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婚約者が性格最悪すぎるので、わたしも全力で毒舌返しします!  作者: ぱる子


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第6話 華麗なる(?)逆襲①

 深い群青の夜空を背景に、壮麗な邸宅の門が開かれる。そこは伯爵家よりもさらに格式の高い侯爵家が主催する大規模な社交パーティの会場だった。馬車が何台も行き来し、貴族たちが優雅な衣装をまとって談笑に興じる光景は、まるで絵画の中の世界のように華やかだ。そんなきらびやかな雰囲気の中、今宵ひときわ注目を集めているのは、深紅のドレスを身にまとったレティシアと、その隣を淡々と歩く公爵家の跡取り息子――カイルである。


 レティシアのドレスは、夜の闇に映える燃えるような赤。胸元や裾にあしらわれた金糸の刺繍が、照明の光を反射してきらめくたび、周囲の視線を奪って離さない。普段から冷ややかな態度を崩さない彼女ではあるが、今日ばかりはその美貌を最大限に引き立てる装いを選んでいた。きっかけは「少しでも目立ち、敵を欺くため」という思惑もあったが、本人はあくまでも「そうしたほうが都合がいいから」とそっけなく言い放っている。


 一方のカイルは、黒を基調とした礼服で登場した。装飾を最小限に抑えた洗練されたデザインは、公爵家の格式を物語りながらも、どこか鋭い印象を与える。鋭い目線は周囲を威圧するほど冷徹で、彼に話しかける人は多くない。それでも、会場の貴族たちは意識せずにいられない。なにしろ、そのカイルが「あの伯爵家の娘」と共に現れたのだから、注目を集めぬはずがなかった。


「これだけ招待客が多いと鬱陶しいわね。でも、そのぶん紛れ込みやすいとも言えるかしら」


 そう言いながら、レティシアはちらりとカイルの横顔を窺う。まるで他人事のように冷ややかな目をしているが、彼もまた今夜の「作戦」を心の中で練っているはずだ。実際、二人はこの社交パーティを利用して、共通の敵に一泡吹かせるつもりでやって来ている。


「華やかな場は嫌いだが、今日ばかりは我慢してやる。……あいつらはもう来ているだろうか」

「さあ、どうかしら。少なくとも、わたしの嫌いな彼女のほうは喜んでやって来ると思うわ。大きな社交パーティで自分をアピールするのが生きがいみたいな人だもの」

「俺のほうのフェリクスも、わざわざこんな舞台を逃すはずがない。ここで何か動きを見せてくるかもしれない」


 二人は言葉少なに言い合いながら、会場の奥へと進んでいく。決して寄り添っているわけではないが、微妙な距離感を保ちながら、周囲の目には「婚約者同士」が連れ立って歩いていると映る。そうした視線がどんな噂を呼び起こすかは火を見るより明らかだが、今夜の目的を果たすためにはむしろ好都合だった。


 やがて、豪奢(ごうしゃ)なシャンデリアが照らし出すホールの中央へと足を踏み入れると、人混みの向こうからレティシアに向かってやたらと明るい声がかかった。


「まあ、レティシア! あなたまでいらしていたなんて嬉しいわ」


 聞き慣れたその声は、クラリッサ。淡いピンクのドレスに身を包み、周囲の貴婦人たちと笑顔で談笑していたらしい。彼女はわざとらしくレティシアの元へと歩み寄り、その後ろにいるカイルにも一瞥(いちべつ)をくれる。


「カイル様もご一緒とは、なんて素敵なんでしょう。こうしてお二人が並んでいると、ほら、周りがみんな注目しているわ」

「あなたには関係ないことよ。もっとも、派手な場が好きなあなたが口を挟んでくるのは予想の範囲だけれど」


 レティシアが皮肉っぽく返すと、クラリッサは小首をかしげて笑う。まるで「なにをムキになっているの?」と言わんばかりの態度だ。彼女はすぐにレティシアのドレスに目を留め、


「それにしても深紅のドレスがとってもお似合い。思った以上に情熱的ね。公爵家の殿方を(とりこ)にするのも時間の問題かしら」

「ご心配には及ばないわ。わたしがどんな色を着ようが、自分の勝手でしょう?」

「ふふ、そうね。でも、失礼ながらちょっと派手に過ぎるんじゃないかしら。それこそ、公爵家の冷酷な跡取り様には向かないかもって思うの。あまり燃えるような赤を好むタイプには見えないわよ?」


 周囲には巧みに微笑みかけながら、あからさまに挑発を入れてくる。この態度にレティシアはカイルと視線を交わし、ほんの一瞬だけ息を合わせる。しばらくは無難な返事で済ませるようにみせかけ、タイミングを見計らってクラリッサの尻尾をつかむつもりなのだ。


「そうかしら。そちらこそ、ピンクがずいぶん可愛らしい色だけれど、あなたがそんなに『おしとやか』に見せたい理由でもあるの?」

「おしとやかだなんて。わたし、ただ素直に可愛いものが好きなのよ。それに、この色は貴方の激しい赤とは違って、みんなの印象を和ませるんですもの」

「まあ、そういう路線もアリだと思うわ。……頑張ってね」


 レティシアはわざと興味のなさそうな声でそう言い、クラリッサをかわすように横を通り過ぎる。これで終わりではないのは分かっている。彼女は必ずどこかで仕掛けてくる。クラリッサがしつこく周囲に根回しをしようとする前に、レティシアとカイルは次の手を打つつもりだった。

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