南風
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オブライエン少佐との遭遇、そして試合という名のデス・ゲームを終えて、俺達は無事に自由交易歳スベニへと戻った。
俺とオブライエン少佐の試合を観戦していたギャラリーは、その試合内容に多くの疑問が有る様だったが、それを特に指摘する者は無かった。
勝者となった俺は、センチュリオン戦車を無限収納へ格納した。
しかし、炎上したセンチュリオン戦車は、消火した後に無限収納へ格納しようとしても、格納する事が出来なかったのだ。
仕方が無いので、センチュリオン戦車の残骸は、"迷いの森"の草原へ放置して置く事にした。
スベニへ戻り、バンカー公爵へ事の顛末を報告すると、凄く感激して喜んだ。
また、フェアウェイ大公より勲章を受勲された事や、騎士の称号を贈られた事などを話すと、我が事の様に喜んでくれた。
タースからスベニへ、サンダース隊長の代行として来たヘンリー副隊長は、フェアウェイ大公から預かって来た親書をバンカー公爵へ渡したのだが、その親書を読んだバンカー公爵は、更に破顔して大喜びをしていたのだ。
親書に何が記されて居たのかは、俺が知るよしも無かったが、エリザベス姫も大喜びしているのを見ると、禄でも無い事が書かれていたに違い無いと、俺は確信するのだった。
冒険者ギルドへ顔を出すと、ギルマスのアルバートさんからも、俺達に賞賛の言葉が浴びせられた。
特に、弟のギルさん以下、"雛鳥の巣"の面々が全員無事だった事を凄く喜んだ。
そして、俺達のパーティー"自衛隊"や、サクラさん率いる"九ノ一"部隊を快く迎えてくれ、同時に"九ノ一"をパーティーとして登録してくれた。
ちなみに、パーティー"九ノ一"のリーダーは、もちろんサクラさんだ。
そして、サクラさんを俺達"自衛隊"のパーティーメンバーへ登録すると、自動的にパーティー"九ノ一"のメンバー全員が"自衛隊"へ登録される事を知った。
また、フェアウェイ大公から勲章を頂いた事により、俺達"自衛隊"と"九ノ一"全員がランクアップをした。
しかも、レザー・ランカーは2ランクのアップで、メタル・ランカーは1ランクのアップだった。
ギルさん達"雛鳥の巣"の3人も、今回の活躍で全員が1ランクのアップを果たしたのだ。
俺としては、既に女神様によって、無限収納へ新たな装備が加えられて居たので、どうやらギルドのランクアップとは別個に、装備品が増やされる事が判っていたのだが、ランクが上がるのは正直な気持ちで嬉しかった。
アントニオさん一家は、家族水入らずでアントニオさん宅に居る。
スベニの教会で、お孫さんの洗礼を行うとの事だ。
スベニの教会と言えば、勇者コジローさんの八九式中戦車を図らずも入手したので、それを寄付した。
しかし、教会の中へ展示するだけのスペースが無いとの事で、現在は保留状態だ。
アントニオさんや、警備隊のウィリアム大佐、そして生産ギルドのテンダーさん達が話し合い、中央広場へ展示場を作る事で話しが進んでいる。
テンダーのおっさんと言えば、スベニへ帰ってからは、少しだけ大人しくなった。
そして、約束どおりに"九ノ一"達の住まいを、突貫工事で建築中だ。
大まかな図面しか渡していないが、どんな家が建つのか今から楽しみでもある。
現在、俺達が住んでいる家とは、離れとして建ててもらっているので、通路だけを現在の住まいへ増築する事になった。
合わせて、外にあるトイレも数を増やす方向で、全面的に立て替えと決まった。
スベニへは、都合三日間の滞在だったが、慌ただしく動き回らねばならなかった。
先ず、"九ノ一"部隊のメンバー全員へ迷彩服3型と戦闘靴2型を支給し、それらのサイズ変更を馴染みになった服屋さんと靴屋さんへ依頼した。
12人分と数が多かったが、服屋さんも靴屋さんも快く引き受けてくれ、僅か二日間で仕上げてくれた。
そう言えば、人魚のアリエルさんにも、女性陣達が胸当てというかブラジャー・モドキを作ってもらい、それを着てもらった。
当のアリエルさんは、「邪魔だよね」と言って、あまり気に入ってはいなかったが。
我が家の脇を流れている、大河からの用水路を見て、「此処からイサドイベまで帰るね」とか言って、俺達を困らせたりもした。
しかし、狭い73式大型トラック(新)の水タンクよりは、広い河の方が気持ち良さそうだった。
三日間の間は、殆ど用水路や大河を泳ぎ回って、大きな魚なども捕ってきてくれた。
スベニの脇を流れる大河では、漁業も盛んだと以前アントニオさんが言っていたが、本当に大物が捕れるのを改めて知った。
アリエルさんは、生で食べようとしたのを俺が止め、ベルや"九ノ一"の方に美味しく料理をしてもらったのは言うまでもない。
レティシア姫一行のローランさんとメイド達は、スベニの最高級ホテルへ滞在していた。
商業ギルド、生産者ギルド、冒険者ギルドから、イサドイベに向けて鳩便が飛ばされて、近日中に送り届けると連絡してもらった。
レティシア姫には、俺達の空いている時間を見付けて、中央広場の"コナモン"コーナーへ赴き庶民の味を堪能してもらった。
「美味しいですわ、ジングージ様」と言っていたが、特に気に入ったのは、たこ焼きの様だ。
イサドイベでなら生の蛸も手に入るので、レシピを渡すので孤児院の収入源にしてはどうかと提案すると、「素晴らしい、お考えですわ。是非、お教えくださいな」と凄く乗り気だ。
護衛のローランさんは、たこ焼きよりも、お好み焼きに感動しており、「ジングージ卿、是非ともレシピを教えて下され」と言っていた。
それは、狼人族の郷土料理なので、イサドイベに住む狼人族に聞いた方が良い、と答えておいた。
悪魔族、カーティス・オブライエン少佐、そして闇ギルドの件に関しては、俺やアマンダ隊長、ギルさんらで報告を行った。
やはり、誰もが驚いたのは、悪魔族の存在だ。
特に、俺が撮影したスマートフォンの動画には、皆が驚愕していた。
一応、聞かれて欲しくない会話もあったので、音声はミュートして見てもらった。
既に、アントニオさんやギルさん達には、絶対に口外しない様に、お願いをしてある。
教会のマーガレット司教も、悪魔族に関しては、全く情報を持ち合わせていなかった。
ただし、スベニには光の宝珠があるので、悪魔族は近づけない事を知らせると、全員が安堵したのだ。
そして、悪魔族の最大の弱点は、回復魔法や治癒魔法である事も全員へ知らせた。
また、オブライエン少佐に関しては、現時点では敵対する存在とは断定出来ない事も話した。
スマートフォンで撮影した俺との試合を見せると、「勇者コジロー様と同じ"鉄の箱車"と爆裂魔法を使うのですか」と、皆が驚いていた。
そして、俺達が操った16式機動戦闘車との試合を見ていた、アントニオさんやテンダーのおっさん、ギルさん、そしてアマンダ隊長から「ジングージ様の方が強いので、ご心配なく」とフォローしてくれた。
俺達は、慌ただしくスベニでの滞在を終わり、今は一路、港湾都市イサドイベへ向かい、南の街道を南下している最中だ。
今回のイサドイベへの旅は、俺達"自衛隊"に加えてミラ、サクラさん率いる"九ノ一"、そしてレティシア姫一行のローランさんとメイド達が7名、さらに73式大型トラック(新)ベースの3 1/2t水タンク車には、人魚のアリエルさんが乗っている。
車輌は、ナークの操る16式機動戦闘車へ俺が乗り、ベルが操縦する96式装輪装甲車へ"九ノ一"部隊が搭乗し、ロックの操縦する96式装輪装甲車へレティシア姫一行が乗り、73式大型トラック(新)ベースの3 1/2t水タンク車はアンが運転している。
オブライエン少佐との試合で破損した16式機動戦闘車は、無限収納へ格納して、新たに召喚して破損分は無くなっているのは言うまでもない。
今回も、マーガレット司教が「ミラを同行させて下さい」と申し出たので、お言葉に甘えて同行してもらう。
ミラは、ロックの操縦している96式装輪装甲車へ乗り、レティシア姫の話し相手になっている。
スベニを出発したのは、朝方だったのだが、南下するに従って気温が上昇してきている。
正直な感想を言えば、16式機動戦闘車にはクーラーが装備されておらず、暑くなってきて不快指数が上昇ぎみだ。
つくづく、エアコンの装備されている、軽装甲機動車を選択していればと後悔し始めている。
しかし、いつ何時、強力なモンスターが出現して、俺達に襲いかかって来るやもしれないので、戦闘力に勝る16式機動戦闘車で進行するしか無い。
既に、砲塔のハッチや、ナークが搭乗する操縦席のハッチも全開だ。
暫く南の街道を南下して行くと、風の流れが磯の香りを運んで来る。
吹いている風は、南からなので海が近くなってきたのだ。
さあ、間もなく目的地の港湾都市イサドイベに、俺達は到着するぞ。




