連携
『こちら、ロック。今、侯爵城へ到着しました。ジョーさん、どぅぞ……ザッ』
グッド・タイミングだ、ロック。
ハンディー・トランシーバーのハンド・セットへ接続した、片耳型のイヤーフォンから、ロックからの通信が入る。
フェアウェイ大公近衛隊の騎士達が一緒に行動しているので、俺とナークはハンディー・トランシーバーからの音声が周囲に漏れない様に、イヤーフォンを装着していた。
俺は、ハンド・セットのPTTスイッチを押して、小声でロックやベルへと連絡を行う。
『ロック、待っていたよ。丁度、良い到着だ。居館の3階の一番奥のバルコニーへ移動してくれ。どうぞ』
『了解しました。移動します。それからどぅしますか?どぅぞ……ザッ』
『了解。移動したら窓の手前の壁を、窓から指揮者ゴーレムの手を使って外へ引き剥がしてくれ。くれぐれも、居館全体を壊さない様、慎重に頼む。どうぞ』
『了解です。やってみます。どぅぞ……ザッ』
『俺の合図でやってくれ。アン、聞こえるか。どうぞ』
『聞こえるよ、ジョー兄い。どうぞ……ザッ』
『ロックが壁を引き剥がしたら、3人の男が見えるから、真ん中の男が持っている剣を打ち抜いてくれ。腕ごと打ち抜いて構わない。どうぞ』
『了解だよ。任せてよ。どうぞ……ザッ』
『了解。俺の合図を待って、男が見えたら即、撃って構わないぞ。どうぞ』
『判ったよ。ジョー兄い……ザッ』
『以上、通信終わり。全員待機してくれ』
作戦は簡単だ。
ロックの操る指揮者ゴーレムの手で居館の壁を外側へ引き剥がし、そこへアンがバレットM82A3、アンチ・マテリアル・ライフルで狙撃し、人質になっている女性へ突きつけている剣を、闇ギルドの首領の腕もろとも破壊してしまうだけだ。
他の闇ギルドの幹部二人は、俺とナークで無力化してしまえば良い。
二人とも剣を手にしているが、人質からは少し離れているので、両足を狙って撃てば無力化できるだろう。
「ナーク、左側の男を狙ってくれ。俺は右側の男を狙う。連射で足を狙うぞ」
「……判った」
俺は、手にしている89式小銃の安全装置レバーを、"3"から"レ"に切り替える。
ナークも同じく、安全装置のモードを切り替えた。
闇ギルドの3人を取り囲んでいる、隠密待女部隊が少し邪魔だ。
両脇に避けてくれないと、流れ弾に当たってしまう可能性もある。
しかし、素直に俺の言うことを聞いてくれるだろうか。
さて、どうしたものか。
と、人質になっている女性が、こちらを向き隠密メイド部隊へ命令を下した。
「全員、包囲を解いて部屋の両側へ移動しなさい」
「「「「「はいっ」」」」」
なんと、俺の思考を読み取ったかの様に、隠密メイドの包囲を解かせて、俺達の邪魔にならない様に指示を出したのだ。
人質の女性は、俺の方へ視線を移して、ゆっくりと頷いた。
どうやら、俺の作戦を完全に把握し、それを俺に伝えて来たとしか思えない行動だ。
これは、一体どういう事なのだろうか。
しかし、このチャンスを逃す事は出来ない。
俺は、すかさずハンド・セットのPTTスイッチを押し全員へ告げた。
『開始!』
『『了解!……ザッ』』
直ぐさま部屋の窓から、黒く巨大な手の指が差し込まれ、そして握る様にして壁を外へ引きちぎった。
ガラガラッと壁が崩れ去り、部屋が一気に明るくなる。
闇ギルドの3人は、咄嗟の出来事に驚き、崩れた壁の方を振り返る。
俺は、躊躇せずに、89式小銃を右側の男の両足へ向けて連射した。
同時に、ナークも引き金を引き、左側の男へ向けて89式小銃を連射する。
「ぐわっ!足が……」
「うわぁ、痛ぇ~、助けてくれ!」
そして、殆ど同時に、アンが発射したバレットM82A3の12.7mmNATO弾が、闇ギルドの首領が振り上げた剣を、握って居た手と共に木っ端微塵にし、殆ど同時にバレットM82A3の発射音が聞こる。
手は、血飛沫を上げて飛び散り、長剣のグリップとガードも破壊されて吹き飛んだ。
「うぎゃっ!何だ、これは……手が、俺の手が無くなった!」
よし、連携作戦は大成功だ。
俺は、その場へ倒れ込み、のたうち回る闇ギルド3人へ走り寄り、落とした武器の剣を蹴飛ばしてから、首領が未だ残った手から放さないでいる、人質女性の首へと繋がっている鎖を素早く奪い取る。
そして、首領へ89式小銃へ取り付けてある89式多用途銃剣を、顔へ突きつけた。
「これでお終いだ!」
「ぐぐぐ……助けてくれ……命だけは助けてくれ……」
「知らねえな。それは大公閣下と裁判が決める事だ。まあ、楽に殺してもらえるとは思うなよ」
「血を、出血を止めてくれ……死んでしまう」
「それは、聞いてやろう。まだ死んで貰っては困るからな」
俺は、再びハンディー・トランシーバーのハンド・セットを手にし、16式機動戦闘車の車内で待機しているミラとベルへ連絡をする。
『ミラ、聞こえるか?片付いたので、車外へ出て居館の3階まで大至急来てくれ』
『了解しました、ジングージ様。直ちに参ります。どうぞ……ザッ』
『了解。ベルはミラの護衛をして一緒に来てくれ。どうぞ』
『了解でしゅ、ジョー様。直ぐに行きましゅ。どうじょ……ザッ』
『頼のんだよ、二人とも』
俺は、無限収納から、迷彩服3型を召喚して、殆ど素っ裸だった人質の女性へ上着を着せる。
女性の首には、白銀の鎖が巻き付けられていたが、簡単には外せそうも無い。
女性は、俺の顔をじっと見つめてから、周囲――特に闇ギルド幹部と近衛隊の騎士達――に聞こえない様に小声で口を開く。
「勇者様、お助け頂きまして、ありがとうございます」
「怪我は直ぐに治すから、大丈夫でしょう。それと、自分は勇者ではありませんよ」
「いいえ、"女神様に選ばれし者"、"女神様の使徒"様、私には聞こえております……女神様の声が」
「……女神様の声?」
「はい。女神様の神託をお受けし、カーティスや闇ギルドを欺きました」
「貴女は、女神様の加護か祝福を、お持ちなのですか?」
「女神様より、祝福を頂いております。神耳とも真耳とも呼ばれております力を頂きました」
そう言うと、女性の頭部から大きな耳が突然にょっきりと現れた。
と同時に、お尻からはふさふさとした立派な狐の尻尾が生えてくる。
この女性、獣人、しかも狐人族だったのか。
それにしても、人族の姿に変身も出来るとは、そんな事は初耳だった。
真耳……それで先ほどの小声で、俺が通信をしていたにも関わらず、全ての会話が聞こえていたのだ。
只でさえ五感に優れた獣人族なのに、この聴覚は耳の良いベル以上だ。
「詳しい話は治療が済んでから、改めてお聞かせ下さい。この首の鎖も外さねばなりませんし」
「畏まりました。勇者様」
「いや、勇者じゃありません。自分の名はジョーです。ジョー・ジングージです」
「ジョー・ジングージ様でございますね、女神様よりお名前はお聞きしておりました。私は、サクラと申します。以後、宜しくお願いを申し上げます」
「サクラさんですか。勇者コジローさんの起こした国、アズマ国の方でしょうか?」
「いいえ、初代様は勇者コジロー・ニシズミ様より名前を頂き、代々その名を名乗らせて頂いております」
「勇者コジローさんの縁の方でしたか。なるほど、ご先祖様は"九ノ一"?」
「ご存じでございましたか。カーティスめがワン・オブ・ナインと名前を変えてしまいましたが……」
「なるほど、名前が変えられた理由がわかりました」
俺とサクラさんが話していると、ドアからベルとミラが走って部屋へ入って来る。
フェアウェイ大公近衛隊の騎士達は、俺やナークの銃撃を受けて倒れ込んだ闇ギルドの幹部二人と、首領を取り押さえており、隠密メイド達は俺が身体を支えているサクラさんの周囲へ集まって居た。
「ジングージ様、何方を治療致しますか?」
「ミラ、こっちの女性を頼む」
「はい、畏まりました」
「ううぅ……俺達を先に治療してくれ……死にそうだ……」
「寝惚けるな!未だ死にはしないさ、未だな」
俺は、サクラさんを横たえて、その傍らにミラが屈み込んでから、女神様への呪文を唱え始める。
隠密メイド達は、サクラさんとミラの周囲を取り囲む様にしていたので、どうせならば、一緒に回復魔法を掛けてもらえば一石二鳥だ。
「ミラ、彼女達へも同時に周辺回復治癒を掛けられるか?」
「大丈夫……だと思います」
「よし、メイドさん達、サクラさんの周りへ集まってくれるか」
「皆の者、私を四季円陣で囲め」
「「「「「はいっ」」」」」
サクラさんの命令で、ミラとサクラさんを中心にして、隠密メイド達が円陣を組んだ。
隠密メイドの円陣に取り囲まれ、二人の姿は全く見えなくなってしまったが、これで同時に彼女達へも回復治癒魔法が効く。
「周囲回復治癒!」
隠密メイド達が作った円陣から、白く目映い光が溢れだし、ミラの回復治癒魔法が彼女たちを癒やして行く。
同時に、これで彼女たちが悪魔に乗っ取られているかどうかも確かめられる。
光が消えても、隠密メイド達の中の誰一人として、具合の悪そうな様子は見せて居なかった。
どうやら、悪魔に乗っ取られた隠密メイドは、一人も居なかった様だ。
さあ後は、闇ギルドの3人に治癒だけ施してやれば、タースの反乱騒動も、ひとまずは終わる事になる。




