33-3.
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翌日、王であるタシロを殺った隣国に侵入した。
どこから訪れたのか、そこについては嘘をついた。
嘘をついた――わけだが、丸腰だったこともあり、関所におけるボディチェックはくぐりぬけることができた。
いくつか関所をやりすごし、慎重にゆっくりと、三日目には首都に入ることができた。
賑わいもあからさまな、愉快そうな街だ。
市街地にあるカフェに四人で入った。
デモン以外の三人は名物だというチーズケーキまでオーダーした。
「おやおや、リアルに最後の晩餐のようにうかがえるな」
「じつは、そんなつもりはないんだよ」アユトが苦笑じみた表情を浮かべた。「でも、心のどこかでそう思っているから、純粋に紅茶なんかを楽しんでいるのかなぁ」
「味は?」
「おいしい、とっても。王に対する殺意が削がれてしまいそうなくらい」
「保身に走りたいと?」
「かもね。でもそれは気のせいさ」
三人とも揃って細身なのだが、ケーキについては揃ってじつに気持ち良くたいらげた。
「行こうか」
特に悲壮感もなくそう言うとアユトは椅子から腰を上げた。
「ほんとうに後悔はしないんだな?」
「タシロは優れた王だったと思うから」
「では、もはや何も言うまい」
びゅんびゅんびゅんっと、三人が空に向かって飛び立った。
続く格好で、デモンはゆぅっくりと宙に浮いた。
周囲からは驚きの声。
空を舞うことができるニンゲンは限られている。
近くにパトロールでもしている警察官がいたのだろう。
待て!!
――と大きな声がした。
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連絡の仕組みは整然としていて、兵の出動だって早いらしい。
頭部が三角形の塔はもうそこまで見えているというのに、防衛の網にかかってしまった。
そのうち囲まれてしまい――。
少数による暗殺くらいは予想していたのだろう。
ゆえに王までの首はまだ遠いと感じさせられ、ゆえに面倒事を被ることになったというのがわかった。
さて、どうしたものか。
刹那、そのようには考えたのだが、あくまでもわたしは雇われだったのと思い、周囲を囲む雑魚ども相手をすることにした。
その旨を三名に伝えると、「死んじゃダメだよ!!」とアユトは言い、城へと向かった。
彼らの侵入を妨げる輩どもについてはデモンが追い払った、わけなどなかった。
デモンは独楽のように回転しながら渦巻く炎を持続的に放つ。
並の使い手の並の防壁では防ぎようがないわけだ。
一瞬にして周囲から邪魔者らは消失、消え失せた。
――が、その中においてたった一人、生き残った人物がいた。
白いスーツに身を包んだ、剣を持っていることから剣士だと言えた。
その剣士が宙を蹴って突っ込んできた。
中々に速い。
それでもデモンはカタナで軽々と受け、軽妙な鍔迫り合い。
巨躯に見合った、なかなかのパワー。
しかし、デモン・イーブルが持つカタナより硬度が高い、優れた一振りなどそうあるはずもなく。
力任せに剣を弾き飛ばしてやって、それから喉元を突いてやった。
残念だったな。
殺されてしまえば、今までの精進なんて無に帰してしまうんだからな。
男が地に落ちていくさまを見下ろしながら、デモンは意地悪く、にぃと笑んだ。
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飛行し、ゆっくりと王城へと向かった。
だいたい最上階に王の間というものはあるものだ。
ガラスも何もはられていなぽっかりと開いた窓があった、近づき、アユトらはここから侵入したのだろうと予測した。
城へと入り、石造りの通路へと下り立った。
なだらかに右方へと湾曲している道の幅は広い、城自体も広いようだ、ま、それは外観からわかっていたことだが。
やがて大きな、木製の両開きの戸に行き当たった。
戸は開いていた。
恐らくそうなのだろうと思いながら、戸から中へと入った。
アユトにグリッツ、ヴィクトリアがそれぞれうつ伏せに倒れていた。
三人ともとっくに息絶えていることが、感覚的に絶対視された。
残念だったな、お三方。
だが人生とは、それほどまでにあっけないものだ。
時に、あるいはえてしてそういうもので、だからかけてやる言葉なんてあるはずもない。
長い直線の階段があり、その先に銀色の鎧に身を包んだ男がいた。
なかなかのっぽで、がっちりしている。
白髪の壮年――言わば、イケオジだ。
どうやら玉座の前から動くことなく、くだんの三人を殺したらしい。
間違いなく、彼が王なのだろう。
「アユトくん、だったね」と王は言い。
「ほう。ただの一兵卒をご存知だったのか」とデモンは返し。
「我が国の諜報機関を舐めないでもらいたい」
「なるほど」
「アユトくんは言ったよ。デモン・イーブルがおまえを必ず殺すぞ、と」
彼の生死にかかわらず、わたしが義理立てする必要もないんだがな。
デモンは迷いなくそう言うと、「それでも強者の相手をしてやることはやぶさかではない」と続けた。
「そのうちここも兵に囲まれる。やるなら急いだほうがいい」
「その必要はないな。一騎当千とはわたしのことだ」
「ならば――」
「ああ。殺し合おうじゃあないか」
途端、王は左手に持っていた太い槍を投げてきた。
すんでのところではあったものの、けっこう余裕で避けた。
槍は主君の手へと、当たり前のように帰還した。
なるほど、便利な武器をお持ちのようだ。
デモンは左手の人差し指と中指とを向け、見えない斬撃の魔法を打って放った。
不可視のはずなのに、王は槍の切っ先でもって、斬撃をはじいてみせた。
よほどの勘の良さがなければできない芸当だ。
また槍を放り投げてきた。
それから今度は本人も突っ込んできた。
王は右の人差し指を向けてきた。
途端の雷撃。
薄紫色の防壁でガードした、デモン。
やる。
ロートルではない、まだ若いからだろう。
気の利いた戦闘ができるし、流れを読むことにも長けている。
そしてまた、玉座の前へとすぐに戻る。
華やかなまでに強いな、大したものだなと思う。
――思っただけだ。
わけなく駆逐できるなと感じた時点で、もはや雌雄は決した。
真正直に、そう伝えた。
それから、「王が消えると、この国は立ち行かなくなるのかね?」と訊ねた。
「私が作った仕組みは完璧に近いと考えている」
「だったら――」
「ああ。できることなら殺したまえ」
それじゃあ、遠慮なく。
居合で斬りつけるべく、デモンは床を蹴り、一息で王へと肉薄した。
無論、彼女の唇は邪に歪んでいた。
死ね。
そう告げた唇さえも――。
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その日のうちに、デモンは先日泊まった宿へと戻った。
今は一階の食堂である。
「ずいぶんと久しぶりの気がするな」
「三日四日しかあけていなかったろう?」
「観光でも楽しんできたのかい?」
「馬鹿を言え。隣国の王をやっつけてくると言ったつもりだ」
「えっ、まさか」
「そのうち、この国にも流れるだろうさ。センセーショナルなニュースとしてな」
嘘をつくタイプには見えんしなぁ。
主人はそう言い。
「この先、両国のあいだでエスカレートするようないざこざが始まるぞ」
「責任をとろうとは?」
「とるわけないだろう? わたしは一時的に、この国の民の総意の器になっただけだ」
「まぁ、それもそうか」
つくづく、この国の武力のほうがずいぶんと劣るんだろうが――。
まあがんばれ。
そうとだけ、デモンは告げた。
「ああ、そういえば」
「なにかね、宿屋の主人殿」
「あんたが不在の最中、メシをたかろうとする『友人』」とやらの対応をさせてもらった」
「たかる? 『友人』?」
微々たるものながらも、妙に嫌な予感がした。
顎をしゃくって先を促すと、「そのとおり、オミさまだよ」――。
オミさま、か。
どうあれそう呼ばせるにいたったわけだ、ほんとうに、偉そうなものだ。
「何をくれてやったんだ?」
「ラードだよ。それが一番好きなんだって話だった」
なんだかんだ言っても、どれだけ上等なことをほざこうとも、舌は安っぽいんだなとあらためて知った。
なかば腹立たしい気持ちを抱きつつ、デモンは大きな声を、「オミっ!!」と発した。
てっきり外にいるものだと予測していたのだが、返事はなかった。
ああ、なるほど。
そういうことであれば、きっとどこかでメスガラスでもひっかけてやがるんだろう、ナンパ野郎め。




