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隠密メイド部隊

 慎重に周囲を警戒しながら、侯爵城内へと16式機動戦闘車を前進させて、城内の広場へと進む。

 東側の城壁は、砲撃によって破壊してあるため瓦礫の山となっており、周囲には誰も居らず傭兵軍による迎撃は無い。

 更に注意深く、広場の東側を瓦礫に沿って進み、傭兵軍と闇ギルドの幹部が潜んで居ると思われる、居館(バラス)の方へと進む。


 広場は、それなりの面積があり、瓦礫となった東側の城壁から居館まで30~40mは有りそうだ。

 瓦礫の山を右手にして、左側に居館が見える位置まで前進したが傭兵軍は沈黙している。

 俺は、16式機動戦闘車を停止させるべく、ナークへ指示を飛ばす。


「ナーク、停止してくれ」

「……了解、停止」

「アン、砲塔を居館へ向けて」

「判ったよ」


 16式機動戦闘車は静かに停止し、砲塔が左へと回って行き居館へと主砲を向け停止する。

 俺は、車長席の砲塔ハッチを開き、双眼鏡で居館の窓を観察してみた。

 人影は窓際には見えず、1階、2階の窓際には何も見えない。

 3階には、バルコニーの様な人が出られる構造になっているが、人っ子一人、誰の姿も確認できなかった。


 どうやら、居館の内部で息を殺して潜んでいると見て間違いは無さそうだ。

 このまま、居館へと突入してくるのを迎撃するつもりなのだろうか。

 ここは、一つ脅しを仕掛けてみても良いだろう。

 俺は、パワー()アンプ()のスイッチをオンにし、ハンドマイクを握りしめて居館に潜んでいるだろう、傭兵軍と闇ギルドの幹部達へ向けアナウンスを開始した。


『傭兵軍、並びに闇ギルドへ告げる。もはや逃げ隠れは出来ないぞ。今、降伏して投降すれば、情状酌量を持って正式な裁判を受けさせてやる。拒否するならば、此処で死ぬ事がお前達を待っている運命だ。30秒だけ待ってやるから、投降すれば良し、さもなくば直ちに攻撃を開始する』


 俺は、PAのスイッチを切り、腕時計を見ながら30秒をカウントし始めた。

 俺のPAによる降伏勧告が聞こえたのだろう、フェアウェイ大公が率いる近衛部隊の騎馬隊や歩兵隊も、俺達の乗る16式機動戦闘車の側へと近づいて来る。

 10秒が経過し、そして20秒が経過した時、居館の正面玄関の扉が静かに開いた。


「俺達は傭兵ギルドの者だ。降伏するから攻撃しないでくれ」

「フェアウェイ大公閣下、お願い出来ますか?」

「うむ、後は任せてくれ、ジングージ殿。皆の者、傭兵ギルドの者達を捕縛せよ!」

「「「はっ!閣下、直ちに」」」


 フェアウェイ大公の近衛隊は、そのまま乗馬して待機し、歩兵隊の兵士達が外へ出てきた傭兵ギルドの幹部達と思われる傭兵軍兵士を直ちに捕縛へ向かう。

 既に、傭兵達は武装を解除しており、両手を上に上げている。

 俺は、気になった点があったので、フェアウェイ軍の兵士に捕縛されて行く傭兵幹部へ尋ねてみた。


「おい、お前達。使用人達は何処だ?」

「……使用人共は1階のロビーに居る。危害は加えていない。だから俺達も助けてくれ」

「助けるかどうかは、俺が決める事では無い。フェアウェイ大公閣下と裁判が決める事だ」

「俺達、傭兵ギルドは闇ギルドに乗せられただけだ、だから……」

「断れば良かったな。反乱を起こすなど、愚かな行為を簡単に人の口車で行うとは、救い様の無い馬鹿のする事だ」

「……まさか、勇者が再来するとは、誰も思わなかった……」

「で、お前達を先導した闇ギルドの幹部は、何処にいるんだ?」

「居館の3階に居る。忍び込ませていた隠密の待女(メイド)達と一緒だ」

「闇ギルドの人数は?」

「此処にいるのは3人だ。その中の一人が首領(ドン)だ。隠密待女(メイド)部隊は10人位居た、正確な人数は判らん」


 闇ギルドは、傭兵ギルドよりも往生際が悪いと言うか、どうやらしぶとい様だ。

 しかも、隠密メイド部隊が一緒となると、要注意だ。

 元は"九ノ一"なので、それなりの体術も持っているだろし、暗殺を得意にしていると言うことは、武器や毒を使いこなすのだろう。

 脳筋な傭兵の兵士よりも、遙かに扱いづらい敵だ。


「フェアウェイ大公閣下、俺達は居館の3階へ行き闇ギルドの幹部を捕縛します。騎士の方を数人、同行させて頂けますか?」

「構わん。余も参ろう」

「いや、フェアウェイ大公閣下は、此処で指揮をお願いします。隠密待女部隊は、暗殺に長けた危険な部隊と聞いております故、大公閣下の身に危険が及ぶ可能性もあります」

「ジングージ殿の仰る通りです、大公閣下。此処は我ら近衛隊にお任せを!」

「うむ、ではジングージ殿、頼んだ。近衛隊は馬から下りジングージ殿に従え」

「「「御意!」」」


 フェアウェイ大公の命令で、近衛隊の面々が下馬して、腰の大剣や乗馬していた時も携えていた槍などを手にし、整列した。

 俺も、16式機動戦闘車から降りる用意をしていると、珍しくナークから声がかかる。


「……ジョー、あたしも行く」

「そうか、ナークが一緒なら安心だな。頼むよ」

「……うん」

「アンは、銃座にて待機してくれ。特に、3階のバルコニーを監視していてくれ」

「判ったよ。指示は聞いているから」

「ああ、無線機は全員聞いていてくれ。ベルは、ミラの警護を頼む。ミラは絶対に車外へ出るなよ」

「了解でしゅ。ジョー様」

「ジングージ様、お気を付けて。女神様にご武運をお祈りしております」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」


 俺は、16式機動戦闘車から降り、89式小銃へ89式多用途銃剣を装着し、コッキングを行い、薬室へ銃弾を装填してから、安全装置を回し"3"へセットする。

 16式機動戦闘車の操縦席から降りてきたナークも、俺と同様に89式小銃を手にして銃剣を装備する。

 俺とナークが車外へ降り立つと、近衛隊の騎士が10人ほど近づいて来て俺に敬礼をした。


「ジングージ殿、我らがお供致します」

「お願いします。敵の隠密待女部隊が、どんな待ち伏せをしているか全く判らないので、注意して行きましょう」

「「「はっ!」」」


 近衛隊の小隊長らしき騎士だけ鎧が少しだけ派手な装飾が施されており、他の騎士達を従えている。

 俺達は、俺とナークを先頭に、闇ギルドの幹部が立て籠もっている居館の3階へと向かうべく、居館の玄関へと向かって歩き出す。

 既に、傭兵ギルドの幹部達や兵士が50人程だろうか、フェアウェイ大公軍の兵士に捕縛されている。

 そして、侯爵家の使用人達も、次々に玄関から外へと誘導されて表に出てくるところだ。


 やはり、居館には傭兵ギルドや闇ギルドの幹部だけではなく、侯爵家の使用人達も居たのだ。

 居館を砲撃しなくて、本当に良かった。

 砲撃で破壊した(ベルクリート)をはじめとする他の施設には、使用人が居たかどうかは判らないが、今更ではあるが死傷者が居なければと願う。

 俺は、表に出てきた使用人のメイドへ尋ねてみた。


「使用人の方で、今回の戦闘中に怪我や亡くなった方は居りますか?」

「あっ、は、はい。傭兵に虐待されて怪我をした者が何人かあります。幸い、殺された者や塔や城壁の崩落で亡くなった者や怪我人は居りません」

「そうですか、良かった。怪我をされた方は、重傷でしょうか?重傷ならば、直ぐに回復治療しますが」

「有り難いお言葉、ありがとうございます。幸い、重傷者はおりませんので、直ぐに治療が必要な者は居りません」

「判りました。後で治療を此処で行いますので、怪我人の方々を一箇所へお集まり下さる様に手配をお願いします」

「畏まりました。お助け頂きまして本当に、ありがとうございます」


 俺が尋ねたメイドは、深々と俺に頭を下げながら礼を述べる。

 彼女は、若くは無い中年の女性だったが、メイドや執事、料理人達へテキパキと指示をしていたので、恐らくはメイド長とかの役職を持ったメイドなのだろう。

 それにしても、死傷者が使用人に居なくて、本当に良かったと胸をなで下ろした。

 しかし、傭兵ギルドの奴らめ、何が「危害は加えていない」だ。

 メイドへの虐待行為を、しているではないか。

 奴らへの情状酌量は、これで消えたな。


 使用人達が居館の玄関から全員、表に救出された所で、俺とナークを先頭にして居館の中へと入って行く。

 後には、近衛隊の騎士が10人付いて来て、周囲を警戒している。

 1階は、フェアウェイ大公軍の歩兵の兵士達が分散して各部屋を調べており、既に兵士は2階へも上がって捜索している。

 傭兵の残党や、隠密待女部隊からの待ち伏せ攻撃は今のところは無い。

 俺達は、注意深く2階から3階へと続いている階段を昇り始めた。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

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