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第397話。ディーテ・エクセルシオールは思考する…1。

チュートリアル終了時点。


名前…キャリスタ

種族…【(ヒューマン)

性別…女性

年齢…26歳

職種…【侍女長(グランド・メイド)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】

特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能(タレント)機転(タクト)

レベル…9


ジェレマイアの妻。

アリス・アップルツリー家のメイド長。

 時を遡って……グレモリー・グリモワールが【ノースタリア】に向かっていた頃……。


 森の中。

 ここは、一日中陽が差し込まず、年中暗い為に、【黒の森】と呼ばれている。


「真っ暗な森の中〜、罠を仕掛け〜、敵を滅ぼせ〜、ふんふふん〜……」

 ディーテ・エクセルシオールは、小粋な歌を口ずさみながら【黒の森】の中を歩いていた。


 歌詞の内容が多少物騒なのは仕方がない。

 彼女は、異種族から……最恐のゲリラ兵……と畏怖される、【エルフ】族の最強の戦士なのだから。


【黒の森】は()()()()人種にとって……安全……とは言い難い場所であった。

 魔物が濃い上に、数は多くはないが【魔人(ディアボロス)】も住み着いている。

【黒の森】を住処(すみか)とする【魔人(ディアボロス)】は、【ワー・ウルフ】。

 成長すれば【超位】級の戦闘力を持つ半狼半人の【魔人(ディアボロス)】である。


 しかし、ディーテ・エクセルシオールは、暗い森を、まるで自宅の庭を散歩するように気楽に進んで行く。

【エルフ】は、森に適応した優秀な狩人(ハンター)であった。

 まして、【エルフ】族最強と云われるディーテ・エクセルシオールにとって森の中は、まさに自分有利のバトル・フィールド。

 恐れるモノなど何もないのだ。

 思わず謎の節回しの即興の歌が口を突いて出るほど、ディーテ・エクセルシオールにとって森の中は快適な場所なのである。


 先程から【ワー・ウルフ】の1家族が、風下側からディーテ・エクセルシオールを追跡していた。

 ディーテ・エクセルシオールも、それに気付いている。

 匂いを感付かせない為に、風下に隠れる【ワー・ウルフ】達であったが、ディーテ・エクセルシオールの前では、そんな隠密行動も無駄な努力だった。

 彼女は、【マッピング】で、【ワー・ウルフ】を完全に捕捉している。

 もしも、【ワー・ウルフ】達が攻撃を仕掛けて来れば、ディーテ・エクセルシオールは、お得意の【超位気象魔法】で瞬殺出来るだろう。


 しかし、ディーテ・エクセルシオールには、こちらから【ワー・ウルフ】に対して攻撃を仕掛けようという意思はなかった。

 彼女は、弱い者イジメをする趣味はない。

 それに、どうやら(くだん)の【ワー・ウルフ】は(つがい)と子供達の家族だった。

 子供を手にかけるのは忍びない……と、ディーテ・エクセルシオールは思う。

 例え、それが彼女を捕食しようと付け狙う恐ろしい【魔人(ディアボロス)】であったとしてもだ。


 最近、この辺りの【黒の森】では、【ワー・ウルフ】の餌となるような()()()魔物が減っているのだろう……と、ディーテ・エクセルシオールは考える。

 何故なら、近郊に【サンタ・グレモリア】という街が出来て、そこにグレモリー・グリモワールやディーテ・エクセルシオールのような規格外の戦闘力を持った者達が住み着いて、さらに今は神の軍団と呼ばれる100頭もの【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】まで暮らしているのだから。

 弱い魔物は、この辺りから逃げ出す筈だ。


 ディーテ・エクセルシオールやグレモリー・グリモワール、そして神の軍団の神兵達は、皆【認識阻害(ジャミング)】アイテムで魔力を隠蔽している。

 しかし、森に接した原野フィールドでは、毎日のように、グレモリー・グリモワールと彼女の子供達が、強大な魔法をボカスカ撃ちまくって、【パイア】や【コカトリス】や【地竜(アース・ドラゴン)】を(ほふ)っていた。

 近郊で、あれだけ派手に魔法をブッ放しているのに、それに全く気が付かない魔物は、厳しい生存競争が繰り広げられている自然界では、とても生き延びられない。


 それから、神の軍団の方も問題である。

 神の軍団は、基本的に食料を【サンタ・グレモリア】から与えられていたが、オヤツ感覚というか、暇潰しに、フラリ、と【黒の森】に飛んで来ては、気軽に魔物を捕食して行くのだ。

 グレモリー・グリモワールは、神の軍団に対して、防衛や警戒任務の合間の休憩時間には、交代で森に魔物を狩りに行く事を許可している。

【黒の森】に生息する魔物にとっては、たまったモノではない。


 なので、【サンタ・グレモリア】に近い領域の【黒の森】からは、比較的知性が高い魔物が、グレモリー・グリモワールや神の軍団の所業を恐れて逃げ出し、すっかり居なくなってしまった。

 その中には、【ワー・ウルフ】が主食とする【魔鹿】や【魔兎】の種類も含まれている。

 従って、ここ最近狩りが上手くいかないディーテ・エクセルシオールを狙っている【ワー・ウルフ】の家族は、子供達に与える獲物を獲る為に必死なのだ。


 ならば、逃げ出した魔物達と同じように、【ワー・ウルフ】の家族も、【黒の森】の深部に移動すれば良い、と思える。

 獲物を追って移動する事は、肉食の捕食者なら当然の事なのだから。


 しかし、この【ワー・ウルフ】の家族は、それが出来ない事情があった。

 この【ワー・ウルフ】の家族は、【黒の森】の最深部を縄張りとする【ワー・ウルフ】の群から逃れて来たのである。

魔人(ディアボロス)】は基本的には、群を作る事は少ない。

 孤高の存在だからだ。

 しかし、【ワー・ウルフ】など、一部は群を作る習性を持つ種族もいる。


 この【ワー・ウルフ】の家族は、群の中から半ば追放されたのだ。

 群に見つかれば殺されるかもしれない。

 なので、獲物を追って森の奥に移動する事は出来なかった。


 しかし、そんな込み入った【ワー・ウルフ】側の事情は、ディーテ・エクセルシオールには(うかが)い知れない事である。


「らんららん〜、狼なんか怖くない〜」


 ディーテ・エクセルシオールの音楽的素養は、比較的マトモであった。

 彼女の親友であるグレモリー・グリモワールに比べれば……であるが。


 グレモリー・グリモワールの歌は周囲から……暗黒魔唱法……と揶揄されるほど壊滅的だった。

 実際に位階の低い魔物は、グレモリー・グリモワールの歌が聞こえて来ると逃げ出すほどである。


 上手いとか下手だとか、そういう事ではないのだ。

 いや、むしろ音感や歌唱力自体は、グレモリー・グリモワールは、平均以上の水準にある。

 グレモリー・グリモワールの歌が酷いのは、彼女の持つ【常時発動能力(パッシブ・スキル)】……【悪魔の鎮魂歌】という、おぞましい能力による。

【悪魔の鎮魂歌】とは……精神支配系の効果を持った【能力(スキル)】で……旋律に乗せて、歌うように【眷属化】などの精神支配系の魔法詠唱を行うと、その効果を飛躍的に高め、対象の【抵抗(レジスト)】率を著しく下げる、というモノ。

 グレモリー・グリモワールが遺跡(ダンジョン)の深層階で手に入れた【スクロール】で得た強力な【能力(スキル)】なのである。

 しかし、その代償として、グレモリー・グリモワールが歌うと、それを聞いた者の根源的な恐怖や不安を喚起するのだ。

 精神耐性が低い相手なら、恐慌状態に陥る場合もある。

 まさにグレモリー・グリモワールの歌は、呪いの歌なのだ。


「ふふんふんふん〜、ららら〜……これで良し」

 ディーテ・エクセルシオールは、また一つ儀式魔法陣を構築する。


 彼女は、こうして【黒の森】の広範囲を移動して、罠を仕掛けて回っていた。

【ウトピーア法皇国】の侵攻を食い止める為の施策である。


 先程、グレモリー・グリモワールと話したら、彼女は、ディーテ・エクセルシオールが……罠を仕掛けている……と聴いて、何だか呆れたような声を出していた。

 グレモリー・グリモワールは、きっと、ディーテ・エクセルシオールが【エルフ】だからという理由で……木のツルを足に引っ掛けて無人の弓から矢を飛ばしたり、落とし穴に落とすような原始的な仕掛け罠を作っている……と勘違いしたのだろう。

 それは、【エルフ】と聞いて異種族がイメージする短絡的なステレオ・タイプ。

 今時、そんな罠は、【エルフ】でさえ、子供が遊びで作るくらいだ。


「まったく……グレモリーちゃんたら、私を誰だと思っているのかしらね。失礼しちゃうわ」

 ディーテ・エクセルシオールは愉快そうに笑う。


 ディーテ・エクセルシオールが朝から構築している大儀式魔法陣は、超強力な威力を誇る、驚異的な破壊をもたらす儀式魔法だった。

【エルフヘイム】の永年に渡る魔法研究の成果。

 ()()グレモリー・グリモワールですら知らない魔法の深淵。


 私が……【ウトピーア法皇国】の軍隊を一瞬で全滅させた……と聴いたら、グレモリーちゃんは、どんなリアクションをするのかしらね?


 ディーテ・エクセルシオールは、それが楽しみでならなかった。


 バキバキバキ……。


 その時、森の樹冠の上から樹木の枝葉を折り破って、ディーテ・エクセルシオールの前に巨大な影が立ち塞がった。

 神の軍団の1頭である。


 途端、【マッピング】で捕捉していた【ワー・ウルフ】の家族は、急速に遠ざかって行った。

古代(エンシェント・)(ドラゴン)】とエンカウントすれば、逃げ出すのも当然である。

魔人(ディアボロス)】の中にはゲームマスター・ナカノヒトの従魔であるトリニティの種族【エキドナ】のように【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】を容易(たやす)(ほふ)るような驚異的な戦闘力を誇る者もいた。

 あのトリニティと戦えば、ディーテ・エクセルシオールは勝てるかどうか自信がない。

 ディーテ・エクセルシオールが人種最強だと信じて疑わないグレモリー・グリモワールですら、トリニティと戦えば苦戦を強いられるだろう。

 しかし、あの手のバケモノ級の【魔人(ディアボロス)】は、遺跡(ダンジョン)の【徘徊者(ストローラー)】か、【神格】の守護獣の住処(すみか)である【島】を守る【守護者(ガーディアン)】のような特異種だけだ。

 大陸の陸上にひっそりと生息する【魔人(ディアボロス)】達も強力だが特異種ほどではない。

 ディーテ・エクセルシオールやグレモリー・グリモワールなら、大陸の陸上に生息する【魔人(ディアボロス)】なら苦にせず倒せるだろう。

 なので、(くだん)の【ワー・ウルフ】の家族は、【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】を見て逃げたのである。


「どうしたの?」

 ディーテ・エクセルシオールは訊ねた。


「グルゥゥ……」

 神の軍団の神兵は、鼻先で、とある方角を示す。


【サンタ・グレモリア】の方角だ。


「まさか!【サンタ・グレモリア】に何かあったの?」

 ディーテ・エクセルシオールは、【転移(テレポート)】をしようとする。


 神の軍団の神兵は、首を振った。

 ディーテ・エクセルシオールは、胸を撫で下ろす。


 ディーテ・エクセルシオールは、【サンタ・グレモリア】の防衛をグレモリー・グリモワールから頼まれていた。

 世界で最も大切な親友から信頼されて、【サンタ・グレモリア】を託されたというのに、何か起きれば、ディーテ・エクセルシオールにとっては一大事である。


「じゃあ、どうしたの?」


 神の軍団の神兵は、鼻先で【サンタ・グレモリア】の方角を指し示しながら、一生懸命に何かを伝えようとしていた。

 神の軍団の神兵達は、皆、知性が高い。

 人種の中では最高レベルの知性を持つディーテ・エクセルシオールよりもだ。

 けれども、パスが繋がっていない状態で言葉を話せない相手とコミュニケーションを取るのは難しい。


 アルフォンシーナちゃんなら、【(ドラゴン)】族と意思疎通が出来るんだけれど……などと、ディーテ・エクセルシオールは思考した。


 ディーテ・エクセルシオールの旧い友人の1人である【ドラゴニーア】の大神官アルフォンシーナ・ロマリアは、【ドラゴニュート】である。

【ドラゴニュート】は種族的に【(ドラゴン)】とのコミュニケーションを取る事が得意なのだ。

 その、おかげで【ドラゴニュート】が多く暮らす【ドラゴニーア】は、竜騎士団という強力無比な航空騎兵軍団を保有する事が可能なのである。


 ディーテ・エクセルシオールは、【ドラゴニーア】の竜騎士団を真似て、数百年前に【エルフヘイム】にも【グリフォン】騎士団というモノを創設していた。

 しかし、アレは、まだ【ドラゴニーア】竜騎士団と比較出来るようなレベルにはない。

【ドラゴニュート】が【ドラゴン】と意思疎通が出来るように、【エルフ】も【グリフォン】と意思疎通が出来るのだけれど、何が違うのかしらね……などと、ディーテ・エクセルシオールは、取り留めもなく考える。


「誰か【サンタ・グレモリア】に来たの?」

 ディーテ・エクセルシオールは訊ねた。


 神の軍団の神兵は、大きく頷く。


 ディーテ・エクセルシオールは考えた。

 この子は【サンタ・グレモリア】に、誰か、お客が来たのを報せてくれたのね。

 そして、それは、おそらくノヒト・ナカ様だわ。

 だって、今いる【黒の森】の中と、【サンタ・グレモリア】までは遠い。

 これだけ距離が離れたら、幾ら【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】の鼻が利くと言ったって限度があるもの。

 つまり、この神兵ちゃんは、パスを通じてノヒト・ナカ様の到着を知って、私に教えてくれたんだわ。

 確かにノヒト・ナカ様が【サンタ・グレモリア】に訪問して来たなら、私が出迎えた方が良さそうね。

 今の私は、【サンタ・グレモリア】の庇護者全権代理で防衛責任者なのだから。

 グレモリーちゃんは、現在【ノースタリア】に向かって移動中だから、一旦【転移(テレポート)】で戻って来る事も出来ないしね。


「教えてくれてありがとう。なら、ご挨拶して来るわね」

 ディーテ・エクセルシオールは、神の軍団の神兵の鼻先を撫でて言った。


 ディーテ・エクセルシオールは、その場に転移座標を残して、【サンタ・グレモリア】に【転移(テレポート)】する。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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[一言] 言葉?発声器官?が問題なら鼻先や爪先で文字を書けばよかったのでは…古代竜もテンパってたのかもしれないけど。知能が高いなら手旗信号もいいかも?デカイ竜がバタバタ手を動かすのもシュールだが
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