拝啓 伊達陽菜子様
桜の花が咲き始めた。
窓際に花を並べることは多分もうない。
地面が桜の花びらでいっぱいになった頃、俺は高校3年生になった。
自転車を漕いで学校へ行き、授業を受け、友達とご飯を食べ、雑談する。
最近は竹田さんと陽仁から勉強を教えてもらったり、放課後や休日に出かけたり出かけなかったり。
俺の生活に、あの女の子がもういない。
でも、静かに、普通に、平々凡々な生活を送っているただの高校生なんて思っていた俺はもういない。
彼女がいなくなっても、彼女と出会う前の生活に戻りはしなかった。
なぜなら彼女が足してくれた時間という色が、今も俺の中に残っているから。
決して消えることはないけど、少しずつ薄まっていくとは思う。
つまりこれからは、俺は自分で自分の色を書き足していくしかない。
彼女が教えてくれた青春が、彼女と分け合った青春が、今もここにある。
だから大切な時間を、しっかりと離さずに握りしめなければならない。
俺のこれからは、きっと大丈夫。
彼女がくれたものを見れば、元気になれるから。
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名前「伊達 陽菜子」
連絡先「○○○-○○○○-○○○○」
私は「3月2日」生まれ。
人からは「明るく元気」と思われていると思うけど、私自身は「意外と落ち込みやすい」と感じてるよ。
あなたに出会って楽しかったことは「交換日記」
逆に大変だったことは「本音を我慢すること」
そのことについては「病気を治してわがまま姫になってやる!」って思ってるよ。
Q.あなたのストレス解消法は何ですか?
A.日記を読むこと。
Q.ここだけの秘密はなんですか?
A.日記で読んだことをお父さんとお母さんに自慢してました。
☆あなたの好きなものは何ですか?
Q.好きな色
A.赤
Q.お菓子
A.信玄餅
Q.飲み物
A.カフェラテ
Q.場所
A.エレベーターホール
Q.遊び
A.マルバツゲーム
☆相手の好きなところは何ですか?
1.優しいところ。
2.私のことを考えてくれるところ。
3.面白くてすごいアイデアで私を笑わせてくれるところ。
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彼女の手紙を、俺は何度も何度も読んだ。
そして今日、大切に握ったものと共に、俺も彼女のように一歩を踏み出した。
それに対し父親は、
「いいんじゃないか?まあ国立に越したことはないけど、お前がやりたいことをやればいいさ」と。
母親は、
「かっこいいじゃない。頑張んなさいよ!」と言った。
彼女と出会ってから何度も考えていたこと。
俺の夢は何か。
やりたいことはなんだろうか、と。
去年は結局周りの人の言葉で取り繕い、現実から逃げた結果、適当な大学の名前を書いてしまった。
でも彼女は囚われていたものから卒業した。
俺もそんな自分から卒業しよう。
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進路希望調査票
3年3組 松本正都
第一志望 国立大学/看護学部専攻
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俺は桜柄の便箋を買った。
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拝啓 伊達陽菜子様
まず、この手紙を読んでくれてありがとう。
俺の汚い字は、日記を書き始めた時よりも良くなったかな?
ちなみに人生で初めて友達に手紙を書いています。
頑張って丁寧に書くので、最後まで読んでくれると嬉しいです。
陽菜子ちゃんと会う前の俺は、陽菜子ちゃんが想像する以上にダラダラと生きていました。
俺は高校生活を陽菜子ちゃんに分けると言ったけど、同時に陽菜子ちゃんの生活を俺は分けてもらっていた。
その重大さに気がついたのは、アメリカ行きが決定してからです。遅いよね。
だからここで言います。
俺と一緒に青春を送ってくれてありがとう。
おかげで俺は幸せ者になりました。
陽菜子ちゃんと友達になれたことが、人生最大の幸運です。
ミサンガのおかげかな。
これから陽菜子ちゃんはアメリカに行き、きっと幸せなことがたくさん続くと思います。
お揃いのミサンガと、俺の買ってきたお守りがあるからです。
とはいえ陽菜子ちゃんが幸せすぎて、アメリカから帰って来ないとなると話が変わってきます。
だから1つおつかいを頼むことにしました。
日本に帰ってくる時に、アメリカからお土産を持ってきてください。
楽しみに待っているので、俺のことを忘れないでほしいです。
この手紙を書いているのは、お出かけの前日です。
お出かけでどんなことをしたのか、計画通りいったのかわかりません。
俺はそこで、実際どんな気持ちになったのかわかりません。
でも1つ確かなことは、絶対に楽しかったということです。
陽菜子ちゃんは、友達とお出かけすることが夢だと教えてくれました。
でもそれは、陽菜子ちゃんといるうちに、俺の夢にもなりました。
そして俺たちの夢はクリスマスイブに叶います。
だから、俺は次の夢を探したいと思います。
陽菜子ちゃんも次の夢を考えておいてください。
最後に、手紙ですら陽菜子と呼べなくてごめんね。
最初のお願いを聞きたいと思ったけど、恥ずかしすぎてムリでした。
しかし最大限の勇気で、伊達ではなく陽菜子ちゃんと書くことにしました。
それで許してください。
それから最大級の感謝を送ります。
あの日、売店で声を掛けてくれてありがとう。それがなければ俺たちの関係は始まりもしませんでした。
入院中に会いたいと言った、俺のわがままを叶えてくれてありがとう。おかげで楽しい入院生活になりました。
交換日記をする時間があると言ってくれてありがとう。陽菜子ちゃんの丸い文字と、カラフルなページが大好きです。
カフェで話を聞いてくれてありがとう。陽菜子ちゃんが編んでくれた黄色いミサンガが、俺と陽菜子ちゃんの関係をつないでくれました。
俺と友達になってくれてありがとう。ずっと友達でいてくれてありがとう。
俺たちはこれからもずっと友達です。
次の約束はもうできないけど、さようならはしません。
だからここに書きます。
またな!
松本正都より
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