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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
33.王が首を刎ねられた後の記録

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33-3.

*****


 翌日、王であるタシロを()った隣国に侵入した。

 どこから訪れたのか、そこについては嘘をついた。

 嘘をついた――わけだが、丸腰だったこともあり、関所におけるボディチェックはくぐりぬけることができた。


 いくつか関所をやりすごし、慎重にゆっくりと、三日目には首都に入ることができた。

 賑わいもあからさまな、愉快そうな街だ。


 市街地にあるカフェに四人で入った。

 デモン以外の三人は名物だというチーズケーキまでオーダーした。


「おやおや、リアルに最後の晩餐のようにうかがえるな」

「じつは、そんなつもりはないんだよ」アユトが苦笑じみた表情を浮かべた。「でも、心のどこかでそう思っているから、純粋に紅茶なんかを楽しんでいるのかなぁ」

「味は?」

「おいしい、とっても。王に対する殺意が削がれてしまいそうなくらい」

「保身に走りたいと?」

「かもね。でもそれは気のせいさ」


 三人とも揃って細身なのだが、ケーキについては揃ってじつに気持ち良くたいらげた。


「行こうか」


 特に悲壮感もなくそう言うとアユトは椅子から腰を上げた。


「ほんとうに後悔はしないんだな?」

「タシロは優れた王だったと思うから」

「では、もはや何も言うまい」


 びゅんびゅんびゅんっと、三人が空に向かって飛び立った。

 続く格好で、デモンはゆぅっくりと宙に浮いた。


 周囲からは驚きの声。

 空を舞うことができるニンゲンは限られている。


 近くにパトロールでもしている警察官がいたのだろう。

 待て!!

 ――と大きな声がした。



*****


 連絡の仕組みは整然としていて、兵の出動だって早いらしい。

 頭部が三角形の塔はもうそこまで見えているというのに、防衛の網にかかってしまった。


 そのうち囲まれてしまい――。

 少数による暗殺くらいは予想していたのだろう。

 ゆえに王までの首はまだ遠いと感じさせられ、ゆえに面倒事を被ることになったというのがわかった。


 さて、どうしたものか。

 刹那、そのようには考えたのだが、あくまでもわたしは雇われだったのと思い、周囲を囲む雑魚ども相手をすることにした。


 その旨を三名に伝えると、「死んじゃダメだよ!!」とアユトは言い、城へと向かった。

 彼らの侵入を妨げる輩どもについてはデモンが追い払った、わけなどなかった。


 デモンは独楽のように回転しながら渦巻く炎を持続的に放つ。

 並の使い手の並の防壁では防ぎようがないわけだ。

 一瞬にして周囲から邪魔者らは消失、消え失せた。


 ――が、その中においてたった一人、生き残った人物がいた。

 白いスーツに身を包んだ、剣を持っていることから剣士だと言えた。


 その剣士が宙を蹴って突っ込んできた。

 中々に速い。

 それでもデモンはカタナで軽々と受け、軽妙な鍔迫り合い。


 巨躯に見合った、なかなかのパワー。

 しかし、デモン・イーブルが持つカタナより硬度が高い、優れた一振りなどそうあるはずもなく。

 力任せに剣を弾き飛ばしてやって、それから喉元を突いてやった。

 残念だったな。

 殺されてしまえば、今までの精進なんて無に帰してしまうんだからな。


 男が地に落ちていくさまを見下ろしながら、デモンは意地悪く、にぃと笑んだ。



*****


 飛行し、ゆっくりと王城へと向かった。

 だいたい最上階に王の間というものはあるものだ。

 ガラスも何もはられていなぽっかりと開いた窓があった、近づき、アユトらはここから侵入したのだろうと予測した。


 城へと入り、石造りの通路へと下り立った。

 なだらかに右方へと湾曲している道の幅は広い、城自体も広いようだ、ま、それは外観からわかっていたことだが。


 やがて大きな、木製の両開きの戸に行き当たった。

 戸は開いていた。

 恐らくそうなのだろうと思いながら、戸から中へと入った。


 アユトにグリッツ、ヴィクトリアがそれぞれうつ伏せに倒れていた。

 三人ともとっくに息絶えていることが、感覚的に絶対視された。


 残念だったな、お三方。

 だが人生とは、それほどまでにあっけないものだ。

 時に、あるいはえてしてそういうもので、だからかけてやる言葉なんてあるはずもない。


 長い直線の階段があり、その先に銀色の鎧に身を包んだ男がいた。

 なかなかのっぽで、がっちりしている。

 白髪の壮年――言わば、イケオジだ。


 どうやら玉座の前から動くことなく、くだんの三人を殺したらしい。

 間違いなく、彼が王なのだろう。


「アユトくん、だったね」と王は言い。

「ほう。ただの一兵卒をご存知だったのか」とデモンは返し。

「我が国の諜報機関を舐めないでもらいたい」

「なるほど」

「アユトくんは言ったよ。デモン・イーブルがおまえを必ず殺すぞ、と」


 彼の生死にかかわらず、わたしが義理立てする必要もないんだがな。

 デモンは迷いなくそう言うと、「それでも強者の相手をしてやることはやぶさかではない」と続けた。


「そのうちここも兵に囲まれる。やるなら急いだほうがいい」

「その必要はないな。一騎当千とはわたしのことだ」

「ならば――」

「ああ。殺し合おうじゃあないか」


 途端、王は左手に持っていた太い槍を投げてきた。

 すんでのところではあったものの、けっこう余裕で避けた。

 槍は主君の手へと、当たり前のように帰還した。

 なるほど、便利な武器をお持ちのようだ。


 デモンは左手の人差し指と中指とを向け、見えない斬撃の魔法を打って放った。

 不可視のはずなのに、王は槍の切っ先でもって、斬撃をはじいてみせた。

 よほどの勘の良さがなければできない芸当だ。


 また槍を放り投げてきた。

 それから今度は本人も突っ込んできた。


 王は右の人差し指を向けてきた。

 途端の雷撃。


 薄紫色の防壁でガードした、デモン。


 やる。

 ロートルではない、まだ若いからだろう。

 気の利いた戦闘ができるし、流れを読むことにも長けている。

 そしてまた、玉座の前へとすぐに戻る。

 華やかなまでに強いな、大したものだなと思う。


 ――思っただけだ。

 わけなく駆逐できるなと感じた時点で、もはや雌雄は決した。


 真正直に、そう伝えた。

 それから、「王が消えると、この国は立ち行かなくなるのかね?」と訊ねた。


「私が作った仕組みは完璧に近いと考えている」

「だったら――」

「ああ。できることなら殺したまえ」


 それじゃあ、遠慮なく。

 居合で斬りつけるべく、デモンは床を蹴り、一息で王へと肉薄した。


 無論、彼女の唇は邪に歪んでいた。


 死ね。

 そう告げた唇さえも――。



*****


 その日のうちに、デモンは先日泊まった宿へと戻った。

 今は一階の食堂である。


「ずいぶんと久しぶりの気がするな」

「三日四日しかあけていなかったろう?」

「観光でも楽しんできたのかい?」

「馬鹿を言え。隣国の王をやっつけてくると言ったつもりだ」

「えっ、まさか」

「そのうち、この国にも流れるだろうさ。センセーショナルなニュースとしてな」


 嘘をつくタイプには見えんしなぁ。

 主人はそう言い。


「この先、両国のあいだでエスカレートするようないざこざが始まるぞ」

「責任をとろうとは?」

「とるわけないだろう? わたしは一時的に、この国の民の総意の器になっただけだ」

「まぁ、それもそうか」


 つくづく、この国の武力のほうがずいぶんと劣るんだろうが――。


 まあがんばれ。

 そうとだけ、デモンは告げた。


「ああ、そういえば」

「なにかね、宿屋の主人殿」

「あんたが不在の最中、メシをたかろうとする『友人』」とやらの対応をさせてもらった」

「たかる? 『友人』?」


 微々たるものながらも、妙に嫌な予感がした。

 顎をしゃくって先を促すと、「そのとおり、オミさまだよ」――。


 オミさま、か。

 どうあれそう呼ばせるにいたったわけだ、ほんとうに、偉そうなものだ。


「何をくれてやったんだ?」

「ラードだよ。それが一番好きなんだって話だった」


 なんだかんだ言っても、どれだけ上等なことをほざこうとも、舌は安っぽいんだなとあらためて知った。


 なかば腹立たしい気持ちを抱きつつ、デモンは大きな声を、「オミっ!!」と発した。


 てっきり外にいるものだと予測していたのだが、返事はなかった。


 ああ、なるほど。

 そういうことであれば、きっとどこかでメスガラスでもひっかけてやがるんだろう、ナンパ野郎め。


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