第一部第六話 恩賜、外務
床には真紅のカーペットが敷かれていた。
半期に一度の定時論功行賞。その昇進予定者の中に、俺たち三人の姿があった。
アレン・ヴェイル。
騎士団領の八割近くを削ることにつながった情報を持ち帰り、さらに熊取村の奪還と、その後の防衛拠点化に貢献。壁や門の設置、見張りの配置など、義手義足の身でありながら一連の整備にも携わった。奪還戦で見せた戦い方も、帝国軍では教えられていないものだった。肘から先を用途に応じたアタッチメントに交換する義手の拡張性も含め、科学者たちからは是非検証させてほしいとの声まで上がっている。
ヴィクター・ハルデン。
西方の最前線で、下級とはいえドラゴンを仕留めた。さらに戦線を維持し、現在もドラゴンの縄張りから領地を削り続けている。
そして、ブルック・レーダイン。
その巧みな用兵術で、隊長不在となった部隊を進軍させ、熊取村の復興と警備に貢献。下士官としては異例の活躍だった。本来なら、ここに立てない男でもあった。ブルックは隊長殺しという軍における最大級のタブーを犯した。だが、あの日のことを部隊の誰も口にしなかった。さらに、生きて戻った俺自身が調査の中止を嘆願したことで最高評議会の耳に入ることもなく、ブルックは純粋に武功だけで評価されていた。
以上三名。
基本的に半期の定時論功行賞では昇格予定者が先に並び、恩賜を受ける軍人はその後に続く。今回は二十名程度だった。
「よう、首席。久しぶりだな」
「ヴィクター。ドラゴンを仕留めたそうだな」
「下級だがな。……ったく、いつもお前は俺の前を走るよな。俺が幼年学校を飛び級した年に、お前は二年飛び級で同時卒業。俺がドラゴンを仕留めたと思えば、お前は騎士団領を八割だ」
「比較するものじゃないだろ」
「うちの親に言ってくれ。またアレンか、ってうるさいんだよ」
「何を言ってんだ、エリート若者諸君。大卒だけが帝国軍人じゃないぞ。下士官から士官になれるかもしれない俺も、軍に入って二十年だ。俺にもそろそろ報われてくれよ。おまえたちは俺から見たらすごすぎるのよ。士官はさすがだなと思うことが多々ある。いい上官になって、俺たちを動かしてくれよ」
ブルックがこんな軽口を叩くのを、俺は久しぶりに見た。
そうこうしているうちに、
「時間です」
との声がかかり、三人は並んで謁見室へ向かった。
ちなみに、一番緊張していたのは実はブルックだった。
「アレン・ヴェイル。貴官を大尉に任ずる。併せて、恩賜金百万ベラムを下賜する」
歓声が上がった。
「静まれ。まだ終わっておらん」
一瞬で謁見の間が静まり返った。
「貴官には新設部隊を預ける。我が国初の空挺即応部隊だ。人選も、編成も、部隊名も任せる」
俺は思わず顔を上げた。
「副官は最大三名。軍内部から好きに選べ。ただし最終面接は貴官自身が行え」
皇帝はそこで一度言葉を切った。
「そして――日の国へ行け」
「……日の国、ですか」
「戦争をしに行くのではない。外務だ」
皇帝が杖を床についた。
「あの国は剣では取れん。ならば縁を作れ。情報部の者と酒でも飲んでこい。副官を一人連れて行け」
「承知しました」
「アレン。戦場だけが国を動かす場所ではない。見聞を広めてこい」
続いて、ヴィクターの名が呼ばれた。
「ヴィクター・ハルデン。貴官、武勇勲一等である。中尉に昇格。併せて、恩賜金五十万ベラムを下賜する」
ヴィクターへの拍手は盛大ではあったが、どこか上品だった。
そして――。
「次に、ブルック・レーダイン――」
「アニキー!」
「親父ー!」
「先輩ー!」
二階席から野太い声が一斉に上がった。
二階席のうち、約千人がブルックの支持者だった。その千人のおかげで、論功行賞の進行が一時止まった。
「静粛に!」
進行役がガベルをガンガンと打ち鳴らし、ようやく野郎どもがおとなしくなる。
皇帝は少々困った顔をしながらブルックを見た。
「久しいな、ブルック」
「はっ!」
「余が一個師団を預かっていた頃以来か。敵に一角を崩されたあの戦い、貴官の策で見事に押し返したことは覚えておる」
「光栄であります」
皇帝が二階席を見上げた。
「そして今も、下士官の星か」
再び声を上げそうになった野郎どもを、進行役がガベルを持ったまま睨みつける。
「貴官の判断、見事なり。部隊を引き返させ、熊取村奪還に貢献した功績を認める。ブルック・レーダイン、貴官を准尉に任ずる。併せて、恩賜金五十万ベラムを下賜する」
誰が後ろ盾になっているのかも、これである程度は把握できた。
アレン・ヴェイル。女性士官や下士官、それに教職を持つ士官連中。大学の研究室も、アレンがどこまで伸びるのか、その成果を見守っている。
ヴィクター・ハルデン。数こそ少ないが、政府高官やその子息連中。
ブルック・レーダイン。野郎ども以下省略。




