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異世界転職戦記~マイノリティが集った人生逆転物語~  作者: 定光
第3章 最終課題Ⅲ 龍人族の砦攻城戦編
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第38話 感情色流武士道

お久しぶりです。

またもや投稿期間に空白が開いてしまい、申し訳ありません。

何卒宜しくお願い致します。

 ――――――


 時は魔王城内にて、戦闘部隊の練度をあげていた時に遡る。


 皆の訓練が終わり誰もが眠りに付く夜の中、誇太郎は自室で自らが宿す心力と向き合っていた。


 身体術(フィジカルスキル)の「柔軟な肉体(フレキシビリティ)」とは別にフェリシアから与えられた心力型の魔法術(マジックスキル)、「感情色(エモーション・カラー)」。


 能力は大きく二つに分かれ、「戦闘時において感情を爆発させて発動することにより、心力の種類ごとに様々な付与を得られる」ことと「主に戦闘時において強い感情を爆発させた時、その強く抱いた感情が新たな心力として所有者に宿る」ことである。


 現在は後者の能力は使う機会がないため多少持て余していたが、前者に至っては自身が宿している五つの心力をどう扱っていくかが大事になってくる。


 それを踏まえた上で、誇太郎はこの「感情色(エモーション・カラー)」の特徴に従った我流の武士道を作り上げようと決めたのだ。


 全ては五つの心力を「感情色(エモーション・カラー)」の能力を用い、最大限まで引き上げる為に。



 だが、決戦前日に至るまでその力を最大限まで引き出すことは叶わなかった。身体術(フィジカルスキル)の練度は伸びたものの、最終的に己が定めた「感情色(エモーション・カラー)流武士道」の完成には至らなかった。


「どうして……?」


 汗まみれになりながら、誇太郎は戸惑いの表情を隠せずにいた。


 基礎体力修行時に、「素直」の心力の力によって成長速度が倍加していたのはフェリシアから告げられたことによって分かってはいた。だからこそ、それを含め残る四つ「忍耐」・「覚悟」・「激怒」・「根性」の心力をそれぞれ引き出そうと我流の武士道を組み上げたが、それでもできなかった。


 何が足りないのかと試行錯誤して数分、今一度「感情色(エモーション・カラー)」の特色を思い返す。すると、パズルのピースが埋まるような感覚で誇太郎はあることに気付いた。


「まさか……完成させるには、戦闘時……実戦の中でしかできないのか!?」


 つまり、ぶっつけ本番で臨機応変に感情を爆発させて戦うしかない。


 それが「感情色(エモーション・カラー)」の主な特徴だったのだ。


 限定的かつピーキーな魔法術(マジックスキル)を前に、誇太郎はこれ以上の特訓を止めざるを得なかった。


 しかし、不思議と不安な気持ちはなかった。この時は気付きはしなかったが、誇太郎は既にある心力の効力を戦闘時以外でも常にフル活用していたのだ。


 そしてそれは、これから訪れるであろういくつもの戦いを切り抜けさせていく重要な縁の下の力持ちとして活躍していくのだが、それはまだ先の話になる。


 ――――――


 そして今、エルネストと対峙している現在。


 誇太郎はついにその封を解くこととなる。練磨(レンマ)山椒(サンショウ)を一度鞘に戻し、目を閉じながら深呼吸して気持ちを整える。


 そして目を見開くのと同時に、願いを込めるようにして叫ぶ。


「己に従え、感情色(エモーション・カラー)!」


 刹那、誇太郎の身体から凄まじい気迫が発せられた。先ほどの深手を負った状態とは違う、明らかに別の次元へと変わっていく感覚をエルネストは鱗や気迫を通して直に感じ始める。


 ――そういや、心力型がどうのこうの……って言ってやがったか。ってことは「心術士」って奴か?


 心術士と戦うこと、しかも剣術を使うタイプの「心術士」。属性攻撃型でも補助型でもない、心力型。


 一説によると魔法術(マジックスキル)使いの中では「最強に近い」との呼び声もある心力型の使い手と初めて戦えるという事に、エルネストは見下すことを忘れ高揚感があふれ始めていた。


 相手が人間であっても関係ない、初めて戦うであろうその心力型の使い手を前に鼓動は高鳴っていた。


 そして鼓動が最高潮に達した時、エルネストは既に行動を起こしていた。


「面白ェ……、だったら見せてみろよ! テメェの心力型をよぉ!!」


 大きく翼を羽ばたかせ、電光石火の如くエルネストは突進してくるのだった。やがて間合いが鱗の刃の範囲に入った瞬間、右手を振りかぶって誇太郎を袈裟斬(けさぎ)りしようと試みた。


 しかし――。


感情色(エモーション・カラー)流武士道……その(いち)、あらゆる事象を『素直』な気持ちで受け止めよ」


 呪文の詠唱のように独り言ちるのと同時に、誇太郎は目にも止まらぬスピードで脱兎(ダット)歩法(ほほう)でエルネストから距離を離した。


 その動きをエルネストは見破れなかった。彼が誇太郎の回避に気付いたのは、右腕を振り下ろした直後に面を上げてからだった。


 見破れなかった事実に対し、エルネストは理解ができなかった。いや、全てが理解できないわけではなく回避したことにはまだ理解ができた。この戦いの最中、スピードのある鱗操(りんそう)の攻撃を回避してきたことは事実だったからである。


 問題はそこではない、エルネストが一番理解できなかったのは――。


「馬鹿な……テメェ、そんな深手を負ってどうしてそこまで動けてる!? どういうことか説明しろ!!」


 エルネストの言う通り、誇太郎の腹部は依然として出血が続いている。徐々に穏やかになってきてはいるものの、それでも下手すれば出血多量で死にかねない。


 そんなエルネストの疑問に対し、誇太郎は淡々と答える。


「簡単な話だよ。エルネスト、潔くお前の最上位種としてのその強さ……『素直』に認めよう。故に……もうその攻撃は食らえない、食らってはいけない。俺の心力の『素直』がそう判断したから避けた。ただ……それだけだ」

「素直に認めた、だとぉ? たったそれだけで、そこまで回避力が上がるとでもいうのかぁあ!?」


 認めないと言わんばかりに、再びエルネストが攻撃を仕掛ける。が、その攻撃も誇太郎は(かわ)した。その後、攻撃のスピードを上げながら手数を増やすも誇太郎には一向に当たらぬまま全て無駄撃ちに終わってしまう。


「何でだ……どういうことだ、クソがぁっ!!」

「言ったろ……エルネスト、俺の心力の『素直』が……『お前の攻撃は危険だからもう食らえない』と素直に判断した。その判断に従い、身体術(フィジカルスキル)柔軟な肉体(フレキシビリティ)と合わせて避けている。これが答えだよ」


 納得できないエルネストに、誇太郎は息切れ混じりに丁寧に説明した。


 その説明を前にエルネストは未だに信じられない表情を隠せずにいたが、まだ自身が優位に立っていることを誇太郎に告げる。


「……なるほどな、攻撃は当てにくくなったってのはいいさ。だが、そんなボロボロの状態で、俺を傷つけられるのかぁ!? 俺を倒せなきゃ、この戦いは終わらねーんだぜ!!」


 そう言いながらエルネストが右手を上げると、身体に宿っていた鱗が全て剥がれ上空へと集結していく。


 やがてエルネストの真上には、渡り鳥の群れと見間違えるほどのおびただしい黒い鱗が宙を舞って集うのだった。しかもその数は優に千を超えている。最初に仕掛けた攻撃がまるで小手調べだと言わんばかりの鱗を、エルネストは宙に漂わせている。


「遊びは終わりだ、これでとっととくたばれぇえ!!」


 エルネストが右手を振り下ろすのと同時に、鱗の群れは一斉に誇太郎に向けて進軍を開始した。しかももうこれ以上逃げられないよう、攻撃範囲の広い群れとなって誇太郎へと襲い掛かる。


 対する誇太郎は、この攻撃は絶対よけきれないと判断した。かといって素直に受け止めてしまったら、その時点で終わりだ。


 「ならば」と誇太郎は、再び呪文を唱えるようにして「素直」とはまた違った自身の武士道を呟く。


感情色(エモーション・カラー)流武士道……その()、何事にも耐え忍ぶ『忍耐』を忘れるべからず。その(さん)、強敵と対峙し時は『覚悟』を持って背水の陣を敷くべし」


 詠唱を言い終えると同時に、鱗の雨は既に誇太郎の眼前を覆いつくしていた。そして一切避ける間もなく、誇太郎はその攻撃に飲み込まれてしまうのだった。


 ――勝った!


 エルネストは今度こそ、勝利を確信した。真正面から全ての鱗を受け止め、串刺しになった誇太郎の姿を明確に視界に収めていたからである。


 しかし、そんなエルネストの確信はすぐさま崩れ去った。鱗の雨は確かに誇太郎を串刺しにし、おびただしい数が身体の至るところに刺さっていた。


 信じられない光景が繰り広げられるのはここからだった。何と、刺さった鱗の刃が次々と誇太郎の身体からポロポロと零れ落ちていくではないか。しかも刺さった部位の大半は良くて軽傷で済んでおり、誇太郎のダメージを大幅に軽減させていた。


「何でだ……何で今の攻撃でも倒れねえ! 今度はどういう理屈だ!?」


 動揺を隠せないエルネストに対し、誇太郎は続く流血により意識が朦朧(もうろう)としかけているのか、たどたどしい口調ながらも強気な態度で挑発した。


「悪いな……教えてやれるのは最初までだ、ここから先は……自分で考えろ」


 そう言うと、誇太郎は先ほどよりもスピードを増した脱兎(ダット)を用い山椒(サンショウ)でエルネストに迫った。


 今まで胴体部分を中心に誇太郎は隙を見つつ刃を当ててきたが、いずれも乱れ車を当てて以降攻撃が通らず中々有効打を打てずにいた。ならばと思い、今度は両翼の右翼部分に狙いを定め誇太郎は山椒(サンショウ)を振るう。すると――。


 ――やべえっ!!


 今まで攻撃を鱗で受け止めていたエルネストは、突如身を翻して山椒(サンショウ)の一閃を(かわ)す。そして誇太郎を蹴り飛ばして、牽制するのだった。


 一方誇太郎は蹴りを食らって吹き飛ばされつつも、今のエルネストの動きを見てあることを確信した。


 ――そこか……お前の弱点……かもしれない場所は。


 先ほど誇太郎がエルネストの問いに素直に答えなかったのには二つ理由がある。


 一つは自身の手の内をこれ以上晒さないことで少しでも優勢に持ち込ませる為。


 そして二つ目は、グライムと戦った時と同様龍人族(ドラゴニュート)にも何かしらの弱点があるのではないかと探る為だった。その為にも、自身が導き出した「忍耐」と「覚悟」の心力の力を告げるわけにはいかなかったのだ。


 「覚悟」の心力を用い少しでも鋭利な刃に対する防御力を上げ、尚且つ「忍耐」の心力で多くのダメージと引き換えに自身の力の糧に変換させた渾身の一撃を、恐らく存在するであろうエルネストの弱点に当てるために。


 とはいえ、いくら「覚悟」や「忍耐」の心力によってダメージが軽減されても誇太郎を苦しめる一手としては十分だった。


 それでも誇太郎はエルネストから目を離すことはなかった。まだ勝負がつかない以上、自身が必ず勝たねばならない戦である以上、絶対に相手から目を離してはいけない。


 ――何でだ……何でそこまで足搔きやがる!


 そんな誇太郎の姿に、エルネストは苛立ちを募らせずにはいられなかった。幾度ダメージを与えても、幾度地に伏せさせても何度でも立ち向かってくる相手の姿に我慢がならなかった。


「……どうした、エルネスト? 息が上がってんぞ……?」


 対して誇太郎は息を切らしながらも、肩で息をするエルネストを挑発する。一方のエルネストも、自分以上に追い込まれているはずの誇太郎に重箱の隅をつつくように煽り返す。


「はっ、それはテメェの方じゃねえのかぁ!? 串刺しにされても俺に立ち向かう度胸は褒めてやるが、それで倒れてた方が幸せだと思うがなぁあ!!」

「お気遣い……と受け止めさせてもらうよ、ところでエルネスト……」


 誇太郎はそこでいったん言い切り、何かを見抜くような鋭い眼光でエルネストを睨みつけた。真実を見抜かんとするその力強い視線は、エルネストの背筋に怖気を感じさせるほどだった。なぜなら――。


「何で……さっきの攻撃、避けたんだ……?」

「……!」

「乱れ車を受け止められる程の強靭な鱗をお持ちのお前が、翼を狙われた瞬間……初めて『避ける』という選択を取ったの……俺は覚えてるぞ。もしかして……狙われちゃまずい何かとかあるのかな、例えば……弱点とか……?」

「……ッ!?」


 真を突くような誇太郎の発言を前に、エルネストは思わず動揺を隠せなかった。余裕ぶった印象から一転、腹を下したような青い顔に染まるエルネストの表情を見て誇太郎はにやりと口角を吊り上げる。


「……図星なんだ、じゃあ……もう次からはそこを狙わせてもらうよ」


 龍人族(ドラゴニュート)の弱点は実は二つある。


 一つは堅牢な鱗を一点集中して破壊し、人間の肌が露出したところを突く。そしてもう一つは、各龍人族(ドラゴニュート)の部位にランダムに存在するとある鱗を貫くこと。


 エルネストはこの後者の弱点を、誇太郎にたった一回の回避で見破られたのだった。それをエルネストは認めたくなかった。


 とにかく認めたくなかった、人間に見破られることなど龍人族(ドラゴニュート)は愚か最上位魔人においても名折れに等しい。


「こんなことが……こんなことが、あってたまるかぁあっ!!」


 絶対に認めたくないという焦燥感が膨張するあまり、エルネストはかつてない程の怒りと共に誇太郎に再度迫ってきた。更なる追い打ちをかけて勝利を確実なものにするべく、手刀、貫手、シンプルな拳の乱舞とあらゆる近接攻撃でエルネストは誇太郎を追い込んでいく。


 しかし、深手を負いながら躱し続ける。圧倒的な劣勢の中でも誇太郎は絶えず笑みを崩さずにいた。そんな彼の姿に、エルネストの苛立ちはとうとう頂点に達した。


「何……笑ってんだ、テメェエ!! そのニヤケ面……完膚なきまでに叩き潰してやんぞ、ゴラァ!!」


 そう言いながらエルネストは、右手を天に掲げた。するとそこには、再び鱗操(りんそう)にて集められた鱗が巨大な(やじり)へと変貌していく。それは鱗が集まるに連れ歪な円錐状に組みあがっていき、やがて完成すると十メートルは下らないほどの巨大な(やじり)となって誇太郎の眼前に立ちはだかった。


「今度こそ……これでくたばりやがれぇえ! 巨躯鱗矢撃フレチャ・デ・エスカラ・ヒガンテ!!」


 エルネストの激しい咆哮と共に右手を振り下ろすと同時に、(やじり)は真っ直ぐ誇太郎の元へと向かっていった。


 そんな絶体絶命の状態が迫ってきているにもかかわらず、誇太郎は穏やかな表情で向き合っていた。練磨(レンマ)山椒(サンショウ)を両手に構え、そのまま両腕をクロスさせて迎撃態勢を整えた。


「何だか……異世界(こっち)に来て一年もしないのに……懐かしい気分だ。元の世界で……やりたいこともなかった社会生活でも、ただひたすらその日の仕事を『途中で投げ出さず、無事に終わらせる』という気持ちの元に……がむしゃらに動いていた時を思い出す。だからなのかな……俺の『根性』の心力が未だに尽きないのは」


 先ほどよりも息が絶え絶えだったが、誇太郎は目線をそらすことなく迫る攻撃と向き合った。今しがた口にした、「根性」の心力を胸に宿し等しく乗り越えんがために。


 その心力こそ、誇太郎を限界以上に引き出している根源であった。


 感情色(エモーション・カラー)流武士道、その()


 誇太郎が定めた条文兼詠唱は、「どれほど絶望的な状況にあっても決して諦めぬ『根性』を持つべし」という非常にシンプルなもの。この言葉を誇太郎は、異世界に来る前からずっと無意識下で唱え続けながら生きてきたのだった。


 そして、そんな「根性」が与えてくれる恩恵は――。


「だからこそ……乗り越えるしかないよな。一度勝負を挑むと決めた以上……フェリシア様の元に仕えると決めた以上、どんな試練が来ても……等しく乗り越えるしかねえよなああああ!! 根性見せんぞ、樋口誇太郎ぉぉぉぉぉ!!!」


 気合を入れ直し咆哮する誇太郎。すると、彼の肉体が窮地に追い込まれている状態とは思えないほどにメキメキと力を増していく。


 そう、「根性」の心力が与えてくれる力は、「能力の保有者、即ち誇太郎が『諦める』という選択を取らない限り、何度でも立ち上がらせ必ず勝利への道筋を幾重にも張り巡らせる」というもの。


 どれほど傷を負おうとも、どれほど苦境に立たされようとも感情色(エモーション・カラー)を持つ誇太郎が「心の底から諦める」という選択肢を取らない限り、幾度でも立ち上がらせてくれるのだ。


 それだけでなく、誇太郎が「己に従え」と命じた瞬間「根性」の心力は新たな能力を開花させていた。


 それは窮地に追い込まれた場合、柔軟な肉体(フレキシビリティ)と連携を取ることにより一時的な痛覚遮断を行わせるだけでなく、止めの一撃を放つための余力を限界以上まで引き出させてくれるサポート能力が花開いたのだった。


 故に、誇太郎は感じていた。


 窮地に追い込まれているからこそ、一刻も早く決着を付けねばならないことを。


 だからこそ、弱点と思われる部位も忘れぬようにしながら誇太郎は迫る巨大な(やじり)と向き合った。


 これを乗り越え、その先にある勝利を掴む為に。誇太郎は両手に握る愛刀を天に掲げ、高らかに吼える。


「罰十字斬り!!!」


 クロス状にしているという影響からか、「バツ」という安直な単語を「罰」とかける言葉遊びの要領で叫んでしまったが、そんなことは今や関係なかった。交差した両刀から放たれた二振りの斬撃は、そのまま斬撃波となって(やじり)の山と激突する。


 強靭な二つの攻撃の鍔迫り合いは長引くかと思ったが、結果は意外にもあっさりと終る形となった。


 誇太郎が放った「罰十字斬り」が(やじり)の山の先端に触れた瞬間、卵の皮をめくるように剥がれ始める。するとそこから連鎖的に(やじり)に連なっている鱗がボロボロと零れだし、斬撃波の侵入を許してしまう。バラバラに集められた鱗を強引にまとめ上げた結果だったのか、(やじり)の山は耳障りな金属音と共に徐々に崩れ落ちていった。


 最終的には多少「罰十字斬り」の威力が衰えたものの、エルネストの放った攻撃はとうとう完全に崩れ去り誇太郎の攻撃を押し通らせてしまった。


「あってたまるか……こんな一撃如き、この俺の敵ではねえわぁあああああああああっ!!」


 迫る斬撃波を前にし、エルネストは何と真正面から受け止めた。両手を前にかざし、後退させられつつも確実にその攻撃を受け止める。


 最上位種としてこれ以上無様な醜態は晒せない。何より、自分自身がこの島に来る前に「鱗しか操れない弱い龍人族(ドラゴニュート)」という烙印を同胞たちに押された屈辱を思えば、こんな一撃など痛くもなかった。


「がああっ!!」


 怒りを込めた咆哮と共に、エルネストは「罰十字斬り」を力ずくで霧散させた。両手を血に滲ませ、息を荒くしながらもエルネストはその攻撃を乗り切った。


「み……見たか、テメェの一撃なんて所詮この程度……」


 と、そこまで言ってエルネストは言葉を失った。


 なぜならば、攻撃を乗り切ったエルネストの視線の先にいるであろう誇太郎の姿が一向に見当たらなかったからだ。と、思ったその時――。


「そこかぁあっ!?」


 背後に気配を感じ、右腕に鱗を集中させて薙ぎ払う。するとそこには誇太郎の姿があり、エルネストの攻撃により真っ二つに胴体が裂かれた。と思われたが、それは誇太郎の残像であり本体の姿はやはり捉えられなかった。


 ――一体どこに!?


「ここだよ……」


 エルネストの疑問に答えるように、誇太郎は再び彼の背後から声をかける。そしてまたエルネストが攻撃を振るうも、残像を残して躱す。


 しかし、躱すのはここまでだった。


 誇太郎はこの時、しゃがんでエルネストの攻撃を回避した。その攻撃の一瞬のスキを見計らい、右翼部分のとある鱗を探し始めた。


 それは五秒にも満たない程の一瞬の世界。


 そんな中に置きながらも誇太郎はびっしりと規則正しく並ぶエルネストの鱗の中から、たった一枚だけ()()()()()()()()()()()を発見した。


「見ーつけた……!!」

「……っ!!」


 誇太郎が言葉を漏らすと同時に、エルネストもまた彼の存在に気付く。


 そして互いに一撃を振るうべくエルネストは鱗で作った貫手(ぬきて)を、誇太郎は小太刀の山椒(サンショウ)で対抗する。


 気付いたのはほぼ同時だったが、強いて僅かに動きを早く見せていたのは明確に狙う部位を見定めていた誇太郎だった。


穿龍閃(せんりゅうせん)!!」


 貫手を食らいながらも、今までに溜めた「忍耐」の心力と爆発的に花開いた「根性」の心力から放たれた誇太郎の一撃は、目にも止まらぬ鋭い突きとなってエルネストの弱点を穿ち抜いた。


「あぐぅああああああああっ!!!」

「よし……っ!」


 穿たれた部位から(ほとばし)る激痛に苦悶の声を上げるエルネストと、確かな手ごたえを実感し勝機が見え始めたことに希望を見出し始めた誇太郎。


 一方的かと思われていた戦局は、誇太郎の逆転により最終局面へとボルテージを上げていく。

いかがでしたでしょうか?

いよいよ攻城戦は最終局面へと向かいます。

次回も何卒宜しくお願い致します。

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