コンピューター
『神宮司少尉、着弾と同時にシールドを張った様だが無事かな?……ザッ』
『乗員は全員無事です』
『そうか、良かったな。しかし、これで試合は終了だな。……ザッ』
『お言葉ですが、未だMCVは走行不能ではありません』
『何だと!?予備エンジンを装備しているのか、その装甲車は?……ザッ』
『いいえ、エンジンは一基しか積んでいません。少佐殿が狙ったのは貨物スペースです』
『……後部にエンジンを搭載していないだと?……ザッ』
『少佐殿は装甲車と仰っておられますが、車のエンジンの多くはフロント装備では?』
『ふはははは……。そうか、戦車の様な姿だが基本は車か……私のミスか、抜かったな。……ザッ』
『先入観は時として過ちを誘発します。では、今度は此方から攻撃をさせて貰います』
やはり、俺の読みが当たっていた。
オブライエン少佐は、16式機動戦闘車のエンジンが後部へ搭載されていると勘違いしていたのだ。
残念ながら16式機動戦闘車のエンジンは、前部の左側へ搭載されている。
恐らく、操縦席が前部の右側に配置されてるため、戦車と同様な構造でエンジンも後部へ搭載されていると思ったのだろう。
16式機動戦闘車は見た目も戦車と酷似しており、違いはタイヤで走行するか履帯で走行するかの違いだけなのも幸いした。
「ナーク、前進開始だ。池を抜け出せ!」
「……了解。前進する」
ナークが16式機動戦闘車を前進させると、後部の右側から異音が聞こえてきた。
どうやら着弾した際、装甲が破損してしまい後輪に干渉している様だ。
「……後輪が回らない様だ」
「構わない。そのままフル・アクセルで前進させてくれ』
「……判った。後輪が破損するぞ』
「破損しても大丈夫だ。タイヤ一個くらい無くなっても走行には影響しない」
「……了解。前進する」
ナークが16式機動戦闘車のアクセルを踏み込むと、バーンッ!とタイヤの破裂する音が聞こえて来た。
破壊された右後部の装甲板がタイヤに食い込んでしまい、後部右側のタイヤがバーストしたのだろう。
しかし、これで装甲板がタイヤに干渉する事も無くなるはずだから、16式機動戦闘車の走行が可能となる。
16式機動戦闘車は、そのまま前進を開始して池から難なく抜けだし、そのまま前進して草原へと戻る。
「ナーク、センチュリオンへ向かって前進してくれ」
「……了解」
「アン、センチュリオンへ砲撃を準備だ」
「判ったよ。でも、未だ砲弾は装填して無いよ」
「相手にはもう砲弾は無い。焦らなくても大丈夫さ。ベル、何時でも砲弾を装填出来る様に準備だ」
「了解でしゅ。何時でも装填出来ましゅ」
アンが16式機動戦闘車の砲塔を回転させて、センチュリオンへの砲撃を準備する。
センチュリオンは、未だ動いておらず此方を見据えたままだ。
このままセンチュリオンを砲撃しても、前面装甲を打ち抜けるとは思えない。
やはり側面か後方へ回り込まねば、センチュリオンのエンジンを破壊する事は難しいだろう。
「良し、ナーク。全速力でセンチュリオンへ向かってくれ。最高速度制限は解除だ」
「……了解した。全速力で直進する」
ナークは16式機動戦闘車のアクセルを更に踏み込むと、此までとは違い小刻みな振動が車体に伝わって来た。
やはり、後部のタイヤが一個だけ無くなった事で、振動が激しくなった様だ。
しかし、走行には全く支障を与える事なく草原を走り続ける。
此までの二倍近い速度を出した事で、オブライエン少佐も驚いた様だ。
『はははは……。そのMCVと言う装甲車、そんなに速く走れたのか。私を謀ったな、神宮司少尉。……ザッ』
『少佐殿だって、最初から相手に全ての手の内を見せますか?』
『そうだな。相手を油断させるのは戦術の基本だ。そして君はセンチュリオンを知り尽くしている様だし、ハンディ・キャップとしては丁度良いか。……ザッ』
『仰るとおりです。歴史的にもセンチュリオンの様な名戦車は陸軍関係者であれば、基本的な知識として持っていると言うだけです』
『なるほどな。さあ、こちらの勝ちは無くなったが、未だ負けてはいない。どう攻撃するのだ、神宮司少尉?……ザッ』
『それを少佐殿にお話するほど、自分も間抜けではありません』
『はははは……。それもそうだな、まあ頑張りたまえ。……ザッ』
オブライエン少佐は恐らく此方にエンジンを狙わせ無い様に、あの場に留まり続けて超信地旋回によって装甲の硬い前面を此方へ向け続ける作戦だろう。
ならば此方はそれよりも速い速度で移動し続けて、砲撃のチャンスが訪れるのを待つしか無い。
センチュリオンが超信地旋回によって回転する速度は、俺が想像していたよりも高速だ。
しかし現代の10式戦車などに比べれば、その回転速度は遅い。
だから、必ず砲撃のチャンスが訪れる筈だ。
砲撃のチャンスを得るには、相手のミスを誘うしかない。
そのためには、センチュリオンの操縦者か、戦車長のオブライエン少佐を焦らせるのが一番だ。
先ずは、16式機動戦闘車の最新式自動照準機能を見せてやろう。
オブライエン少佐の生きていた時代には戦車へコンピューターを搭載して自動化するなど、SF小説か映画の世界での話しだ。
その想像も出来ない最新機能で、センチュリオンに焦ってもらうことにしよう。
「アン、自動照準機能でセンチュリオンへロックオンしろ」
「えっ、アタイの砲撃じゃ駄目なの?」
「いや、俺はアンを信用しているさ。相手に此方の手の内を見せつけてやり、相手の動揺をさそう」
「……判ったよ。自動追尾で敵へ照準を合わせるよ」
「頼んだぞ」
「自動砲撃追尾を開始。敵をロックオン!」
「よし、ナークは全速力を維持したまま、センチュリオンの周りを至近距離で周回」
「……了解。速度は少し落ちるぞ」
「ああ、それで構わない」
16式機動戦闘車はセンチュリオンへ近づき、その周りを周回し始める。
当然ながらセンチュリオンは超信地旋回によって、こちらへ側面や後部を見せない様に回転し始めた。
だが、こちらの速度は、超信地旋回の回転速度よりも僅かだが速い。
徐々にセンチュリオンは、その側面を我々に晒し出す。
「よし、アン。自動追尾に照準を任せて、ハッチを開けて銃座へ上がってくれ」
「えっ?何でなのよ?」
「相手に砲手が居なくても、16式機動戦闘車は攻撃が出来る事を見せる。ベルは砲弾を装填してから、同じようにハッチを開いて、相手に顔を拝ませてやれ」
「はい、ジョー様。了解でしゅ。……徹甲弾、装填完了しましゅた!」
「了解。ナークも操縦席のハッチを開いて操縦してくれ」
「……了解」
よし、これでオブライエン少佐は、こちらの砲手や装填手が操作しなくても、自分が常に狙われている事に驚くはずだ。
こんな作戦、相手がフェアプレイをしていると言う前提が無ければ、絶対に実行出来ない。
万が一、センチュリオンが機関銃での攻撃を行ってきたら、此方は全員がやられてしまう。
更には約束を守らず次の砲撃を仕掛けてきたら、俺達は全員が殺られてしまう。
ここは、オブライエン少佐の言葉を信じるしか無いのだ。
『オブライエン少佐殿。こんな機能もMCVには装備されているのですよ』
『……砲手や装填手が居ないのに、此方を狙い続けているだと!?……ザッ』
『これが21世紀の戦車が装備している、自動追尾付き照準機能です』
『自動追尾?人が操作しなくても良いのか?……ザッ』
『そうです。このMCVにはコンピューターが搭載されています。どんな地形を走行していても、相手を狙い続けて砲撃が出来るのです』
『……コンピューター。私は電子計算機と試合していたのかね?……ザッ』
『いいえ、MCVの操縦は操縦士が行っていますし、今まで照準を合わせていたのも、砲手が操作してました。もちろん、砲弾の装填も装填手です。こんな機能も有ると言うのを、貴方にお見せしたかっただけです』
『……時代の進歩と言う事か。……ザッ』
『そうです。現代の兵器は戦車に限らず、全てがコンピューターや衛星をフルに活用しています。しかし、今は試合ですから自分達は、自力だけで貴方を撃破してみせます』
『……そうか、期待しているよ。……ザッ』
良し、大分オブライエン少佐が動揺している。
センチュリオンの操縦士も、同じ状態だと良いのだが、それは窺い知る事が出来ない。
さあ、チャンスは一度きりだ。




