真実
俺とナークを先頭にして、フェアウェイ大公近衛隊の精鋭騎士10人は、闇ギルド幹部を捕縛すべく居館の3階へと昇ってきた。
3階の踊り場からは、右手に大広間の様な広い部屋が見えるが、そこには人影は無い。
左手には廊下が続いており、左右に幾つかの部屋の扉がある。
此処は左手の廊下を進むしか無く、俺達は周囲を警戒しつつ、廊下を進みながら扉を一つづつ開けて行く。
この廊下は、どうやらアンの砲撃で崩れ去った塔へと通じて居た様で、廊下の先には、ぽっかりと空間が空いて居る。
フェアウェイ大公近衛隊の騎士達が、先行して扉を開けて部屋の中を開けて行ってくれるが、どの部屋も人は居らず、騎士が部屋の中へ入って大きなクローゼットの中までも誰か隠れて居ないかと、部屋の中を二人がかりでチェックしていたが、誰も居ないとの事だ。
そして俺達は、最後の扉の前までやって来た。
此処は居館の3階の左端で、此までの部屋に比べて最も大きい部屋だ。
隣には、昨日までは塔が聳え立って居たが、その塔は既に砲撃で倒壊している。
恐らく、この部屋からの避難経路としての役目も、破壊した塔が兼ね備えていたのだろう。
俺とナークは、お互いの顔を見て無言で頷く。
そして、二人で89式小銃を何時でも発射出来る様に構えてから、俺がドアを蹴破った。
「動くな!」
部屋の中に居た大勢の隠密待女部隊と思われる少女達へ、89式小銃を構えて俺は叫んだ。
しかし、彼女たちの様子が変だ。
どう変なのかと言うと、戦闘対象の状況がおかしい事に気がつく。
彼女達が、隠密メイド部隊なのであれば、俺達を迎撃すべく扉の方へ向かって戦闘態勢を取っている筈なのに、彼女達は全く逆の部屋の奥へ向かって、各々が様々な武器を構えて居るのだ。
そして、彼女達が攻撃対象としている方へ目を移すと、そこには3人の男と一人の女が居た。
男達は、窓際のバルコニーから見えない様に、窓から少し脇へ寄った壁を背に立っており、真ん中の男が女の首に繋がれた鎖を手にしている。
女は全裸同様で、首に巻かれた鎖で締め付けられて、苦しそうな表情をしている。
人数から、男3人が闇ギルドの幹部に間違いない。
そして、一番上等そうで派手な格好をした女を鎖で繋いでいる男が首領なのだろう。
この状況は、どう見ても仲違いだ。
闇ギルドの幹部と、隠密メイド部隊が敵対している構図で、闇ギルド側は隠密メイド部隊から人質を取っている様にも見えた。
俺達が部屋へ突入した際も、隠密メイド部隊は俺達へは一切視線を移さずに、闇ギルド幹部達を威圧しており全くの無言だ。
俺達に続いて部屋に入ってきた近衛隊の騎士達も、全員が困惑した表情を隠せていない。
「おい、お前達が闇ギルドの幹部だな。大人しく投降しろ!」
「ふん、近づくな、新参の"選ばれし者"よ。近づけば、この女の命は無いぞ」
「黒幕同士の仲違いには、付き合いきれないな。闇ギルドと隠密待女部隊のいざこざには興味が無い」
「ふふふ……カーティス様の言うとおりだな。お前達こそ撤退しろ。悪魔族のイニット様が、お前達を皆殺しにやって来ないうちにな」
「生憎だな。悪魔のイニットは、もう死んだぞ」
「何を戯けた事を、イニット様にお前の様な若造が殺られるものか」
「信じたく無いならそれで良い。カーティスと言うのは何者だ?」
「我ら闇ギルドへ力を貸して下さった"選ばれし者"で、魔王様復活を願う方だ」
「イニットが、死ぬ前に言っていた、もう一人の"選ばれし者"か。お前達は、悪魔族に誑かされていた事に、まだ気がついていないのか」
「五月蠅い。魔王様が復活すれば、我ら闇ギルドが支配者となるのだ。カーティス様とイニット様が約束してくれた」
「へえ、そうかい。勝手にやってくれ。その前に、その女性を解放しろ。そうすれば、殺さずに裁判を受けさせてやる」
「そうはいかぬ。この女はカーティス様に頂いた隠密待女部隊、ワン・オブ・ナインを操るための切り札だからな」
「俺には、操っている様には見えないな。どうみても、刃向かっている様にしか見えないぜ」
「くっ、この女が命令に背いたのだ。だから、少し痛めつけたら隠密待女どもが反逆してきおった。此奴さえ刃向かわねば、侯爵も土壇場で我らを裏切らなかったものを……」
「侯爵が裏切った?侯爵は、お前達の仲間だったのか」
「そうだ。我らと共に、傭兵ギルドと侯爵家で反乱を起こしタースを牛耳る計画だった。それを、侯爵の馬鹿め、土壇場で裏切りおったから血祭りに家族全員皆殺しにしたのだ。その際、この女や隠密待女部隊に殺す様命じたのだが、此奴らも裏切りおった。どうつも、こいつも……」
「みんな、お前と違って正しい選択をした。だが、お前は未だに悪魔に踊らされ、間違った事をしているのだよ。今からでも正気になれ」
「なにを戯言を、お前こそ、もう一度カーティス様の元へ来て、我らの仲間になれ」
「断る!イニットにも言ったが、カーティスとか言う奴が、俺に話しがあるならば、俺は何時でも聞いてやる。だが、仲間になる事は絶対に無い!」
「何を言っても、無駄な様だな。これ以上話しても仕方が無い。ここから去れ。さもなくば、この女を殺すぞ」
「そうかい。でもその女性を、お前が殺したら俺じゃなくて、お前を包囲している隠密待女部隊が即、お前達を殺すんじゃないのか」
「ぐっ……」
「ならば、俺達は事が済むまで待たせて貰うだけだ。お茶でも飲みながら、ゆっくりと見物させて頂こうか」
「お前……タースのジョー・ジングージだったか、俺達を助けてくれれば、何でも好きなだけやろう。金、女、地位、なんでもやるぞ」
「断る!お前、本当に馬鹿だな……これ以上、お前と話すと、それだけで胸糞が悪くなる。俺達は、手を出さないから隠密待女部隊は、闇ギルドの三馬鹿を片づけて、人質を取り返すと良いよ」
俺達が部屋へ侵入した際、隠密待女部隊は少しだけ闇ギルド幹部への包囲を解いて、俺と闇ギルドの首領が話しやすい様にしてくれて居たが、俺の最後の言葉に反応して、再び包囲網を元の密な陣形へと戻した。
しかし、人質が居るので攻撃は出来ない。
これは、持久戦になってしまうのは、間違いがない。
いや、既に持久戦がずっと続いているのだろう。
闇ギルドの幹部達は、かなり疲労が蓄積している様にも見える。
傭兵ギルドが、闇ギルドの救出に来なかったどうかは不明だが、救出が出来なかったと言うのが正しかったのだろうか。
この状況では、下手に踏み込んで乱戦にでもなれば、闇ギルドの幹部の身に危険が及ぶ。
いや、むしろ、この状況を知っていて、敢えて介入して来なかったのかもしれない。
ここで、闇ギルドの幹部が隠密待女部隊に殺られてしまえば、濡れ手に粟、漁夫の利で傭兵ギルドがタースを我が物に出来る。
悪党共の考えそうな事だが、この状態なら長く待つ必要も無いだろうから、案外それが正解かもしれない。
だが、この状況を悠長に決着が付くまで待っている事は出来ない。
人質になっている女性――恐らく隠密待女部隊の要人なのだろう――が、かなりの怪我を身体に負っているので、早く治療をしてやらねば生死に関わるかも知れないのだ。
口では、静観を決め込むと言ったが、それは俺の真意では無い。
既に、この状況を打破する切り札が俺達へと近づきつつあるので、その到着を俺は待っていたのだ。
そして、その切り札の到着を知らせる通信が届いた。




