試合開始
「ナーク、全輪走行へ切り替えてくれ」
「……了解」
俺の指示でナークが、16式機動戦闘車の8輪全てを駆動輪へと切り替える。
草原の走行には、全輪駆動でないと走破が難しい凹凸も多い。
更に、この試合の勝敗は走行不能になった方が負けなので、多少の車輪が砲撃で破壊されても走行が可能な全輪駆動が有利となる。
「それからナーク、俺が指示するまで、最高速度は60Km/hまでに押さえてくれ」
「……何故?」
「オブライエン少佐は、MCVの走行性能を知らないはずだ。だから60Km/hが最高速度だと思わせたい」
「……判った」
センチュリオンの最高速度は約30Km/hだ。
その2倍程度の速度が、此方の最高速度だと思わせておいて、勝負のチャンスが訪れた際に全速力を出す事で、相手の動揺を誘う事ができるかもしれない。
16式機動戦闘車の105mm主砲で、センチュリオンの前面装甲を打ち抜けるかどうかは判らない。
であれば、より装甲の薄い側面や後方のエンジンを狙うしか無い。
履帯を片側破壊したとしても走行不能にはならないから、狙いは駆動用エンジンだけだ。
俺は、16式機動戦闘車の後部へ搭載してある予備弾薬や砲弾を、無限収納へ収納する。
残した砲弾は、徹甲弾一発だけだ。
このアドバイスをくれたのはオブライエン少佐だが、正直なところ不安もある。
もしも、彼のアドバイスが罠だったらと言う不安だ。
お互いが一発だけの徹甲弾を使用すると言う口約束を、本当に信じて良いのだろうか。
約束を無視して、センチュリオンが徹甲弾ではなく榴弾を使用してきたら、どうするのか。
それも一発だけでは無く、連射で攻撃される可能性も捨てきれないし、待機している4輛のセンチュリオンからも砲撃されてしまう可能性だってある。
俺は疑心暗鬼のスパイラルが頭の中で渦巻くが、オブライエン少佐が言った「お互いにフェアな試合をしよう」と言う言葉を信じるしか無かった。
「ベル、残っている一発の徹甲弾を、何時でも装填できる様に準備していてくれ」
「はい、ジョー様。了解でしゅ!」
「アンは、砲弾を装填して居なくても、あの戦車……センチュリオンを常に狙っていてくれ」
「うん、判ったよ。相手の弱点を知っているの?ジョー兄い」
「ああ、知っている。だが今回は車体後部のエンジンを狙う。だから、側面か背後からの砲撃だ」
「判ったよ。アタイも頑張るよ!」
全員へ指示が済んだので、俺は砲塔の車長ハッチを開けて半身を乗り出す。
既に、オブライエン少佐は、センチュリオンの砲塔から、その身を乗り出して居た。
先ほどまで被っていたベレー帽から、鉄兜へと変わっており、ゴーグルを装着していた。
俺の姿を確認すると、センチュリオンのエンジンが始動し、ガソリン・エンジン特有の回転音が響いてくる。
こちらのディーゼル・エンジンとは明らかにエンジン音が違った。
英国の名門、ロールスロイス製のV型12気筒ガソリン・エンジンで、元々は航空機用に開発されたエンジンだから回転数も高い。
最高出力は650馬力だが、回転数を上げないと出力が上がらない。
対して、こちらの16式機動戦闘車へ搭載されているエンジンは、三菱重工製の直列4気筒ターボチャージ付きディーゼル・エンジンで、最高出力は570馬力だ。
しかし、最高出力は2100回転で得られるので、低回転トルクと言う面では圧倒的に優れている。
しかも、車重はセンチュリオンの52tに対して、半分の26tしか16式機動戦闘車は無い。
パワー・ウェイト・レシオでは、圧倒的に勝っているので、これが最高速度にも反映している。
しかし、もうひとつ俺を悩ませている事があった。
それはセンチュリオンには装備されていない、コンピューターによる砲撃の自動機能だ。
今回の戦いでは、恐らく行進間射撃を行う事になるが、16式機動戦闘車には、ターゲットの自動追尾もコンピューターが行ってくれる機能がある。
この機能を使用すれば、一度センチュリオンをロックオンしておけば、走行中どんな体勢からでも砲撃が可能だ。
これまでは、この自動追尾機能を使うことなく、アンの砲撃能力だけで対応してきたが、今回はどうしたものか、俺には結論が出ていない。
コンピューターを信じて、トリガーだけをアンに任せるのか、照準や発射タイミングなど、全てをアンに任せるべきなのか、悩ましい選択だ。
これまでも、コンピューターによる照準補正などは、アンにも使ってもらった事はあるのだが、命中精度という面では、アンの砲撃センスはコンピューターと全く遜色が無かったのだ。
俺が戦術に悩んでいると、オブライエン少佐の搭乗したセンチュリオンが、エンジンを吹かして前進を開始する。
あの時代のエンジンだから、暖機運転を行っていたのだろうか、エンジンが始動してから、暫くの間は停車したままだった。
前進を開始したセンチュリオンが、俺達の16式機動戦闘車脇まで来る。
砲塔から半身を出しているオブライエン少佐は、楽しそうな表情をしながら、俺に向かって言った。
「神宮司少尉、そちらの無線機は当然、全周波数に対応しているのだろう?」
「はい、オブライエン少佐殿。電波形式も含めて通常通信周波数なら全て送受信可能です」
「そうか。では、お互い通信をしながら楽しもうではないか」
「……了解です。周波数と電波形式を指定してください」
「ああ、ではジャスト40McのFMで行おう」
「了解しました。40MHz、FMにセットします」
「ヘルツ?なんだい、その単位は?」
「周波数の単位は、サイクルからヘルツに全世界で変更されました」
「はははは……そうか、単位まで変わったのか。では、私に付いてきてくれたまえ」
「はい、了解いたしました」
周波数の単位の呼び名が世界的に変わったのは、オブライエン少佐が亡くなった後で、日本でも表記が変更になった。
しかし、表記だけの違いなので、通信自体に支障を来す訳ではない。
英国圏のように、ポンド・ヤード法が未だに主流である国や、ガロンやマイルが基本の米国もある。
メートル法だけが単位ではないのだが、この異世界では西住小次郎大尉殿のお陰で、メートル法が基本だ。
俺は、広帯域多目的無線機(車両用)の周波数を40MHzへセットして、変調方式をFMへと変更した。
そして、先行するセンチュリオンMk.5-1戦車へ続き、16式機動戦闘車を前進させる様にナークへ指示をし、彼らの後へ続き草原へと走行を開始する。
俺の頭の中には、ここで背後を見せているセンチュリオンへ、「今すぐ砲撃してしまえ」と言う悪魔の囁きも聞こえてきた。
それを承知で、オブライエン少佐が俺達へ無防備な背後を晒しているのは、有る意味、俺を試しているのだろう。
西の街道から、かなり草原の奥まで移動してきた所で、センチュリオンが停止し、その場で超信地旋回を行い、此方へと向きを変えた。
20ポンド砲を装備した砲塔が、此方を威嚇する様に睨んでいる。
俺は、そのまま停止する事なく、16式機動戦闘車を前進させて、センチュリオン戦車の脇まで行き、ナークへ停止する様に指示を行う。
まるで、どれは西部劇のガンマンが決闘を行う様な体勢だった。
無線機からオブライエン少佐より、開始の体勢の指示があったので、それに従ったのだ。
そして、そのまま待機していると、無線機から通信が聞こえて来る。
『さあ、始めようか、神宮司少尉……ザッ』
お陰様で、第五回ネット小説大賞の第一次選考を通過いたしました事を、報告させて頂きます。
一次選考を通過できたのも、読者の皆様のブックマーク登録、評価ポイントを頂けたからに他なりません。この場にて、お礼を申し上げます。
これから、第二次選考や最終選考とハードルは更に高くなって行きますので、引き続き皆様からの応援が頼りですので、今後とも宜しくお願いをいたします。
以上、昨日の作者活動報告より転載。
今日まで、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』を2016年12月3日より本日まで、毎日更新を欠かさず行って参りましたが、明日以降は不定期更新へと移行させて頂きたいと存じます。これは、第五回ネット小説大賞の第一次選考の総評にもありますが、今後は改稿による作品の品質向上に努めろとありますので、本作も全面的に改稿を行いたいと思います。
読者の皆様には、引き続きお読み頂ける様に頑張る所存ですが、毎日更新は仕事の関係もあり時間的にも厳しく、改稿への時間を優先させて頂く事を、お許し願いたいと存じます。
加えて、作中に問題点や矛盾点、誤字、脱字、誤変換などがあれば、話数とサブタイトルと共に、是非とも、感想や活動報告へのコメントで、ご指摘を頂ければ幸いです。宜しくお願いを致します。
舳江爽快




