺達はと言えば、ローランさんの後へ"自衛隊"のメンバーとミラが続き、その後へサクラさんを先頭に、"九ノ一"達が続く。
サクラさんと"九ノ一"のメンバー全員は、いつもの黒いメイド服ではなく、サイズ調整の終わった迷彩服3型と戦闘靴2型、そして防弾チョッキ2型とサイズ調整が出来ない88式鉄帽を装備している。
未だ、銃器の扱いの訓練を行っていないので、装備しているのは、89式多用途銃剣のみだ。
暫くすると、居館の扉が大きく開かれ、中から大勢の人が外へ出てきた。
その中心には、恰幅の良い小太りの男性がおり、豪華なマントを翻して足早にレティシア姫へと近づき、大きな声を上げる。
「レティシア、よく無事に戻った!」
「お父様。唯今、レティシアはイサドイベへ戻りました……」
レティシア姫は、そう言うと開くことのない両眼から、大粒の涙を流すのだった。




