第77話 『エピローグ』
「ゴメン、遅くなった」
「大丈夫、私もさっき来たところだから」
恐らく前の仕事が押してしまったのだろう、慌てた様子で駆け寄ってくる蓮也を見つめ、『あぁ、わたし蓮也の恋人になれたんだ』と、ついつい頬の力が緩んでしまう。
例の告白? の後、初めての二人っきりのデート。
今までも、二人で出かける事は何度もあったが、お互い気持ちが通じ合ってのお出かけはこれが最初となる。
「ここに来るのも久しぶりね」
「そうだな」
懐かしいライブハウスを目の前にし、淡く切ない青春時代を思い出す。
ここは一番最初にSnow rainが『friend's』の曲を披露し、そして私が初めて蓮也と出会った思い出の場所。
まさかあの頃の私は、自分がアーティストとなり、蓮也の隣に立つことになるとは、想像すらしていなかった事だろう。
「あの時、ステージ上から沙耶の姿が見えたんだ」
あの日の私は『friend's』の編集で徹夜が続き、体力と眠気が限界だった。
それでもここへと足を運んだのは、曲を提供したという責任感と、自分の曲がどのように評価されるのかの、好奇心からだったのを覚えている。
「ステージ上から見た私はどうだった?」
「その…、やけにフラフラしてるなぁっと」
「ふふ、それでステージ終わりに様子を見に来てくれたのよね」
当時の事はよく覚えている。
これから始まるSnow rainのステージに、私は最後の力を振り絞って見守っていた。
その結果、フラついて倒れそうになったところを蓮也に助けられたのだ。
「あの後京極に睨まれたからな、俺もよく覚えている」
「あの頃はまだ一樹と付き合っていたから、やきもちでも焼いたんでしょうね。今にして思えば、俺のおもちゃに手を出すな、って感じだったのかもしれないけれど」
結局一樹にとって、私は便利な道具扱い。
今はどうかは知らないけれど、少なくとも当時の一樹はただ、Snow rainのオリジナル曲が欲しかっただけなのだ。
「まったくバカな事をしたもんだ、沙耶をあっさり手放すなんて」
「ホントね、せいぜい悔しい思いをいっぱいさせてやるわ」
はははと、お互い顔を見ながら笑い合う。
「そう言えば今日は珍しく変装してるんだな?」
「まぁ、あんな騒ぎのあった後だからね」
「確かに、アレは本当に凄かった」
「もう、笑うところじゃないんだからね」
あの日、私がSASHYAだとバレた翌日、それはもう学校中で大騒ぎ。
朝登校すると、クラス前の廊下に人だかりは出来ているわ、私がお手洗いに行くと、一斉に人の波が付いてくるわで、それはもう大変の一言ではすまされない騒ぎだったのだ。
おまけにあの時の様子を、生徒がスマホで撮影していたらしく、現在もその動画や写真が拡散され続けている。
ただでさえミニライブで注目を浴びてしまったと言うのに、蓮也との公園デートが暴露されてしまったので、こうして変装用のメガネとキャスケットを被る羽目になってしまった。
まぁ、聖羅達から言わせると、私は隙だらけという事なので、これからは私生活の過ごし方を見直した方がいいのかもしれないが。
「どうせ今月発売のCDでバレちゃう予定だったから、別に構わないんだけどね」
「佐伯さんの悪意は感じるけどな」
「ホントそれ!」
ははは。
告白イベント後、蓮也とは気まずい雰囲気になるのかと思いきや、意外と普通に話せている自分に驚いている。
今も自然と差し出される蓮也の手を、恥ずかしながら握り締める私は、随分成長出来たのだろう。
その日、二人でライブを楽しみ、帰り際に人気のない公園に立ち寄ると、蓮也が急に表情を引き締める。
「沙耶、改めて言うのも何なんだが…、俺は決して沙耶を泣かせないし、一人で悲しませない。今はまだ頼りない人間だが、これだけは自信を持って守り通すから…、その…俺と付き合ってくれるか?」
恐らく今日私をデートに誘ったのは、この一言が言いたかったからだろう。
どうやらあの日の告白は、本人にとって最低の告白だったらしく、LINEのやり取りの中で、反省している旨の話を何度も聞いている。
私としてはあの時の告白も、十分すぎるほど素敵だったんだけどね。
被っていた帽子で蓮也の横顔を隠す様に、私は少し背伸びをして彼の顔に近づくと。
チュッ
「蓮也、私も好きだよ」
唇と唇から伝わる甘く暖かな感触。
その日から、私と蓮也の恋の物語が始まるのだった。
ーー エンディング ーー
★☆★ Snow rain ★☆★
★京極 一樹 :元ボーカル
Dean musicより契約を切られた事で、一時は荒れた生活を送っていたようだが、その後無事高校を卒業。
Snow rain脱退後はメディアに出る事は無く、平凡な人生を送ることになる。
時折、飲み会の場でSASHYAの元恋人だとか、SASHYAを誕生させたのは『俺のおかげ』だとか、騒ぐ客がいたらしいが真相は不明。ただの酔っ払いの戯言として流されることになる。
★九条 大和 :ギター担当
一樹がSnow rainを脱退後、目立った功績が残せないままグループは解散。その後、Snow rain時代で培った技術を生かし、ソロのギターミュージシャンとして活躍の場を変えていく。
時折アーティストのバック演奏者としてメディアに映ることもあるとか。
★夏目 光輝 :ドラム担当
一樹がSnow rainを脱退後、目立った功績が残せないままグループは解散。その後は親友の九条 大和と共に、ソロのドラマーとして活躍する。
噂では有名バンドから勧誘を受けたとか言われているが、真相は不明。
★☆★ Ainsel ★☆★
★結城 蓮也 :メインボーカル
Ainselのボーカルとして、またSASHYAの恋人として世間を騒がせる。
彼が描く音楽は、多くの女性ファン達を虜にし、その人気は恋人であるSASHYAにも匹敵するほどにまで達する。
一時、Ainselのライバルである某バンドと、SASHYAを巡って争いが起きたらしいが、詳しい内容は不明。ただ確かなのは、現在もSASHYAと良きお付き合いが続いているということである。
★佐久馬 雪兎 :リーダー & ギター担当
Ainselのリーダーとして、癖の強いメンバーを束ね、そのカリスマ性から多くの女性ファンに愛される事となる。
彼が某バンドのキーボード担当と熱愛報道が出た時には、多くの女性達から応援の声が上がったらしい。
★右京 晃 :ベース担当
その癖のある性格で、トラブルに巻き込まれることもしばしば。
ただその裏表がない彼の姿は、どこか憎めないところがあり、Ainselのムードメーカーの一人として、密かに応援するファンも多いとか。
時折SASHYAから冷たい視線を送られているようだが、一種の愛情表現だという噂だ。
★葉山 次郎 :ギター担当
そのクールな見た目から、多くの女性ファンを虜にする。
メディアに出演する時は、殆どしゃべる事はなかったが、そのクールさも彼を推す人気の一つなんだとか。
噂じゃ中学時代から付き合っている男前の彼女がいるという。
★白羽 凍夜 :ドラム担当
同じバンドの右京 晃と共に、ムードメーカーとして多くの人達から愛される。
度々、相方と一緒に場を読めない発言で、メンバー達を悩ませていたらしいが、それも彼が愛される魅力の一つなのだろう。
★☆★ Girlish ★☆★
★一葉 皐月 :メインボーカル & ギター担当
その男性のようなクール性から、多くの女性ファンを虜にする。
噂では中学時代に慕っていた先輩の弟と親しくなり、当時からお付き合いが続いているというが、詳細は不明。
その事実が明るみになった時には、多くの人達を驚かせたという。
★皇 綾乃 :ベース担当
その明るく憎めない性格から、バンドのお笑いキャラとして定着。
同じバンドメンバーである神代 聖羅との掛け合いでは、多くの笑いを誘うことになる。
以前彼女の明るさについて質問された事があるのだが、そのとき彼女はこう答えている。『今の自分が笑えるのは彼女のお陰、生涯で自慢出来る最高の友人がいるからだよ』と。
★神代 聖羅 :リーダー & キーボード担当
Girlishのリーダーとして、癖の強い(主に綾乃と卯月)メンバーをまとめる。
その見た目とカリスマ性から多くのファンを獲得。クールな見た目から雑誌の特集に取り上げられることもしばしば。
時折某バンドのリーダーと噂に上がるも、『この二人なら納得』として、多くのファン達から応援されることになる。
SASHYAが彼女達に送った『キズナフレンズ』は、その後ミリオンを達成。名実ともにGirlishの代表曲の一つとなる。
★一葉 卯月 :ドラム担当
唯一年下である彼女は、Girlishのマスコット的存在となる。
時折その遠慮ない発言にはヒヤヒヤさせられるが、その姿も彼女が愛される一つなのだろう。
噂ではSASHYAから頭ぐりぐりのお仕置きを度々受けているとか。
★☆★ Shu♡Shu ★☆★
★星乃 澪
Shu♡Shuの永遠のセンターとしてその名を残す。
一時Ainselのボーカルである結城 蓮也との噂が囁かれるも、キッパリそれを否定。
本人曰く、『マッチョでない男性には興味がない』、だそうだ。
★飯島 みちる(いいじま みちる)
SASHYAの親友として、またアイドルグループShu♡Shuとして活躍。
高校卒業後は活動の幅を広げ、多くの男性ファンを虜にする。
やがてShu♡Shuの卒業を迎える日が来るのだが、そのとき彼女が残した一言は、多くの人の心に残ったことだろう。
★☆★ その他の出演者 ★☆★
★雨宮 紗雪
姉の沙耶を影から支えた一番の立役者。彼女の存在が無ければSASHYAが生まれる事は無かっただろう。
彼女はSASHYAが引退するその時まで、イラスト担当として役目を全うする。その活躍はやがて世間が認めるまでに広がり、亡き母の意志を継ぐよう、生涯イラストレーターとして過ごしたと言う。
★涼風 鏡華
東京芸術放送高等学校の生徒にて、沙耶の親友。
自身は現役のアイドルだと自称しているものの、周りの評価は元小学生アイドルのまま。
やがてある番組をきっかけに、バラエティーへと活躍の場を移すことになるが、今でもアイドルの夢は諦め切れていないらしい。
★春日井 美羽
東京芸術放送高等学校の生徒にて、沙耶の親友。
両親が引き起こした周防家の一件以来、徐々に沙耶との仲を深めていく。
やがて兄が再び沙耶に忍び寄った時には、実家と決別。沙耶の味方となって、兄の野望を打ち砕いた。
その後正式にDean musicに所属し、多くのアーティストに楽曲を提供、その名を世間に轟かせることとなる。
★佐伯 香
Kne music所属のマネージャー。
彼女の存在はSASHYAにとって掛け替えのないものであり、現役から一線を退くその日まで、ずっと影から支え続けることになる。
後に多くの有名アーティストを生み出した実績が買われ、それなりの役職を得ることとなる。
噂では彼女に認めて貰うために、オーディションに参加する若者も多いという話だ。
★五十嵐 葵
Dean music所属のマネージャー。
Snow rainのメンバーである、京極 一樹が起こした事件で、一時は落ち込みをみせていたが、その後気力を取り戻す。
噂ではバンド時代に抱えてしまった蟠りが、解決したからだと言う話だが、詳細は不明。
某バンドとSASHYAが揉めた時には、外側から支援することとなる。
★仮面の歌姫 SASHYA
本名:雨宮 沙耶
電撃のデビューから、その知名度を急激に膨らませていく。
時折トラブルに巻き込まれる事もあったが、彼女はその逆境を乗り越え、やがて誰もが認める一流アーティストへと上り詰めた。
時折彼女が紡ぐ悲しみの歌は、『天使の唄』として親しまれ、多くの人達の涙を誘ったと言う。
彼女は生涯ステージ上でその仮面を外す事はなかったが、学生時代に一度、彼女の素顔が明るみになる出来事が起こる。
当時は大変な騒ぎになったらしいが、その容姿と見た目の愛らしさから、寧ろ多くのファンが増えたという噂。
また私生活ではAinselのボーカル、結城 蓮也との熱愛が確認されており、現在も良いお付き合いを続けていると、所属会社も認めている。
彼女が学生時代に書いた13番目のシングル、『Best friend』は短期間でダブルミリオンを達成。
その年の紅白歌合戦では多くの視聴者の涙を誘うことになる。
彼女はその後こう言葉を残している。
『辛いことも悲しい事もいっぱいあったけど、全部全部、私の大切な想い出。私が描いていた夢は既に叶ってしまったけれど、それでも夢の先は今もまだ永遠に続いているのだから』と。
・・・ Fin
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これにて沙耶の物語は完結となります。
ここまでお付き合い頂けた方々には、感謝の言葉もございません。
本音を言えばまだまだ書きたい事はあったんです。
エンディングでチラッと出した蓮也達のライバル、『陽炎』の話や、美羽の兄が資金目的で沙耶に迫る話に、正体がバレた後の学生生活など、いろいろ考えていたんですが、文字数的に省く羽目に。
これはマイルールなのですが、1章10万文字って決めていて、未着手の話だけでも丸々1章書けちゃうぐらいのボリュームなんです。
ならば5章を書けよという話に繋がるんですが、ラストの締めが思い浮かばなくて・・・。
もともとこの話を考えたきっかけは、『そう言えば最近、正体がバレて大騒ぎ! みたいな話を見かけないなぁ』と言うのが始まりで、最後は主人公の正体がバレる話を書きたかったんです。
そこに親友の裏切りから友情が芽生え、共に競い合いながら友情を膨らませて行く…、みたいな。
合間に差し込んだ聖羅編は、すっごく書きやすかった事を覚えています。
主人公の視点とは違うキャラって、どうして書きやすいんでしょうね。
沙耶の物語はこれにて終了となりますが、また機会があればサイドストーリーなんかを書いてみるのも楽しいのかも?(ただの自己満足)
最後になりますが、この物語を書くにあたってモデルとさせていただいた、アーティストが複数おられます。
あえてお名前は挙げませんが、それらのアーティストの方々にも感謝を。
すでに解散されているユニットもおられますが・・・。
では、また次回作でお会いできるのを楽しみにしております。
By みるくてぃー
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この後、時間は未定ですが(時間設定が出来ないので)活動報告の方に、曲とアーティスト紹介を載せる予定です。
一部裏設定などもございますので、そちらも楽しんで頂ければ幸いです。




