第39話 エルネストと誇太郎、全身全霊の勝負に臨む
こんばんは。
後半は戦闘シーン大幅カットした内容になってますが、これはもうノリと勢いで書いてしまいました。
何卒宜しくお願い致します。
「あぐぅああああああああっ!!!」
「よし……っ!」
弱点である鱗を突かれたエルネストは、耳をつんざくような苦悶に満ちた悲鳴を上げてしまう。
一方誇太郎も確かな手ごたえありと感じると同時に、思わず力が一気に抜け山椒の先端を地に突き刺して片膝をついてしまった。
そんな彼に対し、エルネストは穿たれた部位の激痛に悶絶しながら誇太郎を睨みつける。
「こ……この野郎ぉぉ、げ……『逆鱗』を狙いやがった……ッ!!」
「やっぱりな……バレンティアから聞いた通りだった、龍人族に限らず龍の血を引く種族に共通する弱点は……一枚だけ逆さに並んでいる『逆鱗』を撃ち抜くこと……。その苦しみ方から見るに、差し詰め『弁慶の泣き所』と見るべき……かな?」
「ああ!?」
「何だそりゃ!?」と言おうとした瞬間、逆鱗から響く激痛が再びエルネストを苦しめた。火を見るよりも明らかな程、効果抜群な一撃を与えられたことに誇太郎は軍配が自身に傾き始めたことを実感した。
「やっと、手ごたえのある攻撃を食らってくれたな……エルネスト……!」
「あんの……クソスカンク野郎がぁああ……!!!」
激痛に悶絶するエルネストだったが、誇太郎もまた限界を迎えてしまっていた。たった一つの弱点である「逆鱗」を狙うべく、ここまで持てる全ての心力を燃やして戦ってきた以上、こうなることは必然とも言えよう。
互いに体力がゼロに近い状態の二人。
そんな二人の姿を、木陰に隠れながら眺める者がいた。
カラヴェラを一蹴した重装歩兵のシュトルツだった。
「大したものだ……満身創痍の状態で、あの龍人族相手にあそこまで立ち回るとは」
木陰から勝負の一切を観戦していたシュトルツは、誇太郎の戦う姿を目の当たりにして素直に称賛の言葉を漏らした。
だが――。
「まだだ……まだ、終わって……たまるかよぉっ……!!」
苦悶に満ちた声を絞り上げながら、フラフラとした足取りの状態でエルネストが立ち上がったのだ。目の色は最上位種としてのプライドを捨てていない、エルネストならではの力強い眼光が放たれていた。
そんな相手の姿を前に、誇太郎は立ち上がることはできなかった。満身創痍、常人ならばとっくに意識を失うのは愚か命を失っていてもおかしくはない。
それでも、まだ相手の戦意が消えていない現状を前に誇太郎は何とか己の心力を再び燃やし始める準備に入る。その為にも、エルネストにどうしても尋ねたいことがあった。
「……なあ、エルネスト。まだ立ち上がるのか?」
「当たり前ェだ! 最上位種として……こんな所で、倒れる……わけにゃいかねえんだよ!!」
と言いつつも、エルネスト自身がかなり無理をしているのは誇太郎の目から見ても明らかだった。
「そんなに……大事なのか、その最上位種……とやらって……」
「……あ?」
「何がそこまでお前が不満に感じているのか……俺は分からないけど、少なくとも……お前は強い。そんなに強い身体術を自由自在に操れてるのに……何で、そこまで頑固にこだわるんだ……」
「理由を話しゃあ……納得でもすんのか、テメェは……?」
質問に対し逆に尋ねてくるエルネストに、誇太郎は負けじと自身の考えを述べる。
「納得ができるかどうかは……返答次第だけど、理由を聞くことは俺にとっちゃ大事なことだ……。内容によっちゃ、もうこれ以上戦う理由なんていらないだろ……。急所を打った、敗色も濃厚……お前がこれ以上頑張っても逆にプライドを傷つけるだけ……だぞ」
「……」
たどたどしく返した誇太郎の姿に、エルネストはほんの少しだけ心の中で違和感を感じた。
それが何だったのかは分からなかったが、詮索するよりも先に誇太郎の考えに対して反論をする方を優先した。拍子抜けするような誇太郎の言葉に思わず力が抜け、腰を下ろしたところでエルネストは口を開く。
「俺は……いや、俺と妹のパトリシアは……龍人族の中でも『単純能力者』として……馬鹿にされてきた」
「シンプル……スキラー……?」
聞きなれない単語を前に誇太郎は聞き返した。対してエルネストは、「知らないのか」と一瞬驚いた表情を見せつつ続ける。
「『単純能力者』ってのは要するに……身体術か魔法術、いずれかしか持たねえ能力者のことだ。
逆にコタロウ……、テメェのように身体術と魔法術を二つ以上持つ能力者は……『複合能力者』と呼ばれてる。下等種族の人間じゃあ、持ってる奴はそう何人もいねえと思うがな……」
「マルチ……スキラー……俺は、そう言う存在なのか……。教えてくれて助かるよ」
「礼なんか言われる筋合いは……」
「頼む……感謝の意は言わせてくれ。また一つ……新たなことを知れたことに感謝してるんだ。そして……遮って悪かった、エルネスト……続けてくれ」
丁寧に説明してくれたエルネストに敬意を表しながら、誇太郎は引き続き発言を促す。その姿に再び違和感を覚えるも、対話のバトンを素直に受け取って続けることにした。
「コタロウ……一つ聞かせろ、俺は……強ェ龍人族……だよな」
「急にどうした……?」
「いいから答えろ、テメェが一方的に尋ねてきてんじゃねえ。今度は……俺が尋ねる番だ、どうなんだよ」
まさかこういう形で相手から質問を受けるとは思っていなかった誇太郎だったが、全身と腹部に追った傷を一通り一瞥して素直な気持ちでこう返した。
「さっきも言ったと思うけど……改めて申し上げよう。お前は強い……、強すぎるよ、エルネスト。あんな遠近両用に長けた能力を、『弱い』なんてどうして言えるんだ……? 妹さんの方は詳しく見てないからまだ言えないけど、少なくとも……俺からしてみれば充分すぎるほどに強かった。感情色の力もあるとはいえ、かなり無理をしなきゃ……追い詰められなかったもの……な」
「……そうか」
短い返しだったが、エルネストはその一言に満足した声色を見せていた。
「でも……何で改まってそんなこと聞くんだよ? それに、そんな強い身体術を持ってるのに……何で龍人族達に馬鹿にされなきゃいけないんだ?」
「『何で』……か、はっ……」
皮肉めいたような乾いた笑いを漏らし、エルネストは不服の色を混ぜた声色で返す。
「俺たち龍人族は……最上位種だ。最強の魔人の種族だからこそ……複合能力者として産まれてくる奴らが当たり前、単純能力者は落ちこぼれっつー風習が……染み込んでた。そんな中で、俺とパトリシアは……兄妹揃って単純能力者として産まれてきちまった。
単純能力者の龍人族に居場所はねえ、龍人族に必要なのは最上位種としての格と強さだけ。両親は俺たちが五歳の頃に単純能力者だと気づいた瞬間……、集落から追い出しやがったのさ。村の風習に則ってな」
「そんな……」
エルネストがスミレとはまた違ったベクトルで村を追われた存在だったことに、誇太郎は衝撃を隠せなかった。その様子をエルネストは察したのか、語気を強めた。
「同情してんのか? だとしたらやめろ、俺は別に追い出されたことには怒っちゃいねえ。当然と言えば当然だ、龍人族にとっちゃ単純能力者は弱さの象徴だからな。許せねえのは……碌に自分の力を知りもせず、村の風習に従ってホイホイ出ていっちまった……昔の自分自身だ。それを見せようともせず、あるがままに受け入れちまった自分の愚かさに反吐が出て仕方ねえ」
「エルネスト……」
「……だからこそ、俺は……ここで倒れる訳にはいかねえ」
そう言いながら、エルネストは腰を上げて誇太郎を上から見下ろして告げる。
「俺は……人間と龍の間に生まれた誇り高き種族、龍人族のエルネスト! 複合能力者だろうが単純能力者だろうが関係ねぇ! 俺は俺の力で、龍人族が世界で一番誇らしい種族だってことを証明させる!! その為にも……テメェ如きに負けてなんかいられねえんだよ、コタロウ!!」
力強く断言するエルネストの姿に、誇太郎は思わず鳥肌が総立ちになった。そして気付けば、拍手すら起こしていた。
「すげえ……素晴らしい目標じゃないか、エルネスト。今のお前の姿を見て……考えが変わったよ」
「あぁ?」
エルネストが尋ね返すのと同時に、誇太郎もまた練磨を抜いて杖代わりにしながら何とか立ち上がった。
「バレンティアと一緒に初めて会った時は……『いけすかねえ世間知らず』ってイメージだったけど、お前はお前なりに……色々見てきたんだな……って。それを踏まえた上で、自分の力で『世界で一番誇らしい種族を目指す』っていう目標があるんだもの……。はっきり言ってあげるよ、エルネスト。どれだけお前のことを馬鹿にしようとも、お前ほどの高潔なプライドを持つ奴を……俺は尊敬する。フェリシア様とはまた別に尊敬できる存在に出会えたこと、心から嬉しく思うよ」
「……!」
「でも……まだ立ち上がったってことは、戦えるってことだよね」
そう言いながら、誇太郎は両刀を構え直してエルネストに向き合った。そして、敬意を込め想いと共にこう告げた。
「なら……最後まで全身全霊で戦おう、エルネスト! 勝っても負けても悔いなく終わらせるためにな!!」
満身創痍の状態にもかかわらず、尚も立ち上がり素直な表情で真っ直ぐ向き合う誇太郎。
その姿を前にして、エルネストは胸に抱き始めていた違和感の正体がようやく判明した。人間や魔人と言った種族間の垣根など関係なく、誇太郎の素直な感性を前にエルネストは「充実感」を感じ始めていた。それこそが、エルネストが抱いていた違和感……否、感情だったのだ。
その感情を知れたエルネストは、思わずカラカラと高笑いした。
「……下等種族の癖にしちゃ、面白ェ人間じゃねーか。いいぜ……俺も付き合ってやるよ。全身全霊の……殴り合いに」
楽し気に笑みを浮かべながら、エルネストもまた鱗操にて両腕に手刀を集中させた。
お互いに重傷を負いながらも立ち上がった二人。
そこにはもう、昨日まで抱いていた「馬鹿にされたことに対する怒り」と言ったくだらない感情はもうなかった。
あるのはただ一つ、「互いのプライドに懸けて悔いなく勝利を掴むべく全身全霊の勝負に臨む」ということ。
誇太郎は、自らを受け入れてくれた全ての人に胸を張れる侍として魔王軍に仕える為に。
エルネストは、己の力一つで龍人族が世界で一番誇らしい種族だってことを証明する為に。
互いに似て非なるプライドを宿しながら、両者は互いに笑みを浮かべながらほぼ同じタイミングで大地を駆けた。
それが、この戦の最後の戦闘のゴングを鳴らす合図となった。
*
「まだ……闘うというのか、あの二人は……」
その様子を、シュトルツは静かに隠れながら見ていた。会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえなかったが、再び戦闘が始まったという状況を前にシュトルツは静かに待つことを選んだ。
この勝負がどう転ぼうとも、龍人族のある部位をはぎ取る為に。
しかし、それを踏まえてもなおシュトルツは二人が最後の戦いに臨む姿を目にしてこう呟いた。
「どうしてこうも熱くなってしまうものなのだろうな、漢という生き物は……」
そしてそんなシュトルツの背後に、忍び足で静かに近づく影もあった。
シュトルツの位置を特定したスミレとウルガであった。
仮本陣にて索敵を続ける中、一早くウルガの嗅覚がシュトルツが本陣付近にいるという現状を掴み取ったのだ。そしてウルガに案内されるがまま、人面瘡のメンソウのサポートも含めて二人はようやくシュトルツの背後の間近にまで距離を詰めることができたのだった。
「あの人で間違いないのね、ウルガ?」
「……間違いない、アイツが……俺の部下を殺した男だ」
存在がバレないよう小声で尋ねるスミレに、ウルガははっきりと断言した。
今なら背後の自分たちに気付いていない、隙を見て不意打ちを入れようと画策するウルガ達だった。
しかし、その考えは突如として前方から襲い掛かってきた強烈な二つの殺気を前にメンソウが待ったをかけることとなり頓挫してしまった。「どうして止めたのよ」と尋ねようとしたスミレだったが、彼女とウルガもまたメンソウが感じ取った殺気を感じ取り足が思わずすくんでしまう。
やがて、その殺気が誇太郎とエルネストが無意識下で放たれているものだと知ると尚のこと迂闊に踏み入れることができなかった。否、踏み入れることは無粋だと二人は感じ取ったのだ。
その理由は言うまでもなかった。つい先ほど自分たちも同様に互いの意地をかけて死闘を繰り広げたからに他ならない。
シュトルツを追ってここに来たことを忘れてしまうほどに、二人は誇太郎達の死闘に釘付けになっていた。
そんな二人に出来ることは、互いの主に対し静かに勝利を祈り応援することしかできなかった。
また、その様子を遠くから眺めている者達もまた部下の勝利を祈り見守っていた。
その者達はもちろん、魔王城内にいるフェリシアや現場にいない幹部たち全員であった。最終課題のⅠ・Ⅱの時と同様、誇太郎達が戦う様を上空にいるシャロンの分身体が持つ魔鏡と、セイレーンのアリシアが映す噴水スクリーンを通して見守っていたのだった。
だが、フェリシアを除く幹部たちはもちろんのこと、勝負を見守る城内の面子からは誇太郎の生死と戦いの行く末を不安視する様子がちらほらと見られ始めていた。
背後でざわめく不安の声にしびれが切れたのか、警備隊隊長のアルバがフェリシアへと意見具申する。
「フェリシア様……本当に加勢に向かわなくて……よろしいのですか……?」
「あん?」
「コタロウさん……どう考えても、あの傷では……遅かれ早かれ死んでしまいますよ……? 今は心力型の影響で……どうにか誤魔化せてるのかもしれませんが、この戦いが終わってしまったらどうなるか……」
誇太郎の無茶な戦闘を続行する中継を前に、アルバは彼の危機を案じていた。
しかし、フェリシアは落ち着いた声色で尋ね返した。
「なら逆に聞くけどよ……お前は見たのか? 特有スキルで、コタロウが死ぬ未来は見えたのか?」
「……いいえ、見えていません。しかし、それはあくまで……『今は』の話です。このまま続行し続ければ……未来が変わってしまう可能性が……」
「ならいいじゃねーか、今お前が見ている未来の中でアイツが死ぬ未来が見えてないなら……あたしが行く意味ないだろ?」
「ニッヒヒ」と笑うフェリシアだったが、それでもアルバは未だに不安な表情を拭えずにいた。そんな彼女の様子をフェリシアは察し、「それに」ともう一言付け加える。
「あたしが出てったら……それこそ、コタロウの為にはならねえ。アイツに戦闘部隊を率いさせると決めた以上、行く行くは本土のアロガンシアに立ち向かう力を付けてもらう必要がある。だからこそ、ギリギリまで追い込む必要があるんだ。アイツに与えた感情色を、限界以上の力を可能な限り引き出すためにな」
「例えそれで……死んでしまうことになってしまっても……ですか?」
「らしくねえ心配してんな、アルバ。ロッサーナの心配性がうつったか?」
「そういうわけでは……」
ふいとそっぽを向いて否定するアルバに対し、フェリシアはもう一言だけ釘を刺す。
「大丈夫だよ、アルバ。ただ……僅かでもいい、本当に『不幸な未来』が見えたら……その時は教えろ。いいな?」
「……分かりました、それなら……これ以上は申し上げません」
その言葉を最後に、アルバは頭を下げてすぐさま自分の座席へと引き返していった。
アルバが席に戻ったのを確認し、フェリシアは再び正面の噴水スクリーンに目を戻した。力を与えた部下が勝つことをただひたすら信じながら。
*
血沸き肉躍る死闘の空間。
三者三様で見守っている者達がいる中、誇太郎とエルネストは持てる全ての力を賭して死闘を続けていた。
斬撃、手刀、貫手、そして拳や蹴りと言った攻撃の乱舞。
互いに繰り出す一撃一撃がいつ倒れてもおかしくないような応酬を繰り広げる中、誇太郎とエルネストは楽しそうに笑っていた。
既に重傷を負っている誇太郎はもちろん、弱点である「逆鱗」を打たれたエルネストの二人は互いに致命傷を負いながらも清々しい爽快感と共に剣を交えていた。
楽しくて仕方ない。
譲れない想いを胸に秘めた全身全霊の命の削り合いが、これ程までに爽快なものだということを二人はかつてない程に死闘を通して満喫していた。
しかし、何事においても「終わり」というものは付き物。
決着の時が、ついに間近に迫る。
「後……一手、ってところかなあ……。エルネスト、お前は……?」
「……気に入らねえが、俺もだ」
互いに血と汗にまみれながら、誇太郎とエルネストは「次の一撃で決めよう」と目で語り合うようにして頷いた。
敵同士のはずなのに、いつしか芽生えた友情。初対面の印象では最悪だったはずが、過去の境遇や死闘を通してここまでわかり合えた。
そのことに感謝を込め、二人はそれぞれ最後の行動を取り始める。
エルネストは右半身を大きく後退させ、突撃の準備を整えた。
対する誇太郎は何と、両刀を鞘に戻したではないか。その光景に対し、エルネストはやや癪に触られた感覚を覚えた。
「とうとう……諦めたんか、テメェ?」
「さっき言ったろ……諦める理由なんてとっくに捨てたって」
「……はっ、だったな」
戦いに夢中になりすぎてしまい、思わず忘れていたことに対しエルネストは自嘲気味に鼻で笑った。
そして互いに息を整え終えたその時、誇太郎は意を決した声色で告げる。
「来い……エルネスト」
泣いても笑っても、勝っても負けてもこれが最後。
決着を着けるために、二人は最後の深呼吸を行った。そして、互いにギリギリまで深く吸い込んだその時。
「龍人激烈穿撃……」
言い終えるのと同時に、エルネストは最後の一撃を拳に込めて突撃を開始した。翼をはためかせ、更に勢いを増しながら誇太郎に迫るエルネスト。
一方の誇太郎は、まだ動く様子を見せない。目を閉じたまま、深く息を吐きながらエルネストが迫るのを待つように微動だにしなかった。
「これで終わりだ、コタロウぉおおおおおおおおおおっ!!」
劈くような咆哮と共に、誇太郎の顔面にエルネストの鉄拳が炸裂した。と思った次の瞬間、誇太郎はカッと目を見開きすんでのところで鉄拳を回避した。
「樋口流……剣法、無の構え……」
技の名前を唱えながら、誇太郎はエルネストが攻撃を外した隙を見逃さず彼の右腕をがっしりと掴んだ。そして――。
「無刀……一本背負い……!」
外した攻撃の勢いを利用しながら、誇太郎は雄たけびと共にエルネストに一本背負いをお見舞いさせた。全速力で駆けたエルネストの勢いは止まることがなかったからこそ、その勢いを逆手にとった一本背負いは既にダメージを負っていた右翼の逆鱗にも直撃した。
それが決め手となり、エルネストの苦痛に満ちた悲鳴が周囲に響き渡る。
だが、それでも。エルネストは「まだだ!」と足搔こうと、素早く起き上がろうとした。
ところが、それは叶わなかった。
「……ッ!!」
エルネストの眼前に山椒が、そして首筋には練磨がチェックメイトを告げようとばかりに突き付けられていた。そうしてエルネストが動くのをやめるのを見計らった上で、誇太郎は改めてはっきりと断言した。
「俺の……勝ちだ」
ギリギリの攻防を経て、種族を超えた全身全霊のぶつかり合いを制した戦い。
その戦いの行く末は、人間を超えた人間として証明された誇太郎に勝利の軍配が上がった瞬間を、見守っていた者達に深く刻み込ませるものとなった。
いかがでしたでしょうか?
戦いの決着は着きましたが、第三章はあともう少しだけ続きます。
何卒宜しくお願い致します。




