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デス・ゲーム

「このタイプ89戦車は、西住小次郎大尉と試合(・・)をした際に、私が手に入れた物だよ。君の祖国の戦車だろう?それは君にあげよう」

「有り難うございます。その西住大尉殿と試合ですか?何の試合でしょうか?」

「ああ、私のセンチュリオン Mk5と、彼のタイプ89戦車、それぞれ1輛づつで戦ったのさ。ルールは、砲弾を徹甲弾一発だけとして、相手を走行不能にした方が勝者だ」

「それで、貴方が勝ったと言うことですか」

「もちろん、私が勝った。勝者は相手の戦車を収納できるルールとしたからな」

「西住大尉殿は、その際ご無事だったのですか?」

「無論、無事だったさ。彼が死んだのは、更にずっと後だよ」


 戦車を使用した試合とは、まるで某戦車アニメの様だが、ルールとしては戦車性能の高い方が有利な所までそっくりだ。

 しかし、徹甲弾を一発だけとは、かなり厳しいルールだ。

 一撃必中でなければ、勝つ事が出来ない訳で、外した時点で逃げ回り続けて、相手の燃料切れを待つなんて事も可能なんじゃないのか。


「逃げ回って相手の燃料切れを待つ戦術でも勝てますか?」

「ルールでは、時間制限を指定して無いので、それも勝者だな」

「そうですか……砲弾の当たり所が悪ければ怪我では済みませんね。有る意味、死を賭けたゲームでしょうか」

「そうなるな。どうだ、神宮司少尉、私と試合をやってみないか?君の、あの装甲車に戦車砲塔を取り付けた車輌、一応は戦えるのだろう?」

「16式機動戦闘車、Type 16 Maneuver Combat Vehicleと言います。主砲は英国製の105mmライフル砲をベースに開発された日本製です。貴方のセンチュリオンは、マーク5の1型ですから20ポンド砲ですか」

「ほう、詳しいな。そのとおりだよ。そうか、似ていると思ったがL7の105mm砲のコピーを積んでいるのか……強敵だな。ふふふふ……タイプ89は一撃だったが、そう簡単には行かないと言うことか」


 どうやら、オブライエン少佐と試合(・・)をする方向で、話しが進められて行く。

 センチュリオンの走行速度は、現代の最新戦車に比べれば亀の様に遅い最高速度34Km/hだ。

 16式機動戦闘車の最高速度の1/3しか出せない。

 しかし、この草原での戦いとなれば、荒れ地の走破性や超信地旋回も可能な履帯装備の戦車との戦いは、どうなのだろうか。

 戦車戦闘の実戦経験が無い俺には、予測不能だ。

 俺が黙っていると、再びオブライエン少佐が口を開いた。


「試合の前に、お互いレーションの交換をしないかね?」

「戦闘食料の交換ですか?」

「そうだ。日本食も食べてみたいのだよ。いや、既に頂いたが軍用も食してみたい。それと、これは約束のコーヒーだ」


 彼が再び指を鳴らすと、ビニール袋に詰められたパック状のコンバット・レーションが10個ほど現れた。

 それらとは、違う小さなパックも5個ほどある。

 どうやら、オーストラリア軍のレーションと、アメリカ軍のアクセサリー・パックらしく、その中にコーヒーが入っている様だ。

 俺も、この交換取引は、願っても無い事だったので、戦闘糧食Ⅰ型を15個召喚して「どうぞ」と言い、テーブルの上に置いた。


「ほう、全て缶詰なのかね。これは楽しみだな。後で早速、頂くとしよう」

「お口に合えばよろしいのですが、自分としては、先ほどの袋に入っている2食の方が美味しいと思います」

「なるほど、日本の民間食か。では、そちらを先に頂こう。感謝するよ、神宮司少尉」

「自分も楽しみです。ありがとうございます、オブライエン少佐殿」


 俺は、オーストラリア陸軍のコンバット・レーションとアメリカ陸軍のアクセサリー・パックを無限収納に格納した。

 そして、彼がくれると言った西住小次郎大尉殿の八九式中戦車も、自分の無限収納へと格納した。

 ここで、俺は一つの疑問が頭の中に浮かんだ。

 今まで試す事が出来無かったが、ここで俺がオブライエン少佐のセンチュリオンを、勝手に無限収納へ格納してしまえば、相手の戦力が大きく削がれる事になる。

 ゲームの勝者が敗者の戦車を格納できるというなら、それも可能なのでは無いだろうか。


「一つ疑問が生まれたのですが、宜しいですか少佐殿?」

「なんだね、少尉」

「ここで自分が貴方のセンチュリオンを無限収納へ格納してしまえば、ゲームにならないのでは?」

「ふははは……やってみたまえ。出来るならな」


 俺は、言われるままに目の前のセンチュリオンを1輛、無限収納へ格納しようと"女神様の加護"を発動した。

 しかし、センチュリオンは、俺の無限収納に格納される事なく、その偉容を草原上に誇ったままだった。


「出来ないですね……しかし、貴方のレーションは出来たし、貴方も自分の食料を格納しました」

「なあに、簡単な事さ。召喚主が譲渡の意思を示すか、予め約束していなければ、他人の召喚物はインベントリーへ収納出来ない。あの、お節介な女神が定めた法則なんだろうさ。君も、この世界へ来る際、あの女神に確認されたろう?」

「なるほど、そう言う事ですか。自分が転生・転移する事も、自分の意思でしたね」

「そう言うことさ。私の場合も同じだ。……後悔しているがな。さあ、そろそろ、試合を始めようじゃないか、神宮司少尉」

「判りました。試合お受けいたします。搭乗員を呼びますので、もう少し時間を下さい」

「ああ、いいとも。あのタイプ16装甲車は、何人乗るのだね?」

「車長を含めて4人です」

「そうか、私のセンチュリオンと同じか。では、呼ぶがいい」


 俺は、なし崩しにオブライエン少佐の試合を受けてしまったが、断れば恐らく5輛のセンチュリオンによって、俺達のみならず乗客達も含めて壊滅させられるだろう。

 断れる選択肢が、全く無い状態だ。

 ここで、アンにオブライエン少佐を狙撃する様に指示を出しても、何らかの防御手段を持っているかも知れないので、それは無謀な行為だ。

 こちらが、防御魔法を使えるナークを同行した様に、相手も手段を講じている可能性の方が高い。

 俺は、ハンディー・トランシーバーで、アンとベルに、此処へ来るように指示した。


「ほう、随分と小型の無線機を持っているな」

「これは軍用では無く、自分個人のアマチュア無線用です」

「ハムだったのか。私の友人にもハムは居たが、そんな小型なのは見たことが無いな」

「貴方が亡くな……この異世界に来てから40年が経っています。技術は、凄い速度で進歩したと言う事です」

「ふははは……確かにそのとおりだ。タイプ16装甲車も、最先端兵器と言う訳だな」

「そうです。日本が誇る最先端の戦闘用装甲車です」

「楽しみだな。見せて貰おう、日本の最先端装甲車の力をな」

「自分は実戦経験が有りませんが、がんばります」

「アドバイスを一つだけしておこう。着弾した際の誘発を避けるために、砲弾はインベントリーへ全て収納しておきたまえ。徹甲弾一発だけ残してな」

「助言、ありがとうございます。仰るとおりですね。搭乗したら直ぐに格納します」

「乗員が来たようだな。ふははは……これはまた可愛い搭乗員達だな。では、お互いにフェアな試合をしよう」


 オブライエン少佐が差し出した右手に、俺も右手を差し出して握手をする。

 彼は、そのままセンチュリオンへと向かうと、二人の女性も彼の後に続いた。

 俺は、ベルとアンが16式機動戦闘車まで走って来たので、そのまま搭乗してもらう様に指示する。

 ナークには操縦席へ搭乗してもらい、俺が車長席へと搭乗するため、砲塔へと昇って行く。

 サクラさんには、俺達の車列にまで戻って貰う様に言うと、頷いてから「ご武運を!」と言い、車列へと走って行った。

 さあ、死の試合(デス・ゲーム)の始まりだ。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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